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『デス・ウィッシュ』感想(ネタバレ)…2018年版「狼よさらば」

デス・ウィッシュ

2018年版「狼よさらば」…映画『デス・ウィッシュ』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Death Wish
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2018年10月19日
監督:イーライ・ロス

デス・ウィッシュ

ですうぃっしゅ
デス・ウィッシュ

『デス・ウィッシュ』あらすじ

警察すら手に負えない無法地帯となったシカゴで救急患者を診る外科医ポール・カージー。ある日、ポールの家族が何者かに襲われ、妻は死に、娘は昏睡状態になってしまう。警察の捜査は一向に進まず、自ら復讐のために銃を取ったポールは、犯罪者抹殺を狙って街へと繰り出す。

『デス・ウィッシュ』感想(ネタバレなし)

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タイミングが悪かった?

まさか2週連続で“イーライ・ロス”監督の最新作が劇場で公開されるときが来ようとは…。この監督の映画といえば、公開されてもものすごく小規模な扱いがデフォルトだったのに、2018年は“イーライ・ロス”・フィーバーの年です。といっても、この立て続けに日本で公開された2作は彼のフィルモグラフィーから見ても、結構異色なのでした。

まず一足先に公開された監督作『ルイスと不思議の時計』は、子どもでも見られるファミリー映画です。しかも、ジュブナイル・ファンタジーの原点と言われる由緒正しき児童小説の映画化。下品なネタはあれど、残虐暴力表現は皆無で、綺麗な“イーライ・ロス”がそこにいました。

そして、お次となる監督作が、『ルイスと不思議の時計』とは全く正反対と言っていい、本作『デス・ウィッシュ』。こちらはなんと監督マイケル・ウィナー、主演チャールズ・ブロンソンの名作『狼よさらば』(1974年)のリメイクです。元の映画の原題が「Death Wish」だったのですが、このリメイクでは邦題はそのまま英語をカタカナにすることにしたようです(さすがに“狼よさらば”を今さら使うのは憚られたのか)。

『狼よさらば』は、簡単に言ってしまえば、昨今では氾濫して有象無象が存在するジャンル「リベンジ系アクションorスリラー」の元祖。家族を無残に殺された男が犯罪者に復讐する話。ただ、少し違うのは、復讐の対象が自分の家族を殺した相手だけでなく、この世に蔓延る全ての犯罪者に際限なく拡大しており、自分から犯罪を煽るように突っ込んでは殺して制裁を加えていく展開になります。いわゆる「ビジランテ(自警)もの」ですね。

『狼よさらば』の方の舞台はニューヨークで、当時は治安が非常に悪かったことから、リアリティがあったそうです。しかし、公開されると、その倫理的に一線を越えた主人公の行動が議論を呼び、大きな非難の声も起こったとか。映画の原作となっているブライアン・ガーフィールドの小説は、映画以上に社会問題提起の要素が濃いそうで、この論議も当然起こるべくして起こったとも言えます。

たた、映画の方はこの『狼よさらば』を1作目にして、続編が作られていき、『ロサンゼルス』『スーパー・マグナム』『バトルガンM‐16』『狼よさらば 地獄のリベンジャー』と5作も続きます。さらにその中身もだんだん社会問題提起もどうでもよくなって、ひたすら派手に撃ちあっているだけの単純アクション映画になってしまい…。すっかり原作の品格は消えてしまったのでした。

それからのこの『デス・ウィッシュ』は原点回帰。しかし、ゆえにか、実は本作も非難囂々なお叱りを受けてしまい…。左からは「“銃推進”映画」だ、右からは「“銃規制”映画」だと、双方から批判の嵐。アメリカでの公開は3月でしたが、バッドタイミングなことに、その前月にフロリダの高校銃乱射事件が発生。若者たちを中心に銃規制デモの運動が熱狂していく最中でした。まあ、“イーライ・ロス”監督ですから、政治的な意図で映画を作るタイプではないと思いますけど、どうしたって関連させて見られちゃいますよね。

