ついに配信。これがファンが求めていた真の姿なのか…映画『ジャスティス・リーグ ザック・スナイダーカット』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2021年)
日本では劇場未公開:2021年に各サービスで配信
監督:ザック・スナイダー
ジャスティス・リーグ ザック・スナイダーカット
じゃすてぃすりーぐ ざっくすないだーかっと
『ジャスティス・リーグ ザック・スナイダーカット』あらすじ
世界に正義の安心を与えていたスーパーマンはこの世から消えた。その喪失感が残る中、新たな脅威が出現。その凶悪な存在は古の大戦で各所に保管されることになった特別なアイテムを求め、各地に手下を派遣する。一方、その危機を察知したバットマン(ブルース・ウェイン)とワンダーウーマン(ダイアナ・プリンス)は仲間が必要だと考えて、チームを作るべく、個性の強い超人たちをまとめようとする…。
『ジャスティス・リーグ ザック・スナイダーカット』感想(ネタバレなし)
死の淵から蘇った映画
映画は完成して公開されたら基本はそれで終わりです。あ、やっぱ無しで、作り直します!…そんなことは普通は許されません。ブログの記事じゃないんだから…。
ところが今回紹介するこの映画、そう『ジャスティス・リーグ ザック・スナイダーカット』は違いました。あり得ない運命を乗り越えて、死の淵から蘇った映画。まずはその経緯を簡単に説明しましょう。
2017年、『ジャスティス・リーグ』という映画が公開されました。これは2013年の『マン・オブ・スティール』から始まったDCエクステンデッド・ユニバースを構成する5作目。一足先にマーベルがシリーズを大成功させていた中、DC&ワーナーが満を持して送り出したヒーローのチームアップ映画でした。
このDCエクステンデッド・ユニバースを先頭で牽引してきたのが“ザック・スナイダー”です。『マン・オブ・スティール』『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』を監督し、この世界観の構築に大きな働きをしたのは紛れもない事実です。彼にとってその集大成となる『ジャスティス・リーグ』はとても大事な一作になり…。
ところがまさかの事態が発生。“ザック・スナイダー”が家庭の事情で『ジャスティス・リーグ』の監督を途中で降りることになってしまったのです。
そこでピンチヒッターで監督代行として登板したのが『アベンジャーズ』を手がけた“ジョス・ウェドン”。マーベルを成功に導いた監督が今度はDCの窮地に現れるなんて…映画以上のドラマが発生。
そんなこんなで公開にこぎつけた『ジャスティス・リーグ』だったのですが…これが大不評。そして興行的にもコケてしまいます。
そしてファンの間でこんな話が飛び交います。“ザック・スナイダー”監督のもともとのバージョンは全然“ジョス・ウェドン”版と違うらしい。だったら“ザック・スナイダー”版(スナイダー・カット)を公開してくれ!…と。このムーブメントはSNSで拡散(#ReleaseTheSnyderCut)。ザワついてきます。
で、冒頭の話に戻りますが、普通だったらこういうファンの意見は「はいはい」とスルーされます。いくらファンの要望とは言え、そんな要求をイチイチ聞いていたら映画作りに支障をきたしかねません。しかし、数年後、ワーナーはなんとこの要望を叶えることにしたんですね。“ザック・スナイダー”監督の手で『ジャスティス・リーグ』を作り直す、と。しかも、多額の予算を投入して再撮影も許すまでに…。
なぜなのか。そもそも“ザック・スナイダー”監督主導の一連のDC映画は正直に言って多数から不評でした。とくに『スーサイド・スクワッド』(2016年)の失敗はかなり手痛く、ワーナーも慌てたのか、『ジャスティス・リーグ』を改善しようと製作中もあれこれ介入していたようです。しかし、それが仇になったのか、“ザック・スナイダー”を支持する根強いファンの反感を買いました。結果、ファンとの間に亀裂が生じることに…。
さらに“ジョス・ウェドン”にも問題が浮上。詳細はわかりませんがなにやら“ジョス・ウェドン”はハラスメント的な強引さで製作中に関係者にあたっていたらしく、とくに作中でサイボーグを演じた“レイ・フィッシャー”はその問題を厳しい口調で告発。DC&ワーナー側とほぼ絶縁状態にまでなってしまいます。また、ワンダーウーマンを演じた“ガル・ガドット”も“ジョス・ウェドン”から「キャリアを滅茶苦茶にするぞ」と脅されたことを言及しました。
つまり、完全に悪すぎる汚点がこの2017年の劇場公開版『ジャスティス・リーグ』にはこびりついてしまったのです。単に出来が悪かったから作り直したわけではないんですね。
実のところ、同じような作り直しは過去にもありました。1980年の『スーパーマンII』です。これも監督の納得いかない交代劇があり、結果、「“リチャード・ドナー”カット版」が誕生することになりました。今回の「スナイダーカット」を求めたファンもその前例あってのことでしょう。
