ロシアのクマは強い…映画『ガーディアンズ』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:ロシア(2017年)
日本公開日:2018年1月20日
監督:サリク・アンドレアシアン
ガーディアンズ
がーでぃあんず
『ガーディアンズ』あらすじ
冷戦下のソビエト。遺伝子操作によって特殊能力を持った兵士を生み出し、超人集団を作る「パトリオット計画」が秘密裏に進行していた。しかし、組織の科学者クラトフの裏切りにより、研究所は爆破され、超人たちも姿を消す。それから50年後。クラトフはロシア崩壊を企んでいた。国家存亡の危機を防ぐため、かつての超人たちを見つけ出し、「ガーディアンズ」という名のチームが結成される。
『ガーディアンズ』感想(ネタバレなし)
クマ映画です
「日本よ、これがロシア映画だ」というちょっと久しぶりに見た『アベンジャーズ』キャッチコピーのパロディ全開でお送りしている本作『ガーディアンズ』。下手をしたら、これが『アベンジャーズ』のキャッチコピーのパロディだということすら若い人には伝わってない気もしなくはないですが、たぶんこの映画を観る層には心配いらないので、まあいいか。
1月のバカっぽい映画ラッシュは止まりません。といっても、見た目がバカっぽいだけで、実はシリアスだったりする作品も多々あります。『ネイビーシールズ ナチスの金塊を奪還せよ!』のときは、日本側の宣伝と実際の作品の中身がズレていると私の感想でも指摘したりもしました。
しかし、この『ガーディアンズ』に関して大丈夫です。外も中も正真正銘バカ映画です。
結構な予算がかかっているらしく、映像も全くチープではないのですが、なんというか企画そのものに半笑い感が漂っている感じ。いまさら超人ヒーローが集まって悪を倒すって…二番煎じにもほどがあるよ!と誰だって思うところです。音楽さえもどことなくアメコミっぽいですから。
でも、その見方でいいと思うんです。
本作の監督の“サリク・アンドレアシアン”という人は、かなり何でも手がける多才な監督で、過去には『Sex Competition(Chto tvoryat muzhchiny!)』という、期間内にどれだけ多くの女性を誘惑できるかというセックス・トーナメントを描いたコメディだったり、はたまた『キル・オア・ダイ 究極のデス・ゲーム』という、生死を賭けたぶっとんだ未来の生き残りゲームを描いたSFだったり、結構、ツッコミ満載な作品も多い人。2014年に『クライム・スピード』という作品でハリウッドデビューしているし、おそらく“サリク・アンドレアシアン”監督で批評的に評価が高かったのは、1988年アルメニア地震を題材に描いた『The Earthquake(Zemletryasenie)』なんじゃないだろうか(まあ、私は観てないのでこれ以上なんとも言えないのですけど)。
本作『ガーディアンズ』もその多様なジャンルを手がけてきた経験があったからこそ実現できたのでしょうし、やはりツッコミながら観る前提は製作者もわかっている気はします。
個人的には本作はヒーロー映画ではなく、クマ映画だと言いたい。詳しくは観てほしいので書きませんが、クマが鑑賞後の観客の脳みそのほぼ全てを持っていくので楽しみにしてください。
しかも、奇遇なことに、本作の公開日前日にイギリスのクマ映画『パディントン2』が公開されているのです。各国(2国)のクマ映画が揃いましたね。
よし、じゃあ、ハッキリ言いましょう。クマ映画が観たいのであれば、『パディントン2』がオススメです!(あれ?)
『ガーディアンズ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):ロシアにも超人兵士がいる!
ロシアの国防省の極秘兵器研究場の野外フィールドで今、最新の人工知能を搭載したマシーンの実用試験が開始されました。3つ足の巨大兵器は正確に目標を攻撃していき、戦車の砲撃を素早い動きで交わし、攻撃ヘリさえも撃墜してみせます。
しかし、突如として暴走。近くで見ていた軍事関係者のいる地点を攻撃。その兵器ロボットを手中に収める謎の人間が…。
モスクワの作戦指揮センターでは緊急の会議が開かれ、1940年に極秘裏に行われた「パトリオット」という計画が話題にだされます。違法な遺伝子実験が行われ、その責任者の名はアウグスト・クラトフ。あらゆる車両の遠隔操作を可能にする「モジュール1」の開発に没頭し、部門が閉鎖された後にドブロヌラーヴァフ博士に嫉妬。こちらの博士は「超人」を創りあげることに成功し、クラトフはその手柄を横取りしようと自分も遺伝子実験を始めたのでした。しかし、その実験は明るみとなり、クラトフは処刑されるはずでした。けれども自身も化学物質で変異してしまい、脱走。結果、今回の兵器暴走に繋がります。
この事件に対処できるのは、同じく超人たち、「ガーディアンズ」だけ。そこですぐにこの超人たちを招集しないといけないことになります。
パトリオット本部は準備が整っています。エレーナ・ラーリナは旧ソ連地域にいるはずの超人たちを探します。情報は次々と集まります。出動です。
アルメニアのホルヴィラップ修道院では、ひとりの男が祈りを捧げていました。レーニクです。彼はあらゆる鉱物を自由に動かして操ることができますが、今は世捨て人のように過ごしていました。そして今は「レア」と名乗ります。
