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映画『トレイン・ドリームズ』感想(ネタバレ)…Netflix;木々に囲まれた人生

トレイン・ドリームズ

その生と死を俯瞰して…Netflix映画『トレイン・ドリームズ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Train Dreams
製作国:アメリカ(2025年)
日本では劇場未公開:2025年にNetflixで配信
監督:クリント・ベントリー
人種差別描写 性描写 恋愛描写
トレイン・ドリームズ

とれいんどりーむず
『トレイン・ドリームズ』のポスター

『トレイン・ドリームズ』物語 簡単紹介

20世紀初頭のアメリカのアイダホ州の森の中。物静かなロバート・グレイニアは材木伐採の労働者として地道に働きながら、あまり他人と関わらずに生きていた。しかし、愛の感情を芽生えさせてくれた女性が現れ、自分に縁のなかった家族というものを一から築き上げ始める。こうして自然に囲まれた世界で、慎ましくも幸せに溢れた生活を送るようになるが…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『トレイン・ドリームズ』の感想です。

『トレイン・ドリームズ』感想(ネタバレなし)

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デニス・ジョンソンの物語が2025年に新たに映画化

「デニス・ジョンソン」というアメリカの小説家がいました。2017年に亡くなってしまったのですが、ピューリッツァー賞の最終候補となるなど、その作品は数々の注目を集めました。

ただ、日本では邦訳として出版された本はあまりなく、現時点で『ジーザス・サン』(1992年の「Jesus’ Son」)、『煙の樹』(2007年の「Tree of Smoke」)、『海の乙女の惜しみなさ』(2018年の「The Largesse of the Sea Maiden」)の3作のみのようです。

そう言う私も“デニス・ジョンソン”の作品を読んだことがなかったので、これを機に図書館で本を借りて読んだのですけども、詩情に満ち溢れた文体が特徴のようで、これは翻訳が難しそうだなと思いました。たぶん原文で読むと印象はまた変わりそうです。

その“デニス・ジョンソン”作品のいくつかは映画化もされています。1999年の“アリソン・マクリーン”監督による『Jesus’ Son』、2022年の“クレール・ドゥニ”監督による『Stars at Noon』と、その数は少ないですが…。

そして2025年にまた新しい“デニス・ジョンソン”原作映画が加わりました。

それが本作『トレイン・ドリームズ』です。

本作は2011年に出版された“デニス・ジョンソン”の中編小説が原作であり、もともとは2002年に掲載された作品が土台なのだとか。“アーネスト・ヘミングウェイ”風のこの物語は、20世紀初頭の近代化が進むアメリカ社会の周縁…アイダホ州の森の中で寡黙に生きていたひとりの男が、幸せと喪失を体験する姿が静かに綴られています。

この作品を見事に映画化してみせたのが、“クリント・ベントリー”。2021年に『ジョッキー』という映画を監督しており、2023年には『シンシン SING SING』の脚本も手がけました。今回の『トレイン・ドリームズ』は、『シンシン SING SING』を監督&脚本した“グレッグ・クウェダー”と共同脚本でまた力を合わせて製作されました。

“クリント・ベントリー”と“グレッグ・クウェダー”のコンビは内省的な男のドラマを紡ぐのが得意なのでしょうか。今作『トレイン・ドリームズ』は、雄大な自然風景と相まって、映画的な美しさが際立っています

ゴッサム・インディペンデント映画賞でも高く評価され、2025年の見逃せない一作になりました。

『トレイン・ドリームズ』で主演するのは、『ザ・ストレンジャー 見知らぬ男』“ジョエル・エドガートン”

共演は、『ブルータリスト』“フェリシティ・ジョーンズ”『猿の惑星/キングダム』“ウィリアム・H・メイシー”『F1/エフワン』“ケリー・コンドン”『ブリックレイヤー』“クリフトン・コリンズ・Jr”など。

「Netflix(ネットフリックス)」で配信中の『トレイン・ドリームズ』を観るなら、静かに映画に向き合える環境で鑑賞することをオススメします。

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『トレイン・ドリームズ』を観る前のQ&A

Q:『トレイン・ドリームズ』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2025年11月21日から配信中です。
✔『トレイン・ドリームズ』の見どころ
★人生の愛情と喪失に対峙する独りの人間の生き様。
★登場人物の内面を映し出す雄大な自然風景。
✔『トレイン・ドリームズ』の欠点
☆原作と比べると受け入れやすい綺麗な脚色がなされている。

