鳥を愛する者が必要です…「Netflix」ドラマシリーズ『ザ・レジデンス』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2025年)
シーズン1:2025年にNetflixで配信
原案:ポール・ウィリアム・デイヴィス
性描写 恋愛描写
ざれじでんす
『ザ・レジデンス』物語 簡単紹介
『ザ・レジデンス』感想(ネタバレなし)
ホワイトハウスでマーダーミステリー!
アメリカのニュースならしょっちゅうよく見る真っ白な建物の正面…「ホワイトハウス」です。
ホワイトハウスはアメリカ合衆国大統領が居住する公邸であるほか、要人との会談や会議、重要な記者会見、晩餐会、いろいろな記念行事の場、さらには危機管理設備もあり、とにかく多彩な顔を持ち合わせています。
当然、そこには大勢のスタッフも働いており、さながらホテルのようです。凡人は泊まれませんけど。
このホワイトハウスの内側というのは全容が一般人にはわかりません。メディアに映していい場所しか普段は見えません。
そんなホワイトハウスで働いている末端の人たちの目線でこの唯一無二の世界をつまびらかにしたのが、“ケイト・アンダーセン・ブラワー”というジャーナリストが丁寧な取材でまとめたノンフィクション本の『The Residence: Inside the Private World of the White House』(2015年)でした。ゴシップやタブロイドみたいな暴露してやろう的な切り口ではなく、あくまでそこでずっと働いてきた人たちはこの政府中枢でどんな役割を果たしてきたのか…そういう片隅の労働者を誠実に記録した一冊として好評でした。
この本を素材にして、なんとまさかのマーダーミステリーものに大胆にアレンジしてしまったのが、今回紹介するドラマシリーズです。
それが本作『ザ・レジデンス』。
既に説明したとおり、原作はノンフィクションですが、ドラマは完全にフィクションです。とある晩餐会の最中のホワイトハウス内でひとりのスタッフが遺体で発見されるところから始まります。探偵がやってきて、推理を始めるのですが、一筋縄ではいきません。なにせここはホワイトハウス。人も多いし、部屋も多いし、人間関係も複雑で…。
ホワイトハウスでマーダーミステリーをやっちゃおうという思い切りの良さの時点で吹っ切れている『ザ・レジデンス』ですけども、スクリューボール・ミステリーでコミカルに進むのでとても見やすいです。お手軽に謎解きを満喫できます。
各エピソード・タイトルは全て名作ミステリーからの引用になっており、ミステリー好きにはたまらない遊び心も満載。ちなみに『オリエント急行殺人事件』のネタバレが作中でされるので覚悟してくださいね(こういう古い有名作はオチがいつどこでネタに使われるかもわからないので、さっさと原作を読んでおくのが吉です)。
本作の探偵キャラクターもユニークで面白いです。オリジナルで考え出したにしては癖の強い魅力的なキャラを上手く生み出せましたね。バードウォッチングが趣味ということで、鳥のネタもいっぱいあります。
この『ザ・レジデンス』の原案・ショーランナー・脚本を務めたのはドラマ『For the People』の“ポール・ウィリアム・デイヴィス”(ポール・ウィリアム・デイビス)ですが、もともと映像化権の契約を手にしていたのは、ドラマシリーズのクリエイターとして非常に成功している“ションダ・ライムズ”。前に手がけたドラマ『スキャンダル 託された秘密』でもホワイトハウス絡みの題材でしたが、今回の『ザ・レジデンス』では製作総指揮をしています。観れば「ションダ・ライムズっぽいな」とわかる人にはわかる個性がでています。
主人公の探偵を演じるのは、ドラマ『ペイン・キラー』の“ウゾ・アドゥバ”(ウゾ・アドゥーバ)。今回は見事に当たり役をゲットしたかな。
共演は、『キャプテン・アメリカ ブレイブ・ニュー・ワールド』の“ジャンカルロ・エスポジート”、『ハロウィン・キラー! 』の“ランドール・パーク”、ドラマ『THIS IS US/ディス・イズ・アス』の“スーザン・ケレチ・ワトソン”、『スージー・サーチ』の“ケン・マリーノ”、ドラマ『パワー』の“エドウィナ・フィンドリー・ディッカーソン”など、他にも多数。
とにかく登場人物が第1話からワっとでてきますが、だんだん整理されるので安心してください。
