自分の居場所を定めて…「Apple TV」ドラマシリーズ『ダーク・マター』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年~)
シーズン1:2024年に Apple TV+ で配信
シーズン2:2026年に Apple TV で配信
クリエイター:ブレイク・クラウチ
自死・自傷描写 恋愛描写
だーくまたー

『ダーク・マター』物語 簡単紹介
『ダーク・マター』感想(ネタバレなし)
もう100年以上前からマルチバースはある!
「マルチバース? はいはい、最近流行っているよね。みんなマルチバースって使いすぎじゃない?」
そんな声も聞こえてくる昨今。とくに近年は「マルチバース」という言葉はMCUなどアメコミ作品で頻繁に言及され、一般の認知も広まりました。そのせいか、アメコミ発祥の言葉だと思っている人さえいます。
でもそれは違って、実は「マルチバース」という言葉は結構、昔から存在しています。
「マルチバース」という言葉の初出は、1895年で、哲学者の“ウィリアム・ジェームズ”が考え出したものでした。ただし、当時のこの言葉は今のように多次元宇宙のような並行世界(パラレル・ワールド)を意味していませんでした。
並行世界を科学的に論じ始めた代表的人物としては、理論物理学者の“エルヴィン・シュレーディンガー”がいて、かの有名な「シュレーディンガーの猫」がそうです。量子力学における「重ね合わせ(superposition)」の概念によって、「すべて同時に起こっている」現象を提示しました。
それはあくまで量子力学の話でしかなかったのですが、それを宇宙レベルにまで拡大し、さらにはその同時に存在する世界を行き来できる…という設定として確立したのがSFジャンルです。1990年代にはすっかりフィクションとして人気に。現実の歴史はだいぶ前からマルチバース・サーガなんです。
今回紹介するドラマシリーズは、そんなマルチバースに嫌になるほどどっぷり浸かってしまい、人生が脅かされていくことになるSFスリラーです。
それが本作『ダーク・マター』。
本作は、アメリカの作家である“ブレイク・クラウチ”による2016年のSF小説を映像化したもので、ドラマにあたって“ブレイク・クラウチ”自身が企画・脚本で中心的に製作しています。
物語は先ほどから何度も触れたようにマルチバースが主題であり、あとはネタバレ厳禁なので、その終わりの見えない世界に足を踏み入れてみてください。観ながら「自分ならどうするだろう」とつい考えたくなってしまうはず…。
ドラマ『ダーク・マター』の主演は、『トレイン・ドリームズ』の“ジョエル・エドガートン”。多彩な演技が魅力の俳優ですが、その持ち味がたっぷり活かされる役柄です。
共演は、ドラマ『スノーピアサー』の“ジェニファー・コネリー”、ドラマ『マーダー・イン・ザ・ワールドエンド』の“アリシー・ブラガ”、 ドラマ『地球に落ちて来た男』の“ジミー・シンプソン”、『ドミノ』の“ダヨ・オケニー”、『ピートと秘密の友達』の“オークス・フェグリー”、『インフィニティ・プール』の“アマンダ・ブルジェル”など。
ドラマ『ダーク・マター』は、「Apple TV」での独占配信で、2024年からシーズン1が全9話、2026年からシーズン2が全10話で展開されています。
マルチバース系のSF好きなら必見です。
『ダーク・マター』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
| 基本 | — |
| キッズ | 大人向けのドラマです。 |
『ダーク・マター』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
真っ暗で冷たく空気の漂うどこか施設内の広めの空間。ひとりの人物がライトで照らしながら、その場所をおそるおそる確認しています。その人物はその空間に不自然なほど忽然と存在する奇妙な真っ黒い立方体から出てきたばかりで…。
シカゴの住宅地。ジェイソン・デスセンはアラームで起床します。妻のダニエラと10代の息子チャーリーと暮らしており、今日もいつものように登校する息子の運転を助手席で見守ります。チャーリーは16歳の誕生日をもうすぐ迎えるのです。ジェイソンは安全運転を心がけるように指導。
そのジェイソンは大学で物理を教える教師です。そんな中、大学時代からの旧友のライアン・ホールダーが興奮した様子で電話してきました。神経科学者の彼は科学的に権威のある賞を獲ったそうです。「本当はお前が獲るべきなのに」とライアンは言いますが、その言葉に謙虚に反応するジェイソン。でも内心では羨ましくも思っていました。