鑑賞の案内チェック

基本 死別を描いています。また、アジア系への差別の描写が一部にあります。
キッズ 2.5
性的関係描くシーンが一部にあります。
↓ここからネタバレが含まれます↓

『トレイン・ドリームズ』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤)

1917年、アメリカのアイダホ州北部の広大な森。髭を生やした物静かなロバート・グレイニアは、木こりであり、伐採業に従事する労働者でした。この地には空に真っすぐ伸びる樹木がたくさんあります。林業がもたす木材は社会を支える柱です。

しかし、ロバートは人里離れた森で暮らし、町に行くことは滅多になく、それどころか他人と慣れあうことすらほとんどありませんでした。彼は幼少からの流れ者であり、愛着のある家族も友人もいないのです。

ところが、ある日、ロバートは、グラディスという女性と出会い、愛を感じます。ロバートは彼女の影響で教会にも通うようになり、3か月後には結婚していました。2人は自然の中で穏やかに関係を深め、将来を一緒に思い描きます。

ロバートとグラディスは、落ち着いた森の小川の近くに小屋の家を建て、ここに根付くと決めます。2人だけのひとときを満喫できる、誰にも邪魔されない空間です。

仕事もしないといけません。今、ロバートは橋の建設を手伝っており、その橋によってスポケーン鉄道の運行距離が約11マイル短縮されるとらしいですが、詳しくは知りません。とにかく橋は巨大な木製のもので、多くの木材を必要とします。そのため、たくさんの労働者が駆り出されていました。

その中に中国人労働者もいましたが、一部の差別的な白人労働者に嫌われ、嫌がらせがエスカレートし、峡谷に突き落とされるまでの凶行に発展。しかし、ロバート含む労働者はその醜い行動をただ黙って見ているしかできません。

完成した橋の線路をようやく列車が通れるまでになりましたが、ロバートの顔には笑みは浮かびません。他の労働者は歓声をあげていたとしても、人間の悪しき一面を知ってしまうと、心が晴れることはないです。

ようやく家に帰ることができ、妻の顔を見て、やっと喜びが沸き上がります。グラディスと抱きしめ合い、生まれたばかりの赤ん坊のケイト(ケイティ)を優しく見守ります。この小さな命のためにずっと働き続けていく覚悟です。

一緒に家で料理を作り、短い会話を楽しみ、蝋燭の明かりに照らされた食事を味わう…貧しくともこの時間が格別でした。

家族3人は町に顔を出し、記念写真を撮ります。照れ隠ししながらも、幸せがこぼれます。こうやって1年、1年と、共に人生を重ね合わせることができるだけでじゅうぶんです。

そして幸せを補充してまたロバートは伐採の仕事に向かいますが…。

この『トレイン・ドリームズ』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2025/11/25に更新されています。

ここから『トレイン・ドリームズ』のネタバレありの感想本文です。

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原作から変わったこと

『トレイン・ドリームズ』は主人公であるロバートというひとりの男を中心に据え、完全に彼の感情にカメラは寄っています。なので、妻のグラディス含め、他の周囲の登場人物はほぼ深掘りもされず、あくまでロバートという男の視点で感じたままに活写されるだけです。

このロバートという主人公もわりと典型的な「社会に馴染めない寡黙な孤独的男性」のとおりの存在感ですし、内省的な男のドラマなのは明らかです。

原作からしてそうなのかと思ってしまいますが、実はこの映画では原作からかなり大きく変えているところも多く、結構この翻案は原作が好きな人には賛否両論あると思います。

どんなふうに大幅に脚色されているのかと言うと、全体的に主人公の性格がプラトニックなトーンが強めにアレンジされています。とくに映画だと大人しい人格者のように描かれていますが、原作ではもっと込み入った罪悪感を抱えています。

例えば、序盤で中国人労働者が苛烈な差別迫害によって酷い目に遭いますが、映画ではロバートはそれを間近で目にしつつ、何もできないでいるという「良心はあるけど無力な存在」として映し出されます。しかし、原作では一緒にその加害に手を貸すようなことをしており、もっと加害者側の立場に足を突っ込んでいます。つまり、物語はより罪悪感をともなう感触になっているということです。

女性関係も差異があり、映画では妻グラディスとのとても純粋な寄り添いが映し出され、どう見ても仲睦まじく、ロバートは愛妻一筋です。それ以外についてはほぼ無欲的な男と言ってもいい描かれ方です。

