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『キングスマン ファースト・エージェント』感想(ネタバレ)…前日譚の開戦!

キングスマン ファースト・エージェント

前日譚の開戦!…映画『キングスマン ファースト・エージェント』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The King’s Man
製作国:アメリカ(2021年)
日本公開日:2021年12月24日
監督:マシュー・ヴォーン

キングスマン ファースト・エージェント

きんぐすまん ふぁーすとえーじぇんと
キングスマン ファースト・エージェント

『キングスマン ファースト・エージェント』あらすじ

1910年代。世界には戦乱の気配が忍び寄っていた。それはかつてないほどの大戦になる予感。そんな中、表向きは高級紳士服テーラーとして品良く佇みながら実はその裏では国家に属さないスパイ組織として活動する存在がいた。その名は「キングスマン」。世界大戦を裏で密かに操って火種を生み出している闇の悪人たちを見過ごせない。英国貴族のオックスフォード公とその息子のコンラッドが凶悪な陰謀に挑む。

『キングスマン ファースト・エージェント』感想(ネタバレなし)

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前日譚も始まりました

映画の公開日が延期する。それは映画業界の動向をよくチェックしている映画ファンの人にとってはわりとよくあることだと知っているものですが、さすがにこのコロナ禍は映画公開延期を目にしすぎて、なんだか感覚がわからなくなってきました。あんなに一斉に映画の公開が延期したのは生まれて初めて見ましたし、延期後の公開日決定⇒また延期→新たな公開日決定→またまた延期…なんて事態もしょっちゅうだし…。

そんな無限のループにでも入ったかのような延期スパイラルもいつかは終わる。この映画もやっと本当に劇場公開される日がやってきました。しかも、日本ではクリスマス・イブに公開だなんてサンタのプレゼント気分で鑑賞してくださいってことなのかな。

それが本作『キングスマン ファースト・エージェント』です。

本作は「マナーが紳士を作る」ですっかり大人気スパイ映画となった「キングスマン」シリーズの最新作。『キック・アス』でおなじみの“マシュー・ヴォーン”監督が2015年に作りだしたのが『キングスマン』。友人である“マーク・ミラー”“デイヴ・ギボンズ”によるコミック「ザ・シークレット・サービス」を翻案したもので、母国イギリスを代表する「007」シリーズに敬愛を捧げ、ハチャメチャの風刺たっぷりのスパイアクション映画に仕上げた本作は、その痛快さで熱烈なファンを生み出し、すっかり“マシュー・ヴォーン”監督のフランチャイズとなりました。2017年には続編となる『キングスマン ゴールデン・サークル』も公開し、勢いに乗っています。

その「キングスマン」シリーズの最新作なので、通算では3作目なのですが、物語自体は前日譚を描くものになっています。「スター・ウォーズ」で言うところのプリクエルですね。本作の邦題は同じく“マシュー・ヴォーン”監督作の『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』をなぞったのかな…。

『キングスマン ファースト・エージェント』はいかにしてあの「キングスマン」というスパイ組織が誕生するに至ったのかを描いており、舞台は第1次世界大戦の前夜。なのでこれまでは現代を描くことでわりと好き放題していたのですけど、今作は史実も絡んでくることになり、いわゆる「歴史SF」のジャンルにも片足突っ込んでいます。

雰囲気もちょっとこれまでのシリーズ作品と違うものだと思ってもらった方がいいかもしれません。さすがに第1次世界大戦なのでトーンもシリアスになりますし、スパイ・ガジェットとかも出せません。おふざけ満載とはいかない、でもふざけるところはふざけている、新しい「キングスマン」の一面を見せています。

たぶん“マシュー・ヴォーン”監督としてはこうやってこの「キングスマン」シリーズの世界観を拡張していき、スケールアップする下地を作りたいのかな。

今回の俳優陣は時代も違うので顔触れもガラっと変わります。主演は、こっちのスパイ映画『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』では全然役立つどころか大失態をしていたキャラを演じていた“レイフ・ファインズ”。今作では平和主義を重んじる役柄で随分様変わりしていますよ…。

共演は、『ブルックリンの片隅で』『マレフィセント2』の“ハリス・ディキンソン”、『007 慰めの報酬』の“ジェマ・アータートン”、『ブラッド・ダイヤモンド』の“ジャイモン・フンスー”、『ウォッチメン』の“マシュー・グッド”、『プライドと偏見』の“トム・ホランダー”など。

さらに濃い悪役勢として、『スノーデン』の“リス・エヴァンス”、ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』の“ダニエル・ブリュール”の2名が主に存在感を発揮しまくっています。

今作『キングスマン ファースト・エージェント』でも定番のアクションはたくさんありますが、歴史SFということで史実を知っているとさらに面白くなる要素もチラホラあったり。そのへんは後半の感想で。

