イップマン4
映画『イップ・マン4 完結』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:葉問4(Ip Man 4)
製作国:香港(2019年)
日本公開日:2020年7月3日
監督:ウィルソン・イップ

イップ・マン 完結

『イップ・マン 完結』あらすじ

1964年、サンフランシスコに渡ったイップ・マンは、弟子であるブルース・リーとの再会や太極拳の達人ワンとの対立などを経て、アメリカという異国の地で生きる同胞たちが直面している厳しい現実を身をもって知る。そんな中、中国武術を敵視する海兵隊軍曹バートンが中国人たちに猛烈な敵意を剥き出しにして勝負を挑んでくる。イップ・マンは負けられない戦いに全力を捧げる。

『イップ・マン 完結』感想(ネタバレなし)

アクション映画ファンは必修のシリーズ

現在のハリウッド映画は非常にアクションが極まっているのはファンならば承知の事実。とくに「87Eleven」というアクションデザインを手がける会社の信頼は厚く、マニアは「87Eleven」の人が関わっているだけで太鼓判を押されたような気分で安心して観ることができます。最近も『ジョン・ウィック』シリーズや『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』、『タイラー・レイク 命の奪還』など、目を奪われる芸術的なアクションを堪能できる作品が続々生まれて幸せです。

その「87Eleven」は自分たちのアクションの土台にしているもののひとつが、アジアのマーシャルアーツやカンフーなど。その現役の第一人者といえば「ジャッキー・チェン」です。今なお第一線で活躍しており、元気です。

ではそのジャッキー・チェンが自身のアクションの土台にしているのは誰か。その重要なひとりは「ブルース・リー」でしょう。截拳道(ジークンドー)の創始者にして、映画人としても偉大な功績を残した伝説の人。初主演映画『ドラゴン危機一発』はまさに始まりの一作です。

ではではそのブルース・リーが自身のアクションの土台にしている、いや師と言ってもいい人は誰なのか。それこそがあらゆるアクション映画の始祖でもあり、彼がいなければ今日の多種多様なアクション映画は存在しなかったであろう…その人こそが「イップ・マン(葉問)」です。

イップ・マンは1893年生まれの香港の中国武術家であり、「詠春拳」という武術の継承者でした。ブルース・リーもイップ・マンから学んだことがあります。

そのイップ・マンを題材にした映画が2008年に公開され、空前絶後の大ヒットを記録します。それが“ウィルソン・イップ”監督『イップ・マン 序章』であり、主役であるイップ・マンを演じたのは“ドニー・イェン”です。本作はその後も2作目『イップ・マン 葉問』(2010年)、3作目『イップ・マン 継承』(2015年)が作られ、日本を含む世界中でアクションファンを恍惚にさせました。

ちなみに混乱しがちですが、“ドニー・イェン”の大成功に触発されて他にも「イップ・マン」関連の映画が多数生み出されましたが、この“ドニー・イェン”版のシリーズとは無関係です。『イップ・マン外伝 マスターZ』(2018年)は正式なスピンオフ作品ですが。

とにかくこの“ドニー・イェン”版のシリーズの人気は凄まじく、『イップ・マン 継承』のときは本国を含む多数のアジア各国で同時期に公開していた『スター・ウォーズ フォースの覚醒』の動員を上回るパワーを見せ、映画業界を驚愕させました。そのせいで、次の「スター・ウォーズ」新作の『ローグ・ワン』で“ドニー・イェン”が出演したのはその「イップ・マン」人気に乗っかりたかったからではないかとまことしやかに囁かれるほどに(まあ、あれ、ほぼイップ・マンでしたからね…)。

とまあ大熱狂なのですが、残念なことに盛り上がっているのは一部のマニアだけという感じでもあります。でもぜひ今からでも遅くはない、このイップ・マン旋風に飛び込んでほしいです。そう、なにせシリーズの4作目にして完結作『イップ・マン 完結』が公開されるのですから。ラストチャンスですよ。

