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『ダーク・プレイス』感想(ネタバレ)…映画化で目立ちすぎた悪

ダーク・プレイス

映画化で目立ちすぎた悪…映画『ダーク・プレイス』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Dark Places
製作国:イギリス・フランス・アメリカ(2015年)
日本公開日:2016年6月24日
監督:ジル・パケ=ブレネール

ダーク・プレイス

だーくぷれいす
ダーク・プレイス

『ダーク・プレイス』物語 簡単紹介

1985年、カンザスの田舎町で母親とその娘2人が惨殺される事件が起き、生き残った8歳の末娘リビーの証言により15歳の兄ベンが逮捕された。それは痛ましい出来事だったが、生存したリビーは一時的に世間の注目のまとになる。そして時は流れ、すっかり世間からも忘れられた31歳になったリビーは、有名事件を語り合う「殺人クラブ」からの招待状が届いたことで、忌まわしい事件の真相を探りはじめる。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ダーク・プレイス』の感想です。

『ダーク・プレイス』感想(ネタバレなし)

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『ゴーン・ガール』原作者ギリアン・フリンの2作目

「ダーク・プレイス」と聞くとなんだかファンタジーゲームに出てきそうなネーミングですが、ミステリーです。本作『ダーク・プレイス』はその名のとおり、人間の闇を呼び起こす恐ろしい映画なのです。

本作の原作者はあの『ゴーン・ガール』の人です。原作者“ギリアン・フリン”はデビュー作『Sharp Objects』(邦題『KIZU-傷-』)で高い評価を受けた女性推理作家。そして、3作目となる『ゴーン・ガール』がベストセラーとなりました。『ゴーン・ガール』はご存じのとおり2015年に映画化され、映画としても成功を収めました。あの何とも言えない夫婦トラウマ作品。本当に嫌な体験でした。今も思い出すと…ああ、絶対に夫婦で見てはいけない…。

『ダーク・プレイス』はギリアン・フリンの2作目となる小説「冥闇」が原作となります。映画『ゴーン・ガール』を気に入った人のなかには、本作にも期待している人が多いのではないでしょうか。また、原作小説ファンもどう映画化されているのか気になるでしょう。

私は原作小説を読んでいないので、原作の内容がどこまで映画化されたのか評価できません。そこであくまで原作を知らない視点からの感想となります。

原作を知らない人向けに簡単に説明すると、原作者が同じということもあり、どうしても『ゴーン・ガール』と比べてしまいますが、本作も『ゴーン・ガール』と同様に、現在と過去で時制を行き来きしながら、事件の真相が明らかになっていきます。また、『ゴーン・ガール』では男と女それぞれの価値観や特性から浮かび上がる歪みやすれ違いによって事件が起きますが、本作も基本的にその通りです。『ゴーン・ガール』では「夫婦」がテーマでしたが、『ダーク・プレイス』は「家族」がテーマとなっています。

出演陣にも注目です。主人公であるリビー・デイを演じるのは“シャーリーズ・セロン”。そして、リビーが事件の真相を探るきっかけをつくる「殺人クラブ」のメンバーの男を“ニコラス・ホルト”が演じています。なので『マッドマックス/怒りのデス・ロード』でフュリオサとニュークスを演じた二人の共演となります(爆走したりはしないけど)。あとは、“クロエ・グレース・モレッツ”が嫌な女の役で登場しますので、こうした役者のファンも楽しめると思います。

もちろんミステリー好きには見逃せない一作にもなるはずです。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ダーク・プレイス』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):思い出したくないあの事件

1985年。リビー・デイは誰かから質問を受けていました。

「ベンはママやパパを殺した? あのとき家にいたね?」

ベッドの上で覇気もなく座る幼い少女は小さく頷きます。

現在。リビーは自堕落な生活を送っていました。8歳のときのカンザス一家惨殺事件で突如として有名になり、ひとり残されて寄付金で暮らす毎日。しかし、今やそのカネも尽きようとしていました。自叙伝はもう需要がないようです。働いてもいないのでこのままでは生活不能に陥ります。

ある日、リビーのもとへ「殺人クラブ」という団体から手紙が届きます。そこにはライル・ワースという名前と、500ドルをだせるという内容が書かれていました。電話してみて、そのライルに出会ってみることにします。

ライルはリビーに出会えて興奮しているようです。真夜中のコインランドリーで落ち合うのは変ですし、リビーは警戒します。「殺人クラブ」というのは世間の殺人事件に関心がある趣味人の集まりだそうです。

カネが欲しかったリビーはその殺人クラブに行くことにします。こういうのは初めてではありません。これだけ何月が経てばその間にいろいろな誘いがあったものです。

殺人クラブの会場は盛り上がっていました。2階では事件現場を再現したり、犯人になった気分で振舞ったりすることを目的にしている者もいます。明らかに変人もいるので、すっかり不快な気分になるリビー。さらに上階では本格的な探偵のように事件解決に挑んでいる者たちがいました。

その殺人クラブのメンバーはリビーの事件を整理します。ベンは悪魔崇拝者であるというのが当時の見立てでしたが、一般的には父親のラナーが犯人であるという考えがあるクラブの人は語ります。中には司法の過ちだとしてベンの釈放を願っている人間もいます。質問攻めになっていくリビーは不機嫌です。

