子どもをナメるな!…Netflix映画『リム・オブ・ザ・ワールド』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2019年)
日本では劇場未公開:2019年にNetflixで配信
監督:マックG
リム・オブ・ザ・ワールド
りむおぶざわーるど
『リム・オブ・ザ・ワールド』あらすじ
平凡な世界はいきなりどこかへ消えてしまった。エイリアンに襲われ、キャンプ場に足止めされた4人の子どもたち。境遇もバラバラで、出会ったばかりで互いのこともよく知らない。こうなったら力を合わせて地球を救うしかない。使えそうなものは、自転車と知恵と勇気。
『リム・オブ・ザ・ワールド』感想(ネタバレなし)
青臭いのはマックG監督の持ち味
先日あった日本にしては異例のゴールデンウイーク10連休や今後待っている夏休みなどの長期休み。学校に行っている子どもたちにとってはさぞかし嬉しいイベントのはず。私も子どもの頃はこういうバケーションを人生最高の至福の気持ちで満喫していましたよ…(しみじみ)。
でも良いことばかりではないようです。こういう長期休暇は子どもの悩みが顕在化して、心理的に不安になる子どもも増えるのだとか。だからこそ休暇前後は子どもの体調を注意深く見守るようにアナウンスされることもあります。
子どもにとって世界は2つだけ。学校と家庭です。そこを行ったり来たりするだけの毎日であり、もしそのどちらかもしくは両方にストレスの原因があれば、逃げ場もなく苦しむのみ。
そういうとき、学校でも家庭でもない“第三の世界”を用意するという手段もあります。例えば「サマーキャンプ」なんかはまさにその役割を果たします。日本ではそこまで普及していませんが、アメリカではかなり身近なものです。
そのキャンプの中で自分の殻を打ち破り、世界を広げる子どもたちの姿をたくましく描いた映画が本作『リム・オブ・ザ・ワールド』です。
本作の主人公である子どもたちは親に見送られ、自然豊かな地でキャンプに参加。見ず知らずの子どもたちと集団生活をしていくことになります。ところが、突如、宇宙からエイリアンが襲来。あたりは大パニックになり、大人も消える中、取り残された4人の子どもたちが世界を救う“鍵”を手にする…そんなストーリー。
ずいぶんぶっとんだ物語ですが、監督は“マックG”なので、それを聞けば、“まあ、そうか”と納得。『チャーリーズ・エンジェル』や『ターミネーター4』など、結構、たがが外れた作品を手がけていた人であり、その作家性は非常にわかりやすいです。辻褄とかリアリティとかそんなことよりもノリで突っ走る、そんな子どもみたいなクリエイティブ精神が“マックG”監督の武器。
最近は子どもを主体にした映画づくりにハマっているようで、直近で手がけた監督作『ザ・ベビーシッター』は、美人で優しい面倒見のいいお姉さんが実はカルト的殺人鬼だったという事態に直面した少年がそれを乗り越えて大人になるという、これまたエキセントリックな内容。
でもこの鬱屈を抱えた少年が一皮むけて大人になるという構図は、『リム・オブ・ザ・ワールド』にも共通しています。今作ではさらに壮大さがパワーアップしており、完全にキッズ版『インディペンデンス・デイ』のノリです。エイリアン侵略シーンなど映像クオリティはしっかりしているのでご安心を。設定から見ると『アタック・ザ・ブロック』にすごく似ていますね。
ちなみに脚本を手がける“ザック・ステンツ”は、『マイティ・ソー』や『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』、『パワーレンジャー』の脚本に関与している人物。なんかだんだんと低年齢化していますね。
『リム・オブ・ザ・ワールド』のわざとらしいほどの青臭さを見ながら、“自分もこんな青臭い時代があったなぁ”と大人の皆さんは振り返って鑑賞してみてください。逆にこういう青臭さを理解できなくなったら、それは自分が“つまらない大人”になった証拠かもしれません。子どもの頃、そういう“つまらない大人”に心底失望していませんでしたか。
