小便とウンチとストレート…映画『ボーダーランズ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
日本では劇場未公開:2025年にAmazonで配信
監督:イーライ・ロス
ぼーだーらんず
『ボーダーランズ』物語 簡単紹介
『ボーダーランズ』感想(ネタバレなし)
やっぱり失敗することもある!
近頃は「ゲームの映像化」は汚名返上を果たすかのように大成功を収めてきた印象です。
2023年の映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の大ヒットから、2024年も『ソニック・ザ・ムービー』の映画シリーズは第3作目になっても絶好調。『THE LAST OF US』や『フォールアウト』といったドラマシリーズも高評価を獲得しました。


でも…世の中そんなに甘くはない…。全てが成功するなんてことはないのです。
2024年は最大の失敗作のひとつとして汚名を頂戴してしまった映画も現れて…。
それが本作『ボーダーランズ』です。
「Gearbox Software」が開発した「Borderlands」というゲームがあり、2009年から第1弾をリリースをし、新作を出し続けてシリーズ化しました。RPG要素のあるオープンワールドのFPSであり、スポーツ性よりもストーリー性を重視し、武器などの装備をカスタマイズしながら、世界観に没入して楽しめるのが売りです。癖のあるビジュアルと性格の個性豊かなキャラクターも魅力でした。
その「Borderlands」の映画化は2011年頃から「Gearbox Software」も交えて検討されていたそうで、最終的に監督に抜擢されたのが“イーライ・ロス”となりました。
そして『ボーダーランズ』は2024年に公開されます。
ところが評価は轟沈。公開されると「Rotten Tomatoes」で非常に珍しい「0%」の批評家スコアを獲得(2025年1月時点では「10%」)。2024年の映画を対象とするラジー賞でも揶揄われまくりとなりました。
私個人の考えとしては別に映画がヒットしなくてもその映画の価値が無いとかそんなふうなことは全く思いません。好きな人は好き。個々の映画はそうやって誰かの心に届けばいいと思います。
ただ、まあ、映画単体じゃなくて映画業界への批判はそれとは別問題でありますけどね…。
嫌な予感はあって、というのも製作が難航するのはどの映画でもよくある話ですが、『ボーダーランズ』完成品の脚本にクレジットされたのは監督の“イーライ・ロス”と、“ジョー・クロンビー”なる人物で…。この“ジョー・クロンビー”は実在しない名前と考えられ、おそらく関わったどの脚本家もクレジットを拒否したのだと思われます。企画試行錯誤中は多くの脚本家が関与していたらしく、もうこういうクレジットの結末になっちゃうとね…。
プロデューサーはSSU(ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース)を放り捨てた“アヴィ・アラッド”だし…。
配給は「ライオンズケート」で、本作の興行の失敗によってスタジオの独立した存続が危ぶまれますが…。『ジョン・ウィック』も一巡し、『ハンガー・ゲーム』シリーズの新作の挑戦も控えめに終わったので、いよいよ策が尽きてきたのではないだろうか。
そのいわくつきの映画『ボーダーランズ』は日本では劇場公開されず、「Amazonプライムビデオ」での配信のみの扱いとなりました。
元のゲーム好きの人がどれくらい満足するかはわかりませんし、日本だと洋ゲーマニアの人がプレイしているくらいの知名度なので、狙える客層は本国アメリカよりもさらに狭くなるのは致し方無いとは思います。ファンにしてみればこの映画を観るよりもゲームをプレイしてくれ!と思ってしまうのかも…。
それでもこの映画『ボーダーランズ』のスタートボタンを押すというのなら止めはしません。
『ボーダーランズ』を観る前のQ&A
A:Amazonプライムビデオでオリジナル映画として2025年1月24日から配信中です。
鑑賞の案内チェック
基本 | — |
キッズ | 乱暴な世界観ですが、子どもも観れるレベルです。 |
『ボーダーランズ』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
