ワジョワジョワジョ…「Apple TV+」ドラマシリーズ『インベージョン』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2021年~)
シーズン1:2021年にApple TV+で配信
シーズン2:2023年にApple TV+で配信
原案:サイモン・キンバーグ、デヴィッド・ヴェイル
イジメ描写 LGBTQ差別描写 自然災害描写(地震) 性描写 恋愛描写
インベージョン
いんべーしょん
『インベージョン』あらすじ
『インベージョン』感想(ネタバレなし)
攻撃をやめられない人間たち
2023年10月、「イスラエル」と「パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマス」との戦闘が激化し、民間人に多大な犠牲が生じました。10月25日時点で双方の死者は約8000人に上ると言われており(BBC)、とくにイスラエルによる空爆と封鎖が続くガザ地区では人道危機が深刻です(BBC)。
戦闘行為を辞めれば双方の犠牲はこれ以上増えないのに停止できない。多くの他国も国際的に歩調を合わせられない。
なぜこうした事態になるのか。こういうとき、理由としてよく持ち出されるのが「埋没費用の誤謬(Sunk cost fallacy)」と呼ばれるものです。
「埋没費用の誤謬」とは、たとえ実際にはほとんど見返りが得られなかったとしても、多くの時間や労力を費やしているため、何かを続けるべきだと自分に思い込ませる誤謬のことです。
変な話ですが、この「埋没費用の誤謬」を解説するとき、よく「戦争」と「ドラマ視聴」の事例が取り上げられます。
ドラマを見始めた時、それが全10話だとして、5話目まで観て「つまらないな」と感じたとします。その場合、あなたは観続けますか、観るのをやめますか? 視聴を続ける人の心理は「せっかく5話も観たのだし、もったいないからとりあえず残りも観よう」という判断だったりします。この「5話も観た」というのが埋没費用であり、それは取り返しのつかないことなのですが、損得の判断基準に使ってしまいがちです。
戦争も「ここまで軍事投入したのだから」「これだけ犠牲者がでたのだから」…そんな埋没費用を言い訳に戦争継続に傾きがちです。もちろん戦争はそれだけでなくさまざまな要素が作用し合っていますが…。
今回紹介するドラマシリーズも、そんな「埋没費用の誤謬」を思わず考えたくなってしまう作品…かもしれないです。
それが本作『インベージョン』。
タイトルからして「侵略(invasion)」を描くのは明らかですが、今作は国が別の国に侵攻するわけでもないですし、民族が別の民族に攻め入るわけでもありません。地球に宇宙からの存在がやってくるお話です。
宇宙侵略SFと言うと、ドラマ『シークレット・インベージョン』のようにフランチャイズものでも手垢のついたネタです。このドラマ『インベージョン』はどう個性をだしているのか。
本作の原案を手がけるのは、20世紀フォックス時代に『X-MEN』シリーズを率いた“サイモン・キンバーグ”と、ドラマ『ナチ・ハンターズ』の“デヴィッド・ヴェイル”。
“サイモン・キンバーグ”のインタビューでの発言から推察するに、このドラマのコンセプトは『宇宙戦争』をアメリカのような単一の国の視点ではなく、多国籍多人種の視点で描いていくことにあるようです。
実際、本作は群像劇で、地球外生命体の出現に徐々に気づいていく人類の姿を世界各地を舞台に描いています。物語はやや落ち着きがないです。
また、ジャンルとしてそこまでわかりやすいエンタメに特化しておらず、派手な映像やアクションなどに期待するものでもありません。作中のドラマの大半は人間模様が中心で、地球外生命体とひたすらにドンパチ戦いまくる『世界侵略: ロサンゼルス決戦』みたいな内容ではないですから。
多彩な俳優陣が特徴ですが、実質的に主人公のひとりとして大きな存在感を放っているのが『デッドプール2』でもおなじみの“忽那汐里”。これだけのドラマで主役を張っているのはキャリア的に目立ちますね。もっとハリウッドは起用してあげてください。
他には、イラン出身で『バハールの涙』などに出演する“ゴルシフテ・ファラハニ”、『ジョン・ウィック コンセクエンス』の“シャミア・アンダーソン”、『クレーターをめざして』の“ビリー・バラット”が揃うほか、『パシフィック・リム』の“菊地凛子”なども顔見せします。
「Apple TV+」で独占配信中のドラマ『インベージョン』は、キャスティングされた俳優に興味がある人、そして地味ながらもゆっくり進むSF群像劇でも大丈夫という人にオススメです。
シーズン1・シーズン2ともに全10話。1話あたり約30~60分で、ボリュームはそれなりにあるので時間があるときにどうぞ。