大学の講義ではジェイソンは「シュレーディンガーの猫」について解説。学生たちはつまらなさそうに座っています。
一方のダニエラはアートに博識で顧客対応も手慣れており、友人で弁護士のブレアに絵を薦めていました。
帰宅後、ライアンに祝賀会に誘われていることを話すジェイソンでしたが、表向きは「家族を優先して行きたくない」という素振りをとります。しかし、ダニエラに背中を押されて向かうことにしました。場所は馴染みの「ヴィレッジ・タップ」というバーです。
そこで昔話になり、ジェイソンはまたも後悔を感じます。自分はあのとき、研究の道に進むこともできたのだろうか…。
そんなことをぼんやりと考えながら夜道を帰ろうとしていると、突然、何者かに襲撃されます。覆面で顔がわからないその人物は、ジェイソンを誘拐し、「自分の人生に満足しているか?」と意味のわからないことを呟きます。
ふと目が覚めるとジェイソンは見知らぬところにいました。何かの施設のような場所で、そこにいるスタッフらしき人たちは、ジェイソンのことを知っているようです。
そして、ここは「ヴェロシティ研究所」と呼ばれており、ジェイソンは「帰還者」だとみなされていました。しかも、ジェイソンはここで大きな発明を成し遂げたらしいです。でも身に覚えがありません。
研究所のCEOであるレイトン・ヴァンス、精神科医のアマンダ・ルーカスといった面々に様子を窺われ、さすがに気味が悪くなって、この施設から独りで脱出を図ります。
しかし、自分の家に戻ると、そこにいたのは…。

ここからドラマ『ダーク・マター』のネタバレありの感想本文です。
シーズン1:マルチバース級のオレオレ詐欺
『ダーク・マター』のシーズン1は、主人公が犯罪に直面するよくある導入です。しかし、その犯人は自分でした。
このシリーズは、マルチバースを前提として多くの別の世界線が交錯します。結果、同じ人物ではあるものの、世界線が異なるさまざまなキャラクターが乱立し、かなり相関図が整理しづらいです(人物切り替えの場面転換のたびに指を鳴らすような音でわかりやすくはしてくれているけど)。この感想では作中の表現に倣って、キャラクター名の後に「1」「2」とつけて、区別することにします。
本来の主人公であるジェイソン1はこの世界1では普通の教員で、研究職にはついていません。大学時代にあったダニエラ1と交際する道を選び、チャーリー1という息子もいて、一見すると平穏な家庭。しかし、心の中では科学のキャリアに対する情熱がくすぶっており、科学的成功をおさめた同期のライアン1を羨ましく思っています。
そのジェイソン1を連れ去って、自身の世界2へと放置したのがジェイソン2。ジェイソン2は逆に科学者として大成功をおさめ、マルチバースを行き来できる「ボックス」を発明しました。一方で、彼の場合は逆にダニエラ2を諦めたことが心残りのようで、世界1のダニエラ1との家庭に憧れ、事実上、乗っ取りを実行します(世界2のダニエラ2はジェイソン1乱入のいざこざで射殺されてしまうことに)。
このジェイソン1とジェイソン2、素体は同じはずなのに、性格は大きく異なり、人はいかに社会的境遇で変わってしまうのかという本質主義を揺るがすテーマが印象的です。ジェイソン1は常に自信なさげで弱気、ジェイソン2は自信家で危険を顧みず挑発的…共通するのは劣等感くらいでしょうか。
スリラーとしては、マルチバース級のオレオレ詐欺みたいなものですよね。目の前にいる夫はなんか違う気がすると違和感を感じていくダニエラ1の恐怖もかなりのものでしょう。
あの「ボックス」も底知れぬ怖さがあります。特殊なアンプルを服用するとマルチバースの重なりに突入しますが、どうやらどの扉にどんな世界があるのか、それを決めるのは自分の思考らしいです。自分に関係ある世界にしか行けないようで、わりと制限もあります。
それでも作中では、ジェイソン1とアマンダ2が、マルチバースを放浪する危険な旅に。灰降る崩壊世界、空気のない世界、極寒世界、水没した世界、謎虫で壊滅した世界、致死的な感染症が蔓延した世界、さらにはジェイソンが服役中のDV夫という世界まである…。
心理に左右されるせいか、ものすごく夢も希望もないマルチバースばかり引き当てていましたね…。
でもこの心理的影響を受けるという設定が本作の面白いところだと思います。それゆえにこのマルチバースの旅路がある種のメンタルケアのプロセスになっていきます。
しかし、これが2人のジェイソンだけに収まるはずがない…と思ったら案の定の展開が待っていました。大勢のジェイソンが掲示板で交流しているのは予想外だけど…。みんなが自分こそ「1(オリジナル)」だと思いたいし、自己実現のためにリソースを奪い合う…。それは自滅的な行為ですけどもね…。
