ええ、そのパーカーです…映画『プレイ・ダーティー』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2025年)
日本では劇場未公開:2025年にAmazonで配信
監督:シェーン・ブラック
性描写
ぷれいだーてぃー
『プレイ・ダーティー』物語 簡単紹介
『プレイ・ダーティー』感想(ネタバレなし)
2025年に新パーカー始動
犯罪小説、それもとくに「ケイパー(Caper)」と呼ばれる、犯罪者の視点で大胆な犯罪行為が癖たっぷりに描かれるサブジャンルにおいて、その名手と評されるアメリカの作家。それが「ドナルド・E・ウェストレイク」です。
その“ドナルド・E・ウェストレイク”の代表作が『パーカー』シリーズです。「リチャード・スターク」というペンネームで執筆しており、最初の小説は1962年の『The Hunter』でした。その後も24作品以上も重ね、“ドナルド・E・ウェストレイク”が亡くなる2008年まで続きました。
主人公は「パーカー」という男で、犯罪に対して効率性を最重視することを徹底している完璧主義の人物です。自分の感情を殺し、一方でいたずらに他者を殺しはしません。ただし、仲間の裏切りはせず、それを許しもせず、几帳面ながら必要であれば殺人はします。要は犯罪を完遂することが全て。そんな男です。
この“ドナルド・E・ウェストレイク”の小説『パーカー』シリーズは、これまで何度か映像化されており、『メイド・イン・USA』(1966年)、『殺しの分け前/ポイント・ブランク』(1967年)、『組織』(1973年)、『スレイグラウンド』(1983年)、『ペイバック』(1999年)、『PARKER/パーカー』(2013年)などと、それぞれの主演で映画が製作されてきました。
そして2022年から「Amazon MGM Studios」が映像化権を保有するようになったようで、フランチャイズとするべく着手。2025年に最初の映画が公開されました。
それが本作『プレイ・ダーティー』です。
毎回映画化されるたびにそのクリエイターの個性が滲み出るものですが、今回の『プレイ・ダーティー』はひときわ癖が強めとなっています。なんて言ったって監督はあの“シェーン・ブラック”ですから。
『アイアンマン3』や『ザ・プレデター』などフランチャイズ系も携わってきましたが、“シェーン・ブラック”と言えばやはりクライム・サスペンス。それも品のないアホさが隠しきれないユーモアをともなうのが最大の特徴です。

キャリアの出発点となった脚本仕事の『リーサル・ウェポン』に始まり、初監督作の『キスキス,バンバン』(2005年)、そして『ナイスガイズ!』(2016年)と、その手腕は確実に発揮されてきました。
今回の『プレイ・ダーティー』は、その“シェーン・ブラック”監督が『パーカー』シリーズを自己流にアレンジするとこうなる…というひとつの解答を提示する映画です。なので原作と比べると相当にアホ度が増していると思ってください。
なお、特定の原作小説を映画化しているわけではなく、あのシリーズ全体から要素を抜き出して独自に脚色して再構築したオリジナルとなっています。
『プレイ・ダーティー』で主演を飾るのは、『フライト・リスク』の“マーク・ウォールバーグ”。
そこに、『ブック・オブ・クラレンス 嘘つき救世主のキセキ』の“ラキース・スタンフィールド”、『アリータ: バトル・エンジェル』の“ローサ・サラザール”、『フレーミングホット!チートス物語』の“トニー・シャルーブ”、ドラマ『シュミガドーン!』の“キーガン=マイケル・キー”、『スーパーマン』の“チュクーディ・イウジ”、ドラマ『アップルサイダービネガー』の“チャイ・ハンセン”、『メインストリーム』の“ナット・ウルフ”など、多彩な顔触れが並びます。
『プレイ・ダーティー』は日本では劇場公開はされておらず、「Amazonプライムビデオ」で独占配信中です。
『プレイ・ダーティー』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
基本 | — |
キッズ | 性行為の描写が一部にあります。 |