本作はずっと続いてきたシリーズがその名のとおり終了します。正真正銘の最終章です。それも本当に綺麗に大団円というかたちで幕を閉じるので、シリーズを観てきたファンは涙腺決壊ですよ。どこかのあの映画シリーズも見習ってほしい…(スタローンさん、聞いてますか)。

主役はもちろん“ドニー・イェン”。お疲れ様ですとしか言いようがない…。ブルース・リーを演じるのは『イップ・マン 継承』に続いて“チャン・クォックワン”。今回はさらに出番が多め。おなじみのポー刑事も“ケント・チェン”が安心感を持って好演。

今作では『戦神 ゴッド・オブ・ウォー』の“ウー・ユエ”、台湾のアイドルグループ「F4」のメンバーである“ヴァネス・ウー”といった新顔も登場。またスタントマンとしてハリウッド映画でも活躍する“スコット・アドキンス”が今作の強敵枠です。

さらに“ヴァンダ・マーグラフ”という若手女優も男臭い世界ですが印象的に活躍します。新人ですけどここから一気にブレイクしそうですね。

この“ドニー・イェン”版「イップ・マン」シリーズを未見だという人は羨ましいくらいです。これからたっぷり味わえるのですから。前3作をしっかり予習して、ぜひ『イップ・マン 完結』に臨んでください。

以下では『イップ・マン 完結』の感想を書いていますが、感極まってシリーズ全体の思い出もぶちまけているのでご了承ください。

おすすめ PiCKUP!
↑『イップ・マン 序章』…ドニー・イェン版「イップ・マン」シリーズの第1弾。これを見ないと始まらない。

オススメ度のチェック
ひとり◎(シリーズ一気見する価値あり)
友人◎(一緒に熱く燃え上がろう)
恋人◯(誠実さと真摯な愛を学ぶ)
キッズ◯(子どもも大興奮&お手本に)

『イップ・マン 完結』予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『イップ・マン 完結』感想(ネタバレあり)

師匠イップ・マンの軌跡

これまでの物語をざっくり振り返ると、1930年代の広東省仏山市で妻ウィンシンの支えのもと道場を開いていたイップ・マンは、1938年に仏山が日本軍に占領されたことで生活が困窮。日本軍の劣悪な仕打ちに耐えかねて「文化交流」の名のもとに日本軍の主将と戦うことになり、見事に撃退。しかし、沸き上がった群衆と日本軍が衝突する最中に撃たれてしまい、イップ・マンとその家族はその地を離れることに…。これが1作目『イップ・マン 序章』

次は、1949年の終戦直後のイギリス領“香港”にてまたも道場を開いたイップ・マン。そこでは香港を統治するイギリスの警察組織に賄賂を贈ることで香港武術界はなんとか残ることができた状況でした。そしてイギリス人ボクシングチャンピオンと戦うことになってしまい、圧倒的に理不尽な状態でもイップ・マンは不屈の精神で相手を倒し、香港人の誇りを見せつけたのでした。これが2作目の『イップ・マン 葉問』。

続いて、1959年の香港。イップ・マンは妻と次男と一緒に暮らしており、世間からも師として尊敬を集めながら武館を営んでいました。しかし、詠春拳の同門だという若い男がやってきてどちらが真の継承者なのかを勝負で決めることに。その勝負になんとか勝ってみせたことで、イップ・マンはかけがえのない弟子ができました。一方で愛する妻は病気で帰らぬ人となってしまいます。これが3作目の『イップ・マン 継承』。

そして本作『イップ・マン 完結』の物語。

時代は1964年。妻を亡くし、次男と暮らしていたイップ・マンは自分も癌に冒されていることを知ります。そのことを誰かに言うことはできませんでした。

そんなある日、道場に謎の黒人男がやってきて弟子たちと一触即発。そこにイップ・マンが一蹴りを加えて諫めると、なんでもその黒人男はブルース・リーの弟子だそうで、イップ・マンのことは常々聞いていたそうで感激のハグをされます。今はブルース・リーはアメリカで活躍していました(アクション俳優になるのが1966年なのでそのちょっと前ですね)。