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『キングスマン ファースト・エージェント』を観る前のQ&A

Q:『キングスマン ファースト・エージェント』を観る前に観たほうがいい作品は?
A:物語自体は前日譚になっているので、とくに前作の映画を観ておかないと話が理解できなくなるということはありません。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:シリーズが好きなら
友人 3.5:作品好き同士で
恋人 3.5:ロマンス要素はほぼ無し
キッズ 3.5:残酷描写はそれほどでも
↓ここからネタバレが含まれます↓

『キングスマン ファースト・エージェント』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):平和は紳士を作る

1902年、アフリカ南部。第二次ボーア戦争の傷跡が生々しく残るこの大地に降り立ったのは、オーランド・オックスフォード公爵。彼は英国赤十字社と関わりながら現地のイギリスの基地を双眼鏡で確認します。入り口へ行って通されつつ、横目で飢えた人々を目にしながら、状況を聞きます。妻のエミリーと息子のコンラッドも一緒で入り口そばで待機させています。

ボーア戦争とは、イギリスとオランダ系アフリカーナー(ボーア人)が南アフリカの植民地化をめぐって争った戦争です。オランダの背後にはドイツ帝国が存在し、実質、イギリスとドイツとの戦いでもあります。第二次ボーア戦争は1899年から1902年まで続き、大量の死者を出したほか、イギリスの強制収容所の劣悪な環境は批判も浴びました。

ところが突然の発砲。草むらから狙撃を受け、オーランドも撃たれます。幸いにも致命傷にはなりませんでしたが、子どもの元へ向かった妻のエミリーは撃たれて倒れ、オーランドが駆け寄るも息絶えてしまいました。息子に死に顔を見せまいと上着で妻の顔を隠すオーランド。その品の良い上着は「Kingsman」という仕立て屋のもので…。

12年後。息子のコンラッドは立派な青年に成長していました。オーランドはコンラッドを「Kingsman」というテイラーに連れていきます。ここで完璧な紳士となるための衣装を身に着ける、それが大人の1歩です。平和主義者であるオーランドは亡き妻のためにもこの息子を守り切らないといけません。

一方で世間では不穏な動きも見られました。イギリス陸軍のホレイショ・ハーバート・キッチナーは世界大戦が勃発すれば夥しい死者が出ると推測。その側近であるモートン大尉と議論するも、オーランドの平和主義への信念は揺るぎません。

ある日、オーランドとコンラッドはオーストリア=ハンガリー帝国の皇位継承者であるフランツ・フェルディナントと一緒に車に乗っていましたが、群衆の中に紛れていた男が爆弾を投げ、それをオーランドがステッキで弾き返したことで危機一髪ですが難を逃れました。しかし、後にまたこの男はフランツ・フェルディナントとその妻と接近する機会を偶然に手に入れ、そこで2人を撃ち殺します

この暗殺に成功する男の名はガヴリロ・プリンツィプ。フランツ・フェルディナント大公を暗殺して第一次世界大戦の引き金となるサラエボ事件を起こした張本人です。

犠牲を防げなかったことに失意を感じる中、オーランドはコンラッドに説明します。この世界の裏を…。

実はこの世界を震撼させる戦乱を以前から仕組んでいる者たちがいるのです。その中心人物の中には、グリゴリー・ラスプーチンエリック・ヤン・ハヌッセンなどがいます。この卑劣な悪人たちはそれぞれの国のトップをけしかけて争うように仕向けたのです。

コンラッドはそんな悪とは戦うべきだと主張しますが、オーランドは「戦うな」と口論。自分はたくさんの人を殺めて、その身を血で汚してきたという過去を持っており、その無力さも知っています。

しかし、息子の強い熱意に根負けし、オーランドはある場所を案内。それは自分が密かに設立した秘密の組織。そこの隠された作戦室にいたのは、家事使用人のポリー・ウィルキンスショーラです。実はこの2人もメンバーなのでした。

こうして大戦を防ぐべく「キングスマン」は動き出します。

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歴史SF…なのだけど…

何度も言っていますが今回の『キングスマン ファースト・エージェント』は歴史SFであり、フィクションですが世界観の土台には史実の要素がいくつも散りばめられています。

例えば、序盤のフェルディナント大公暗殺事件、いわゆる「サラエボ事件」です。第1次世界大戦の引き金になる出来事ですが、あの犯人のテロリストの男、ガヴリロ・プリンツィプは本作で描かれたように最初の爆弾攻撃を失敗しています。でもこの『キングスマン ファースト・エージェント』ではそれがオーランドの活躍のおかげということになっており、「あれ?これ、ひょっとしたら大戦を防げるのでは?」と期待させます。でもその後にやっぱり銃殺されて史実どおりという…。