Netflixオリジナルで配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(暇つぶし感覚でご自由に) |
友人 | ◯(あっさりしたエンタメ好きに) |
恋人 | ◯(可もなく不可もなく) |
キッズ | ◯(子どもでも気軽に楽しめる) |
『リム・オブ・ザ・ワールド』感想(ネタバレあり)
“インディペンデンス・デイ”じゃないのに
冒頭、破壊された国際宇宙ステーション。その内部では火があがる危機的状況の中、コリンズ少佐がある重要な暗号USBを持ってNASAの研究所に届けようと必死。しかし、唸り声をあげる“何か”が迫っていて…。
打って変わって平和な世界。部屋でモニターの中の友人との世界に満足していた少年アレックスは母に半ば強引に連れられ、キャンプ「リム・オブ・ザ・ワールド」へやってきます。そこにいるなんだかよくわからない年上の人たちのテンションにすっかりついていけず、滅入るアレックス。母と別れを告げ、手首には父の時計を身に着け、そこでしばし集団生活をすることに。
そのキャンプには個性豊かな同年代の子どもたちがいました。とくに一際目立つのは、やたら裕福そうな家の子らしく、ノリが独特なダリウシュ。そして、なぜか「リム・オブ・ザ・ワールド」のチラシを手にする無口なジェンジェン。
ロープスライダーが怖くて土壇場でビビってしまい、さっそく臆病者扱いされるアレックスを尻目に、ダリウシュは勇気をつけてやるとお節介をしてきます。そこへガブリエルという少年が現れ、どこの子?と聞いた瞬間、謎の音。
みんなが集まるはずのカヌー場に行くと誰もおらず、アレックス、ダリウシュ、ジェンジェン、ガブリエルの4人は途方に暮れます。そうこうしていると、空に謎の爆発が起き、空の色が変化。キャンプ場に急いで戻るとやはりそこも無人で、みんな下山したらしいことが判明。電子機器が使えないのは電磁パルスだと予想するSFオタクのアレックスでしたが、すると上空で戦闘機が何かと戦っているところを目撃。すぐに空戦に巻き込まれ、4人のいる地上は大爆発の嵐。しかも、謎の脱出カプセルらしきものが降ってきて、中から人が這い出てきます。なんでもUSBをNASAのJPLのフィールディング博士に届けてほしいとのこと。さっぱり状況が掴めないでいると、謎の獰猛なエイリアンが襲ってきて、絶体絶命のピンチ。
機転を利かせてなんとかそのエイリアンを退けるも、さあ、どうしよう。
大人はいない。スマホも使えない。こうなったらこのUSBを研究所に届けるしかないと決め、100キロ以上離れた地点を目指すことに。あるのは自転車。こうして4人の旅は始まります。
まずは自転車に乗れないアレックスの練習を並行しながら…。
“ごっこ遊び”で世界を救う
そんなこんなで突然の怒涛の展開に唖然ですが、もちろんメチャクチャな話ですよ。いくらでもツッコめます。でもそういう風に見る映画ではないことくらい、私にもわかります。
『リム・オブ・ザ・ワールド』はいわゆる“ロール・プレイング”・ムービー。つまり、“ごっこ遊び”です。この場合は、“世界を救う選ばれし人”になったという設定。
とはいっても、何かメタ的な仕掛けがあるわけでもなく、本当に作中ではエイリアンの侵略が起きています。でも映画自体はそれを“ごっこ遊び”のような題材にして描いています。そして、“ごっこ遊び”的な成長機会を登場人物に与えるシナリオです。
そのため、作中で起こる出来事や展開も妙にアレックスが考えそうなシチュエーションばかり。まず重要なアイテムであるUSBが鍵型というのもいかにもですし、明らかにSF映画オマージュというかド定番な事態が頻発。道中で夜に謎の集団に襲われる際も「映画だとこれ死ぬパターンだよ」と自ツッコミしているくらい。
“ごっこ遊び”は幼少時にやるものですが、基本は自分の知っている情報や知識を元にスクリプトを作り、役を演じます。そして、その過程でしだいに社会性やアイデンティティを身に着けていく…児童の成長にとってとても大事な行動です。
