10作目とか気にせずにブースト!…映画『ワイルド・スピード ファイヤーブースト』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本公開日:2023年5月19日
監督:ルイ・ルテリエ
ワイルド・スピード ファイヤーブースト
わいるどすぴーど ふぁいやーぶーすと
『ワイルド・スピード ファイヤーブースト』あらすじ
『ワイルド・スピード ファイヤーブースト』感想(ネタバレなし)
理解増進ではファミリーは生まれない
残念なことに日本では「理解増進」というテキトーな言葉で世間を誤魔化そうという政治家が一定数いるのですが、この映画シリーズはそんな戯言は通用しません。
『ワイルド・スピード』シリーズは「車」の映画ですが、「ファミリー」の映画としての側面を持ち合わせています。この「ファミリー」は血縁とかの話ではなく、一種の独自の絆で結ばれた「共同体」のことです。
このシリーズが「ファミリー」映画として明確に舵を切り始めたのは4作目の『ワイルド・スピード MAX』ぐらいからだと思いますが、以降は主人公のドミニク・トレットを中心にどんどんと「ファミリー」のメンバーが増えていきます。以前は敵だった相手だとしても、次のときには仲間になっていたりする。これもこのシリーズのいつもの風景です。
ちょっとメンバーを整理してみましょうか。
“ヴィン・ディーゼル”演じる主人公のドミニク・トレットはもういいですね。本来このシリーズにはもうひとりの主人公としてブライアン・オコナーというキャラクターがいましたが、演じる“ポール・ウォーカー”が2013年に亡くなってしまい、『ワイルド・スピード SKY MISSION』を最後にブライアン・オコナーのキャラは物語からフェードアウトしましたが、世界観内でブライアン・オコナーが死んでしまったわけではありません。ドミニクはブライアンの魂を受け継ぐひとりで2人分の主人公です。
そのドミニクの妻となっている“ミシェル・ロドリゲス”演じるレティ・オルティス。『ワイルド・スピード EURO MISSION』で死んだと思ったら敵として出現したり、いろいろありましたが、今ではドミニクの一番のパートナーです。ドミニクの昔の亡き恋人エレナとの間にできた息子ブライアン(リトルB)を育てている母にもなっています。
“タイリース・ギブソン”演じるローマン・ピアースは2作目『ワイルド・スピードX2』からでている古株のひとり。ストリートレーサーのムードメーカーです。
“クリス・“リュダクリス”・ブリッジス”演じるテズ・パーカーはそんなローマンとは喧嘩するほど仲がいいような間柄。
“サン・カン”演じるハン・ルーもおなじみの仲間で、1度死んでもまた復活しました(よくあることです)。
“ナタリー・エマニュエル”演じるラムジーは『ワイルド・スピード SKY MISSION』からの登場。ハッカーの立ち回りですが、このファミリーと一緒にいると車にも自然と詳しくなっていきます。
“ジョン・シナ”演じるジェイコブ・トレットはドミニクの実弟。『ワイルド・スピード ジェットブレイク』では敵でしたが今や頼れる家族の一員です。
他にも「ファミリー」の仲間はいますが、とにかくこのシリーズは誰がファミリーに加わるのかについて理解や定義なんて求めず、「俺たちの走る道が全てだ!他は勝手について来い!」の精神で突っ走っています。でもこれくらいでいいんでしょう。“存在”さえしていれば、もう証明することもない。それが「ファミリー」のありのままの姿です。
そんな「ファミリー」の映画シリーズも10作目に突入しました(スピンオフの『ワイルド・スピード スーパーコンボ』を入れると11作目)。
それが本作『ワイルド・スピード ファイヤーブースト』です。
『ワイルド・スピード ファイヤーブースト』は前作である9作目の『ワイルド・スピード ジェットブレイク』に続く「The Fast Saga(ファスト・サーガ)」の続編ですが、今回はひと味違います。
というのも最終章に突入すると語られているからです。ただ、当初は2部作の予定で、次の11作目で完結だと言っていましたが、「ユニバーサルに“もう1作作って”と言われたから3部作にしようかな」と“ヴィン・ディーゼル”が言い出したので、なんかもうわかりません。というかそんな後先考えずにやっぱり製作していたんだな…。
それにしても原題は「Fast X」なのですが、偶然にも日本の邦題ですでに「X」は使っていましたが(『ワイルド・スピードX2』など)、本国のタイトルが日本のものに近似する現象が起き始めましたね。だから日本の今作の邦題も「ワイルド・スピード X10」とかになるのかと思ったら、平常どおりの必殺技ネーミングのままだった…。