また、本作のアメリカ大統領は男性で夫(ファーストジェントルマン)がいる設定になっています。ゲイなのかバイセクシュアルなのかは知りませんが、性的指向がクローズアップされるわけでもなく、しれっと普通にこういう表象になっているのがいいですね。
『ザ・レジデンス』は「Netflix」で独占配信中で、全8話(1話あたり約45~80分)。1話観だすと続きが気になって一気に観たくなりますよ。
『ザ・レジデンス』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナルドラマシリーズとして2025年3月20日から配信中です。
鑑賞の案内チェック
基本 | — |
キッズ | 軽い性行為のシーンが一部にあります。 |
『ザ・レジデンス』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
10月11日、夜に晩餐会が行われているホワイトハウスで悲鳴が響き渡ります。チーフアッシャーのA・B・ウィンターの遺体が床に転がっていたのです。
数か月後、公聴会で委員長のフィルキンズ上院議員に促され、ホワイトハウスの現チーフアッシャーのジャスミン・ヘイニーが証言します。チーフアッシャーというのはホワイトハウス内のエグゼクティブ・レジデンスという大統領一家の居住部分を運営する仕事です。その証言の最中、自身の陰謀論にこじつけしたいビックス議員がいちいち口を挟んできますが…。
その事件の日、ジャスミンはまだアシスタントアッシャーでした。チーフアッシャーのA・B・ウィンターはもうすぐ退職予定で、ジャスミンが次のチーフアッシャーになる予定でしたが、先ほど急に本人から「辞めない」と言われ、呆然としていました。
落ち込んでいたところ、ラウシュ警護官に呼ばれます。場所は4階のゲームルームの前。オーストラリア首相含む要人の招待客は入ることはない場所です。そこにはペリー・モーガン大統領の補佐であるハリー・ホリンジャーとコリン・トラスク警護官がいて、深刻な顔をしています。
そして事件があったと知らされますが、詳細は教えてくれません。ウィンターから聞けばいいと思いましたが、そのウィンターはゲームルームの床で倒れていました。死んでいます。
すぐにFBI長官ウォーリー・グリック、国立公園局のアーヴ・サミュエルソン、ワシントンDC首都警察(MPD)署長ラリー・ドークスが集まり、対応を考えます。MPDの管轄であることがホリンジャーは許せないようですが、MPD担当の顧問探偵が来ることになりました。
その人とはコーデリア・カップです。今は庭でバードウォッチングしており、ルーズベルト大統領の野鳥リストの更新に夢中な様子。
ホリンジャーは自殺だと言い切って、世間体を気にしてさっさと片づけようとします。
しかし、コーデリアは現場検証を開始。第一発見者はナン・コックスという大統領の夫の母で、晩餐会には参加せずに4階の部屋に籠ってテレビを見ていました。
とにかく部屋が多いホワイトハウスで、今日は200人が晩餐会に参加。オーストラリア首相だけでなく、カイリー・ミノーグやヒュー・ジャックマンのような大物ゲストもいます。
現場の調査にはFBIから地味な特別捜査官のエドウィン・パークも加わっていました。
本人の筆跡の遺書があったそうですが、ウィンターの遺体は両手首を切って自殺したようにみえるも、刃物は見当たらず、シャツの血も本人のものではないようです。
真相は何なのか…。
ハヤブサの鳥瞰図で人間模様を探る

ここから『ザ・レジデンス』のネタバレありの感想本文です。
ホワイトハウスの敷地内で観察できる鳥の種数も多いみたいですが、ホワイトハウス内で観察できる人間模様はもっと複雑。『ザ・レジデンス』ではこの世界にお邪魔して観察していくことになります。
それにしてもホワイトハウスで働いている末端の労働者の多種多様さに驚きます。執事、清掃員、技師、庭師、塗装、フローリスト、料理人…それ以外にもいろいろ。ホワイトハウス内のお仕事モノとして単純に面白いです。それぞれの肩書は他でもみられる平凡なものですが、ここはなにせホワイトハウス。こういう末端の労働者でさえも政治的影響が舞い込んできます。
本作で亡くなったのはチーフアッシャーのベテランのA・B・ウィンター。聞き取りすると、常に渦中にいて矢面に立たされる憎まれ役になってしまうポジションだったようで…。まあ、どこの職場にもこういう人いるよね…。
