鑑賞はするけれども…映画『ブルービートル』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本では劇場未公開:2023年に配信スルー
監督:アンヘル・マヌエル・ソト
恋愛描写
ブルービートル
ぶるーびーとる
『ブルービートル』物語 簡単紹介
『ブルービートル』感想(ネタバレなし)
DCの悲報
映画業界の悲しいニュースは2023年もいっぱいありましたが、これは本当に無念です。
何のことかって…それは『ブルービートル』の日本劇場公開が無いという件です。
マーベルと双璧をなす「DC」は、新たに“ジェームズ・ガン”をクリエイティブのトップに就任させ、「DCEU(DCエクステンデッド・ユニバース)」と銘打っていたシリーズを「DCU(DCユニバース)」へと再始動させる予定です。そのへんの詳細は『ザ・フラッシュ』の感想記事でも書いています。
ここで気まずい思いをすることになったのが、DCEUとして公開することになっている残りの映画群。シリーズが終わることが判明している中、どういう気持ちで鑑賞すればいいのか…。
そして日本のファンにさらに追い打ち。それがこの『ブルービートル』の日本劇場公開が無いということ。
『ザ・フラッシュ』の次の公開作が『ブルービートル』で、本国アメリカでは2023年8月に劇場公開されたのですが、日本の公開日がなかなか発表されず…。「まさか…まさかなんてことないよね…」と日本のファンがざわつく中、その『ブルービートル』の次の『アクアマン 失われた王国』の日本劇場公開日が2024年1月12日と発表されてしまい…。新作の公開日が知らされる嬉しいニュースなのに、あの日本のDCファンのお通夜ムード…。「これは…『ブルービートル』…無いな…」と察しがつき始め、案の定、『ブルービートル』のビデオスルーのお知らせ…。
日本の宣伝では「満を持して日本上陸!」と精一杯楽しそうにアピールしているけど、「満を持して」の意味を調べ直してほしい…。
いや、でもワーナーブラザース・ジャパンはそんな悪くないのはわかってるんですよ。本社の決定なのだろうから…。ただ、それでもアメコミ映画が劇場から降ろされるというのは辛いですね…。
ちなみに韓国でも劇場公開は無かったそうで、東アジア市場が全体的に存在意義を失ってきている(もしくはグローバルではない特異なものと見なされてきている)のかもしれないですけどね…。
それにしても『ブルービートル』は本作で初登場のヒーロー誕生譚を描くもので、シリーズ他作品との繋がりもなく、独立していてとても見やすいのです。DC映画で他キャラと何の関連性もない新キャラクターのオリジンストーリーというのは本当に久しぶりですよね。『ブラックアダム』(2022年)は微妙に『シャザム!』と関連あるし、それこそ2019年の『シャザム!』以来の初々しい新キャラになるのかな。
加えて今作のヒーローであるブルービートルは新ユニバースであるDCUにもキャラクターとしては続投すると言われています(本作自体は正史じゃないらしいですが…)。
だったらなおさら今後の新ユニバースを盛り上げるためにも日本でも劇場公開しておくべきだったんじゃないだろうか…。
『ブルービートル』ってどういうヒーローなのかと言うと、名前からして丸わかりですが、虫をモデルにしたキャラクターなのです。マーベルにも『スパイダーマン』や『アントマン』がいましたが、あちらよりも『仮面ライダー』寄りです。
そう、ファミリー向け特撮になっているので、本当に『仮面ライダー』っぽいです。こんなに日本の特撮と親和性があるんですよ。『仮面ライダー』好きのキッズをDCの世界に誘い込むのにちょうどいい入門作なのに…(未練が止まらない…)。
そういう私も正直「ブルービートル」というヒーローを知りませんでした。コミックも読んだことないので、すごく新鮮。調べたら、あれなんですね、この「ブルービートル」、もともとDCのキャラじゃないんですね。最初は「Fox Comics」のキャラで、それを「DCコミックス」が引き継いだ歴史があるそうです。最初の登場が1939年なので相当に古いです。設定が何度が変わり、世代交代もしているのですが、映画ではコミックの3代目のキャラクターを基にしています。
やっと銀幕に立つことができた「ブルービートル」。日本では立てなかったけれども、覚えておいてください。
う~ん、2024年に1週間だけでも劇場公開しないかな?(まだ足掻く)
『ブルービートル』を観る前のQ&A
A:映画を観てのお楽しみ。
A:とくにありません。DC初心者でも大丈夫です。
オススメ度のチェック
ひとり | :DC初めてでも |
友人 | :暇つぶしに |
恋人 | :少し恋愛要素あり |