『リム・オブ・ザ・ワールド』でもアレックスは自分の頭の中にある世界観の延長のような状況で、成長のための階段を登っていきます。終盤に明らかになるとおり、アレックスは父の死に際を見るというかなり壮絶な体験をしており、それが大きなトラウマになっています。中盤の軍人の死に直面することで、その記憶が再現。しかし、ここで“やり遂げる”道を決心するアレックス。本作はあくまでアレックスにとっての都合のいい成長物語…でもそれでいいのです。
一方、同行する他の3人の子どももそれぞれ悩みを抱えています。ダリウシュは裕福な境遇かと思えば、実は家庭は崖っぷちにあるという意外な一面が判明。ジェンジェンは男の子を欲しがる家庭に居場所を見いだせずにこのキャンプにはるばるやってくるほど。ガブリエルは少年院から脱走してきたことがわかり、そのきっかけとなる暴力事件が起きたのは、彼に強迫性障害のような数字に対する過度な苦手意識があることが原因でした。
ちなみに“マックG”監督は広場恐怖症だとか。なのでガブリエルのようなパニックに苦しむ子の気持ちがわかるのかもしれません。
とにかくそういう子どもたちが、“大人の庇護の中で、大人が用意したものによる”ではなく、自分なりの方法で“成長の階段を登る”…そんな話。
“ち○こ”突っ込んだの…?
真面目に感想を書いてしまいましたが、“マックG”監督作ですから、だいたいはアホだらけな要素もいっぱい。ノリで面白がっていればいい映画です。
登場人物のクセは意味もなく濃い目であり、キャンプをしきるティーン若者たちもいかにもダメそうですが、アレックスたち主人公組もかなりの残念感たっぷり。
とくにダリウシュとジェンジェンのクセが強すぎます。
ダリウシュの、体の構成成分の8割は“虚勢”でできている感じも突き抜けすぎていますし、ジェンジェンのやりすぎな中国共産主義スタイルも普通に怒られそうなレベル。
でもそんな子どもたちが4人揃ってああだこうだとやっている姿は微笑ましい。エイリアンに謎液体でぐちょぐちょにされて気分最悪なダリウシュに対して、頭部が生殖器の生き物もいると余計なSF知識で不安を煽るフォロー下手なアレックス(と、“ち○こ”の可能性を知って絶望するダリウシュ)など、関係性の化学反応も面白いです。アレックスとジェンジェンの拙い言語コミュニケーションによる恋模様は、なんか「スタートレック」を連想させますし(というかあの人種バラバラの4人はすごいスタトレっぽい)。
あの4人がチームとして絆を深め、ショッピングモールで衣装チェンジするくだりもベタながら良さげ。全員がアディダス・コーディネートで絶妙にダサいのもいい。そこからのマスタング車に乗って「ストレイト・アウタ・コンプトン」をガンガン流して爆走するとか、恥ずかしいくらいの青臭さが、今見れば可愛いものです。たぶんこの子たちが大人になってこの過去の自分を見たら羞恥心で死ぬ可能性がありますけど…。
襲ってくるエイリアンは「ターミネーター」級のしつこさと、「ウルヴァリン」級の生命力を兼ね備えているほかは、なんか結局、よくわからない設定なのが惜しいところでしたが、前半の激しいシーンを後半にももっと欲しかったのは正直な不満点。予算的な限界ですかね。
欲を言えば、どうせなら敵の母船に乗り込むくらいの派手なことをしてほしかったのですけどね。
世界の端(リム)に立った子どもたちは、自分のいた世界のちっぽけさを知ったはず。案外、思っているほど世界は怖くない。世界を救えることだってできる…のかも。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 20% Audience –%
IMDb
5.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
作品ポスター・画像 (C)Netflix リムオブザワールド
以上、『リム・オブ・ザ・ワールド』の感想でした。
Rim of the World (2019) [Japanese Review] 『リム・オブ・ザ・ワールド』考察・評価レビュー