当選おめでとう!死んでもらいます!…映画『ジャックポット!』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
日本では劇場未公開:2024年に配信スルー
監督:ポール・フェイグ
じゃっくぽっと
『ジャックポット!』物語 簡単紹介
『ジャックポット!』感想(ネタバレなし)
宝くじは当選してからが本番!
日本では数字選択式全国自治宝くじが「ロト」として親しまれていますが、この「ロト」は英語の「Lottery」のことで、英語でも宝くじ全般を指します。
単純な数字の巡り合わせで大金が手に入るなんて夢のような話です。
アメリカでの過去最高額(2024年8月時点)の宝くじ当選金額は、2022年11月にカリフォルニア州で31歳の人が的中させた20億4000万ドル。ただし、いろいろ受け取り方や税金などで最終的に手にする金額は大きく減ります。この事例では、9億9760万ドルの一括払いが選択され、税引き後の手取りは6億2850万ドルとなったそうです(USA TODAY)。
アメリカでは宝くじについては歴史が古く、紆余曲折があり、1800年代には政府運営の宝くじの不正が問題視されたりもしました。しかし、今ではすっかり宝くじは州にとって重要な収入源となっており、大部分の州では州の宝くじが盛況です。
なので宝くじで当選した人だけでなく、地域行政の懐もパンパンにしてくれる…そんな存在が宝くじなんですね。まあ、当たらないと個人には意味ないんですが…。
今回紹介する映画はそんな宝くじをネタにしながら、とんでもない一攫千金と絶体絶命のシチュエーションが同時に襲ってきてしまったラッキー(アンラッキー?)な人を描いたコメディです。
それが本作『ジャックポット!』。
本作はほんのちょっぴりの架空の未来を舞台にしており、具体的な地域はアメリカのカリフォルニア州。このカリフォルニア州で本作独自の”とある宝くじ”が人気を博しているという設定になっているのですが、これがハチャメチャな宝くじなのです。
すごく高額当選であるというのは一般的な宝くじと同じ。しかし、当選日から日没までの間に当選者を殺すと、殺した人が当選金を総取りできます。はい、合法的な殺人です。だからみんな当選者を殺そうと躍起になります。
ジャンルとしてはデスゲーム系ですね。政府公認による限定的な殺人の合法化というと、『パージ』シリーズなどがありますが、『ジャックポット!』は確かに欲に目がくらんで殺意満々な人たちがわらわらしているのは同質ですけども、雰囲気はコメディ寄り。あまりバイオレンスなアプローチをとっておらず、笑いながらまったり眺められるエンターテインメントになっています。
『ジャックポット!』を監督しているのは、『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』(2011年)、『SPY/スパイ』(2015年)、『ゴーストバスターズ』(2016年)と、コメディが大得意の”ポール・フェイグ”。最近はサスペンスな『シンプル・フェイバー』(2018年)、ロマンスの『ラスト・クリスマス』(2019年)、ファンタジーの『スクール・フォー・グッド・アンド・イービル』(2022年)と、多彩なフィールドで仕事していましたが、『ジャックポット!』は久々にド直球のコメディに回帰してきましたね。
『ジャックポット!』で主人公を演じるのは、今や引っ張りだこで大人気のアジア系俳優である“オークワフィナ”。『レンフィールド』や『クイズ・レディー』と最近も十八番のコメディで大活躍でしたが、『ジャックポット!』もお手の物な感じです。
今作で“オークワフィナ”は宝くじ当選者を演じるわけですが、“オークワフィナ”本人は移民ルーツの韓国&中国系アメリカ人で、ラップ曲を投稿していたYouTuberから現在は大作に次々出演するほどにキャリアを大成功させた人間ですから、この役にぴったりですね。
共演するのは、プロレスラーであり、ドラマ『ピースメイカー』など俳優としてもお茶目に愛嬌を振りまく“ジョン・シナ”。さらに“オークワフィナ”とは『シャン・チー テン・リングスの伝説』でタッグを組んだ“シム・リウ”も参加しています。
『ジャックポット!』は劇場公開されておらず、「Amazonプライムビデオ」で配信がされています。家で気楽に観るのにちょうどいいでしょう。
『ジャックポット!』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :ストレス解消に |