とにかくこうして生まれた『ジャスティス・リーグ ザック・スナイダーカット』。なんと4時間にも及ぶ映画となり(2017年時は2時間だった)、完全に“ザック・スナイダー”監督が本来求めていた作品になりました。
じゃあ、どこが2017年の劇場公開版『ジャスティス・リーグ』と違うのか。それは後半の感想で。一応、言っておくと、おおまかなあらすじはほぼ同じです。4時間に倍になったからと言って、新規映像が2時間分あるわけでありません。なのでよほどのファンでない限り好んで観るものではないとは思います。100%オタクを満足させるために出来上がった一作ですから。でもファンは気になりますよね。
アメリカでは「HBO Max」でに配信となりましたが、日本ではサービスを問わずデジタル配信。“ザック・スナイダー”の世界に4時間付き合える方はぜひどうぞ。
『ジャスティス・リーグ ザック・スナイダーカット』を観る前のQ&A
A:『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』と物語が直結しているので鑑賞は必須かなと思います。
A:今回の「スナイダー・カット」では確かに新キャラクターが登場します。でもそこまで物語を左右するというわけではなく、ファンを楽しませる程度だと思ってください。
オススメ度のチェック
ひとり | :ファンならお待ちかね? |
友人 | :アメコミ好き同士で |
恋人 | :オタク趣味を共有するなら |
キッズ | :ちょっと長すぎるけど |
『ジャスティス・リーグ ザック・スナイダーカット』感想(ネタバレあり)
何が変わった?:①シリアスに、ダークに…
あらすじは…ほぼ同じだからいいですよね。
“ザック・スナイダー”監督は2017年の劇場公開版『ジャスティス・リーグ』を一切観ていないそうなので(なんでも製作総指揮の“クリストファー・ノーラン”から観ない方がいいと言われたとか)、おそらくこの『ジャスティス・リーグ ザック・スナイダーカット』はその2017年版を全く気にせず、“ザック・スナイダー”監督が当初やりたかったことを超イレギュラーな待遇でやりきった完成形になっているのだと察します。
なので、本作、かつてないほどに“ザック・スナイダー”監督の作家性が満ち溢れています。正直、ここまでとは…。もう全編に渡って、4時間まるまるが“ザック・スナイダー”100%果汁ですよ。
以前の作品を鑑賞済みなら違いは一目瞭然でしょう。
ひたすらに重いトーンで、シリアスに、そしてダークに…。画面が「あれ? 私のパソコン、彩度が低下するエラーでも起きてる?」と思うほどに暗め。しかも、今回はスクリーンサイズが狭いので余計に発光が減少したように見えます(テレビで鑑賞しても小さく感じる)。演出もスローモーションの連発。起きている出来事は2017年版と同じなのになぜこうも4時間になっているのかと言えば、このスローの多用のせいでした(0.7倍速かな?と…)。
逆に2017年版にあったコミカルなシーンは一切ありません。やっぱりあれは“ザック・スナイダー”の映像じゃなかったんですね。終盤の舞台での人助けシーンもゼロなのは驚きました。
昨今のアメコミ映画(DCもマーベルも)では定番になりつつあるコミカル路線に対してあえて反抗するかのような、グレた一作とでも表現できる、この無愛想さ。
このタッチはやっぱりクセがありすぎますし、人を選びますね。好きなマニアは喜ぶだろうけど、う~ん、やはり一般受けはしないかな…。
“ザック・スナイダー”監督、やっぱり根っからの自流初志貫徹型のオタクなんだなぁ…。
何が変わった?:②ヒーローとヴィランの変化
『ジャスティス・リーグ ザック・スナイダーカット』はヒーローの役回りなどは変更ないのですが、演出は変わり、ストーリーもボリュームアップしていたりします。
例えば、スーパーマン。2017年版のときはスーパーマンの死から1~2年経過している感じでしたが、今回はほぼ前作の直後。あまり追悼する空気も薄めです。そして、例のスーパーマン復刻確定ガチャの後に、復活したスーパーマンが身に着けるのは黒いスーツ。どんどん“ザック・スナイダー”好みになっていく…。
ワンダーウーマンもチャーミングさというよりは“ザック・スナイダー”の手にかかると人を殺しそうな蛮族の雰囲気を醸し出します。
少しボリュームが増えたのはフラッシュとサイボーグ。フラッシュは女性救出シーンがこれまた長々とスローで描かれ、サイボーグは経緯を描く場面が増加。まあ、でも黒人のヒーローという意味での描きこみはあっさりですけどね。“ザック・スナイダー”は人種とか興味なさそうだもんなぁ…。
ヴィランについては、ダークサイドという親玉の顔見せで、あのステッペンウルフさんが平社員(係長かな?)であることがよりわかるようになりました。お仕事、ご苦労様です。
そしてオマケのエピローグ。ここがむしろメインかもしれない…。