そしてジャンルの定番どおり、大勢がこのウィンターを殺害する動機があり、みんな怪しくみえてきます。
真面目なアシスタントアッシャーだったジャスミン・ヘイニーはずっと期待していた昇進の機会を奪われました。
オーストラリア外相デヴィッド・ライランスと衝動的に関係を持った総料理長のマーヴェラは、日頃から感情が爆発しがちでした。
パティシエのディディエ・ゴダードは丹精込めて作ったお菓子の家を目立たない場所に移動されて堪忍袋の緒が切れました(カンガルーをエアーズロックの上に添える件はさすがにちょっと私も笑ったけども)。
お喋りな執事のシーラ・キャノンはいい加減な勤務態度で持ち場を外されて恨んでいました(なんでクビにならないんだ、この人…)。
パーティーを仕切るソーシャル・セクレタリーのリリー・シューマカーは相談役のセント・ピエールに依存し、我が物顔でした。
清掃員エルジー・シェイルは経歴の問題を指摘され、称賛してほしかった苦労人の技師ブルース・ゲラーも憤りを強力熱湯シャワーのごとく放ち、しかも2人は熱愛関係で…。
大統領の弟のトリップ・モーガンは、あまりに素行不良でどうしようもないダメ野郎だし…(歴代の大統領家系にはひとりくらいこういう奴がいるというネタ)。
そして完全に部外者で紛れ込んでいただけのパトリック・ドゥンベというアホな男も…。いや、こいつは殺す動機もないのだけど…。
さらに実業家のウォルポール・ビングやCIA、大統領首席顧問のハリー・ホリンジャーらの密談をうっかり聞いてしまったことに対するあの脅し。本作は全体的にコミカルで笑いながら観れますけど、ここだけポリティカル・スリラーでゾっとします。ちなみにそこで労働者たちが口々に語る「聞かなかったことにする」能力。原作では本当に当事者はそう語ってるらしいですね。これはこれで職業の闇を感じる恐ろしさだ…。
マネシツグミの技で犯人を誘う
『ザ・レジデンス』でそのごちゃごちゃの現場で野帳片手に観察を記録し、情報を整理し、真相を導こうとするのが、探偵のコーデリア・カップ。ドラマ『ポーカー・フェイス』に続く、中年女性の探偵として最高に魅力的なキャラクターが新参しましたね。
FBIのエドウィン・パークとの徐々にタッグが深まっていく感じも心地いいです。“ランドール・パーク”はいつもこういう役柄だけども…。
プロットの構造としては、公聴会での過去を振り返る形式を取り入れることで、マーダーミステリーの定石に少し捻りを加えつつ、「マーダーミステリーものを楽しんでしまう」という私たちのエンタメ欲求すらもいじる仕掛けになっていて愉快でした。
真相は、「全員が犯人だった」という『オリエント急行殺人事件』とまではいかない、「全員が嘘をついていた。なので真実に行き当たるまでが大変になった」というオチであり、最後にバシっと決まる犯人当てタイムは気持ちがいいです。
もちろんこの「全員が嘘をついていた」というのは、政治内で蔓延る利己的な嘘は積もり積もって犠牲者を生むという教訓的メッセージにもなります。そしてあの殺人犯の正体を踏まえると、「ホワイトハウスを私物化してはいけません。名声とカネに溺れることなくルールを守りましょう」…という至極まともな公正さを示しています。
ほんと、大統領に就任してわずかな期間で私的なゴルフに約27億も使い込んでいる(Snopes)現アメリカ政権のトップに言ってやりたいですよ…。
「不完全でもなんとかみんなでまとまろうと、家族になろうとしていた」というウィンターの誠実さが今や現実社会では遠いものになってしまって悲しいです…。
とにかくこの『ザ・レジデンス』はマーダーミステリーとして新たな良作を見事に誕生させたと思います。ぜひ羽ばたいたばかりのシリーズを継続させてほしいです。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
△(平凡)
作品ポスター・画像 (C)Netflix
以上、『ザ・レジデンス』の感想でした。
The Residence (2025) [Japanese Review] 『ザ・レジデンス』考察・評価レビュー
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