『プレイ・ダーティー』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
パーカーという男がいます。パーカーという名はありふれていますが、このパーカーは知る人ぞ知るパーカーです。少なくとも裏社会では…。
今、パーカーはあるひとりの若造を叱責しています。怒鳴りはしません。淡々と計画外の迂闊な行動をとったことへの反省を促します。若造は最初は不満だったようですが、パーカーの名を聞いて大人しくなります。
とりあえず仕事に戻ることにし、一同は狭い部屋から出ます。その広い部屋では強盗の真っ最中でした。ここはある組織が大金を溜め込んでいる場所です。パーカーは同僚の女性の前でカッコつけたいので金庫を開けたがらないマネージャーの心を読み、先ほどの同じ強盗チームの軽率な若造を殴ってもいいとこっそり許可します。
高額紙幣だけを袋に詰め、ずらかろうと扉を開けると、たまたまここに用事があったカネに困った一家と遭遇し、あろうことかその家族のジョーという男がパーカーたち強盗のカネを横取りしようと銃を発砲。強盗チームの数名が射殺される中、カネも奪われます。
パーカーは急いで追跡。取り返しますが、わずかな紙幣をその家族の女に分けてあげます。
そして急いでその場を逃走します。なんとか完了しましたが、競馬場で派手にやってしまったので身を隠さないといけません。
仲間のフィリーとノックスはぶつくさ言いながらも、今回の成果を乾杯で祝います。しかし、和やかな空気でしたが、若手のゼンはいきなり銃を撃ってきて、一緒に強盗を成し遂げたはずのみんなを容赦なく殺します。
一瞬だけ察して行動をとれたパーカーだけ逃げながら撃たれて川に落ちてしまい…。
パーカーが目を覚まします。なんとか一命はとりとめていました。しかし、仕事は完了できていません。仕事一筋のパーカーはそれが許せません。負傷した脇腹を抑えながら、緊急時のために隠した銃とカネを手に、そそくさと出発します。
フィリーの妻だったグレイスのもとに行き、フィリーが仲間に誘ったゼンの情報を聞き込みします。教えてくれた情報をもとに、レジー・ライリーという人物を探すことに。
知り合いのグロフィールドに電話し、手伝ってもらうことにします。グロフィールドは俳優で今は劇場を経営していますが、収益は全くありません。それでも裏稼業で儲けたカネがあるのでなんとかなっています。
ゼンを見つけ、彼女はさらにデカい山の資金にするべく、あのパーカーたちのカネを横取りしたと知ります。真の狙いはスペインのガリオン船レディ・オブ・アリンテロという沈没船でした。それは国家予算を上回る価値があり、イグナシオ・デ・ラ・パスというゼンの母国の独裁者はそれをわざと「アウトフィット」というマフィアに盗ませ、自分の懐に入れるつもりでした。ゼンは元デ・ラ・パスの精鋭部隊で、その悪巧みを止めたいのです。
一方、キンケイドは「アウトフィット」の親玉のロジーニに、先日起きた強盗でパーカーが関与していたと報告します。パーカーとは3年前に因縁があり…。
仲間を裏切らないためには…

ここから『プレイ・ダーティー』のネタバレありの感想本文です。
“ドナルド・E・ウェストレイク”の小説『パーカー』シリーズをこよなく相手している人からすれば、この映画『プレイ・ダーティー』はちょっとやりすぎというか、“シェーン・ブラック”監督の手癖をだしすぎていると顔をしかめるかもしれない…それもわかります。それくらい思いっきりはっちゃけてますから。
確かに原作の軸である「パーカー」という主人公の性格はツボを押さえていると思います。仕事の完遂最優先のプロフェッショナル思考。血も涙もないようにみえるけど、残忍なわけでもない。表面上、倫理や道徳がみえる一瞬があったとしたら、それはあくまで仕事の達成を優先しているだけ…。けれども本当の真意は誰にもわからない…。
本作の“マーク・ウォールバーグ”版のパーカーも随所にその味わいがあります。
序盤でパートナーの男性の迂闊さのせいで巻き添え的に横取り逃走劇に身を置いた女性にポンと札束をひとつ渡すのも、まるで慈悲のようにみえて、単に口止めとして共犯にしているだけでもあったり…。はたまた落下させたキンケイドが下でまだ生きているのにトドメをささないのは、余計な仕事を増やしたくないからなのか…。