キッズ | :子どもが楽しめる |
『ブルービートル』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):ぜんぶ虫のせい
吹雪く地に最新鋭のヘリが着陸し、それから降りてきたのは、コード・インダストリーズのCEOのビクトリア・コードです。目的は「スカラベ」という古代のエイリアンの遺物。大規模な調査隊が巨大な球体を調べています。
ところかわって、ハイメ・レイエスはゴッサム法科大学を卒業し、故郷のパルメラシティに戻ってきました。久々の地元の空気に心も晴れやか。
そして家族が空港で出迎えてくれ、みんなハグ。母のロシオ、父のアルベルト、叔父のルディ、妹のミラグロ、祖母のナナ。元気そうで、安心します。
でも問題もありました。家族が経済的困難な事情で家から立ち退きに直面していたのです。今、家があるのは開発されていない場所で、すぐ近くには煌びやかな摩天楼ビル群がそびえたっており、地元は変わろうとしていました。
ハイメは何とかして見せると意気込みますが、できることと言えば、地元に邸宅を持つ金持ちに雇われてその高級邸宅の清掃員をすることくらい。ミラグロと2人で仕事しますが、ミラグロはやる気なし・
実はこの邸宅はビクトリア・コードのもので、彼女も来ていました。室内でビクトリアと姪のジェニファー(ジェニー)が待っており、ジェニーは「OMAC」というプロジェクトをリローンチしたことに不満を持っています。この開発はジェニーの父テッドが手がけていたものですが、テッドが亡き後はビクトリアが引き継いでいました。
ハイメはそのビクトリアとジェニーが口論しているところを目撃し、思わず口を挟んでしまいます。そして追い出されました。
ところが外でジェニーが挨拶してくれ、連絡先までくれます。もしかして自分に気があるのか…と少し調子に乗ってしまうハイメ。
帰宅し、夜、父がひとり飲んで街を眺めていたので、隣に座り、久しぶりにゆっくり語り合います。
勇気をもらい、ハイメはジェニーのいるコードタワーに正装して覚悟を決めて行くことに。相変わらず家族は総出で見送ってくれます。しかし、受付に行くも、席に座っていてと言われるだけ。
その頃、ジェニーはラボに侵入し、解析中の青いスカラベを発見。それを盗み、ビッグベリーバーガーの箱の中に隠して持ち去ります。
盗まれたことに気づかれ、ビルはロックされ始めます。ジェニーに気づいたハイメは話しかけますが、今は忙しいと言われ、そのとき警報が鳴ります。焦ったジェニーは咄嗟にハンバーガーの箱をハイメに渡し、「絶対に開けずに、触るな」と忠告して外に行かせます。
こうして家にハンバーガーの箱が到着したのでした。家族みんなで会議し、開けろと促され、開けてみると中にはポテトと青い“何か”。家族がいじるのでハイメが取り返すと、その青い“何か”は動き出し、ハイメの顔面に飛びつき、大パニックに。剥がそうとするも電撃が走り、あろうことかそれは身体に入ります。そして背中から何か飛び出し、服は燃え尽き、天井に張り付いて、青い全身が露わに…。
ハイメが立ち上がるとすっかり姿は変わってしまっており、自分でも驚きます。しかも、謎のシステム音声が聞こえてきて、起動し、空へ飛びあがってしまいました。
大気圏から落下し、燃え上がりながら地上が接近。羽で浮いて助かったものの、今度は高速で飛行。あげくに衝突するバスを自動防御で切断してしまいました。
背中に例の青い”何か”は埋め込まれたままで、混乱するハイメはジェニーを連れてきて事情を問います。
そして運命が変わったことを知ることに…。
ルーツはスーパーパワーになる
ここから『ブルービートル』のネタバレありの感想本文です。
DCのこれまでのキャラクターは何かと特異な家族の設定が多かったです。「バットマン」は両親を失って孤独の身で、「スーパーマン」は故郷の星が吹き飛んで事実上の移民養子で、「アクアマン」は王族の運命を背負って生まれ、「フラッシュ」は悲劇が起きて家族の悲しみを引きずり、「ワンダーウーマン」は超越したコミュニティで宿命を抱え、「ハーレイ・クイン」は家族がとうに破綻しており…。「シャザム」も幼いときに母に捨てられてしまった過去があります。
それらと比べると今回の『ブルービートル』において、主人公ハイメ・レイエスは温かな家族に包まれ、序盤からとても幸せそうです。
ラテン系の定番とも言えるごちゃごちゃとした家族の団欒。作中でも本当に和気あいあいと無邪気なシーンが繰り広げられ、どこかホッコリします。
しかし、これを家族規範的と断じるのは容易いですが、そうもいかないのは彼らがマイノリティな立場に置かれているからです。
本作の舞台であるパルメラシティは架空の街ですが、非常にラテン系のルーツを色濃く覗かせるデザインになっており、加えてジェントリフィケーションの脅威によってレイエス家は危うくなっています。
