クスリは、ダメ。ゼッタイ!?…映画『インフェルノ』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2016年)
日本公開日:2016年10月28日
監督:ロン・ハワード
いんふぇるの
『インフェルノ』物語 簡単紹介
『インフェルノ』感想(ネタバレなし)
クスリじゃないです。真面目です
芸能界では“クスリ”が蔓延しているみたいで、最近も某芸能人の奇行が世間を賑わせていますが、本作『インフェルノ』の主人公である大学教授はもっとヤバいです。
突然、病院のベットで目覚めるハーバード大学教授のロバート・ラングドン。単語も上手く発せられないほど記憶が不確かで“ジェイソン・ボーン”状態になっていた彼は、顔が変形した男や首が後ろ向きの人間などが街中に徘徊するまるで“バイオハザード”のようなサイケデリックな幻覚に襲われる始末。しかも、過剰人口を削減するための大量殺戮が計画されているという話になっていって…。
これだけ見ると完全に“クスリ”ですねと結論付けたいところですが、本作のストーリー部分は至って真面目です。というか、普通だったら頭おかしいんじゃないのと言われかねない陰謀論を真面目に描くのが、このダン・ブラウン原作シリーズの売りなんですが。
本作は『ダ・ヴィンチ・コード』(2006年)、『天使と悪魔』(2009年)と続いたロバート・ラングドン教授を主人公とするダン・ブラウン原作小説映画化シリーズの第3弾。ちなみに原作小説の3作目は「ロスト・シンボル」という物語ですが、こちらの映画化が難航。4作目の「インフェルノ」が第3弾として映画化されることになりました。さらに当初の公開時期が『スター・ウォーズ フォースの覚醒』ともろかぶりすることが発覚したため、公開を延期。今に至ります。だから『天使と悪魔』と本作『インフェルノ』の公開時期が7年もあいたんですね。「ロスト・シンボル」もまだ映画化する気なのでしょうか…。
話のノリは、過去2作と全く同じ。いつものようにラングドンと仲間たちが、いろいろな芸術的名所を巡り、少しずつ真相に近づいていきます。今回はフィレンツェのヴェッキオ宮殿やサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂、ヴェネツィアのサン・マルコ大聖堂などを観光した気分になれます。この映画を見た後に、舞台となった現地に観光できたらさぞかし楽しいと思います。
過去2作を気に入っている人は楽しめるのではないでしょうか。
『インフェルノ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):人類は疫病なのか
「スイッチがある。そのスイッチを入れると地球上の半分の人間が死ぬ。だが押さないと100年以内に人類は絶滅する。君ならどうする?」
苦しそうに病院で目覚める男。恐ろしい幻覚を見たような気がするものの、意識は不明瞭です。一体何が何やら…。
「ラングドンさん」と女性の医者に呼び掛けられるものの、日にちもわからない状態。大学のキャンパスにいたはずなのに…。
「僕は事故にでも遭ったのか?」と聞くも「軽度の逆行性健忘を起こしていますが、数日で回復するでしょう」と説明してくれるだけ。なぜそうなったのか肝心なことはわかりません。
窓の外の景色でフィレンツェだと気づくラングドン。どうしてこんな場所に…。
女性の医者はカレッジで会っていると言います。著作も全部読んでいるとか。それはありがたいことですが、今はそれどころではありません。
受付に警察が来ているらしく、頭の傷は銃によるもので、少しでもずれていたら死んでいたかもと説明を受けます。自分は襲われたのだろうか、それとも巻き込まれただけ?
