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『ジェイソン・ボーン』感想(ネタバレ)…記憶喪失って便利だね

ジェイソン・ボーン

記憶喪失って便利だね…映画『ジェイソン・ボーン』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Jason Bourne
製作国:アメリカ(2016年)
日本公開日:2016年10月7日
監督:ポール・グリーングラス

ジェイソン・ボーン

じぇいそんぼーん
ジェイソン・ボーン

『ジェイソン・ボーン』物語 簡単紹介

かつて記憶を失くしてCIAに追われた暗殺者ジェイソン・ボーン。今は世間から離れてひっそり生活していた。卓越した危機対応能力は衰えていないが、それをもう使うつもりはない。そんな隠遁した彼のもとにCIAの元同僚のニッキーが現れ、複雑な過去を持つボーンにまつわる、ある驚きの真実を告げる。自分の知らない裏がまだ存在するのか。そして、CIAとジェイソン・ボーンは再び相見えることに…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ジェイソン・ボーン』の感想です。

『ジェイソン・ボーン』感想(ネタバレなし)

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もう1本作っちゃいました

仕事にせよ勉強にせよ「身体で覚える」という表現がありますが、ジェイソン・ボーンという男は次元が違った。

なんといったて、記憶喪失で自分の名前も思い出せないのに、なぜか驚異的な体術・射撃・運転技術・判断力を発揮し、CIAや殺し屋を独りで圧倒してみせるのですから。「身体で覚えていた」というレベルをはるかに超えてます。

そんなジェイソン・ボーンが大活躍する『ボーン』シリーズ3部作は、この手のジャンルとしては評価の高い映画シリーズとなりました。

私の思う『ボーン』シリーズの魅力は、緻密な戦略と戦術で相手を翻弄するロジカルな単独アクションの面白さだと考えています。いわゆる力押しな展開はわりと抑えめで、主人公はひとつひとつ現場で情報を集め、道具を入手し、切り抜けていきます。記憶喪失という決定的なわからなさを自身で抱えていながら、こんな細かいことができる…そのギャップが愉快で痛快なのです。記憶喪失の男に出し抜かれるCIAのアホさも気持ちがいいものです。

この3部作でジェイソン・ボーンは自分の名前も思い出し、大切な人を失うも一件落着したのですが、まさかの続編です。

タイトルはシンプルに『ジェイソン・ボーン』。肝心の内容はといえば、いつもの『ボーン』シリーズそのままです。逆に言えば真新しさは全くないと思って構いません。「新章スタート」というよりは「もう1本作っちゃいました」みたいな感じ。本当になんで作ったのだろう…? なにかビジネス的な勝ちを確信できる自信があったのかな。

あえて新しさを挙げるなら、新規キャスト陣くらいでしょう。

今作のヒロインは『エクス・マキナ』や『リリーのすべて』で一躍脚光を浴びた“アリシア・ヴィキャンデル”です。彼女の日本人ファンも増えたことでしょうし、それ目当てで観てもまあいいかもしれない。

また、CIAの長官を演じるのは、日本人にとっては宇宙人と戦ったり宇宙人そのものだったりするイメージが定着している“トミー・リー・ジョーンズ”です。なんかスクリーンで久しぶりに見た気がすると思ったら、2014年に『The Homesman』という映画で監督していたんですね(日本未公開です)。

さらに、本作でジェイソン・ボーンを追い詰める敵の殺し屋を、『ブラック・スワン』でバレエ団の振付師としてこちらではヒロインを精神的に追い詰めた“バンサン・カッセル”が演じています。

もちろん主人公を演じる“マッド・デイモン”も健在。全然変わってません。

キャスト目当てで観るならまだしも、『ボーン』シリーズ未見の人は、本作よりも第1作の『ボーン・アイデンティティー』を観るほうを強く推奨します。それから本作を観るか考えるのがおすすめです。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ジェイソン・ボーン』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):全てを思い出した?

アメリカの極秘ロジェクトとしてCIAが主宰した人間兵器作成計画「トレッド・ストーン作戦」の第1号として世へ送り出されたジェイソン・ボーン。しかし、ある任務をきっかけに記憶を喪失してしまい、さまざまな陰謀に巻き込まれることになってしまっていました。

今、ボーンはギリシャとアルバニアの国境のツァマンタスにいました。格闘の賭け試合(ベアナックル・ファイティング)に参加して、小銭を稼ぐ日々でした。といってもボーンに敵なし。相手を1発でぶちのめすので手ごたえもありません。

一方、アイスランドのレイキャビク。元CIA局員のニッキー・パーソンズはハッカーが集う秘密のサーバールームにいました。そしてある場所へハッキングを仕掛けます。

CIA本部ではCIA局員のヘザー・リーがハッキングを受けているという報告を受けます。そこには「トレッド・ストーン作戦」のファイルもあります。すぐさまハッカーを逆探知。レイキャビクからの攻撃だと調べ上げ、電気を落とします。

その被害はロバート・デューイCIA長官にも伝わります。スノーデン級の事態に緊張が走るCIA。ただでさえ過去の失態で批判のマトなのにこのままでは信用はゼロです。

ヘザーはニッキーが仕掛けたものだと突き止め、報告します。ジェイソン・ボーンの案件だとわかり、上層部はざわつきます。「その女を消せ」とCIA長官は指示。ヘザーは「ぜひ私に」と名乗りでます。