一方、原作ではネイティブアメリカンの女性を性的に見るような目線が示唆されるなど、純粋とは言い難い異性愛者の男の欲情が滲んでいます。

これは後半に出会うことになるクレアとの出会いの描かれ方にも大きく影響しており、映画版ではクレアとの付き合いは亡き妻グラディスを裏切ることはない、貞操観念が暗黙のうちに固持されています。

要するに、映画のロバートは、ある意味で「万人に受け入れやすくなった」男性像になっており、“クリント・ベントリー”監督としてはこの選択でいこうという判断なのでしょう。原作と比べて彼の過去の描写も詳細にはないので、映像作品ながら主人公に関しては観客が想像する余地が多くなっています。

同情しやすさを意図的に用いているかたちにも受け取れるので、そのアプローチはあまり評価しない人がいるのも理解できます。

とは言え、“ジョエル・エドガートン”の演技も相変わらず抜群に上手いので、そういう脚色的意図にまんまと流されてでもこの物語の感情の渦に飲まれてしまうくらいのパワーがある映画だったのも事実でした。

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木に支えられ、木に殺され…

『トレイン・ドリームズ』の映画になったことで決定的に魅力が浮き出た要素の第一はやはり圧倒的な映像ですかね。

アイダホ州のあの森の荘厳な佇まい。カメラは常にその木々の中を歩く動物の目線であり、高く伸びる樹木を見上げることになります。もちろん、人間も動物です。いや、あの森を前にしたら人間は動物だと思うほかない…。

しかし、人間は木々を切り倒してその木材で森の中に線路や橋を作り、列車を走らせます。その行為は動物の常識を大きく逸脱しています。主人公のロバートはそんな人間の振る舞いに手を貸していることに、どこかこれもまた罪悪感を抱えている…そんな描かれ方でした。

それでいて、木は人間に恵みを与えると同時に命も奪います。作中では林業の作業中に亡くなる労働者が生々しく描かれています。運搬作業中の伐採樹木が坂を転がってしまうこともあれば、大きな枝が落下して頭に直撃することもある…。

木に支えられ、木に殺される…これは人間にはどうしようもできない自然の摂理。今作では木でしたが、基本的に私たち人間は水にせよ空気にせよ自然に生かすも殺すも全部を支配されています。しかし、近代的な技術が発達して自分のまわりがそればかりに覆われると、その摂理を忘れてしまいますよね。

極めつけで現れるのは山火事です。ロバートはこの火災によってせっかく築き上げた妻と子という家族を失います。木材で作られた家だからこそ燃え上がる…その悲しい現実…。

ロバートという人間は、近代化に取り残された男であり、重機も何もない手作業の林業の場ですらも電動のこぎりが導入され変わり始め、もう自分の在り方を維持するのは到底無理な状況になります。彼にとってあの家族は現実逃避的な理想です。

終盤には謎の野生児の子どもも一時的に保護され(ただし、その存在はロバートの空想でしかない可能性もある)、彼の中にある自然的なものへの執着が垣間見えます。

こうやって振り返ると、本作の自然の描写は「美しい自然だね~」と安易にうっとりできるようなビジュアル鑑賞用の代物ではなく、とても多面的な自然の存在を無言で巧みに捉えて、物語に重ねていたと思います。

そしてこのひたすらに森の中の一部として見上げる視線が最後にひっくり返るあのラスト。複葉機が逆さまになって森を俯瞰するだけでなく、その上下も入れ替わる…あのシーンひとつで、喪失感を抱える主人公の行きつく悟りにまで無言で手を伸ばす。本作はとにかく言葉なしで感情を刺激されっぱなしでした。

ちょっと最近は「複葉機=スーパースタントアクションを見せてくれる場」みたいに映画的にはなっていたので、こういう穏やかな複葉機演出がむしろ新鮮になっている不思議な感覚だったな…。こんな感想を最後に抱くのは映画の余韻が台無しだけども…。

『トレイン・ドリームズ』
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
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関連作品紹介

ジョエル・エドガートン出演の映画の感想記事です。

・『ザ・ストレンジャー 見知らぬ男』

・『13人の命』

以上、『トレイン・ドリームズ』の感想でした。

作品ポスター・画像 (C)Netflix トレインドリームズ トレイン・ドリームス

Train Dreams (2025) [Japanese Review] 『トレイン・ドリームズ』考察・評価レビュー
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