かつてこの銀河は人智を超えた科学技術を持つ異星人エリディアンに支配されていました。彼らは消滅し、科学技術の断片(スクラップ)だけが残ります。その断片によって人類は新たな進化の基盤を得るのでした。
しかし、技術だけではありません。エリディアンの最大の秘密は惑星パンドラの遺跡(ヴォルト)に隠されているらしいのです。もしそれが手に入れば、圧倒的優位に立てるかもしれません。
こうしてそのパンドラの星は欲に目がくらんだ大企業や犯罪者、ハンターで溢れかえり、敵対し、殺し合い、酷いありさまとなりました。
もはや終わりのない荒廃が永続すると思われた中、エリディアの娘がいつかヴォルトを開き、惑星に平和をもたらすという予言が希望として語り継がれます。それを信じている者もいれば、信じてない者もいます。そして事件が起きることに…。
アトラスに送り込まれた元軍人のローランドは宇宙ステーションに囚われたティナを助けに来ます。アトラスはティナの父です。ティナは子どもですが、この状況に随分と余裕そうです。
ティナと知り合いの元サイコのクリーグも独房を飛び出して乱入し、助けに入りますが、ティナは何やら事情を抱えているようでした。
ところかわって遠く離れた惑星プロメティア。アウトローのリリス・カシュリンは今日も賞金稼ぎの仕事を終え、馴染みのバーに顔をだします。
ところが仕事を持ち込んできた無礼な男たちが出現。冷静なリリスが威嚇してみせると、デュカリアン・アトラスという人物が声だけで接触してきます。アトラス社の人間で、娘を助け出してほしいとのこと。軍人を送ったものの、パンドラに慣れた者が必要だと大金を一方的に提示してきます。興味はありませんでしたが、カネは要ります。しょうがないので仕事を受けることにしました。
パンドラに降り立ったリリス。いつものごとく荒れ果てた地元にため息しかでません。帰ってきたくはなかったですが、やむを得ず…。ゴミ漁りの子どもから情報を得て、マーカスの運転するバスで移動。ヴォルト探しだと思われます。確かにここにはそんな連中しか来ません。
地元であろうともパンドラは広いです。捜索は難航します。
焚火をして休んでいると、クラップトラップと名乗るお喋りなロボットが近寄ってきます。アトラス社のライバル企業が作った古臭いロボットです。手助けすると勝手に主張して付きまといます。
クラップトラップがエコーネットに接続してスキャンすると採掘場にいると分析。クリムゾン軍が一帯を支配する地で車を奪い、座標地点へ向かいます。
そこで隠れ家にいたティナを発見。しかし、ティナはアトラスを嫌っており、爆弾トラップで派手に追い払われるリリス。そこにローランドとクリーグも合流します。
おまけにクリムゾン軍のノックス司令官も到着し、ティナを捕獲するべく、軍隊で取り囲みます。
つい今しがた集まっただけの集団で、ここから逃げることはできるのか…。
この組み合わせは面白いのか

ここから『ボーダーランズ』のネタバレありの感想本文です。
映画『ボーダーランズ』はキャラクターも世界観も基本は元のゲームをなぞっており、大胆な改変はさほどやっていません。ただ、1本の映画に収めるべく、相当に簡略化して押し込んでおり、何というか…見た目に反してすっごく薄味です。
「食べたら止められない!超ボリュームのウマすぎるポテトチップス!」と袋に宣伝されているのに、袋を開けてみたら内容量が削減されていてわずかなチップスしか入っていない…くらいのしょんぼり気分。
キャラクターが織りなす雰囲気としては『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』に近い感じはありますが、そこからエモーショナルなキャラクター・プロットを省略して、キャッチーな絵作りも諦め、表面だけマネてみた模倣品…そう言いたくもなる…。
例えば、キャラクター同士の掛け合いでどんどん面白さが増していくのが理想なのですが、この映画『ボーダーランズ』はそういう面白味を全然感じない…。
主人公のひとりで賞金稼ぎのリリスを演じているのは“ケイト・ブランシェット”。“ケイト・ブランシェット”は最近でも『TAR ター』やドラマ『ディスクレーマー 夏の沈黙』といった作品にでており、『ボーダーランズ』みたいなバリバリのジャンル映画に出演するなんてかなり珍しいです。本人いわくコロナ禍の後で気が滅入っていたらしいですけど…。