それでも念には念を入れてCIA長官はイタリアのローマにいる作戦員に指示を出し、アテネにいるターゲットを抹消するように命令します。

アテネにいたボーンは部屋でひっそり暮らしていました。記憶は戻っても過去は戻りません。いくら振り返っても複雑な想いが交錯するだけ。

そんなボーンのもとにニッキーが現れます。国会前のデモに紛れながら、2人は会話。「ディソルトの指令でCIAの機密作戦ファイルを入手した。CIAはまた新作戦を始動させた。アイアンハンド」…そう言われてもボーンは「俺は関係ない」と距離をとろうとします。「伝えたいことがある。お父様とトレッドストーンよ。ファイルによれば関係がある。作戦前から監視されていた。このファイルを読めばわかる」

2人は追跡者に気づいて逃走。CIAは全力で行動をモニタリングします。二手に分かれ、ボーンは群衆の火炎瓶などを巧みに利用して追っ手をまきます。そして持ち前の格闘で相手を倒しますが、今度は警察に目をつけられ、その場を退避。ギリシャは緊急事態宣言を出しており、暴徒と警察の衝突で大混乱。ボーンはバイクで駆け抜け、ニッキーとの合流を急ぎます。

しかし、ニッキーと合流したものの、目の前でニッキーが狙撃され殺されてしまいました

守りきれなかったことを悔やみつつ、ボーンはニッキーが遺した手がかりと向き合うことに…。

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みんな、同じことしているのに気づいて!

過去シリーズ作を観た人なら、序盤から既視感満載の本作。

ジェイソン・ボーンと情報提供者の接触、それを防ごうとするCIA、そして送り込まれた殺し屋…いつも通りです。タイムリープしてるんじゃないかと疑いたくなるくらい同じ光景に、「いや、新作だし何かこれまでの型を壊す意外な展開があるんじゃ…」と思って観ていましたが、そんなことはなかった

あえていえば、デモによる暴動を上手く利用した追い追われの展開が新しい要素かもしれないですけど…。

過去作に登場したニッキー・パーソンズがあっけなく死ぬ展開もいつもの『ボーン』シリーズですが、なんか新しいヒロインに交代するための製作上の都合をビンビン感じます。

過去作と展開が同じであるため、観客には展開が読めてしまい、サスペンスが薄いのも致命的です。デューイが黒幕なのは一目瞭然であり、あとは流れ作業。ジェイソン・ボーンの緻密な戦略と戦術で相手を翻弄するロジカルな単独アクションが、ただのあらかじめ決まった台本にしかみえない。

CIAの戦法も全く同じですからね。CIAも記憶喪失しているのでしょうか…。

今作は明らかにスノーデン事件から影響を受けていますが、実際の事件の方が本作より面白いですし…(『シチズンフォー スノーデンの暴露』を観てください)。

でも、シリーズもの特有の難しさかもしれません。どんなシリーズでもそうですが、なにかこう作品を位置付ける「型」のようなものが完成しないと難しいのですよね。その「型」が変に柔軟性がないと、続編を生み出し続けることはできないし、かえってその「型」にファンが愛着を持てるほどの“お決まり”感がないと、支持もされないし…。この手のジャンルのシリーズはハードルが高いです。

「ジェイソン・ボーン」にはまだそれが見つかっていないというか、そもそも元の1作目自体は結構一発ネタ感のあるトリックだったので、広げにくいというのもあるのでしょう。

なんでもいいからひとつ新しい展開を見せてほしかったです。

CIAに反旗を翻すヘザー・リーとIT企業「ディープドリーム」のCEOのアーロン・カルーアは、もっと掘り下げて描けば、まだ魅力があったかもしれない。ラスト、リーがボーンに一杯食わされる展開は良かったですが。全体的にこの二人は「善」の面が強すぎます。“アリシア・ヴィキャンデル”のまだ無垢な感じが残っているキャラクター性といい、今作のキャスティングは結構個人的には好きな部類なのですけど。次回作があるなら“アリシア・ヴィキャンデル”は殺さないであげて…。

ボーンと対峙する殺し屋も普通でした。いっそのこと、同じく記憶喪失だけど、でも緻密でロジカルな戦いではなく情け容赦なく暴れまわる、CIAもコントロールできない殺し屋が登場してもよかった気がする。ボーンさえ勝てないような。といっても、「ボーン」シリーズは悪役に関しては、悪役そのものにどう立ち向かうかというアクション系の要素よりも、社会全体が悪になりうるというテーマ性があるので、敵の設定うんぬんは蛇足かもしれないですが。

なにより前シリーズでは面白さにつながっていた「記憶を失くした」という設定が、今作では話を続けるための都合の良い設定でしかないのが残念です。これでは、今回は父を巡る話だったわけですが、次は実は子どもがいたとか、兄弟がとか何でもありでしょうに。

記憶喪失の使い方の悪い例のような作品でした。脚本家にしてみれば諸刃の刃ですからね、記憶喪失は。

う~ん、次はこんなのはどうですか。ジェイソン・ボーン以外の全員が記憶喪失になってしまって孤立する展開とか。まあ、そうなってくると完全にジャンル違いますけどね。いや、戦闘を完全にド忘れしてしどろもどろで相手と取っ組み合うジェイソン・ボーンもいいかも。銃の撃ち方をイチから学習しだすところから初めてね…。

ダメだ、ふざけたアイディアしかでてきません…。

『ジェイソン・ボーン』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 54% Audience 56%
IMDb
6.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 4/10 ★★★★

(C)Universal Pictures ジェイソンボーン

以上、『ジェイソン・ボーン』の感想でした。

Jason Bourne (2016) [Japanese Review] 『ジェイソン・ボーン』考察・評価レビュー