『ワイルド・スピード ファイヤーブースト』の監督は、シリーズに貢献してきた“ジャスティン・リン”が降り、『トランスポーター』で爆走していた“ルイ・レテリエ”にバトンタッチ。
新キャラとしては、『アクアマン』の“ジェイソン・モモア”が無邪気な悪を熱演し、『キャプテン・マーベル』の“ブリー・ラーソン”も参戦します。最終章のはずなのにまだ増えるキャラたち…。
とりあえず最終章っぽい雰囲気だけは醸し出していますが、いつものノリです。シートベルトを締めてください。
『ワイルド・スピード ファイヤーブースト』を観る前のQ&A
A:もう面倒なので本作からいきなり観ても別にどうってこともないと思います。
オススメ度のチェック
ひとり | :ついていくしかない |
友人 | :引っ張っていくしかない |
恋人 | :気分を窺って |
キッズ | :今回は子ども向け要素も |
『ワイルド・スピード ファイヤーブースト』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):10年前の因縁
10年前。麻薬王エルナン・レイエスは金庫に資産を溜め込んでおり、将来をゆくゆくは任せることになる息子ダンテ・レイエスに熱心に指示していました。
そこに頑丈な装甲車と何台もの車が乱入。主犯はドミニクとブライアン、その一味です。銃撃戦となる中、一同は慣れた手つきでワイヤーをつなぎ金庫ごと強奪してしまいます。まんまとしてやられたダンテは立ち尽くしますが、そうもしていられません。
街中を金庫引きずって疾走するドミニクたちの車。それを憤怒の形相で追うダンテの車。金庫の激突で周囲の車は吹き飛ばされるも、ダンテはガトリングで攻撃。しかし、金庫直撃で車は大破し、ダンテは海に投げ出されます。そしてエルナンの車にも金庫は直撃し…。
現在。ロサンゼルスではドミニクは息子のリトルBにどこで使うんだというレベルの運転操作を教えていました。車への愛は相変わらずです。ドミニクは妻のレティと共にリトルBを育てており、家に帰るとハン、ラムジー、ローマン、テズといった仲間もいて、みんなで食事。穏やかな日々です。祖母のアブエリータもいます。
ローマンたち4人は秘密工作組織からの要請で盗まれたマイクロチップを奪還するためにローマに明日には旅立つ予定でした。ドミニクとレティは留守番です。
しかし、夜、傷だらけのサイファーが訪ねてきて事態は一変します。因縁の相手ゆえに感情を必死に抑えるドミニク。とりあえず家に上がらせ、銃で警戒するレティと共に事情を聞きます。
サイファーはダンテについて警告し、父親の死の復讐として狙っているらしく、そのためなら何を敵対させようが気にしない狡猾さで、サイファーは仲間を失って孤立したとのこと。
世界で最も危険なハッカーであるサイファーは間違いなくドミニクにとっては天敵ですが、それを軽々と翻弄するダンテはさらに危ない存在なのは明白です。
翌日、サイファーを拘留するために到着した秘密工作組織のリトル・ノーバディ(エリック・リーズナー)からローマンたちに任務を与えた事実はないと教えられ、ローマの件はダンテの罠だと把握します。
何も知らないローマンたちのチームは事前の作戦どおりに、トラックを奪いとるべく動きだしていました。それをローマの街並みを一望できる場所から不敵に見物するダンテ。このダンテにはもっと醜悪な作戦がありました。ローマを吹き飛ばせる爆弾が彼の手から転がりだすことに…。
ローマの“ゴロゴロした”休日
ここから『ワイルド・スピード ファイヤーブースト』のネタバレありの感想本文です。
この『ワイルド・スピード』シリーズの恒例ですが、たいていは「そんな因縁があったの?」みたいな新事実が冒頭で提示され、そこから騒動が巻き起こりますが、今作の『ワイルド・スピード ファイヤーブースト』は5作目の『ワイルド・スピード MEGA MAX』に巻き戻ります。
そう言えばこんなやんちゃなことをしていたなぁ…という思い出の振り返り。リオデジャネイロには絶対に恨まれていると思う…。
あらためて映画内で再鑑賞させられると「これ以上のぶっ飛んだカーチェイスもないだろう」と思うのですが、この『ワイルド・スピード』シリーズは常に予想を凌駕します。
ダンテの策略にハマってローマで大変なことになるドミニク・ファミリー。トラックの中にあったのは…巨大な丸い爆弾。いや、イマドキこんなアホみたいなかたちの爆弾ある!?ってくらいのバカなデザインをしていやがる…。
そしてそれがまるでそのために設計されたかのようにゴロゴロとローマの街中を果てしなく転がりだします。きましたよ、このシリーズの真骨頂。
「前はでっかい四角の物体を引っ張ったから、今度はでっかい丸い物体を追いかけようぜ!」という発想で考え出したとしか思えない…。
あの爆弾ボールがバスを真っ二つにするシーン、本当に実際に球体をバスにぶつけて破壊するアクションを撮影しているので、どうかしてます。
