そんなベン・アフレックを映画は助けてくれる…映画『夜に生きる』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2017年)
日本公開日:2017年5月20日
監督:ベン・アフレック
LGBTQ差別描写 性描写 恋愛描写
よるにいきる
『夜に生きる』物語 簡単紹介
『夜に生きる』感想(ネタバレなし)
原点に戻ったベン・アフレック
人生って常に絶好調というわけにはいかないのです。上がれば落ちる。それは自然の法則のように逆らえないのか…。
ハリウッドスターも同じようです。
「ポスト・“クリント・イーストウッド”」という呼び声とともに順調に階段を駆け上がっていた“ベン・アフレック”でしたが、巨匠への道はそう簡単ではないようで。
2016年は間違いなく“ベン・アフレック”の苦難の年でした。それもこれも「アメコミ」という賑やかで騒がしい世界に足を踏み入れてしまったがゆえ。とにかく注目度が高く、うるさ型のファンがうじゃうじゃしているアメコミワールドは、これまで自分のペースで着実に映画を撮ってきた“ベン・アフレック”にとって困惑だらけだったのではないでしょうか。“クリント・イーストウッド”はアメコミには手を出していませんから、“ベン・アフレック”はいわゆる昔ながらの巨匠とは違う誰も通ったことがない道を開拓せざるを得ないでしょうね。もう「ポスト・“クリント・イーストウッド”」じゃないのです。
彼が何を考えているのかは当人にしかわからないことですが、今はそっとしておこうと思いつつ、動向は気になってきます。
そんな“ベン・アフレック”の2012年の『アルゴ』以来の久しぶりの監督・主演作となった本作『夜に生きる』。
本作の原作はアメリカの作家“デニス・ルヘイン”の小説です。
デニス・ルヘインといえば、彼の小説のいくつかはこれまでも映画化されてきました。クリント・イーストウッド監督の『ミスティック・リバー』、マーティン・スコセッシ監督の『シャッター アイランド』…いずれも大物巨匠監督ばかりです。そして、ベン・アフレックの監督デビュー作である『ゴーン・ベイビー・ゴーン』もまたデニス・ルヘインの1998年の著作「愛しき者はすべて去りゆく」を映画化したものでした。
加えて、この映画の舞台はボストン。“ベン・アフレック”十八番の「クライムサスペンス in ボストン」です。
つまり、原点に帰ったことになります。やっぱり人生に迷ったら故郷に帰るのは鉄則ですね。
俳優陣はこれまでのフィルモグラフィーにない顔ぶれもあって新鮮です。物語のキーパーソンとなる女性を演じるのは『SUPER8 スーパーエイト』や『マレフィセント』など王道ヒロインも演じつつ、底知れぬ凄みも内包している今勢いに乗っている若手女優“エル・ファニング”。『アバター』や『スタートレック』、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』など大作でもおなじみの“ゾーイ・サルダナ”。『アメリカン・スナイパー』や『フォックスキャッチャー』にも出演していた“シエナ・ミラー”。結構女性陣も多め。
そこに“ブレンダン・グリーソン”や“クリス・クーパー”といった大物が揃うという、なんとも贅沢なバリエーションのあるメンツ。このジャンルはたいてい登場人物の数が多くなりがちですし、それゆえにあんな人もこんな人もと俳優があれこれ揃ってくれるのは、映画ファンとしては嬉しいポイントだったります。
ちなみに音楽は多数の映画に楽曲を提供する名作曲家“ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ”です。“ベン・アフレック”監督作の音楽は以前も手がけたことがあります。
『夜に生きる』の日本での注目度はさすがに低調ぎみで、受賞歴などがないと、監督のネームバリューだけでも厳しいのか…。「バットマン監督作」とか宣伝したら客が釣れそうなのに…。
直近の主演作『ザ・コンサルタント』での強烈なキャラクターと比べると、今回の“ベン・アフレック”は物足りないかもしれないですが、原点に立ち返ったこの姿こそ本来の“ベン・アフレック”なのです。
『夜に生きる』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):世の中のルールはデタラメだ
始まりは内通者でした。
アルバート・ホワイト一味の賭けポーカー場に男たちが押しかけ、カネを出せと銃を突きつけてきます。その場にいたエマ・グールドは靴下を口に詰められ、拘束。男たちは車で逃げました。
その男たちのひとり、ジョー・コフリンはそうやってまんまとカネを強奪する強盗を繰り返す日々を送っていました。
ある日、ジョーのもとにアルバート・ホワイト本人がやってきます。ブレナン・ルーミスという男も一緒です。「今の仕事をさせるのは惜しい。1匹狼はキツイぞ」と、盗みはやめてこちらを手伝えと誘われます。ホワイトはこの禁酒法時代の最中、ラム酒の流通で支配力を持っていました。アイルランド系のホワイト、イタリア系のマソ・ペスカトーレ…この2者がしのぎを削り、邪魔者を殺し合っている泥試合でした。
ジョーは関わりたくなかったのですが、あの賭けポーカー場にいたエマこそが内通者であり、愛していたのでそういうわけにもいきません。関係がバレれば殺されるでしょう。
エマと食事をしていたとき、父のトム・コフリンが同席してきます。トムはエマの出自が気になるようで色々と質問してきます。警視正のトムは息子が犯罪に絡んでいるのを知っています。「犯罪者の情婦になるような女となぜ付き合うのか」と失礼な態度をとってきます。「報いは必ず受けるものだ」とトムは息子に教えます。それでもジョーはエマと離れるつもりはありません。
