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『麻薬王』感想(ネタバレ)…Netflix;麻薬に溺れる韓国映画

麻薬王

麻薬に溺れる韓国ムービー…Netflix映画『麻薬王』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

英題:The Drug King
製作国:韓国(2018年)
日本では劇場未公開:2019年にNetflixで配信
監督:ウ・ミンホ

麻薬王

まやくおう
麻薬王

『麻薬王』あらすじ

1970年代の釜山。一介の密輸業者が足を踏み入れたのは、日本相手の麻薬ビジネス。善と悪、2つの顔をもつ密輸王の伝説は、ここから始まった。金と権力を自由に動かし、人間の欲望を満たしていった先に待つのは、一体何なのか。

『麻薬王』感想(ネタバレなし)

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日本と韓国の闇の友好関係

日本は戦時中から「覚せい剤大国」だったことをご存知でしょうか。

第2次世界大戦中の日本では、労働の効率性と意欲を向上させるために覚せい剤が活用され、また神風特攻隊のパイロットに対しても恐怖心を消すために覚せい剤が渡されるなど、国をあげての覚せい剤推進ともとれる状況が存在しました。その状態は戦後になってさらに悪化し、戦時中に使われていた覚せい剤が「ヒロポン」の名称で市場に流通。ごく普通に店で買えたため、庶民の覚せい剤乱用が深刻化したそうです。さすがに国もこれはヤバいと判断したのか、1951年に「覚せい剤取締法」が制定され、覚せい剤の輸入・輸出・製造・所持・譲渡などは原則禁止となりました。

こうした歴史から、いわゆる“ハイ”になるクスリの乱用がいち早く起こった大国は日本だったという分析もあり、覚せい剤先進国という不名誉な汚点ともいえます。今では皆さんも覚せい剤の危険性は学校で習っていると思いますし、覚せい剤を社会から追い出すために取り締まりが続いているのは承知の事実。でも、栄養ドリンクなんかで自分を奮い立たせて労働しているサラリーマンを見ると、今の日本社会も戦時中の覚せい剤を利用していた時代と意識は全然変わっていないのかもしれませんね。

なんでこんな話をしたのかと言えば、本作『麻薬王』はそんな覚せい剤大国の日本向けにクスリを製造・輸出して莫大な利益を得ていた韓国の麻薬ディーラーを描いた映画だからです。

本作はフィクションですが、その時代背景はリアル。舞台は1970年代。日本は「覚せい剤取締法」で規制が厳しくなり、それから逃れるために海を渡ったお隣の国・韓国が覚せい剤製造のスポットに。麻薬工場が必要だった日本側と、輸出に力を入れ始めた韓国側の利益が一致した…そんな事情。日本と韓国はいまだに歴史問題での対立が深刻ですけど、裏社会では仲良くベッタリ結びついているんですね。

それを題材に選んだあたりですでにユニークなこの韓国映画。監督はあの韓国国内で大ヒットして評価を集めた『インサイダーズ 内部者たち』“ウ・ミンホ”です。観た人なら「ち○こゴルフ」でおなじみ(?)の権力を握る人間の醜態が強烈に目に焼き付く映画でした。“ウ・ミンホ”監督なら確かにこの題材を上手く料理しそうです。

主演は傑作『タクシー運転手 約束は海を越えて』で観客を魅了した“ソン・ガンホ”。『麻薬王』ではガラッと変わって、悪者に落ちぶれていく男を好演。韓国映画界を代表する名俳優ですが、本当にいい味を出してくれます。

他にも非常に多くのキャストが登場するのですが、日本で有名なのは“ペ・ドゥナ”ですかね。日本映画にもハリウッド映画にも出演経験があるので、知っている人も多いはず。

題材が日韓の麻薬ビジネスというだけあって、ちゃんと日本も舞台として登場し、世界中の人が大好きな(ちょっと語弊のある言い方)“YAKUZA”ことヤクザが出ます。ほぼ韓国人の俳優が演じていますけどね。“ソン・ガンホ”はカタコト日本語を披露し、“ペ・ドゥナ”は流暢な日本語を披露しているので、その対比にも注目。“ソン・ガンホ”は『タクシー運転手 約束は海を越えて』に続いて、また外国語を頑張ってしゃべる役ですね。