ローマの歴史ある街並みが巨大なパチンコ台みたいになりつつ、大炎上で燃え上がったボール型爆弾が暴走。結局、ドミニクの「なんだそりゃあ…!」という大技でアクロバティックに爆弾を止めるのですが、爆発はしているのでわりと被害は甚大。というか、あそこまで転がるなら、もう爆発しなくても大損害ですよね…。
良かったですよ、爆弾はひとつで…。私は映画を観ながら「爆弾がさらに追加で現れたらどうしよう」と内心ハラハラしてました。
報道ではドミニクたちにも非難が向いているようですけど、まあ確かにドミニクたちもこんなんじゃ悪くないとは言い切れない気もする…。
今度はローマに恨まれちゃったなぁ…。
この後の見せ場の後半アクションシーンでは、ヘリで引っ張られるドミニクの車がロケットブースターでヘリを撃破し、そのヘリ残骸を武器に使うという…。ワイヤーで遠距離物理攻撃はお手の物ですね。車はヌンチャクを使えるんだよということを教えてくれる、『ワイルド・スピード』シリーズだけの自動車教習の講座でした。
ジェイソン・モモアの新鮮なマッチョイズム
すでにキャラクター過多なくらいに盛沢山なシリーズですが、そこに追加でボリュームを上乗せする『ワイルド・スピード ファイヤーブースト』。新キャラクターとして筆頭はやはりダンテでしょうか。
演じているのが“ジェイソン・モモア”ということもあって、マッチョイズムの新しいタイプを確立しています。無邪気で子どもっぽい言動もあれば、頭にリボンをつけておままごとみたいにしたり、これはもう“ジェイソン・モモア”にしか体現できない悪役です。
10年前と比べてキャラ変しすぎじゃない?…とは思うけど…。
どうしても昔ながらの「筋肉は正義」みたいなマッチョ・キャラクターばかりだったこのシリーズにとって、これほどお茶目に特化した男にまで到達するとは…。これが終着点だったのかぁ…。
また、前作の敵だったジェイコブは前作以上に輝いていたのではないでしょうか。やっぱり“ジョン・シナ”は子どもと組ませると輝きますね。彼もマッチョイズムとしては新しい方向性を開拓できる逸材ですから。今作はリトルBとの楽しいロードムービー要素になっていて、この『ワイルド・スピード』シリーズをキッズ向けにアレンジするうえでの欠かせない役目を担っていました。
終盤ではジェイコブは自分の身を犠牲にして爆発していきましたが、これも『ワイルド・スピード』シリーズ恒例の“信用できない死”になるのか、はたして…。
“ブリー・ラーソン”演じるテスは今回ばかりはそんなに活躍はしていませんでしたが、エージェント・エイムスの裏切りによって戦う理由が明確化したので、次作ではもっと暴れてくれることでしょう。
そしてラストでは懐かしの顔触れの帰還が何人も。まず、南極探検隊状態になっていたレティとサイファーの前に“ガル・ガドット”演じるジゼル・ヤシャールが潜水艦で派手に登場。ジゼルは『ワイルド・スピード EURO MISSION』で死亡したはずですが、このシリーズは1回の死はノーカウントです。普通、潜水艦ってあんな気軽にでてこないですからね…うん…。
さらにルーク・ホブスもクレジットでついに登場。ダンテの次のターゲットとして名指しされ、スマホを素手で握りつぶしていました。“ドウェイン・ジョンソン”は“ヴィン・ディーゼル”との確執を乗り越えてまた戻って来たのは嬉しいですが、どうやってこの最強筋肉野郎を混ぜるのか…。“ジェイソン・ステイサム”演じるデッカード・ショウと『ワイルド・スピード スーパーコンボ』以来のタッグも期待したいですが、とにかく組み合わせるのは大変なチート・キャラだからね…。
何よりも「これ、本当に完結3部作? 数年後には“3部作のPART5が公開!”とか言ってないよね?」と半信半疑になってしまうのですけど、まあ、きっとユニバーサル側はずっと続けたいと思っているでしょうし、スピンオフや新シリーズとして継続するのはほぼ間違いないでしょうから…。
この『ワイルド・スピード』シリーズにとってはチームメンバーのバラバラ・クリフハンガーなんてガス欠よりも怖くないです。次回はどの街に恨まれることになるのかな。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 54% Audience 87%
IMDb
6.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)UNIVERSAL STUDIOS ワイルドスピード10 ファイアーブースト
以上、『ワイルド・スピード ファイヤーブースト』の感想でした。
Fast X (2023) [Japanese Review] 『ワイルド・スピード ファイヤーブースト』考察・評価レビュー