『インベージョン』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :SF好きなら |
友人 | :マニア同士で |
恋人 | :恋愛要素あり |
キッズ | :やや地味だけど |
『インベージョン』予告動画
『インベージョン』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):それは突然の出現だった
アラビア砂漠。ラクダを連れた男は“何か”が空から落ちたのを目撃します。それは砂煙をあげながら向かってきますが、実体はないようにも見え、ゆっくり近づき手を伸ばすとノイズと共に吹き飛ばされ…。
ところかわってアメリカのオクラホマ州。タイソン保安官は渋々職場へ足を運びます。45年も働きましたが、今日で退職なのです。トラックを盗まれたと騒ぐ酪農家の男のもとへ行くと、トウモロコシ畑でカラスが妙に騒がしく飛んでいます。高い位置から見ると、畑に何かぽっかりと跡ができていました。その畑のクレーターには乗り捨てた車があるだけです。この地域では何人かの行方不明者がでており、イタズラか何かを疑いますが…。
ニューヨーク州ロングアイランドでは、サンドイッチを作り、子どものルークとサラの相手をしているアニーシャの姿。夫のアーメドは仕事にでます。子どもたちは学校です。
しかし、教室にて子どもたちが一斉に鼻血をだす異様な出来事が発生。騒動の連絡を受けたアニーシャは病院でサラとルークを迎えに行きます。ルークだけ鼻血をださなかったようです。
東京では国際宇宙ステーション滞在に出発するムライ・ヒナタが神妙な面持ちで発射の場に到着していました。そのオペレーション・ルームでは、JASA(日本宇宙航空機関)の監理官のヤマト・ミツキが待機していました。最終整備をする場で2人はぎこちなくやりとりします。実は2人は密かに交際していたのですが、今は関係が微妙です。ヒナタの乗ったシャトルは無事に地球を離れていきました。
アニーシャは夫が帰ってこないので位置情報で追うとブロンドの白人女との不倫の現場に遭遇。帰宅した夫を問い詰め、「私は全てを諦めたのに」と怒りを露わにした瞬間、激しい揺れが起きます。
その頃、ヒナタの滞在する宇宙ステーションでは順調にミッションをこなしていましたが、一瞬で粉々に破壊されてしまいました。その救難信号はすぐには届きません。
オクラホマにいるタイソンは違和感を抑えられずに送別会を抜け出し、夜中にあのトウモロコシ畑のクレーターに行き、頭上に“何か”があることに気づきます。
イギリスのとある学校では、モンティたちにいじめられる病弱なキャスパーを同級生のジャミラが強気な言葉で助けていました。キャスパーたちはバスで郊外に向かっていましたが、そのとき、衛星が落下してきてコントロールを失ったバスは穴に落下してしまいます。
アフガニスタンでは、アメリカ軍のトレヴァンテの部隊は“何か”に襲われた学校に辿り着き、突如としてありえないような砂嵐に巻き込まれ、トレヴァンテ以外の隊員が全滅してしまいます。辛くも生存したトレヴァンテは地元住民の助けを借りて、なんとか母国に帰ろうとします。
地球の各地で起きる異変。それらは全てある存在が原因。けれども人類はまだ把握しきれていません…。
シーズン1:人類の愚かな勘違い
ここから『インベージョン』のネタバレありの感想本文です。
ドラマ『インベージョン』は群像劇なので複数の登場人物の視点で物語が並行的に進みます。それぞれのパートはジャンルすらもばらけている感じです。
アニーシャのパートは、典型的な「混乱に陥ったアメリカにおける家族の避難劇」です。夫の不倫による確執が付随し、家族の不協和音が社会の混沌と重なります。特徴的なのは白人家庭ではなく、中東系の家庭を軸にすることで、テロ疑惑もある中での偏見も描いていることですかね。
キャスパーのパートは、『ストレンジャー・シングス 未知の世界』的なジュブナイルをやろうとしている感じで、キャスパーのエイリアンとのシンクロ能力が発覚するなど、スーパーチルドレンが今作でも重要になってきそうです。
そのキャスパーたちに後半で合流するのがトレヴァンテ。彼のパートは、これまたよくある派兵先でアメリカ軍人がコミュニケーションとれない現地人とあれこれする図式です。キャスパーらと一緒になると、一転して保護者的役割を果たすことに。
この3つが結局は西欧的土台にある中、ひときわ特異なのがミツキの日本パートです。相変わらず日本の描写は少し変なのですが、目をひくのは同性愛に不寛容な日本社会の空気を吸いながらも、サバイブしてきたレズビアン・カップルを主人公にしていること。背景の日本描写が若干おかしいのでリアリティはちょっと減退してますけど、男性視点のないレズビアンの描写があるだけで、悲しいかな、ホっとしてしまう…。日本の同性愛差別的な空気を描いているのは「得体のしれない他者への敵意」というテーマと重ねているのかな。