ただ、ボスコを撃ち殺してしまったりと、しっかりキャラクター自虐が入っているのが“シェーン・ブラック”監督流ですけど。
倫理観は実際ないです。犯罪や殺人をやっていることには変わりありません。しかし、仲間を裏切らないことだけは徹底しています。その「裏切らない」というのは、命を奪わないとか、約束を守るという以外にも、その仲間の信念を遵守するということまで含みます。
だからこそラストにわざわざゼンにかつての仲間の裏切りの報復として銃を向けつつ、ゼンの母国の政治革命を助ける情報告発もしてあげています。この2つはパーカーにとっては両立することなんですね。
『プレイ・ダーティー』はそこについてはブレず(多少のセルフギャグはあれど)、要点を掴めていたのは、やっぱり“シェーン・ブラック”監督の真面目さだったなと思いました。
パーカーというキャラクターの特異性を際立たせるために、ゼンというキャラクターを用意させたのは正解でしたね。ゼンはこじんまりとした義賊とは違う、もっと革命思考でしたが、パーカーとは方向性は似ているようで異なります。パーカーは政治的野望がなく、ただ淡々と仕事をするのみの人間。けれどもゼンの切実な思いに無理解ではありません。
仕事に徹するには仲間の感情に誰よりも身を寄せ、理解できる人間でなくてはいけない。パーカーの仕事論がちゃんと芯に通っている映画でした。
アホが揃えば…良いチームに!
そんな主人公だけみると原作の良さがでているのですが、『プレイ・ダーティー』全体としてはチームのケイパー・エンターテインメントとなってくると、どんどん原作からかけ離れましたね。
“シェーン・ブラック”監督ですから、まあ、その言っちゃなんですけどアホなんですよ。みんな。それこそ人種も関係なく全員がアホです。
そしてアホがひとりよりも2人揃うと、アホ度が2倍でなく3倍に増加するものなので、アホがチームを組むと、相乗効果でアホ度が膨れ上がります。
今作は『ワイルド・スピード』シリーズ並みの大強奪ミッションも勃発しますが、チーム累計のアホの得点はこちらが上回ります。それくらいのハチャメチャです。
あの列車を脱線させようというくだりも(その前のボスコのボーイフレンドのニックに会いに行くパートもツッコミどころ満載でしたが)、そもそも「列車を脱線させる」という発想からしておかしいのですが(ちょっと脱輪するとかそういうレベルじゃないですよ)、案の定、盛大にド派手な大事故になります。『新幹線大爆破』をこいつらに任せていたら、日本の主要駅は2つ3つは木っ端微塵になってたろうな…。
で、その次は陽動として金庫からレディ像を盗んだふりをして、こちらも盛大にカーチェイスをやらかします。ここも演出としては派手にやればやるほど観客を騙せるトリックにもなるので、これはこれで間違ってはいないのですけども、それにしても豪快すぎます。
緻密な犯罪計画をみせられているというよりは、「最後が上手くいけば途中がどうでもいいんだよ!」という荒業を眺めている感じだった…。
チームメンバーとしては、“ラキース・スタンフィールド”演じるグロフィールドもいいのですけど、“チャイ・ハンセン”演じるスタンのあの存在感。あれは反則技でしたよ。アイツがいるだけでだいたい面白くなる…。
このアホ揃いのチームになるともはやジャンルのハードボイルドさはどこかへ滑り落してしまいますが、これはこれでじゅうぶん楽しくはある映画でした。
『プレイ・ダーティー』は多くを求めすぎず、とりあえず「なんかアホなエンタメを観たいな」と思ったときに、ちょうどよく配信でどこでも観れる、そういうお手軽なシリーズとして、今後も定期的に作られてほしいやつじゃないでしょうか。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
?(匂わせ/一瞬)
作品ポスター・画像 (C)Amazon MGM Studios プレイダーティー
以上、『プレイ・ダーティー』の感想でした。
Play Dirty (2025) [Japanese Review] 『プレイ・ダーティー』考察・評価レビュー
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