前作にあったルーサーのもとにデスストロークがやってくる船のシーンはまあいいとして、今作もやってまいりました、突然の世紀末。砂漠帯で、バットマン、サイボーグ、メラ、デスストローク、フラッシュ、そしてSWATの服を着たジョーカーはなぜか揃っており、そこに誰かが降りてきたと思ったら、それはスーパーマンらしき存在で…。
相変わらずの「なにこれ?!」っていう困惑を提供してくれますが、これはあれです。早い話が“ザック・スナイダー”の考える「オレのやりたいDC映画」のイメージ図ですよ。
ナイトメア・バットマン、好きなんだなぁ…とかそういう趣味が全開ですよね。“ザック・スナイダー”監督は『ドーン・オブ・ザ・デッド』『エンジェル ウォーズ』『アーミー・オブ・ザ・デッド』とかフィルモグラフィーを観ているとわかるように、ポストアポカリプスな世界が大好き。きっとDCのヒーロー&ヴィランの結集で、このポストアポカリプスなチームアップ映画を作ってみたいというのが最終的なゴールだったんだろうな、と。それは結局叶わないからここで脈絡なくぶっこんだということかな。
それで夢から覚めるブルースの前にこれまた唐突にマーシャン・マンハンター(もうこのキャラ、みんな忘れてたと思う)が降りてくるから情報の洪水が激しすぎます。
なんかもうひとりのオタクの妄想がうっかり公衆の面前で具現化しちゃったアクシデントを観た気分…。
本作は何をこれから変える?
“ザック・スナイダー”の自己満足と言い切って差し支えない(逆にこれ以上の自己満足ある?)本作なのですが、それは嘲笑いでも批判でもなく、本当にそうなのだと思います。
というのも“ザック・スナイダー”監督が『ジャスティス・リーグ』を降りた最終的な理由は娘の自殺だったからです。突然の愛する者の死に“ザック・スナイダー”自身も動揺したでしょうし、家族のケアに集中するのは当然だったことでしょう。
そして映画にカムバックした今。“ザック・スナイダー”監督にとって本作を作ることは一種のメンタルヘルスでもあったはず。実際、当人もインタビューでそんなことを語っています。本作にデカデカと表示される「オータム」という自死した娘の名前。これは“ザック・スナイダー”監督にとっての心との対話。本作にて死から蘇ったスーパーマンが家族と再会するシーンが映し出されるのも運命的です。本作の制作を後押しするキャンペーンがそのまま自殺防止の支援活動へ拡大したというのもとても意義深いことだと思います。
ヒーローは敵を倒すだけでなく、傷ついた心に寄り添うのも役割なんですね。
同時にファンは“ザック・スナイダー”を蘇らせました。これぞクリエイターとファンの理想的な相互作用かもしれません。
一方で、そう喜んでいいものなのかとも思う部分も。今回の特別な待遇は一部のファンを勢いづかせましたし、今後も影響を与えるでしょう。『ジャスティス・リーグ ザック・スナイダーカット』を作ることを認めたとはいえ、DC&ワーナーと“ザック・スナイダー”の縁は限りなく切れたかなと思います。実際、DC&ワーナーは“ザック・スナイダー”の作った世界観を上書きするのに懸命です。もうひとつの失敗作『スーサイド・スクワッド』はジェームズ・ガンのもとで新作としてセルフリニューアルしますし、『ジョーカー』は新キャストで話題をかっさらいましたし、『バットマン』もキャストを変えて新作が登場予定。“ザック・スナイダー”は過去のものになっています。
しかし、一部のファンは逆行しており、“ベン・アフレック”版の『バットマン』を作れだとか、またも盛り上がっています。ファンの間では“ザック・スナイダー”の世界を捨てきれていない。
この火種はかなり厄介でしょう。ワーナーはただでさえ「HBO Max」と劇場公開の同時展開発表で一部の監督と喧嘩していますし…。DC映画の未来はなかなかに先が見えません。シリーズとしてはいつもヒヤヒヤさせられる状態がしばらく続くのかな…。
『ジャスティス・リーグ ザック・スナイダーカット』はDC映画に生を与えるのか死をもたらすのか、まだ答えを出すのは早いですかね。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 71% Audience 94%
IMDb
8.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
DCエクステンデッド・ユニバースの映画の感想記事の一覧です。
・『ワンダーウーマン』
・『アクアマン』
・『シャザム!』
・『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』
作品ポスター・画像 (C)DC. Zack Snyder’s Justice League 2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved. ジャスティスリーグ ザックスナイダーカット
以上、『ジャスティス・リーグ ザック・スナイダーカット』の感想でした。
Zack Snyder’s Justice League (2021) [Japanese Review] 『ジャスティス・リーグ ザック・スナイダーカット』考察・評価レビュー