そして、10年以上の古い証拠は廃棄されることになるらしく、ベンの情報も3週間で廃棄されると言います。リビーは知りませんでした。

ベンをかばうこともしないリビーは「嘘つき」呼ばわりされてしまい、リビーは睨みつけながら「あの晩、何が起きたか知らないくせに」と呟き、去っていきます。

1985年の当時。リビーは兄や姉に囲まれた生活を送っていました。そして銃声。必死の逃走。家族の遺体。壁に描かれた「神の不在」という文字。

リビーにとっての悪夢のような現実。その事件はなぜ起きたのか…。

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単調な謎解きと先の読める悪役

最初に言っておきますが、シャーリーズ・セロンはやっぱり凄かった。今回の『ダーク・プレイス』で演じたキャラクターはすごく内面的にも複雑なものを抱えており、演じるのは相当に大変はずです。これが下手だととにかく画一的な単調な「キャラ」で終わってしまうところ。それをこの名役者はその辿ってきた人生を観客に想像させるくらいの内側からの演技を見せてくれるの、もうずっと見ていられるし、痛みも伝わってきます。それとは対照的な闇を演じているクロエ・グレース・モレッツも良かったです。なんかもう「うわ、こいつはタダモノじゃないわ…」というオーラが全開。まだ若手若手と言われてはいますが、もう貫禄のある大物ぶり。最近はすっかり嫌な女を演じさせたら右に出る者はいないポジションになりつつあり、彼女の奇才の進化がますます楽しみになります。

ストーリーに話を移しましょう。本作『ダーク・プレイス』はリビーがさまざまな関係者に会いながら、過去の回想シーンを挟みつつ、事件の真相が次々と明らかになっていきますが、全体の総論的な感想としては単調に感じました。

単調な理由としてまず映像の問題があります。とくに過去シーンです。この過去の場面の描き方が、モノクロだったり、POVだったりと、統一感がありません。そこだけ下手なホラー映画みたいになってしまっています。この演出だけは本当にもう少し改善してほしかったなと。というか、そんな小手先の映像に頼らなくてもじゅうぶん演技だけで持っていける俳優陣が揃っているに…。

物語の謎解き部分もリビー・デイが関係者に合っているだけなので、あまり面白くないです。リビーが割とひとりでどんどん事件の真相を明らかにしていってしまい、なんで今まで事件の真相を探らなかったのか不思議なくらいです。これなら警察でも真相を明らかにできただろうにとも思います。せめてリビーにしかわからない事件の鍵をあって…というのであれば話は通るのですが。いや、もちろんこれはリビーが納得することが大事なのであって、真相自体の追及は本筋ではないのかしれないですけどね。

また、「殺人クラブ」が謎解きにほとんど絡まないのが残念でした。「殺人クラブ」という存在が登場したときは、私はそれぞれのメンバーの得意分野を活かして謎を明らかにしていくストーリーなのかと思いましたが、全く違いました。「殺人クラブ」の面々は最初に登場したきりで、ニコラス・ホルト演じるライルが唯一最後まで関わってきますが、謎解きにそこまで印象に残る活躍をしません。せっかく「殺人クラブ」という面白そうな要素があるのにもったいなかったです。

登場人物については出演陣がみな素晴らしい演技をしていましたが、シナリオ上の設定に難があるせいか、キャラにのれませんでした。リビーの兄ベン・デイは「殺人クラブ」が考えていたとおり実は冤罪で事件の真相を隠していたわけですが(といっても真相を知っていたのに言わなかった以上、幇助したことになりますが)、そこまで隠す必要はあったのか疑問が残ります。

あと、ベンの部屋から女性用の下着が見つかるくだりは、自分のまだ生まれてさえいない子どものために買ったものというのは、さすがに無理がある気も…。普通は買ってもオムツでしょう。

何よりもベンの恋人ディオンドラというキャラの意外性のなさ…。初登場時から悪そうな匂いをぷんぷん漂わせるディオンドラは、意外な展開もなくただただ本当に悪い女でした。『ゴーン・ガール』でも、妻の悪性が出るシナリオとなっていましたが、あれはまだ夫にも問題があり、同情の余地がありましたし、過去は良い夫婦関係が描かれており、その変化を楽しめました。本作のディオンドラは最初からストレートに悪い奴で、過去にはベンを、現代にはリビーを悩ませる諸悪の根源です。ディオンドラの悪性が目立ちすぎて、終盤明らかになる母親の決断にも全く重さが伝わってきません。結局、母親が殺人(自殺偽装)を依頼するまでもなく、ディオンドラが皆殺しにしていたんじゃないのかとさえ思ってしまいます。悪魔崇拝に傾倒しており、近所の少女に性的イタズラをしたという疑いがあるベンがやはり犯人なのかというミスリードも全く機能していません。

小説だったらディオンドラが最初は悪くは見えないのかもしれないですけど、映画だと映像に映ります。もうちょっとディオンドラの見せ方を工夫すべきでしたね。

もしかしたら原作そのもののシナリオに問題があるのかもしれないですが、そうだとしても、そこを上手くフォローして作品に仕上げるのが映画化の役割です。本作のように映画化により余計にダメな部分が際立ってしまっては意味なしです。

つまるところ、シャーリーズ・セロンやクロエ・グレース・モレッツの名演は光っていましたが、それを活かしきる演出やストーリーテリングの力に欠けていたという感じでしょうか。ちょっともったいない影を落としてしまいましたね。

『ダーク・プレイス』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 24% Audience 33%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 4/10 ★★★★

作品ポスター・画像 (C)2014 DAMSELFISH HOLDINGS,LLC ALL RIGHTS RESERVED.  ダークプレイス

以上、『ダーク・プレイス』の感想でした。

Dark Places (2015) [Japanese Review] 『ダーク・プレイス』考察・評価レビュー