最終的に、マルチバースの旅に疲れたアマンダ2は「科学技術の発展した進歩的な理想世界」に留まり、そこにジェイソン2に騙されたライアン1も迷い込み、邂逅したようです。
そしてジェイソン1とダニエラ1とチャーリー1の一家は、空気を読んだジェイソン勢に見送られ、ボックスを通って、別の世界へ逃避行。すっかりマルチバース上の難民になってしまいました。
技術自体は依然としてそこにあるので、こうなったらドラマ『ロキ』みたいなマルチバース管理者が必要な気がするけど、どうなるやら…。
シーズン2:世界を選ぶのではなく、自分で築く
『ダーク・マター』のシーズン2は、あのマルチバース難民となったジェイソン1たち家族が、逃避世界が全然安全じゃないことを痛感し、再びマルチバースのあてもない放浪の旅にでます。互いを確認するためにセーフワード必須な生活はストレスですよね…(後半はタトゥーを用いていましたが)。
それにしても、どうしてあの「ボックス」のドアにセキュリティロックついてないんだよ!と怒りたくもなるけど。最新技術っていつも安全性は後回しで実用化しちゃうものなんだ…うん…。
シーズン2では、前シーズンが世界観を開示しながらの明白なスリラーがあったのに対し、前半部はあまり直線的な骨太のストーリーラインがありません。その代わり、「いかに自分を赦し、他者を認め、現実を受け入れるか」という葛藤に焦点をあてています。
とくに第5話はこの『ダーク・マター』の中でも別格の名エピソードでした。シーズン1のラストででジェイソン1の家族を見送った良心的なジェイソンが、一度は命を絶とうとするも、別世界で母エリーと再会し、他のジェイソンも受け入れながら人生を再起する…。「都合のいい世界を引き当てる」のではなく、「愛し愛される世界を築くのは自分自身の心である」という穏やかな責任の享受。“マルセル・プルースト”の『失われた時を求めて』を添えてね…。
第8話で初めて本格的に描かれるローレルのエピソードも良いです。さまざまなマルチバース放浪者の一時滞在先としてセーフ・ゾーンを運営することに生きがいを見いだしたローレル。そこでジェイソンとアマンダが平和を見つける選択肢もある…。
しかし、やはりそうは問屋が卸しません。あの収拾つかない技術を放置していては、元も子もないからです。
シーズン2で判明したのは、あの「ボックス」は破壊してもリスポーンするらしいこと。じゃあ、どうすれば?…と思ったら、ひと足先に放浪していた開発責任者のブレア2の助けを借り、キルスイッチを仕込んで全「ボックス」を作動不能にしようと決意。ジェイソン1が科学者として“正しいこと”をしようと奮起するのもいいですね。
一方で、むやみやたらなマルチバース移動のせいで、各世界で深刻なパンデミックが発生し、全マルチバース級の存亡の危機も静かに進行中だと発覚。感染症問題はSF的にリアルだなと思います。うがい、手洗い、マスク、ワクチン…どれも大事!
ライアン1とアマンダ2がこの問題に対処することになり、治療法探しに奮闘。
そんな中、不敵に画策していたレイトンがついにその計画の全貌を明らかに。何やら「ピラミッド」型の新しいマルチバース横断発明によって、全マルチバースを利用した壮大な野望があるらしく…。MCUのカーンみたいだな…。
箱の存在を知る部外者となったミッチェル・マクナマラ捜査官は、少なくともミッチェル1は辿り着いた世界もろとも消失した様子。あの小惑星追突世界の描写も怖かったですね。ビーチで多様な人種が混ざり合ってプライドフラッグもたなびく理想郷のように見えつつ、実はみんなが世界の終わりを受け入れているだけだったという…。
ダニエラ1はジェイソン殺しのトラウマのすえに別居し、世界1ではシリーズ開始前に亡くなっていた双子の息子マックスに会いに行ったチャーリー1となんとか再会。でも「ボックス」はもう動作しない…。ダニエラ1とチャーリー1はどの世界に辿り着いたのでしょうか。
ジェイソン1としてはここまできたら正義の科学者として使命を果たすしかないですね。アマンダ2、ライアン1、ブレア2…チームメンバーは揃っています。科学は正しいことに使おう!
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
以上、『ダーク・マター』の感想でした。
作品ポスター・画像 (C)Apple ダークマター
Dark Matter (2024) [Japanese Review] 『ダーク・マター』考察・評価レビュー
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