そして本作最大の史実を弄んでいる部分があの悪の秘密結社、というか悪の集会みたいなやつ。そこでひときわ異彩を放つ変人、グリゴリー・ラスプーチン。こいつが本作の前半の悪玉になるのですが、このラスプーチンは知らない人からしたら創作キャラに思えるかもですけど、ちゃんと実在する人物です。

ラスプーチンは帝政ロシア末期の祈祷僧で本当にあんな見た目の人。世間からは奇抜な奴扱いされ、実際に言動はおかしかったらしく、とにかくそのあまりに濃すぎるキャラクター性もあって、創作ではよくネタにされます。1932年には『怪僧ラスプーチン』という映画もありましたし、1997年のアニメーション映画『アナスタシア』でも悪役として登場。

『キングスマン ファースト・エージェント』でも満を持しての登場なのですが、一応ここにも史実要素があって、当時のイギリスのスパイ組織である英国秘密情報部(SIS)がラスプーチンの暗殺を企てたという説があるんですね。

まあ、でも本作の内容は歴史そっちのけで荒唐無稽です。まさか“レイフ・ファインズ”との誰得なねっとりした絡みも見れるという…。あれもラスプーチンのことを知らない人からすればちんぷんかんぷんですけど、ラスプーチンは淫乱だとしても有名なんですね。今作のラスプーチンはおじさま好きらしく、『キングスマン』ファンと話が合いそうですけど…。

そんなムシャムシャ&ペロペロの時間が終わると、怒涛の「vsラスプーチン」の戦闘が始まり、ここでやっと「キングスマン」らしくなってきます。あんな動き回るラスプーチン、他では観られない…。

このパートが『キングスマン ファースト・エージェント』で最もテンションあがる白眉かも。

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ラスプーチンを主人公にしませんか?

今回の『キングスマン ファースト・エージェント』は3幕構成で、それぞれでトーンがかなり変わるので、観客はちょっとテンションをどうやって保つべきなのか、やや困惑したと思います。

第1幕の「vsラスプーチン」は歴史SFと荒唐無稽さが相まって良い感じではありましたが、第2幕はコンラッドの出兵による、もろな戦場モノになっており、完全にシリアス一辺倒。ここで次なる悪役を登場させていれば感触も違ってきたでしょうけど、それもなく、愛国心アピール強めの後味です。やっぱり第1次世界大戦を扱ううえで、“マシュー・ヴォーン”監督も愛国寄りになっちゃうのかな…。

で、第3幕。愛する息子コンラッドを失ったオーランドはついに敵の本拠地に挑みます。ここでまたも「キングスマン」らしいバカバカしい潜入もありつつの黒幕「vsモートン」との対決。ただ、やっぱりラスプーチンを見せられた後だと、モートンはキャラがどうしたって薄すぎますよね…。

実は本作の悪役として出てくる他のメンバー、“ダニエル・ブリュール”演じるエリック・ヤン・ハヌッセン。彼も実在した人物で、預言者を騙る手品師・占星術師にして、ユダヤ人だけどそれを隠してナチスに関与したという、こちらもクセがありすぎる人間なのです。でも本作ではあまり活躍せずに終わってしまい、少し残念…。たぶん続編でメイン悪役になるのかもですが…。

また、世界で最も有名な実在の女スパイであるマタ・ハリも登場しますけど、彼女の出番もものすっごく薄くてもったいなかったですね。

それに全体的にポリーやショーラの出番も乏しく、オーランドありきの活躍に終始していたのも盛り上げに欠ける気もします。

もっと根本的な苦言としては、そもそも本作は植民地主義的・帝国主義的な背景がどうしたって色濃く映ります。冒頭のボーア戦争の名残の描写にしても、イギリス貴族が世界の平和のために立ち上がる!という気分にはどうしたって素直に賛同しきれないですし…。これはこの時代を選択してしまったゆえの限界点かもしれない…。

だったら「キングスマン」を設立したのは実はラスプーチンの思いつきでした…くらいのそんなバカなというアホさで始まっても個人的には全然良かったのだけど…。

ともあれ“マシュー・ヴォーン”監督の中ではもう今後の『キングスマン』構想は固まっているようで、前作のエグジー&ハリーの関係を締め括る『3』を撮影予定で、次はこの『ファースト・エージェント』の続編も作りたいのだとか。さらにスピンオフTVドラマのアイディアもあるらしく、しばらくは“マシュー・ヴォーン”監督の『キングスマン』ワールドは大激戦の連続のようです。

今度は延期じゃなくて企画始動できるかの戦いですけどね。

『キングスマン ファースト・エージェント』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 43% Audience 77%
IMDb
6.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
5.0

作品ポスター・画像 (C)2021 20th Century Studios. All Rights Reserved. キングスマン ファーストエージェント

以上、『キングスマン ファースト・エージェント』の感想でした。

The King’s Man (2021) [Japanese Review] 『キングスマン ファースト・エージェント』考察・評価レビュー