せっかく“ケイト・ブランシェット”を起用したのなら、俳優の才能を活かせる重厚なドラマを織り交ぜればいいものを、そのへんもとても雑に片づけられていきます。あの母親をめぐるエピソードはいくらでも深いものに変えられる余地があったのにですよ。それこそ植民地主義への怒りとか、女性搾取への憤りとか…。
リリスがコミカルに相手することになるローランドを演じるのは”ケヴィン・ハート”で、“ケイト・ブランシェット”との相性は正直イマイチ…。”ケヴィン・ハート”は“ドウェイン・ジョンソン”くらいじゃないと面白さが嚙み合ってこないでしょう。
それに“ジャック・ブラック”が声を担当するロボットのクラップトラップがリリスの周りで喋りまくるのですが、これはもう“ジャック・ブラック”のただのひとり芝居だった…。“ジャック・ブラック”は下手糞ではないのですけども、完全に映画において本当にそのまま空気を読めない邪魔者で終わってしまった感じに…。
クリーグはなんかドラマを用意しておいてやれよ!と思いましたし、唯一、冒頭からキーキャラクターになる匂いを放ちまくっていたタイニー・ティナは終盤で覚醒リリスにお株を奪われてしまっており、ちょっと可哀想でした。せめて人間の欲深さゆえに人工的に創造されたという悲しい宿命を背負っている子どもなんですから、もう少しアフターケアが要るでしょうよ。
ストレートにウンチだった
映画『ボーダーランズ』のキャラクターたちはそれぞれのプロット上の最低限の役割をこなす程度しか出番は与えられていません。
もっとキャラクターの深掘りはできたはずです。元のゲームにはキャラクターの魅力を深めるドラマ性もありました。
例を挙げるなら、この本作にはクィアな要素はバッサリ消失しています。「Out」が本作を「悲劇的なまでにストレート」と批評しているように、この映画にクィアっぽさはありません。しかし、実は元のゲームでは各キャラクターはわりとクィアです。タイニー・ティナはレズビアンとして設定されていますし、タニス博士もバイセクシュアルでした。“ジェイミー・リー・カーティス”をタニス役に起用するなら、いくらでもそんな複雑な人間模様をこなせるでしょう。
なお、“イーライ・ロス”監督が明かすには、初期の段階ではサブキャラのゲイカップルの結婚式のシーンがあったらしく、それはカットされたとのこと(Out)。カットした結果がドラマ性もスカスカな内容になるなら何なんだって話ですが…。
また、根本的なことを言えば、本作は当初はR指定でもっとバイオレンスだったという報道もありました。“イーライ・ロス”監督は『サンクスギビング』のように残酷なゴア描写たっぷりの映画が大得意なので、明らかにそのバイオレンスな方向性のほうが性に合っているはずです。それに元のゲームもそんな任天堂のファミリー向けのエンターテインメントじゃないので、バイオレンス寄りの映画化がふさわしかったでしょう。
しかし、どういう理由での企画決定だったのか知りませんが、完成した映画『ボーダーランズ』は血もでない子どもに安心の作品になりました。人は死ぬけど綺麗に消えます。
過激な暴力性がない代わりにトッピングされたのが、小便ネタとウンチネタですよ。いや、低年齢向けに逆走するにしても、よりつまらない方向に進んでどうする?
もちろん過激な暴力がただあれば映画が面白くなるわけでもないのですけど、この映画が何をしたいのか私には全く理解できない…。
ということで久々にハリウッドのダメな映画の悪い典型例を観た気がしました。「有害ではないが無益な映画」を体現していた…。
下手なプレイ映像でもそこから学べるのがゲームの良いところですが、この映画から学べることはもう観る前から知ってることばかりだったので、探索するだけ無駄だったかもしれません。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
関連作品紹介
ゲームの映画化作品の感想記事です。
・『アンチャーテッド』
・『バイオハザード ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ』
作品ポスター・画像 (C)Lionsgate Films
以上、『ボーダーランズ』の感想でした。
Borderlands (2024) [Japanese Review] 『ボーダーランズ』考察・評価レビュー
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