このシーズン1は進行がゆっくりすぎるのが欠点で、エイリアンだと明確に認識するのが第5話になってからです。正直、第1話くらいで済ましてほしかった気持ちも…。
シーズン1にて地球外生命体の侵入が明らかになったわけですが、侵略が目的なのかは不明です。もしかしたらちょっと寄っただけかもしれない…。しかし、作中の人類はもう侵略だと決めつけています。
そして核攻撃でエイリアンを倒せたと有頂天でお祝いモード。おそらくキャスパーの「止まれ」という命令がエイリアンに効果を与えたのが実際でしょうが、それを把握できていません。ラストは現実を直視することになる人類の表情…。
宇宙規模でも人類の愚かさを積み上げることになってしまうのか…続きます。
シーズン2:ワジョの意味は考えるのやめよう
ドラマ『インベージョン』のシーズン2は勘違い勝利祝祭ムードをぶっ壊され、121日も経過して、エイリアンとの長期戦状態に突入している社会情勢から始まります。
ヒナタを見捨てたことを引きずるミツキは、ブラジルの億万長者ニキルによるエイリアン宇宙船の調査チームに半ば強制連行で参加。
夫を失って盗みありの放浪生活だったアニーシャは軍に反抗する団体「ムーブメント」と行動し、エイリアンを倒せる破片がますます重要性を増していきます。
一時は妻のもとに戻ったトレヴァンテは普通のライフスタイルに馴染めず、キャスパーの残した絵を手がかりに、再び単身で調査の旅へ。
ジャミラは昏睡しているキャスパーに会いに行き、モンティと合流しつつ、エイリアンと接続できる子どもたちの存在を知ります。
エイリアンも以前はバイ菌みたいなデザインだったのが、『スカイライン』シリーズになるの?ってくらいにやたらと攻撃的なフォルムになりました。
このシーズン2、世界防衛連合とかを登場させてスケールを大きくしたのはわかるのですけど、政治的緊張感の描き方がどうもリアルさに欠け、退屈ではあるかな…。ただでさえ、同時期に観客は「イスラエル・パレスチナ」の争いをニュースで目にしているわけで、それと比べると余計に…。
あとやっぱりこれは言っておきたい。結局あの「ワジョ」ってなんなんですか?…という…。
作中でエイリアンと接触した人たちは「ワジョ」という言葉を繰り返す現象をみせます。これの意味は明示されていません。
「Screen Rant」は「ワジョ」は日本語で「城」を意味しており、これは宇宙船の旗艦のことだと考察しています。う~ん、そうなの? 城は「ジョウ」と読むけど、「ワ」は何? 「和城」ってこと? でも別の記事では「和情」…つまり感情的な調和を意味していて友好的なメッセージだと分析もしています。う~ん…あ、そう…。ものすごく漢字に特別な意味を感じたがる典型的な外国人の考察です…。
ちなみに「和城」で日本語検索しても鉄板焼き店か建設会社の名前しかでてきません。エイリアンさん、鉄板焼き食べたかったんですかね。美味しいよね。
ドラマ『インベージョン』もこのあたりでオリエンタリズムの墓穴を掘ってる感じです。
あと、せっかくミツキはSTEM女性というキャラクター性があるのに、最終的には科学知識じゃなくてスピリチュアルな感応性が見せ場になってしまうのもなんだかな、と。『ヱヴァンゲリヲン』みたいにしたいのだろうか…。
ついでこれも書いておこう。クィアと『地球に落ちて来た男』繋がりがあるからと言って、なんでもデヴィッド・ボウイの曲を流せばいいってもんじゃないのでは…とか。
最終話ではミツキの犠牲で開いたポータルを通ってトレヴァンテが母艦のもとへ。そこでキャスパーと合流し、例の破片を手に、気になるラストで終わっていました。
とりあえず「ワジョ」の件は無かったことにしてもいいですよ…。
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 48% Audience 47%
S2: Tomatometer 64% Audience 54%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
「Apple TV+」のSFドラマシリーズの感想記事です。
・『フォー・オール・マンカインド』
・『ファウンデーション』
・『サイロ』
作品ポスター・画像 (C)Apple インヴェージョン インベイジョン
以上、『インベージョン』の感想でした。
Invasion (2021) [Japanese Review] 『インベージョン』考察・評価レビュー