日本ではNetflixオリジナルとして配信されているので、140分近い映画ですし、時間があるときに、ぜひ“ソン・ガンホ”の日本語を聴いてあげてください。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『麻薬王』感想(ネタバレあり)

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ソン・ガンホのブレイキング・バッド

『麻薬王』は簡単に形容するならば「“ソン・ガンホ”のブレイキング・バッド」。

決して裕福ではないどちらかといえば平均より下で暮らす貧相で無垢な男がクスリの儲けにハマっていき、やがて周囲を巻き込んで身を滅ぼしていく…絵に描いたようなドラッグ・ジェットコースター人生劇です。なのでその点で言えば、物語そのものに真新しさはありません。製作の経緯はわかりませんけど、アメリカではよくある“ブレイキング・バッド”系ストーリーを韓国でもできないかと考えた結果、日韓の麻薬ビジネスがあるじゃないかと目を付けた…そんな感じにも邪推できます。

ともかく全編にわたって“ソン・ガンホ”が演じる主人公イ・ドゥサムという男の栄枯盛衰が描かれるので、それをたっぷり見物するのが本作の基本的な鑑賞スタイル。

1972年の釜山。この時点のイ・ドゥサムは取るに足らない普通の男でした。金細工職人一筋の人間であり、明らかに根は生真面目。裏社会の人たちの闇取引の場で金の査定に駆り出されたときでも、熱心に仕事はしている素振りからそれは伝わってきます。ヘマをした家族のためには体も張る…家庭を大事にしているという意味でも、満点ではないかもしれませんが、決して捨てられるような男ではありません。このパートでのいかにも気のいい感じは“ソン・ガンホ”のお得意演技ですね。

ところが運命のイタズラなのか、日本のヤクザと出会ったことでイ・ドゥサムの人生の歯車は狂いだします。大阪にて、覚せい剤の製造地として韓国は適地だという話を聞くイ・ドゥサム。「水が綺麗だから良いんだよ」なんてまるで名産品の農作物について語るような軽いトークで、イ・ドゥサムも全く深刻さはゼロ。善悪について関心がないような思考がもうこの時点で窺えます。

しかし、ここでトラブル。トカゲの尻尾切りという扱いで生贄に差し出されたかたちで、イ・ドゥサムは密輸の罪で逮捕、収容されてしまうのでした。

本来であれば、いや、常識人であれば、この出来事で悔い改めてもう一度クリアな人生をリスタートしようと心機一転するはずの話。だが、この男、やはりどこかネジは外れていて…。

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クスリの宿命、最後は独り

刑務所生活のイ・ドゥサムは早速行動に出ます。

まず面会に来た怒る妻を上手く丸めて、手土産を携えて保安係長などに接近させ、まんまと条件付きで出所に成功。この最初にイ・ドゥサムが手先に使ったのが「妻」であるということは、後にとても大きな意味のある行為となります。

続いて覚せい剤ビジネスに本格的に乗り出すことに決めたイ・ドゥサムは、使えそうな人間を集めてグループを結成。麻薬監視課の課長のような行政サイドから、覚せい剤製造に詳しい教授、妹や従弟もメンバーに加えての、かなり突貫工事なチームですが、とりあえず動き出せるだけの準備は整い、いざスタート。

このあたりは映画のトーンとしてはチーム・ミッションものに近いですね。この時点でのビジネスはすごく田舎臭い、出たとこ勝負な感じです。

それを象徴するかのごとく、神戸のヤクザ大乱闘に巻き込まれていくくだりはユーモアたっぷり。ホンモノの暴力団の恐ろしさを痛感しながら、まさしく捨て身でビジネスを売り込む。まあ、どんなビジネスでも最初はこんな雰囲気かもしれませんが。

結果、大成功。大金を手にしてウハウハなイ・ドゥサムでしたが、しだいに仲間は離れていき、ひとり新天地に向かいます。ここでもやめるチャンスはあったはずですが、そうはなりません。