エマはすっかり気分を害し、見下されたことに激怒。ジョーは謝ります。
一方で呼び出されたジョーはマソ・ペスカトーレのもとへも行きます。「私はギャングではなく無法者です」とジョーは言いますが、相手も完全にこちらの弱みを握っていました。エマのためにもホワイトを殺すという仕事を受けないといけないのか。それでもジョーは「人に従うのはやめたんだ」と強気に拒否します。戦争を経験し、ルールはうんざりだと痛感しているのです。
土曜に銀行強盗をすればエマと旅に出る費用を確保できる…そう考えていました。けれどもその強盗はトラブルの連続。警官と派手にカーチェイスし、銃撃戦となります。そしてジョーは車から投げ出され、ボロボロの姿で目覚めます。追っていた警官は死にました。
ジョーはパーティに潜入し、エマを探します。合流して一緒に逃げようと裏に回ります。しかし、それは読まれていました。エマは裏切ったのか。彼女の涙がつたう表情を見つめつつ、床で殴られた痛みに呻いていると、ホワイトは「あの女も殺す」と凄み、ジョーを警察に突き出します。
こうしてジョーは警官殺しとして父に逮捕されました。
刑務所の病室ベッドでジョーは過ごすことになります。訪れた父からエマは死んだと聞かされます。
「お前は運に恵まれた。死んだ女のためにも無駄にするな」
父は同性愛のスキャンダルで相手を揺さぶり、ジョーを懲役3年という短い刑で処理するように動きます。そんな父も出所前に亡くなりました。
ジョーの人生はこれで終わりなのか。いや、ここからジョーは新しい道を進むことに…。
タランティーノからの潜入者
まず“ベン・アフレック”以外の部分から言及していきましょう。
なにより『夜に生きる』を最初に観て思うのは映像の美しさ。禁酒法時代のボストンの街並みや人々の生活を丁寧に再現しているだけでなく、例えば、ギャング映画には絶対に出てくる人が殺されるシーンさえも、本作は美しいです。殺害シーン集だけまとめて観たいくらい。
また、舞台転換のたびに空撮のように上空から舞台を見せるシーンが何度も挟まれ、世界観の広がりを常に感じさせます。主人公・ジョーの小ささというか、ギャングの世界で必死に暗躍して生き抜く彼も、大いなる“世界”、またの名を“時代”の一部に過ぎない感じが強調されて良い効果をもたらしていると思います。
なんでこんなに映像が美しいのだろうと思ったら、本作の撮影は『ヘイトフル・エイト』などクエンティン・タランティーノ作品を多く手掛けてきた“ロバート・リチャードソン”でした。どうりで…。本作の魅力はこの“ロバート・リチャードソン”の功績が非常に大きい気がします。どうしても地味で何度も映画で見たような舞台になってしまいますから、それを見せ方を変えることで何百倍もの魅力を引き出せるのはカメラのテクニックの影響は当然大きいです。
役者陣も皆素晴らしいです。ギャング映画は男ばかりですが、その中の華である女性たちもきっちり忘れず輝いてました。“エル・ファニング”や“ゾーイ・サルダナ”は時代の美しさを映し、エマを演じた“シエナ・ミラー”は時代の汚れを映す…良い対比でした。
どうしても“ベン・アフレック”監督作は男だらけの印象でしたし、事実そういう側面もあったのですが、女性だって描けますよという彼なりの腕を見せたかったのかな…。
映画に生きる
それで肝心の“ベン・アフレック”部分ですが、いつもの彼らしい映画だとは思いましたよ。受動的な物語展開とか、突然の緊迫シーンとか、過去作のとおりといった感じ。しかも、今回は撮影が良いですから、カッコよく見える。それだけで最高です。
一方で、過去の監督作と比べて、一貫したわかりやすいサスペンスがなく、全体的に冗長にも思えるのが残念。スケールが大きすぎたのだろうか。もう少し短くまとめてほしかったところ。良く出来た映画だけど、それどまりな印象が否めません。129分もあればかなりの長さなので、多少の疲労感は当然としても…。
ただ、ラストは映画シーンを入れてくるあたり、「ああ、やっぱりこの男は映画が好きなんだなぁ」としみじみ。
現実の話、成功してみせた“ケイシー・アフレック”を見て勇気づけられただろうし、『夜に生きる』も“レオナルド・ディカプリオ”が映画化を働きかけたそうですし。“ベン・アフレック”はどんなに挫けそうになっても映画の世界の友人や家族が助けてくれるんですね。本作のあのラストはまさにそれが反映されたかたち。“ベン・アフレック”は「映画に生きる」のです。
たぶんこの男はもう映画しか頼みの綱が残っていないでしょうからね。この映画愛を胸に、余計な問題を引き起こさず、なんかこう上手く立ち回っていってほしいものです。なんでしょうかね、“ベン・アフレック”は本当に危なっかしい感じが常にあって、最近も心配になるばかりですから…。
『夜に生きる』の世間的な評価はどうであれ、自分の映画道の開拓に向き合う“ベン・アフレック”にとって本作は必要な作品だったのではないでしょうか。
頑張れ、とりあえずもうマントの男とは喧嘩をするな…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 35% Audience 42%
IMDb
6.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
作品ポスター・画像 (C) 2016 Warner Bros. All Rights Reserved.
以上、『夜に生きる』の感想でした。
Live by Night (2017) [Japanese Review] 『夜に生きる』考察・評価レビュー