これが韓国映画アクションの究極!…映画『悪女 AKUJO』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:韓国(2017年)
日本公開日:2018年2月10日
監督:チョン・ビョンギル
悪女 AKUJO
あくじょ
『悪女 AKUJO』あらすじ
犯罪組織の殺し屋として育てられたスクヒは、育ての親であるジュンサンと結婚するが、ジュンサンが敵対組織に殺害される。怒りにかられたスクヒは復讐を果たすが、今度は国家組織に拘束されてしまい、国家直属の暗殺者として第2の人生を歩み始める。やがて、新たな運命の男性と出会い、幸せを誓ったスクヒだったが…。
『悪女 AKUJO』感想(ネタバレなし)
日本よ、これが韓国映画のアクションだ
また活きのいい韓国映画が水揚げされましたよ。ほんと、韓国映画の海は豊漁ですね。
その名も『悪女 AKUJO』です。
この映画の魅力は一にも二にも“アクション”。“アクション”に全てを賭けています。ネタバレせずに簡単に説明すると、『ジョン・ウィック』の世界観で、『アトミック・ブロンド』のような屈強な女主人公が、『ハードコア』ばりの無茶苦茶な戦闘をしまくる…というアクション映画ファンの好きな要素を全部組み合わせたゴージャスなパフェみたいな作品です。食べごたえはありますが、超ハイカロリーですから手を出すときは注意。
本作の監督は、日本で『22年目の告白 私が殺人犯です』というタイトルでリメイクされた元映画『殺人の告白』を手がけた“チョン・ビョンギル”です。
韓国映画『殺人の告白』を観たことがある人ならわかるはず。そう、あのケレン味という言葉ですら言い表せないような「なんじゃそりゃ!」と思わず言ってしまうほどの怒涛のアクションを見せた作品の監督です。
“チョン・ビョンギル”監督は「スタントマン出身という異色の経歴を持つ」と公式サイトに書いてあるのですが、別のインタビューだとそうではないと本人が発言しているのですよね。それによれば、25歳のときに軍隊を除隊した後、アクションスクールに6ヶ月通って修了し、その後、短編映画を撮ったり、ドキュメンタリー映画「俺達はアクション俳優だ」を作ったりしていたら、29歳のときに商業監督デビューするチャンスを獲得。それで『殺人の告白』が生まれて大ヒット。その成功で出資を希望する会社が現れて、しかも好きな映画を撮っても良いとの快い対応をしてくれて、じゃあということで好き勝手にしてできたのが本作『悪女 AKUJO』だったそうです。
このように比較的独立系のキャリアを歩み、自由なスタイルで才能を伸び伸びと成長させただけあって、若いゆえに粗削りながらも“新しいことをやってやるぜ!”な勢いが凄まじい。どうりでこんな荒唐無稽な映画が作れるわけですよ。『殺人の告白』の10倍くらいは凄いアクション…というか韓国映画界では映像的ド派手さでいえばトップ級なんじゃないかな。
こんなの見せられたら、日本の映画のアクションはまだまだ子ども騙しだなと思ってしまいますよ…悔しいですけど、歴然の差です。
繰り返しますがアクション映画ファンは必見中の必見です。絶対にお見逃しなく。
ちなみに苦手な人はめちゃくちゃ酔います。『ハードコア』で画面酔いした人は確実に今作でも酔うので、ご注意ください。
『悪女 AKUJO』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):自由が欲しいなら…
陰気臭い建物の廊下で次々と相手を殺していく襲撃者。銃で発砲しまくり、時には刃物を駆使して、どんどん湧いてくる敵対者を容赦なく圧倒していきます。挟み撃ちされようが、集団に取り囲まれようが、掴まれて引きずられようが、全くのお構いなし。
廊下一帯が死体の山になり、血塗れになった後、今度は運動部屋へ。そこでも大男たちがいました。
「なんだひとりか? このアマが!」
一斉に挑みかかってくる男たちを惨殺していくのはひとりの女性。殺意に満ちた形相で自分よりもはるかにデカい体格の男にトドメをさします。
雨降る路地裏に降り立つと警察に囲まれ、「手をあげろ!」と…。女性は血が垂れる顔で立ち尽くし、逮捕されるのでした。
その逮捕劇を暗い部屋で議論する集団。あの騒動の最中にハードディスクが盗まれたそうで、一方であの襲撃した謎の女に対して「使えそうですね」と語る人物。
この謎の女には過去がありました。スクヒは幼い頃に父親を殺害され、北朝鮮マフィアの若頭ジュンサンに拾われてそこで育ったのです。その彼女はなぜこんな襲撃に至ったのか…。
今、捕まったスクヒは拘束されてしまい、隙を見て逃げ出します。なんだかよくわからない施設の中です。あちこちを混乱しながらうろつきますが、料理をしている人、劇をしている人、さっぱり事情が掴めません。やけに女性が多いような気もする…。
なんとか屋上まで行き、人質を取りながら手近にいた女性に「ここから出る方法」を聞くのですが、その女性は「そこから飛び降りろ」と言います。そして女性自身がジャンプしてみせます。そこでスンヒも意を決してジャンプしますが、地面にいた女性が銃を取り出し、空中のスンヒに発砲し…。
クォン部長の策略にまんまとハマったスンヒ。ここは国家が秘密裏に運営する暗殺者養成施設。スンヒの顔は整形済みで、「あなたは消えた存在よ。でも私たちの仲間になるなら蘇らせてあげる」とクォンに言われます。任務を果たせば自由になれる…。
国家直属の暗殺者として生きるしかないのか…。
全ては「カッコよさ」のため