そしてサンフランシスコに招待され、いろいろと滅入ることもあったので気分転換がてらに異国アメリカへと単身向かうことに決めます。

家と次男ジンは旧友のポー刑事に任せることにしますが、次男との関係は悪化中。武術を教えてほしいと駄々をこねる息子をイップ・マンは思わずビンタしてしまいます。

そんな後悔を残してのアメリカの地。案内されて到着したのはサンフランシスコにある唐人街。アジア人がたくさん暮らしており、見慣れた光景です。

まずこの地域に強い影響力を持つ「CBA(Chinese Benevolent Association)」に挨拶に行きます。そこにはズラッと丸テーブルに人が座る中、リーダーにして太極拳のマスターであるワン・ゾンホアが佇んでいました。彼は開口一番、イップ・マンの弟子ブルース・リーが掟を破って西洋人に武術を教えていることに苦言を呈します。イップ・マンもブルース・リーをかばいますが、決裂するだけ。

イップ・マンはサンフランシスコ国際空手トーナメントに赴き、ブルース・リーと久々に再会しました。彼は頼もしい武術家になっており、そして多様な人種の弟子に愛されていました。ダイナーでブルースと食事していると、いちゃもんつけてくる白人空手集団がノコノコやってきましたが、ブルース・リーはそんな奴らを華麗に圧倒します。

一方、ワンの娘ヨナは学校で憎たらしい白人同級生にいじめに遭っており、「Yellow Monkey」とバカにされ、腹の立つ女子に髪を切られてしまいます。ちょうどそこに校長と面会した帰りのイップ・マンが乱入し、おふざけが酷すぎる悪ガキにお灸を据えます。その際、腕を挟まれて痛めてしまいますが、イップ・マンとヨナは仲良くなりました。

しかし、そのヨナをイジメていた女子がバートンというアメリカ海兵隊でも一流の強者の娘であり、大きな波乱が待ち受けることに…。

イップ・マンはこのアメリカでも不義に立ち向かうべく武術を振るいます。ずっと続けてきたように…。

エンタメとして最高に楽しい

“ドニー・イェン”版「イップ・マン」シリーズは基本的は毎回ワンパターンです。イップ・マンの前に強い奴が立ち上がり、そして勝つ。この繰り返しであり、4作目である『イップ・マン 完結』もその軸は変わりません。

ただ、このシリーズが凄いと思うのは、そのシンプルな枠の中で、アクション映画としてのエンターテイメント性と伝記映画としての史実へのリスペクトが巧みに両立しており、その配合がとても高品質なので、結果惚れ惚れするような出来に仕上がっている…そんな感じだと私は考えます。

まずエンタメの部分ですが、詠春拳という要素は大事にしつつ、毎度毎度観客を湧き立たせる至極のバトルをセッティングしてくれるのが本当に嬉しいです。ある種の異種格闘技戦のような夢のマッチングになっており、これぞ映画のフィクションのなせる技ですね。

1作目は日本軍将軍との一騎打ち。この頃はこれでもまだ抑え気味。しかし、2作目になるとまさかのボクシング選手との対決になり、これはどうやったら勝つんだ?というハラハラで観客は釘付けになりました。個人的には2作目にあった、サモ・ハン・キンポーら香港映画界の大物アクション俳優演じるキャラとの試し勝負がアツかった…。あれが私のベストバトルですかね。3作目はボクサーのマイク・タイソン演じるキャラとも戦い、もはや怪物相手の死闘でした。

かといって単なる派手なだけのアクション映画では終わらず、そこに武術としての精神や誇りをブレることなく据えているので、身も心も圧倒されます。

また見せ方も上手く、『イップ・マン 完結』でもそうでしたが、徐々に武術を小出しで見せていき、最終的には本気の絶技をぶちかます…この溜めが最高でもあったり。本作ではワンとの丸テーブルに向かい合いながらの回転台バトルという、「それ、使い方間違っているよ!」なお試し戦がありつつ、再度ワンとちゃんと戦う際は怪我をしているイップ・マンに合わせて片手制限勝負になるなど、やはり少しずつ力量が発揮されていく感じが溜まりません。