イ・ファンスと名前を変えた彼が、続いてパートナーとしたのは、大物中の大物であるチン会長の養女にして、中央情報部のハム・サンホ室長と男女の仲であるなどあらゆる業界に顔が効くジョンア・キム。この後半からは、さきほどの田舎臭いビジネスとは根本からチェンジして、リッチでエリートなビジネスとなっていきます。「メイド・イン・コリア」というブランド名の覚せい剤でますます儲けていくイ・ドゥサムは、暴力という側面でも一線を越えて、もう完全に引き返せない領域に。

1976年。すっかり貫禄のついたイ・ドゥサムは、地域開発運動で表彰されたり、反共産主義集会では国旗を振ったりと、二つの顔を使いわけることもお手の物。しかし、ヤクに自ら手を出していた彼は、自分がすでに崩壊の滑り台を下っていることに気づいていないのでした。

イ・ドゥサムは仲間をどんどん失っていきます。従弟のドゥファン、愛していたはずの妻、そしてジョンアも捨てた彼にはキム検事の忠告の言葉も届かず…。

1980年。豪華な屋敷で銃を片手に堕落したイ・ドゥサムの姿はただただ痛々しく、朝鮮人民軍が俺を追っていると妄想に憑りつかれ、完全に精神錯乱状態。38度線を越えて襲ってきたと勘違いした彼は、警察の部隊に発砲。取り押さえられた後、病院でも「俺のおかげで大勢が救われた」とこぼすイ・ドゥサムには何も残っていないのでした。日本をヤクで滅ぼせるぞと言葉巧みに仲間に誘って、最後は自分が滅ぶ…自業自得ではあるのですが…。

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韓国の歴史と重ねてみる

ドラッグ系の映画としては定番の破滅エンドですけど、本作は韓国映画。そこに韓国ならではの社会性を交えているのはさすがなところ。

韓国の歴史について少し説明すると、韓国は朝鮮戦争の傷跡によって1960年代前半まで世界の最貧困国でした(北朝鮮より酷い状況にすらありました)。しかし、1960年代後半から急速な復興と経済成長が進んだんですね。本作の舞台である1970年代はまさに絶頂の時期。そのイケイケなムードの中で麻薬ビジネスが横行したわけです。

ところが、1979年に韓国の高度経済成長を牽引したリーダーである朴正煕大統領が暗殺。作中でも終盤の韓国社会の不穏な動きが映っていたと思いますが、ひとつの時代の終焉を迎えます。これ以降の1980年代の韓国は軍事独裁政権と民主化を求める国民との戦いの時代に突入していく…というのは『タクシー運転手 約束は海を越えて』や『1987、ある闘いの真実』を観ていただければわかるとおり。

そうやって考えると、イ・ドゥサムはクスリに溺れただけでなく、時代にも溺れたのでしょうね。そして、時代の変革に乗れなかった男でもあります。最後の籠城戦は迫りくる時代への見苦しい抵抗のメタファーと捉えてもよいかもしれないです。同時に、今の韓国で調子の乗っている人も、いつかは転落するかもよという警告的な映画でもありますね。

社会派以外の映画の見方だと、映像表現としてのケレン味はやはり“ウ・ミンホ”監督らしかったですね。この監督、グロいというよりはゲスい描写が得意なのでしょうか。今作にも『インサイダーズ 内部者たち』の「ち○こゴルフ」に通じるシーンは要所要所にぶっこまれていました。序盤にはいきなり尿をがぶ飲みされる主人公だったり、つるし上げて逆さまになった主人公が失禁して小便が顔にたれたりと、とにかく尿攻めなのはなんなんですか(突然のアホな問題提起)。

ヤクザ描写も面白く、あの神戸での「4本指」のギャグでバカにしていたら、本場のヤクザの恐怖を体感するシーンは完全にギャグ。“ウ・ミンホ”監督のヤクザ描写はもっと見たかったですね。

尿まみれとクスリまみれの男は、変化していく時代に適応できないんです。クリーンになりましょう。

『麻薬王』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
5.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Hive Media Corp. Showbox

以上、『麻薬王』の感想でした。

The Drug King (2018) [Japanese Review] 『麻薬王』考察・評価レビュー