ただ、私が思ったのは『狼よさらば』の公開から40年以上経ってもやっぱりアメリカは“ビジランテ的”行動(=銃を持つ権利)の是非について変わることなく揉め続けているということ。きっと永遠に不滅のテーマなんだろうな…これ。また、40年後にリメイクしても変わんない気がする。

そんな事情がある本作。でも、大半の日本の観客はそんなの気にせず、なにより“ブルース・ウィリス”主演ってところに惹かれて観るのだろうか。余計なお世話かもしれないけど、ちょっとくらい原作をリスペクトして、“ビジランテ的”行動について頭で考えてみるのもいいと思います。たぶん“イーライ・ロス”監督も真面目にその葛藤を表現したかったのだと思いますから。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『デス・ウィッシュ』感想(ネタバレあり)

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一周まわってサイコパス

とりあえず難しい話は置いといて、大半の日本人観客層が期待しているエンタメとして本作『デス・ウィッシュ』を見た場合、ジャンルのフォーマットに収まったスタンダードな一作です。

「ナメてた外科医が処刑人でした」と公式でも宣伝しているとおり、表の顔は外科医で、裏の顔が処刑人という、リベンジ系の鉄板も踏襲しつつ、なんといっても“ブルース・ウィリス”主演ですから、予想からはそこまでぶれない中身だったと思います。まあ、このリベンジ系のフォーマット自体が本作の原点である『狼よさらば』以降に定着したモノなので、そのリメイク作である本作は逆に型にハメて見られざずにはいられない状況になってしまった…というほうが正確かもしれないですけど。

一応、ユニークな点としては、他作では割と暴れ放題な「粗暴」という言葉がぴったりな役ばかりやっている“ブルース・ウィリス”が、今作では医師というコテコテのエリートキャリアでリベラル家庭を築くポール・カージーという男を演じ、銃すら握ったこともない彼がしだいに“ビジランテ的”行動に目覚めていく話になっていることでしょうか。

観客からすれば“ブルース・ウィリス”を知っているので、ポールの存在自体が若干の茶番臭が漂いますが、当人は真面目。ポールがネット動画を見ながら銃の使い方を学ぶあたりは、ハイテンションな音楽の雰囲気も合わさって半分ギャグでしたね。でも、“ブルース・ウィリス”の銃慣れしてない風の演技は上手いなと思いました。フードをかぶって夜の治安悪そうな街を歩いていると、女性が襲われている現場に遭遇し、思わず犯人の乗る車に発砲、犯人を射殺するくだりなど、“銃をとりあえず見よう見まねで撃ってみた”感がリアル。本作の主人公を若い役者にもできたでしょうが、年のいっている“ブルース・ウィリス”がやるからこそ“冴えない”雰囲気がでて良いものです。ネットにアップされた発砲した自分を隠し撮りされた動画を見るポールが「わお…」とつぶやている姿は、「炎上」というネットの概念をイマイチ知らないオッサンっぽくて愉快。

でもやっぱり“ブルース・ウィリス”は“ブルース・ウィリス”なので殺しに味をしめてくると完全に本性が出てしまうわけで。「死神(グリム・リーパー)」とマスコミや警察に呼ばれてからのポールの残虐非道っぷりはなかなか。このへんは“イーライ・ロス”監督お得意のグログロ描写もときおり交えて映像で楽しませてくれます。医者のスキルを活かして拷問したり、殺人以外の腕も発揮。そういえばこの人、医者だから銃には慣れてないけど、血とかには慣れっこなんですよね…

ちゃんと殺す前に捨て台詞を吐くという、ジャンル映画のお約束もクリアしているものだから、絶対にこのオッサン、撮られている前提でカッコつけているようにしか見えないという…。

いつもの“ブルース・ウィリス”主演映画よりも、サイコパス度が増していました。結局、ポールが“ブルース・ウィリス”になっていく映画でしたね。

ただ、昨今のリベンジ系アクションと比べたら地味かもしれません。最近はひたすらリアルで派手なアクションに傾倒することが多いですし、そういうのに見慣れた観客にとって本作は刺激が少なめかなと。個人的には最近の“ブルース・ウィリス”主演映画のなかでは面白い部類として楽しみました。

