護送、必要ですか?…映画『マイル22』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2019年1月18日
監督:ピーター・バーグ
マイル22
まいる22
『マイル22』あらすじ
世界を揺るがす危険な物質が盗まれた。行方を知る唯一の重要参考人を亡命させるため、周りを敵に囲まれる極限状態のなか、米大使館から空港までの22マイルを護送しなくてはならない。アメリカ最高機密「オーバーウォッチ」作戦が始まるが…。
『マイル22』感想(ネタバレなし)
今回のピーター・バーグ監督作はアッチ系
「22マイルです」
そう日本人に言ったら、たいていは「えっ、飛行機、あんまり乗ってないの?」みたいな答えが返ってきそうです。
もう「マイル=航空会社のポイントサービス」としか普通は思い浮かべないのも無理ないです。
一応、説明しておくと「マイル」はヤード・ポンド法における長さの単位です。日本が知っているメートル法と比較すると「1国際マイル=1609.344メートル」。今やアメリカで慣習的に使われているだけのヤード・ポンド法…よく廃れないものですよね。いつか完全に廃止される日がくるのかな…。
でも廃止されていたら、今回紹介するこの映画のタイトルも『35.4キロメートル』になっちゃうので、それはそれでダサいな…。
そんなどうでもいいぼんやりしたことを考えつつ、本作『マイル22』のタイトルを映画館で眺めていた私。なんて暇人なんだ…。
はい、雑談はおしまい。
本作は“マーク・ウォールバーグ”と“ピーター・バーグ”監督が4度目のタッグで贈る、アクション・スリラーです。仲いいなぁ、このコンビ。家族ぐるみの付き合いらしいですけど、もうずっと一緒なんじゃないだろうか。
“ピーター・バーグ”監督といえば、最近は『ローン・サバイバー』(2013年)、『バーニング・オーシャン』(2016年)、『パトリオット・デイ』(2016年)と、史実を基にしたシリアスな社会派アクション・スリラーを手がけることで、批評家の評価も上々でした。リアルな痛みが伝わる生々しい映像表現を重視し続けた姿勢は、間違いなく昨今のハリウッドの徹底したリアリティあるテロ描写などに活かされ、ハードルをあげるきっかけになったと思います。
しかし、今回の『マイル22』はその史実を基にしたシリアスな系統からはちょっと外れます。
そうです、評価の低い“ピーター・バーグ”監督作が戻ってきました!(なんだそれ)
いわゆる『ハンコック』『バトルシップ』方向の精神を引き継いだ、“割と派手にいこうぜ”的な“ピーター・バーグ”監督作です。
今作は史実モノではなく、純粋にジャンル映画を作ろうという狙いなのでしょう。実際に起こった出来事ではないのでヘビーな重みはないのですが、それでも決してチープにはならないのは、この監督ならではの力量。なんだかんだで“ピーター・バーグ”監督作なのです。でも、ほんの少し肩にかかる重りは減りますよくらいの感覚ですかね。
本作を手がけるのが「STXエンターテインメント」なのも忘れてはいけません。2014年に設立された比較的新しい映画会社で、中国資本を上手く取り入れながら、アクション、ホラー、コメディなどジャンル系の小粒な作品をポンポン作ったり、配給したりしています。
そして本作『マイル22』はSTXエンターテインメントがそれなりに本腰を入れて手がけた一作…のはず。というのも、すでに続編の製作を決定済みで、3部作を予定しているらしいのです。おそらく『ボーン』シリーズのようなある程度連続的に展開できるもので、完全にオリジナルで自由にいじくれるものが欲しかったのでしょうね。なので今作1作だけでは終わらない雰囲気です。
そういうわけで、もう気楽に、座席にまったり座りながらポップコーンを貪って鑑賞するのが良いのではないですか。
『マイル22』感想(ネタバレあり)
リアルとフィクションのバランス
派手さと勢い重視のジャンル映画と言いましたが、そこは“ピーター・バーグ”監督。『ローン・サバイバー』、『バーニング・オーシャン』、『パトリオット・デイ』と硬派なシリアス・サスペンスを連続して手がけてきたなかで、確実に経験値を積んできたのか。『マイル22』はさすがに『バトルシップ』のように徹底して突き抜けたアホみたいな派手さまでには行き過ぎていません。
むしろこれまでの史実モノを扱ってきた経験を活かして、フィクションではあってもかなりリアルな実在感を出す手際を本作では発揮していたと思います。
本作で登場する、特殊なスキルに秀でたメンバーからなる合同部隊「オーバーウォッチ」も、フィクションものにありがちな極端なオーバースキルやテクノロジーは出さずに、極力一定のリアルの範囲に収めるようになっていた配慮を感じましたし、“ピーター・バーグ”監督作らしく「たとえ専門家であってもヤバいときはものすごく苦労する」というプロフェッショナルの切実な生々しさもありました。万能ではないのが良いです。
この部隊にはモデルがあるらしく、QRFと呼ばれる「軍人によって構成された緊急対応部隊」が基になっているとか。“ピーター・バーグ”監督も過去のフィルモグラフィーでいろいろなその分野の専門家の人に触れあってきたので、自分のノウハウで架空の部隊を組み立てる力があると自信を持てたのでしょう。
ストーリーも簡単に言えば、大使館から空港までの約35kmを重要人物を守り抜いて進むというだけの、極めて単純な“おつかい”ミッション。バカでもわかる内容なので、難しいことを考えずに観られるのはジャンル映画としては嬉しいのではないでしょうか。
“マーク・ウォールバーグ”はそんな頭を使うことが得意そうなキャラに見えないし…(失礼な話)。
リアルな素材をほどよいバランスでジャンル映画として調理しようとした…そんな感じです。
どこですか?
