酒と男に溺れちゃダメになる…映画『ガール・オン・ザ・トレイン』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2016年)
日本公開日:2016年11月18日
監督:テイト・テイラー
がーるおんざとれいん
『ガール・オン・ザ・トレイン』物語 簡単紹介
『ガール・オン・ザ・トレイン』感想(ネタバレなし)
女性だからこそ酒に溺れる
かつて“飲んだくれ”といえば「男」のイメージでした。しかし、それはもはや過去の話です。
公的機関の調査によれば、日本では20代の若い女性の飲酒率は男性に匹敵するか上回る勢いまで増加しており、それにともないアルコール依存症となる女性の数も急増しているそうです。
本作『ガール・オン・ザ・トレイン』はそんなアルコールに溺れて人生をどん底にした女性が、さらなる追い打ちを喰らいながらも自分を見つめ直すお話です。
ただ、本作はハートフルなドラマではなく基本はミステリー。ある夜、泥酔して次の日の朝に目覚めた主人公はなぜか血だらけ。一体あの晩に何が起こったのかも思い出せないなか、真相に迫っていきます。
このプロットだけ聞くと、『ハングオーバー!』シリーズを思い出します。『ハングオーバー!』シリーズは、バチェラー・パーティー(結婚式前に新郎が独身最後の夜を同性の友人とバカ騒ぎするパーティー)のあとに目を覚ますと新郎が行方不明で他にもメチャクチャなことになっていたので、皆で記憶にない一晩の真相を明らかにしていくというストーリー。お酒あるあるを極端な馬鹿馬鹿しいテンションで描いた痛快コメディでした。
本作には痛快さは全くなく、アルコール以外にも妊娠、子育て、不倫、殺人とまるで昼ドラのような、どんよりした男女の痛々しさが満載の作品。雰囲気は『ゴーン・ガール』(2014年)に近いといえなくもないですが、違う点も多いです。とくに3人の女性の視点で描かれるのが特徴でしょうか。
どうやら評価としては映画よりも原作小説のほうが面白いとか言われてしまったりしているみたいです。原作は舞台がロンドンなのに対し、映画はニューヨークですから、作品の印象自体変わっているのも当然かもしれません。
監督は”テイト・テイラー”。『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』(2011年)や『ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男』(2014年)を監督してきました。長編映画監督デビューは2008年の『Pretty Ugly People』なのですが、私は鑑賞したことはありませんので、どんな作品なのか全然語れません。もともと俳優で、本人はオープンリーなゲイでもあり、LGBTQを題材にした作品にも出演していたこともありました。
とりあえず観終わった後は、「お酒はほどほどにしよう」と「不倫はやめよう」の2つの感情が沸き起こることは間違いないでしょう。
『ガール・オン・ザ・トレイン』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):彼女は昔の私
レイチェル・ワトソンは線路脇の住宅に暮らす人々の生活模様を想像するのが日課になっていました。電車の窓からその光景を眺め、自分の頭の中で妄想するのです。
お気に入りの家は、ベケット通り15番地。1年ほど前からそこの家にいるひとりの女性に興味を惹かれました。やがてレイチェルの中でその女性が重要な存在になっていきました。その女性はときには男性と仲睦まじく過ごしている姿が観察できます。
彼女は昔の私…彼女のようになりたい…。たぶん彼女は画家で、彼は医者か建築家。彼は笑い声がステキで、彼女は料理が苦手。彼女の名前はジェス、それともリサか、アンバーか…。本当の名は知らない。その素性も…。わかるのは2人は愛があるということ。見てはいけない。でも見てしまう…。
レイチェルは2軒隣の13番地に住んでいました。夫と買った初めての家。でもそれは過去の人生…。
6カ月前。メガンはこの町で退屈していました。家に帰れば夫のスコットが肉体を求めてきて、それに答えるだけ。ランニングしているときくらいしか自由を感じません。
主治医で精神科医のカマル・アブディックにメガンは過去を語ります。今は亡くなってしまった兄。その兄の友人であるマックと親しかったこと。
メガンはアナの家に子守として雇われていました。アナは幼い娘と愛おしそうに接しています。メガンは「別の仕事をする」と切り出します。画廊からスカウトがあった話をすると、いきなりのことでアナは不快感を露わにします。「子育ては何よりも重大な仕事だ」と語るアナを振り向くこともなく、メガンは家を出ます。
アナの夫の名前はトム・ワトソン。その男はレイチェルの元夫です。