キャスティングでいえば、ポールの弟で優しそうなキャラであるフランクに“ヴィンセント・ドノフリオ”を起用したり、“イーライ・ロス”監督的な遊び心なのかなと思わせる感じは嫌いじゃありません。本作の事実上の最終悪役となる強盗団のリーダーのノックスを演じた“ボー・ナップ”の、初登場時の不気味さとかはかなりのインパクトでした。相変わらず役者の魅力を引き出すのは上手い監督です。

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製作段階ですら揉めた本作の難しさ

問題なのは『デス・ウィッシュ』が現代社会と照らしあわせてどんな意義があったかという話。

確かに本作は『狼よさらば』の現代版アップグレードとしてさまざまな工夫がありました。主人公の職業を建築設計士から医者に変えて、より“リベラルの人が自警思考に染まっていく”という現象をリアルにしていますし、ポールが銃の扱いをネットで学んだり、ポールの行動がインターネット・ミームになっていく描写があったりと、とくにネット社会を強く意識したアレンジが目立ちます。

けれども、今の時代だったら法律を超えた自警行動を許さない人たちもたくさんいますし、ネットも間違いなく賛否両論になるはず。それこそ本作が厳しい批判を受けたように。そういう意味では、本作で描かれるネットの描写は少し偏りがあるというか、都合がいいかもしれません。

あと、今のネットユーザーの“特定力”は恐ろしいくらいですから、ポールも顔を見せていなくても、かなりリスクがあると思っちゃうのはしょうがないですかね。

つまり、そこまで真剣に今の社会で自警行動をする人間が現れたらどうなるかということをシミュレーションしているわけじゃありません。かといって、エンタメに特化しているかといってもそうではなく。“イーライ・ロス”監督いわく、実際に家族がこんな目に遭った場合どうするかという苦悩を描きたかったそうですが、そのあたりは監督過去作『ノック・ノック』にも通じます。あれも理不尽な目に遭った弱い男のありさまをエンタメ的な救いもなく描く一作でした。“イーライ・ロス”監督はグロい描写ばかりが売りの人と思われがちですが、案外ストイックなクリエーターだと思います。今作も家族の話という枠からは広げなかったのでしょう。

一方で、社会派なのか、エンタメなのか、立場がハッキリしている作品が昨今は好まれるなか、本作はその立場が製作段階でも揺らいでいたのではと思わせるエピソードもチラホラ聞きます。

実は本作の企画は2006年からあって、その頃はシルヴェスター・スタローンが監督・主演する予定だったとか。その時の設定ではポールの職業は“善良な警官”だったそうで、本作にも“善良”の部分だけは引き継がれています。推察するにシルヴェスター・スタローンですから人間味の強い作風にしたかったのでしょうね。それから監督は『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』や『THE GREY 凍える太陽』のジョー・カーナハンに変更。脚本も彼が担当し、本作にも脚本のクレジットとして残っています。その後も監督降板を何度か繰り返し、シナリオ修正でスタジオ内も揉めて、今の座組に至るということらしく。

きっと、どっち寄りにするかで揉めたのだろうと推察されますが、やっぱりこの題材は難しいですね。個人的には社会派なのか、エンタメなのか、特化するのが得策だとは思いますし、もしくは作家性の強い監督に丸投げするくらいの覚悟がいるのかなとも。“イーライ・ロス”監督は無難に着地させた感じでしょうか。

「アメリカって怖いな…」と他人事みたいに思っている、そこのあなた。日本には銃は蔓延していないですが、自警的行為を推奨し、実行する思想は確実に拡大しています。ネットには私的制裁にノリノリな人はうじゃうじゃいますし、政治ですら法的根拠も後回しに正しさだけで相手を叩きのめすことにご執心な人もいます。

ポール・カージーが当たり前になった世界では、『デス・ウィッシュ』のインパクトは霞んでしまうのも無理はないかもしれません。

『デス・ウィッシュ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 17% Audience 74%
IMDb
6.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 4/10 ★★★★

(C)2018 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved. デスウィッシュ

以上、『デス・ウィッシュ』の感想でした。

Death Wish (2018) [Japanese Review] 『デス・ウィッシュ』考察・評価レビュー