さらにそこに苦難をもたらすのがビクトリアで、今作の彼女は一見すると平和を謳っているように見えて実際は帝国主義的な本質が剥き出しになっています(慈善活動で知られる“スーザン・サランドン”をキャスティングしているのがまた皮肉)。
ブルービードルとなるハイメは家族の期待を一身に背負って大学を卒業し、でも学歴だけではどうしようもない壁にぶちあたります。ハイメの心にはもうヒーローとしての精神性は備わっており、むやみな殺傷も望みません。
そんな彼が悪役ビクトリアの手先になってしまったイグナシオ・カラパックスを救う。このイグナシオもまた非常に壮絶で残酷な帝国主義の犠牲者であり、ハイメだからこそ手を伸ばしてあげられる存在でもありました。
マイノリティゆえに家族が助け合わないとこの社会では生存できない。孤立すれば独善的な社会に利用されてしまう。それを物語ってもいました。
このように本作は映画なのでボリュームはコンパクトですけど、しっかり人種・民族的ルーツに根差した王道のストーリーテリングをしており、マーベルで言うなら『ミズ・マーベル』に近いテイストですね。
ハイメを演じたドラマ『コブラ会』の“ショロ・マリデュエニャ”の率直な佇まいも良かったですし、これをきっちり実現させた“アンヘル・マヌエル・ソト”監督の手腕も確かでしたし…。
DCは『ザ・フラッシュ』の“サッシャ・カジェ”演じるスーパーガールといい、ラテン系の表象がナイスなステップアップで増えていて、製作総指揮の“ウォルター・ハマダ”は良い仕事をしていたと思います。もうDCから離れちゃったけど、お疲れ様…。
もうパロディじゃない
そんなルーツの背景はさておき、『ブルービートル』のエンターテインメントは至極単純。わかりやすさはここ最近のアメコミ映画の中ではトップクラスです。
まずスーパーパワーを得る出だし。いかにもわざとらしく変身過程が異様に怖いのですが、“ギレルモ・デル・トロ”監督の『クロノス』(1992年)もオマージュしているのかな。
ただ、おどろおどろしく怖いのは本当にそこだけで、そこからはカートゥーン並みのぶっ飛びシーンのアホ展開が連発で、最後は全裸ギャグでオチる。この潔さ。正直、全裸ギャグは『ザ・フラッシュ』でもやっているのでネタ被りなんですけど、『ブルービートル』のほうが素直に楽しめた…ですよ。
その後は父の死なんていうヒーローにありがちな辛い経験をしつつ、しかし、この本作はそんなに引きずらずに家族の力で乗り越えていきます。
後半は超シンプルなデザインの虫型乗り物まで出動し、家族が大活躍。祖母はガトリング・ランチャーをぶっぱなし、虫メカは屁を放つ。このバカバカしさはDCのシリアスさを吹き飛ばす新しい勢いがあります。
強化イグナシオとのラストバトルでは、DC映画ではすっかり久しぶりの1対1の純粋な戦闘が見られ、力と力のぶつかり合いが炸裂。ブルービードルが、想像の力で武器を作れることを知って、「ファイナルファンタジーVII」のバスターソードみたいな大剣で戦ったり、結構やりたい放題で楽しそうでした。
ちなみに、作中で何度か(クレジット後でも)でてきた古そうなアニメ。あれは『エル・チャプリン・コロラド』という実在のメキシコのテレビアニメです。1970年代からある作品ですが、当時のラテン系の人たちはこんな作品に自虐的にヒーローを投影していました。そして2023年、今は本格的なラテン系のヒーローが映画で主役を堂々と飾っている。そこに喜びがあります。もうパロディではありません。正真正銘のヒーローなのです。これも歴史です。ラテン系の人たちが苦難に耐えて勝ち取った歴史…。
ヒーロー映画に大事なのは興行収入ではないです。そのヒーロー映画が誰の味方につくのかということ。少なくとも『ブルービートル』は味方になるべき人たちに寄り添っていました。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 78% Audience 92%
IMDb
6.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
DC映画の感想記事です。
・『ブラックアダム』
・『THE BATMAN ザ・バットマン』
・『ザ・スーサイド・スクワッド 極悪党、集結』
作品ポスター・画像 (C)2023 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved. ブルービードル ブルー・ビートル
以上、『ブルービートル』の感想でした。
Blue Beetle (2023) [Japanese Review] 『ブルービートル』考察・評価レビュー