今作はブルース・リーの対決も見られてファンも満足できます。ヌンチャク使用の早業など、見たいものはだいたい見せてくれるし…。

エンタメ性を引き立てるのはアクションだけではありません。このシリーズは音楽も素晴らしく、毎度流れるテーマ曲がこの作品群を連ねるひとりの人間の人生史を想起させて、とても感動を増量させてくれます。音楽を手がけたのは、『機動警察パトレイバー』や『攻殻機動隊』でおなじみの“川井憲次”ですが、本当に良い仕事をする人です。

アメリカ社会のアジア蔑視を描きつつ…

この「イップ・マン」シリーズのエンタメ性と伝記モノの2つの軸を巧妙に結合する際の良い仕掛けになっているのが、毎回その時代ごとの社会状況を取り入れていることです。

1作目は日本軍の占領による劣悪な統治、2作目はイギリスの支配、3作目はアメリカの権力者。常に蹂躙される中国・香港人の苦しさというものがあり、イップ・マンが何と戦うかをハッキリさせます。つまり、イップ・マンはただのアクションヒーローとして得意げにバトルしているわけではなく、あくまで世の中の不義是正のために武術を発揮する。このポジションは揺るぎません。

シリーズではこの理不尽な社会の抑圧をエンタメならではの多少のオーバー表現にアレンジしつつ、アクションバトルによってスカッとするカタルシスに変えてくれます。おそらくアジア系の人間がここまで明確に差別や偏見に声を上げる作品というのは珍しく、だからこそ「よくぞ言ってくれた!」と人気を集めるのでしょう。

『イップ・マン 完結』ではイップ・マンは初めて相手側の国に行きます。要するに「外国人」になるわけです。今作ではこれまでのもともと先住していた現地人の苦悩ではなく、移民として移り住んだアジア系の苦悩に向き合った一作。酷い罵倒を受け、不平等な要求を飲まされ、根本的に蔑まれる。ワンの娘ヨナの学園生活での、いかにも白人上位にいるチアリーダー&マッチョイズム男の登場によって、そのアジア蔑視が子どもの世界でも息づいていることをわかりやすく提示します。

そしてこのアジア差別は昔の話ではないわけです。偶然ではあるのですが、コロナ禍によって欧米でのアジア蔑視がしっかり表出し、あらためて「あ、やっぱりアジア系って差別されているんだな」と確信できた出来事を我々は経験したばかり。アメリカのトランプ大統領も「Chinese Virus」と堂々と発言しますからね。この言葉は中国人だけを指しているのではない、アジア全体への侮辱です(そもそも差別する人はアジア各国の区別なんてついていない)。

『イップ・マン 完結』の敵となるバートンは2作目・3作目と比べるとビジュアル的な派手さはないです。でも演じているのがスタントパーソンとして活躍する“スコット・アドキンス”だと考えると、これは一種の「アジアvsハリウッド」なんだと思います。確かにアメリカにはアジアの武術が伝わってそれはそれでいいこと。でも尊敬を忘れ、我が物顔で私物化するのは黙っていられませんよ…という静かなメッセージ。多様性だなんだとは言え、まだまだハリウッドでのアジア系の扱いは不公平がまかり通っています。文化盗用ではないですけど、今のハリウッド含め欧米社会に対するちょっとしたお灸をすえる一作なのではないでしょうか。

その後、イップ・マンは帰国し、息子が父の姿を映像におさめます。これは本当に映像があるので史実どおりなのですが、同時にイップ・マンが映像という映画の世界で生き続けていることのメタファーにもなっており、そう考えると感動もひとしおです。

肉体は滅んだイップ・マンですが、今ある無数のアクション映画の中でその命は燃え続けているのです。私たちが力に溺れず、弱者を生む社会を許さず、敬意というものを忘れないかぎり。

『イップ・マン 完結』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 90% Audience 95%
IMDb
7.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Mandarin Motion Pictures Limited, All rights reserved.  イップマン完結

以上、『イップ・マン 完結』の感想でした。