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『ブラッド・ファーザー』感想(ネタバレ)…俳優メル・ギブソンの復活に偽りなし?

ブラッド・ファーザー

俳優メル・ギブソンの復活に偽りなし?…映画『ブラッド・ファーザー』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Blood Father
製作国:フランス(2017年)
日本公開日:2017年6月3日
監督:ジャン=フランソワ・リシェ
ブラッド・ファーザー

ぶらっどふぁーざー
ブラッド・ファーザー

『ブラッド・ファーザー』物語 簡単紹介

かつて悪事に手を染める奴らが蠢く犯罪の世界に身を置き、現在はアルコール中毒のリハビリをしながら、トレーラーハウスで暮らすジョン・リンク。すでに身を引いており、静かに生活していた。彼のもとに数年前から行方不明となっていた一人娘のリディアが駆け込んでくる。それは穏やかな再会とはならない。ギャングと起こした面倒なトラブルにより、警察や殺し屋から執拗に追われるリディアを守ることを決意するが…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ブラッド・ファーザー』の感想です。

『ブラッド・ファーザー』感想(ネタバレなし)

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老体アクションのススメ

「geriaction」という言葉があります。

これは「geriatric(老人の)」と「action(アクション)」を組み合わせた単語で、「老齢の人間(たいていは往年のアクションスターが演じる)が主役で活躍するアクション」のこと。最近だと『LOGAN ローガン』がズバリそれですね。

コアなアクション・ファンは「ああ、それね、大好物です!」と手を叩いて喜んでくれるし、理解してくれると思いますが、キャリアを積みに積んで年季の入ったアクション俳優はそれだけで見ていて楽しいものです。そりゃあ、若い俳優のほうが体力もあるだろうし、客も呼べるでしょうが、問題はそこじゃない。ストーリーが単純だとしてもノー・プロブレム。「時代の変化に逆境を感じながらもあの俳優がアクションしている!」というだけで「応援しないと」心情を掻き立てられます。

本作『ブラッド・ファーザー』も典型的な「geriaction」です。

正直、アル中で生活が荒んだ親父が娘を危機から守るという設定は、凡百の映画で散々観てきました。オリジナリティは無いに等しいです。でも、「geriaction」好きはそんなこと気にしないはず。

なんていったって本作の主演は“メル・ギブソン”ですよ。この人ほどつい最近まで“時代の変化に逆境を感じていた”人はいるでしょうか。『マッドマックス』で脚光を浴び、『リーサル・ウェポン』という次作にも恵まれた彼はアクション俳優として最高のスタートを切った…はずでした。しかし、不倫、暴力、差別的言動と目に余る問題の塊がボロリと飛び出ると、当然ながら世間も黙ってはいません。映画人生をあっという間に転落させてしまいました。

それでも『復讐捜査線』(2010年)や『キック・オーバー』(2012年)で主演をつとめるとやっぱり魅力にあふれている。人間性は欠陥だらけでも、俳優として凄いなと実感するわけです。

そんな“メル・ギブソン”久しぶりの主演作である『ブラッド・ファーザー』は、アクション俳優として完全復活という宣伝に偽りなしです。同じ年に『ハクソー・リッジ』で監督としても完全復活してますから、もう凄い。なんだ、イエス・キリストなのか、この人…。

“メル・ギブソン”の復活を待ちわびた人も、その名を知らなかった人も、気持ちよく楽しめる「geriaction」。全編88分と短く、感傷的なドラマもほどほどにテンポ良く展開していって観やすい。しかも、思った以上にコミカルで、普段この手の映画を観ない人にもオススメの一作です。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ブラッド・ファーザー』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):父、娘のために奮闘

若い女性がショッピングセンターで弾を買います。店を出ると男たちの乗る車に。彼らは銃を持っており、明らかにこれから物騒なことをするつもりのようです。

そしてその女性の仲間の男たちはとある家に乱入。住人の女をいたぶり、何かを要求します。若い女性はボーイフレンドでもあるジョナに「やめて」と言いますが、「俺の女なら本気を見せろ」と銃を向けさせてきます。「撃て」と煽り、パニックになった若い女性は驚いて発砲。それはジョナにあたってしまい、自分自身は逃げ出すしかありませんでした。

それとは別の場所。ジョン・リンクは断酒のグループセッションに参加していました。もう2年になり、酒のせいで壊れた人生を取り戻すのは簡単ではありません。娘は行方不明なまま、元妻も口を利かない。昔の仲間に会えば仮釈放も終わってしまう。そんな苦悩を吐露します。

そこでは反省した態度をとっていましたが、実際は「俺を見捨てた連中に復讐してやりたい」が本音。

今はタトゥー彫りの仕事。トレーラーハウスで暮らす貧しい生活です。

壁には行方不明者の張り紙。リディア・ジェーン・カーソン、2012年失踪、当時14歳。それが娘でした。

ある日、いきなり電話がかかってきます。「あんたの娘だ」と名乗ってきたので慌てるジョン。「パパ?」…それは疲れ切った声で「しばらく前にママの家を出て…逃げないと…」と言い、2000ドルあれば落ち着けるという話を断片的にします。