友人 | :気軽なエンタメ |
恋人 | :暇つぶしに |
キッズ | :子どもも見れないことはない |
『ジャックポット!』予告動画
『ジャックポット!』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
「California Grand Lottery(カリフォルニア宝くじ)」。それは大恐慌の2026年に始まった州の宝くじです。あらゆる経済的な困窮がこの宝くじの人気を支えていました。結局のところ、政府も民衆もカネが欲しかったのです。
しかし、この宝くじの最大の特徴は、日没までに当選者を殺せば合法的に賞金を手にできるということ。唯一のルールは銃の使用の禁止。これさえ遵守すれば、後は何をしようともどんな手段でも当選者を殺すことで当選金が手に入るという第2の大チャンスが訪れます。強運の当選者はこの手にした大金を使うためには、必死に逃げ続けないといけません。
2030年、ロサンゼルス。ひとりの人間が大勢に追いかけられています。立体駐車場を通り抜け、路地裏に逃げ込むもそこにも欲に目がくらんだ者たちが待ち構えていました。ある一軒家に逃げ込むも赤ん坊を育てていた女性に殺されました。
その家に特殊部隊が突入し、死亡を確認。次に間髪入れずに車から降りてきたのはジョニー・グランドと撮影班。見事に当選者を殺した人に賞金をプレゼントします。
そして別の日。次の抽選まであと18時間でした。キャリーオーバーが続いて今回の宝くじの当選金額は破格の36億ドルとなっています。
そんな中、元子役のケイティ・キムは、芸能界に復帰したいという微かな希望を抱いてロサンゼルスにやってきていました。警官のふりをして子どもに冷たくあたる父親を牽制し、少し善行をします。でも、隣の女性は俳優の夢を応援してくれるのかと思ったら時計を盗まれただけでした。
街は荒れていました。貧富の差が露骨に雰囲気にでていました。ケイティはこのカリフォルニア州での宝くじを知りません。
シャディとそのボーイフレンドのDJから部屋を借りたケイティですが、こんな変人と暮らすのかとさっそく気持ちが沈みます。騒音だらけの夜を粗末なベッドの上で過ごす人生からいつ卒業できるのか…。みんなが注目する名の知れた俳優になれる日はいつか来るのか…。
翌日、下水が天井から漏れている状態で目を覚まし、水濡れで荷物もダメになり、オーディションなのに借りたダサい服で向かうしかなくなります。
オーディションの場に立つと、焦ってポケットを漁ると変なカードがでてきます。何かに登録したと音声が流れますが、気にしてられません。
結果、オーディションは散々でした。まだオーディション参加者が座っている廊下を歩いていると、何か通知が鳴り、そのオーディション参加者の女性たちが自分のカードを取り出します。
すると急にケイティを襲ってきます。しかも、その建物にいる全員が誰でも容赦なく襲ってくるのでした。まるで殺す気のように…。
わけのわからないケイティは懸命に身を守ります。でも多勢に無勢。このままでは追い詰められて死んでしまいます。
そのとき、急にスーツ姿の男がやってきて、乱闘からケイティを守りながら契約書に同意させてきます。この男はフリーランスのノエル・キャシディ。当選者を守る専門の仕事をしているようです。
ケイティは初めてこの宝くじの仕組みを知ります。どうやら上空のドローンが14分ごとにケイティの位置を大衆に知らせており、日没までに生き延びないといけないようです。辞退をするには街をでるしかないと言われ、ケイティは面倒事から解放されたいと申し出ますが…。
カリフォルニア州がぶっ壊れたら…
ここから『ジャックポット!』のネタバレありの感想本文です。
『ジャックポット!』はカリフォルニア州がえげつない非道な宝くじを始めました!という痛烈なギャグから開幕します。
その理由は大恐慌による財政の逼迫と説明されていますが、実際のカリフォルニア州は”アーノルド・シュワルツェネッガー”知事の時代だった2008年~2009年頃に財政赤字に陥り、今も予備費を取り崩し、支出の一部を削減する計画を実行しています。それでも2024年時点では壊滅的な財政は回避しています。
そもそもカリフォルニア州は人道的な支援に精力的であるという特性がありますので、この『ジャックポット!』はそんなカリフォルニア州がタガが外れて人権をガン無視するようになったらここまで酷いことになります!という最悪の最悪をユーモラスに風刺する映画という感じですね。