もちろん、『マイル22』はフィクション寄りなところはとことんフィクションに寄っています。
なにせ舞台が「インドカー(Indocarr)」という架空の東南アジアの国です。最初、聞いたとき「なにそれ!?」と混乱したのですが、架空だと理解するのにタイムラグがありましたよ。
まあ、どう考えたって限りなくインドネシアに近い何かなんですけど…。インドネシアは大統領選挙を控えており、候補者の中には「Make Indonesia Great Again」(インドネシアを再び偉大にする)を掲げて自分に都合の悪いメディアは排除する、どこかで見たことあるようなスタイルで選挙に挑む、元陸軍司令官が出馬していたり、いろいろと香ばしい感じの情勢になっていますが。映画も、配慮、したのかな?
本作は中国資本が大量投入されているようなので、政治的な色合いを出せない都合上、そのあたりをぼやかすしかないのかもしれません。
ちなみに物語の鍵となる盗まれた物質。これは「セシウム」なのですが、日本の宣伝では極力その名を出さずに「危険な物質」と表記しているあたり…ここも忖度なのかな…。もう別に大衆は気にしてないと思うのですけど…。そういえば、唐突に日本の原爆の話題が出てくるシーンがあって、若干びっくりでした。
劇薬、その名はイコ・ウワイス
ただ、架空の国なんて消し飛ぶくらい、もっとぶっとんだフィクション要素がこの映画には存在することを忘れてはいけません。
リアルな素材をほどよいバランスでジャンル映画として調理しようとするなかで、本作はこの劇薬を追加で混ぜちゃったのです。
その名は“イコ・ウワイス”。
本物のインドネシアからやってきたアクション俳優。この男を私と同じ「人間」として分類してはいけない…。
『シャドー・オブ・ナイト』では人智を超越した死闘を見せてくれましたし、『スカイライン 奪還』ではエイリアンが素でドン引きするくらいの肉弾戦を披露しました。
要するにこの人、普通じゃないんです(暴言)。
本作で“イコ・ウワイス”を初めて見たという人も、その桁外れの凄まじさをすぐに痛感できたと思います。本作では主人公のジェームズ・シルバ率いるチームが護送することになる、リー・ノアという男を“イコ・ウワイス”が演じているわけですが、前半の診察シーンから手加減なし。医者が暗殺を仕組む敵の手先だと察知するや否や、怒涛の猛攻。医療器具で相手を殺す、気の利いたことしているじゃないですか。
これでだいたいの人は思ったと思います。この人に護送とか、いるのかな…と。
たぶん単独でも国外に脱出できるだけの生存力を持っているのは間違いないです。リアルでキャプテンアメリカみたいな強靭さを持っていますから。
案の定、護送が始まると敵がわんさか襲ってきて危機だらけなのですが、私はもう「早く、早くリーの拘束を解くんだ、そうすれば何とかなる!」って思いながら観ていました。
“イコ・ウワイス”を混ぜたことで、しかもその混ぜ方が雑なため、ときどき唐辛子の塊がゴロっと入っているカレーライスみたいになっちゃいましたね。
潜在的な可能性は…あるかも
確かなセンスを持つ“ピーター・バーグ”監督も、“イコ・ウワイス”の扱いは不慣れだったかなと思わなくもない。というか、彼を入れるなら、相当な覚悟で作品デザインをしないと、すぐにフィクションバランスが崩壊してしまうので、せっかくの“ピーター・バーグ”監督お得意のリアリティも台無しになってしまいます。
そして、“マーク・ウォールバーグ”の存在が霞む…。正直、“イコ・ウワイス”主演で“マーク・ウォールバーグ”がサイドのキャスティングによる企画の方が新規性があって面白かったと個人的には思うのですが…。まあ、“マーク・ウォールバーグ”主演じゃないと企画がそもそも始まらないのかもしれませんが、それがハリウッドのダメなところだよと絶賛批判されているわけで…。
女性の活躍を押し出すためなのか、“ローレン・コーハン”演じるアリス・カーというキャラクターも終盤まで生き残って戦うのですが、やっぱり取って付けたように見えてしまったかな。
せっかくの国際色豊かに見えかけた「オーバーウォッチ」もあっさり壊滅して、やっぱり生き残るのは“マーク・ウォールバーグ”だし…。
“ピーター・バーグ”監督&“マーク・ウォールバーグ”のコンビは、こと女性と非白人(とくにアジア系)の扱いはまだまだ未熟で経験値不足に思えますし、いろいろ学ぶべきことはあるのかもしれません。もちろん彼らは『ザ・レイド』を観て“イコ・ウワイス”といつか一緒に仕事をしてみたいと思っていたそうですから、その熱意は喜ばしいことなのですけども。それにやはり緊迫したシーンの撮影や演出のテクニックは素晴らしいものを持っているので(カフェ店内でグレネードがドン!と爆発する一連のシーンとか、怖さが引き立って凄い場面でした)、潜在的な可能性は高いなと思います。
少なくとも現段階では2作目まで進んでいる同じくフィクションのサスペンス『ボーダーライン』シリーズの方が一歩先を行っているかも。
『マイル22』が続編として2作目をやるなら、大幅な方向転換もありかな。でも、全然想像がつかないというか、割となんでもありなので、どうするのだろうか。
とりあえず“イコ・ウワイス”に対抗できるように、“マーク・ウォールバーグ”もアクション、頑張ってください。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 23% Audience 45%
IMDb
6.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 3/10 ★★★
(C)MMXVIII STX Productions, LLC. All Rights Reserved.
以上、『マイル22』の感想でした。
Mile 22 (2018) [Japanese Review] 『マイル22』考察・評価レビュー