レイチェルはこのトムに何度も電話やメールを送っていました。しつこいほどに。今のレイチェルはアルコールに入り浸り、レイチェルの大学時代からの友人でルームメイトであるキャシーに呆れられ、叱られますが、飲むのをやめることができません。
今日も電車。メガンが見えます。しかし、夫ではない男とベランダでキスをしている…。
理想と思っていた夫婦の姿が崩壊し、レイチェルは酷く動揺します。幸せが壊れてしまう。このままではいけない。酒にまたも逃げ、苛立ちが蓄積し、精神的に滅入っていくレイチェル。
そして行動に移すことにします。メガンが悪い。彼女のその不道徳な行いを叱責しようと、レイチェルはこっそり覗くのではない、直接的に会おうとしますが…。
衝撃の正当防衛
冒頭からヒロインのレイチェルの病みっぷりが尋常ない『ガール・オン・ザ・トレイン』。電車の窓からかつての家と夫を覗き見つつ、お隣の夫婦観察も忘れない。いくら夫に不倫されたショックといえど、もともとかなりのストーカー気質なんでしょうか。『ボーダーライン』で徐々に精神が壊れていくヒロインを演じたエミリー・ブラントですが、本作では前編を通して疲弊が伝わる迫真の演技が全開です。『ボーダーライン』と違って、最後に救われた彼女が見られてなんかほっとしました。
影のヒロインともいえる他の2人の女優陣も出番が少ないながら、良い演技でした。ちなみに、アナを演じた女優は誰だろうと観ているときは思っていたら、『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』のレベッカ・ファーガソンだったんですね。全然印象が違ったのでわからなかった…。いい感じの死んだ目してました。
そんな抑えつけられた感情が煮えたぎる女性陣に対して、映画のストーリーのテンポは非常にゆっくりとしたもので、メリハリはありません。さらに、お話しの語りの視点がコロコロ変わり、時間軸も頻繁に前後するため、登場人物の心情を把握するのは結構大変。とりあえず女性陣は辛い目に遭っていることさえわかればいいのかもしれないですが…。
ミステリーにしては全体的にご都合的なポイントも目立つのも気になりました。とくに、酔ったレイチェルが嘘を吹き込まれ信じてしまうのはどうだろうか…。アルコールでマインドコントロールまがいのことができるなんて、『クリーピー 偽りの隣人』を観たあとだと設定が弱いんじゃないかとつい考えてしまいます。トムは感情的な不倫野郎であって、サイコパスには見えなかったですし。
本作では、男性側(というかだいたいトム)は徹底的な悪で、女性側は悩める善としてはっきり分かれて描かれています。ただ、レイチェルを夫に不倫をされたうえに捨てられてしまった同情すべき存在として、安易に見れないとも正直思いました。さすがにレイチェルの赤子誘拐(未遂?)はやりすぎな気も…。原作ではスコットとレイチェルが不倫関係のような付き合いになるなど、映画よりもドロドロした要素がたっぷりらしく、映画における男女を善悪で分けた明確な描き方は独自のものと考えられます。ここも好みは分かれるところです。
というように、スローすぎるストーリーのテンポと、もろもろのご都合的な側面が気になってしまい、本作は個人的にのりにくいなと思っていました。
ところが、終盤のシーンで個人的評価が急上昇。
横暴なトムにレイチェルの隠れた怒りが炸裂。トムの喉元にコルク栓抜きをぶっ刺すという反撃にでます。しかも、夫の醜さを知ってしまったアナは、そのコルク栓抜きをさらにねじって追い打ち。
宣伝でよく書かれていた「衝撃のラスト」ってそういうことか!
トムのダメな奴っぷりが明らかになったあとは、どうやってこいつに一泡吹かせるのかと思ったのですが…。「そうだ、タイトルどおり列車で轢き殺すんだ!」という私の予想は当たらなかったのは残念だけれども、これもこれで良し。
これが正当防衛になるのかというツッコミは置いておいて、酒とダメ男を断つという意味を込めてのこのシーンだったのかもしれないですが、なかなかない悪趣味的斬新さです。この映画のタイトルも「The Girl on the Train」じゃなくて「Corkscrew」で良かったんじゃないかと思うくらい。
コルク栓抜きで、酒も男も断てるんですね…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 44% Audience 49%
IMDb
6.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
作品ポスター・画像 (C)Universal Pictures ガールオンザトレイン
以上、『ガール・オン・ザ・トレイン』の感想でした。
The Girl on the Train (2016) [Japanese Review] 『ガール・オン・ザ・トレイン』考察・評価レビュー