カザフスタンのアラル海では、超高速移動と2本の鋭利な曲刀で戦う男がひとり。彼はハンといい、どんな人間も瞬殺で真っ二つにできます。
シベリアのプラトナ台地では、兵士を一発で吹っ飛ばせる半分熊の大男。彼の名前はアルススであり、そんな彼もリクルートされます。
モスクワのサーカスでは、クセニアという女性が幻影のようなパフォーマンスを見せて観客を感動させていました。彼女は身体を透明にすることができ、それはトリックでもなく、本当に超人のなせる技です。
こうして集まった4人。再結集したガーディアンズは諸悪の根源である実験の首謀者でもある博士の横暴を食い止めることはできるのか…。
超“人”じゃない奴がひとりいます
『パディントン2』、面白かったですね。
イギリス在住のクマは一生懸命働いてお金を涙ぐましく稼いでいるのに、ロシアのクマといったら…。
そんなクマも所属しているロシアのヒーローチーム「ガーディアンズ」。念動力で鉱物を自在に操る屈強そうな男「レア」、超高速で移動しながらショーテルで敵を一刀両断する「ハン」、透明になるなど擬態能力を持つ美女「クセニア」、そして上半身がクマになる「アルスス」。
なんか昨今の「多様性重視」傾向にすっかり毒されてしまったのか、私もこういうチームものを見たとき、つい人種バランスはどうなっているのだろうと考えてしまうのですが、意外にロシアなりのバラエティが実はあります。ハンは見た目といい、もろに忍者っぽく、演じている“サンザール・マディエフ”もアジア人顔に見えますが、カザフスタン出身のようですね。アルススを演じた“アントン・パンプシニ”もカザフスタン。また、レアを演じた“セバスチャン・シサク”はアルメニア出身。クセニアを演じた“アリーナ・ラニナ”だけロシア生まれみたいです。
ロシア映画界の俳優事情は全然知りませんが、結構カザフスタン系など周辺諸国の俳優も多いものなのでしょうかね? 大作に出演できるチャンスとしてはロシア映画界隈は格好の場なのかな。
でも、ほら、人種なんてどうでもいいんです。大事なのはクマです。
本作を観た人の頭に強烈な印象を植え付けるのはやっぱりクマ人間、アルスス(ちなみに「アルスス」はラテン語で熊の意味)。こういう怪物になっちゃう系の超人はベタです。私もてっきりハルクみたいな手が付けられない大暴れポジションだと思ってました。しかし、予想以上の魅力がありましたね。正直、他の3人の超人と悪役はアメコミ映画の劣化版でしかないと感じましたが、このアルススに関してはハルクよりもキャラの活かし方が上手かったと思います。
後半は大型のガトリングガンを手持ちして戦うというクマにあるまじき戦闘スタイルを確立したと思ったら、お次はなんと上半身だけでなく下半身もクマに。要するにただのクマです。ただのクマがガトリングガンを背負って暴れるという、“超人”とは何かを問いかけるような存在感。というか、“超クマ”だよね。もはやクマが凄いのか武器が凄いのかわかりません。
この“超クマ”は本作でもユーモア担当になっており、唯一専用スーツを用意してもらえなかったり、エレベーターに乗るくだりだったり、イチイチ笑わせます。人を背中にも乗せてくれるし、案外、良い奴なのもいいですね。コイツだけ、アメコミに参戦してくれないかな…。
これがロシア映画だ(破産)
とまあ、キャラ映画としては楽しいのですけど、全体としてはどう考えたって詰め込み過ぎな内容。『ジャスティス・リーグ』でさえ急ごしらえ感があったのに、たったの89分で超人を集めてチームを作って戦って結果を出すのだから、そりゃそうです。
あのラストの合体必殺技といい、よくこんな終わりにしたなと思うほどの超強引な幕引きは嫌いになれないけど…。
やたらとオープニングはカッコよく始まるのですけどね…。
ツッコミながら見れれば上々ですから、こんなのでいいでしょう。海外のレビューで個人的に一番好きなのは「これを観るぐらいだったらマーベル・マラソンをしている方がマシだ」というコメント。89分のロシア映画の代わりとしては結構、大変な部類じゃないですかね…。
気になるのはロシア国内の評価です。これが酷いもので…。
興行収入も伸びずに、批評家からのレビューも散々。しかも、本作の制作会社の「Enjoy Movies」は破産してしまいました…。ロシア映画史に残る大失敗作と言われかねない惨状。ツッコミながら見れれば上々なんて軽い気持ちでいたけど、それどころじゃなかった…。「ガーディアンズ」はロシア映画界では何も守れず、損害を出しただけのようです。ヒーローって大変だなぁ。
続編もやる気満々なエンディングでした(なんでも、中国からヒーローを追加する構想だったらしい)が、当然、これは無理かな…。
頑張れ、ガーディアンズ。まだ始まったばかりだ。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 33% Audience 25%
IMDb
3.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 2/10 ★★
(C)2017, Enjoy Movies LLC
以上、『ガーディアンズ』の感想でした。
Zashchitniki (2017) [Japanese Review] 『ガーディアンズ』考察・評価レビュー