すると奥でなぜか医療スタッフが撃たれるのを目撃。とっさに女性の医者はドアをロック。明らかに状況はヤバいです。裏口から出てタクシーへと乗り、その場から退散。ラングドンの意識はまたも混乱していき…。
気が付くとアパートのソファの上。シエナというその医者の女性はいろいろ質問してきますが、全く覚えていないラングドン。何度も謝っているようなことを口走っていたらしいですが、さっぱりです。黒死病が流行った時に中世の医者がつけた仮面をかぶっている人を幻覚で見たような…。死体、血、炎。それはまるで地獄のようでした。
領事館に電話してほしいと頼みます。その間、パソコンで自分のメールアカウントを確認。イニャツィオ・ブゾーニという者からのメールが目にとまります。
「我々が盗んだ物は隠した。天国の25」「私も追われている」
これも意味がわかりません。とりあえずバスルームを借りて体を洗い、服を着替えると、上着にバイオチューブが入っているのを発見。なぜこんなものが…。
指紋認証機能があるので、特定の人しか開けられない仕組みです。好奇心にかられてまず中身を開けてみることに。そこにあったのは、人間の骨でできた円筒印象。人間を食らう3面の悪魔の絵が描かれています。中世で黒死病を描くときに使われる絵柄だと分析するラングドン。
振るとカシャカシャ音がし、ライトがつきます。浮かび上がったのは「ボッティチェリ」。ダンテの「地獄篇(インフェルノ)」を絵にした地獄の見取り図です。幻覚で見たのはこれだと理解するラングドン。
領事館に電話。すると「探していたんです。まだチューブを持っていますか?」といきなり聞かれ、怪しいので近くにあった嘘のホテルを教えます。
ひとまずあの絵を観察していると、元の絵にはない「R」「E」「C」「V」「A」の文字などを見つけます。「ゾブリスト」という言葉も。
それはアメリカの億万長者でバイオエンジニアの名前でした。過激な思想の持ち主らしく、カリスマで支持者も大勢います。動画を見ると、人口爆発を警告する男が映っており、「我々は思い切った行動を起こさないと絶滅する」と高らかにはつげんしていました。
細菌兵器となる疫病を作ったという噂もあるそうで、しかし、彼は3日前に自殺したとのこと。
そしてラングドンはあの絵はアナグラムだと気づきます。
こうして謎解きは始まりました。
やっぱりクスリやってました
記憶混濁のロバート・ラングドン。やっぱりクスリのせいでした。クスリって恐ろしいですね。
ただそれ以上に今回はラングドンの問題解決能力が冴えていました。クスリで頭がおかしくなっても真相にたどり着けてしまっており、過去2作でもみられたあまりにもトントン拍子に話が進むご都合的展開がより凄いことになっています。本当にロバート・ラングドン版『ジェイソン・ボーン』です。
原作シリーズは、ミステリーらしく地味で、非常に情報量がたっぷり詰まった作品です。小説ならじっくり読み進めますが、当然このまま映画にしても付いて来れません。本作を手がけた名匠・ロンハワード監督は、このシリーズにおいてド派手な展開にアレンジすることで映画的な面白さを押し出すという方向性で、完全に割り切っています。
本作も原作と比べて明らかに派手になりました。
一番の変化は、ヒロイン…だと思ってたシエナ・ブルックス。原作ではラングドンの理解者としてもう少し活躍するのですが、映画では明確な裏切り者として立ち塞がります。そして、シンスキーが正統ヒロインとして格上げになったことで、ラングドンに大人のロマンスが追加されました。中年を主人公にしている稀有な映画ですから、こうするしかなかったのでしょう。ただ、個人的にはシエナが小物っぽい感じに見えてしまい残念でした。シエナを演じた“フェリシティ・ジョーンズ”は『ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー』では大活躍するでしょうから、そっちで頑張ってもらいたいものです。
ツッコミどころ満載な物語は原作も同じなので、愛嬌として楽しむしかないですが、より映画的になったことでさらに濃くなった感じです。WHO(世界保険機関)が武装してやたらアグレッシブな組織になっているのは、この世界の常識なんです。たぶんロン・ハワード監督はツッコミどころをフォローする気はないのでしょうね。
ロン・ハワード監督の重厚な映像づくりはさすがの手腕です。とくに観客を一気に物語に引き込ませる序盤の導入がちゃんとしているので、地味な話でも入りやすいつくりになっていました。個人的には、2回もある「人が高いところから落ちる描写」にこだわりを感じました。あんな生々しく映す必要性は皆無なんですけど…。
しかし、派手になったとはいえ、予告を見て期待した人はガッカリするかもしれないですね。予告の派手な演出はラングドンの幻覚だし、悪いことします宣言をする悪役は冒頭でいきなり死にますから。派手な見せ場は終盤の水中格闘戦くらいでした。
さすがのロン・ハワード監督でも、原作の地味さを隠しきることはやっぱりできないのではないでしょうか。私の思う、このシリーズで一番のれないポイントは主人公ラングドンの地味さです。宗教象徴学という何とも地味~なキャラ設定はすごく映画に向いていない。加えて、シリアスすぎる脚本に、常に困った顔をしている感じのトム・ハンクスの起用は合っていない気もします。他の今年のトム・ハンクス主演映画である『ブリッジ・オブ・スパイ』や『ハドソン川の奇跡』は良かったのに、何が違うのだろうか…。
もし次回作があるなら方向性をガラッと変えてみるのもいいかもしれないですね。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 23% Audience 36%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 4/10 ★★★★
作品ポスター・画像 ©2016 Sony Pictures Digital Productions Inc. All Rights Reserved.
以上、『インフェルノ』の感想でした。
Inferno (2016) [Japanese Review] 『インフェルノ』考察・評価レビュー