もうひとつの本作の風刺は、カリフォルニア州のお膝元にあるハリウッドという映画産業。カリフォルニア州がぶっ壊れるということはハリウッドもぶっ壊れるのです。まあ、もともとハリウッドはすでに壊れているところはあるので、今さらかもだけど…。
ということで本作は徹頭徹尾、ひたすらにアホな展開が連発します。このギャグのノリにどこまでついてこれるかが、本作を楽しめるかどうかの分かれ目。最初の5分からエンディングまで、基本的にギャグテイストは同じです。
当選者であるケイティ・キムを演じる“オークワフィナ”と、ボディガードのノエル・キャシディ演じる“ジョン・シナ”のコンビネーションもなかなかで、2人ともコメディ慣れしているので、これくらいは容易いですかね。
たぶん予算的な問題なのか、この題材でありながらあまり大物ゲストをガンガン登場させられていないのもやや物足りなさはありましたけど…。
“マシン・ガン・ケリー”が一番本人役でアホをやってましたけども、最近の“マシン・ガン・ケリー”は俳優業もやっていて映画にいろいろでていますから、もうこれくらいの自虐はお手の物でしょう。
“マシン・ガン・ケリー”の実際の邸宅にはパニックルームはあるのかなぁ…。私はずっと思ってるんだけど、パニックルームって中に閉じこもってもますますパニックになるだけな気がするんですよね…。
もっと振り切ってほしかった
家でだらけて楽しむぶんには必要最低限のエンタメを提供してくれる『ジャックポット!』ですけども、個人的に大きめの不満はコンセプトがそこまで徹底されていない部分ですかね。
例えば、序盤から本作はかなりアクションに力が入っています。当然、これはハリウッド産業を意識したもので、次から次へとみんなアクションができてしまうのも、「ハリウッドを夢見る者はアクションが鍛えられているんです」というどうしようもない言い訳だけで成り立っています。
ケイティ・キムも「ステージ格闘技をやっていたから」という理由で、格闘術に手慣れており、前半のアクションの連発は見た目は愉快です。
ただ、後半はそのアクションが抑え目になったり、見どころが減るのでジャンルらしさは減退しますし、どう逃げるのかというハラハラドキドキ感の演出はそれほど練られていないかなと思いました。
ハリウッド業界風刺でアクションを上手く混ぜ込んでいる映画としては、直近で『フォールガイ』という相当に完成度の高い作品を見ちゃったので、そのせいでこの『ジャックポット!』の印象が薄くなるというのは否めないところがあります…。
そして次の大きな問題は、オチのところで、最終的に時間間際でケイティの幸運を祝福してくれる大衆が現れて、一件落着するわけですが、言いたいことはわかるにしても、さすがに雑だったかな、と。
あれだけ倫理観もない奴らをたっぷり見せられて、いきなり善意の大切さに切り替えられても…ついていけないでしょう。
このコンセプトでやるなら、最後まで救いようがないくらいにこの社会は腐っているというところを突きつけてもいいんじゃないかなと思います。
“シム・リウ”だけを最大の悪役に据えるのではなく、もっと癖の強い悪役をいっぱい用意して、どんどんぶっ倒していく方式にしても良かったですね。この設定なら州の知事とかを敵にするくらいでもいいでしょうし…。というか、悪いのは政府でしょう。
ボディガード企業が悪いという方向性は、ちょっと本作の配信少し前に起きた某大統領候補暗殺未遂事件でのスケープゴートな非難を連想してしまうし、あまりタイミングもよろしくなかったような…。
『ジャックポット!』は「もし宝くじが当たって億万長者になったらどうする?」という聞き飽きた定番の話題の映像おつまみになるくらいしか役割は果たせませんが、そんなものでいいのかもしれません。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
関連作品紹介
ポール・フェイグ監督作の映画の感想記事です。
・『スクール・フォー・グッド・アンド・イービル』
・『ラスト・クリスマス』
・『シンプル・フェイバー』
作品ポスター・画像 (C)Amazon MGM Studios
以上、『ジャックポット!』の感想でした。
Jackpot! (2024) [Japanese Review] 『ジャックポット!』考察・評価レビュー
#ポールフェイグ #オークワフィナ #ジョンシナ #シムリウ #映画業界