『悪女 AKUJO』がアクションのための映画だということは一目瞭然です。なぜなら冒頭から始まるのは世界観の説明文章でもナレーションでもなく、キャラクターのドラマでもない、いきなりフルスロットルのアクションなのですから。
冒頭すぐに何の説明もなく展開される一人称視点バトル。全編一人称視点で展開された意欲作『ハードコア』を彷彿とさせる主観視点戦闘は勢いを増し続け、廊下での連続戦、そして少し広めの部屋での集団戦へとステージをテンポよく変更。その激しい戦いの最中、敵に体を拘束され、鏡に頭を打ちつけられるシーンで初めてこの視点の持ち主の顔が映ります。そこにあったのは怒りに燃える女の顔。そこから一人称視点は終了、彼女の周りをグルグルしながら、戦闘を追いかけるカメラワーク。女は最後の敵を仕留めて窓からダイブ。雨降る街で警察に捕まります。
この一連のオープニング・シークエンスでこの映画がどういうものなのかこれ以上ないくらい単純明快に説明しきっています。つまり、アクション映画にもいろいろあります。ドラマやキャラの心理を表現するツールとしてアクションを使っているものとか。でも、本作はアクションはツールではなくてメインなんですね。アクションが主人公みたいなものです。映画という媒体を壮大なアクションの実験場にしています。これもまたエンタメ映画の醍醐味のひとつです。
バイクチェイスでの日本刀バトルなんてその極みですが、こんなもの見たことがありません。いや、正確には『ファイナルファンタジーVII アドベントチルドレン』というTVゲームのフルCG映像作品で見たことがあるのを思い出しました。こちらもバイクで疾走しながら剣で斬り合うアクションがあるのですが、当然ファンタジーの世界での全編CGです。まさかそれを実写でやる奴が出てくるとは夢にも思いませんでした。
終盤のバス戦も無茶苦茶。「車のボンネットの上に乗りながら運転する」という文章で書くと凄く意味不明な行為に始まり、バスを横転させるまで車内で乱闘を繰り広げる。やりたい放題です。
きっとツッコむ人もいると思います。アクションに理屈がないじゃないかと。
そのとおりです。でも理屈なんて気にしていません。このアクションである理由はただひとつ。「カッコいい」からです。ただのロマンです。ウェディングドレスで狙撃するのだってそう。カッコいいんです。ビジュアルの問題です。他に言うこともありません。
どうやって撮影したのか不思議ですが、「CGを使ったのは安全のためのワイヤーを消す作業など、ごく一部」だそうで、事前にプリビズ(プリビジュアライゼーション:製作段階での簡易なCG映像化)で入念に下準備をしたのち、撮影に臨んだとか。主役を演じた“キム・オクビン”もほぼスタントなしで自分でやったのですから凄いですよ。
新しい殺し屋の時代は始まったばかり
その極まったアクションの犠牲になっているのか、ドラマパート、とくにストーリーテリングはかなり強引。
一番気になったのは回想です。この映画、回想シーンが凄い突発的に挟み込まれます。しかも、主人公のスクヒがジュンサンに育てられて暗殺者になったのち冒頭につながるまでのパートと、父親を殺されてジュンサンに育てられる子どもの頃のパートなど、回想自体が異なる時間軸で複数展開されるため、何が何だか情報整理するのが大変です。もう「回想」という固形物でぶん殴られた気分になります。
あと、中盤の恋愛パートも好みは分かれる部分でしょうね。これだけ挑戦的なアクションをしておきながら、恋愛は昔ながらの韓国映画によくあるベタなノリだったことに、私なんかは不意を突かれましたよ。ヒョンスのキャラとか王道でしたね。
惜しいなと思ったのが、スクヒが捕まった国家機密組織の殺し屋養成施設のくだり。恋愛パートを少し抑えてもいいから、ここの養成パートをもっと見たかったなと。完全に『ジョン・ウィック』の世界観ですし、どんなトレーニングをするのか見たいという好奇心にかられます。いろいろ可能性はあったのにもったいないです。
そんな風に苦言も言いましたが、最終的にスクヒが殺し屋に目覚めるというオチも、お約束的なハッピーエンドにしていない感じが良いなと思うし、続きが見たくなるくらいです。ほんと、いろいろな映画の殺し屋が結集して殺し合うユニバースとかやってほしい…。
ちなみにアクション以外で個人的に好きなシーンは、スクヒの子どもが口にご飯を入れたまましゃべるシーンです。韓国映画のこういうところ、良いなぁ…。
本作のアクションに理屈はないと書きましたが、本作がこのアクションをする意義は“自己満足”以上のものがあったと思います。そもそも韓国映画界では「女性がアクションをして主役となる」ことに懐疑的な空気があったそうで、期待されない中でも通しぬいた企画だったとか。結果、ここまでのクオリティが生み出されたことは、大きな風穴になったでしょう。
これからの韓国映画ではアクション面でも女性の活躍が増えるかもしれませんね。日本も負けてられません。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 85% Audience 65%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★
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以上、『悪女 AKUJO』の感想でした。
The Villainess (2017) [Japanese Review] 『悪女 AKUJO』考察・評価レビュー