「待ってろ」と言葉をかけ、ジョンはオンボロな車で教えられた場所に向かいます。

そこには確かに娘のリディアがいました。車に乗せます。腕に自分の顔のタトゥーが彫ってあるのを見て、とりあえず声をかけるリディア。安心したのか助手席ですぐに眠りこけてしまいました。

家に到着。まだ眠っているのでベッドに寝かせます。バックを調べると銃があるのを発見。いろいろヤバそうな感じはすぐに察知しました。

テレビもろくに使いづらい家に小言も出るリディアでしたが、ジョンにはここがすべて。外に出るリディアですが、周りは殺風景な荒野で何もありません。長居できないと言います。彼氏がかなり危険な男だと語り、死んだと説明します。裏社会の連中が自分を追ってきているとも…。

「1週間は酒とヤクに手を出すな。それが条件だ」とジョンは告げました。裏社会の件はそこまで信じていませんでした。

リディアのスマホには「必ずお前を捕まえる」とメッセージが来ており、本人は焦ります。しかし、できることはなく、切羽詰まるのみ。「この家にヤクを持ち込むな」と怒鳴るジョン。

ある夜、家に男たちがやってきます。「失せろ」と家に閉じこもりますが、男たちはドアをガンガン叩き、窓を割ってきます。すぐにジョンは仲間のカーヴィに連絡。ぶちぎれたジョンはナイフと銃で応戦。銃撃戦になり、連射して大量に撃ち込んできます。今度は車で突進。家は横転。滅茶苦茶です。

そこにカーヴィの自警団チームが駆けつけ、多勢に無勢なので男たちは退散します。怒りがおさまらないジョン。しかし、車は発進できず…。警察が駆けつけるのが見え、これで仮釈放もおしまいかと思った矢先、車のエンジンが始動。なんとかその場から逃げます。

敵は白人至上主義とメキシコ系のギャングの組み合わせだと分析。「正直に話せ」とあらためて娘を問い詰めます。「恋人の男を殺した」と白状するリディア。事態を把握した父。とりあえずモーテルに宿泊。

しかし、休む暇はそんなにありませんでした。

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血まみれだけど血は通ってるオヤジ

主人公ジョンは、もう設定が完全にイコール“メル・ギブソン”なくらいそのまんまですが、アウトローな存在感は“メル・ギブソン”史上最高クラス

荒野の真ん中にポツンとあるボロボロトレーラーハウスに暮らし、近所の仲間たちにタトゥーを入れて生活している刺青師。そのわりには、風貌が明らかにコイツ“ただものじゃない”感が満載なのが可笑しい。

実際、娘のリディアがジョンのもとに逃げ込んできて、トレーラーハウスに悪どもが攻めてくれば本領発揮。容赦なく刺す撃つの反撃。これに対して、敵側もトレーラーハウスに車を突っ込ませて横転させる容赦なさも良いですね。

暴力アクションだけでなく、頭も切れるジョン。敵の正体を看破し、罠を張り、刑務所生活で培った犯罪者とのネットワークを駆使していくのも面白いです。最後のオチも、この映画のコミカルさがよくでている終わり方で良いのではないでしょうか。ただ、終盤のバイクの下に爆弾を仕掛けるくだりは、作戦として行き当たりばったりすぎて、賢さに疑問符が付きましたが…。

暴力しかできないけど、人間味はある感じが堪らないオヤジでした。

バイクの後ろに私も乗りたい…。

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オヤジの血が確かに通ってるムスメ

そんな父の娘リディアを演じた“エリン・モリアーティ”もキュートでした。

今年公開された『はじまりへの旅』に出演していましたが、一番の活躍の舞台は海外ドラマ(『ジェシカ・ジョーンズ』など)。映画での出番が増えると良いですね。

凶暴オヤジに動じない強さと、映画館でスマホを鳴らしちゃうようなガサツさが、あの父の娘だなと思わせます。表情演技も良くて、序盤のジョナーに住民を撃てと迫られるシーンで、動転してジョナーを撃ってしまったときの「撃っちゃった!」な顔がGOOD(ちなみにここのジョナーの「撃たれちゃった」な顔もいい)。父や他の男たちとの掛け合いも楽しそうでした。父と隣り合うことで可愛さが倍増しますね。つまり、“メル・ギブソン”は女の子を可愛くみせるアイテムだった!? そういうことにしよう。

父から娘への継承の物語としても綺麗にまとまってました。

父娘以外にも、ジョナーを演じた『ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー』でおなじみの“ディエゴ・ルナ”も良かったし、カービーを演じた“ウィリアム・H・メイシー”はさすがのベテランの貫禄でした。

ひとつ文句を言うなら、「“メル・ギブソン”、完全復活!」のノリで観てる観客としては、劇中のジョンは最後ひっそり人生から引退してしまう展開に、若干の「あれれ…」と興をそがれる気持ちもなくはないですが…。ま、いっか。

次の“メル・ギブソン”、楽しみです。マッドなマックスとかでないかな…。

『ブラッド・ファーザー』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 89% Audience 63%
IMDb
6.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Blood Father LLC, 2015 ブラッドファーザー

以上、『ブラッド・ファーザー』の感想でした。

Blood Father (2017) [Japanese Review] 『ブラッド・ファーザー』考察・評価レビュー