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『スーパーマン クリストファー・リーヴの生涯』感想(ネタバレ)…障害者のスーパーパワー

スーパーマン クリストファー・リーヴの生涯

その力は美談か? 偏見の強化か?…「HBO」ドキュメンタリー映画『スーパーマン / クリストファー・リーヴの生涯』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Super/Man: The Christopher Reeve Story
製作国:イギリス・アメリカ(2024年)
日本では劇場未公開:2025年にU-NEXTで配信
監督:イアン・ボノート、ピーター・エテッドギー
スーパーマン クリストファー・リーヴの生涯

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『スーパーマン クリストファー・リーヴの生涯』のポスター

『スーパーマン クリストファー・リーヴの生涯』簡単紹介

映画『スーパーマン』で一躍スターとなっていたアメリカ人俳優のクリストファー・リーヴは、1995年5月、不慮の落馬事故による脊髄損傷で重度の麻痺を負い、首から下の身体が動かせなくなる。車椅子生活を余儀なくされたリーヴは、やがて脊髄損傷に関する研究と障害者の支援活動に身を投じ、多くの人々に感動と希望を与えていく。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『スーパーマン クリストファー・リーヴの生涯』の感想です。

『スーパーマン クリストファー・リーヴの生涯』感想(ネタバレなし)

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クリストファー・リーヴは実人生でもスーパーマン

2025年7月、満を持してDCの映画シリーズ再始動の第1弾となる記念すべき“ジェームズ・ガン”監督の『スーパーマン』が劇場公開されます。

DCにとって「スーパーマン」というキャラクター、そしてそのキャラを主体にした映画は、本当に重要です。歴史的な始まりでもあります。

その「スーパーマン」の映画の原点と言えば、多くの人はあの作品を挙げるでしょう。

1978年にお披露目された“リチャード・ドナー”監督の『スーパーマン』。そう、あの“クリストファー・リーヴ”が主演した『スーパーマン』です。

いやいや、1948年の“カーク・アリン”演じる『Superman』が…とか、1951年の“ジョージ・リヴス”演じる『Superman and the Mole Men』を忘れるな…とか、熱烈なオタクたちから声が飛んできそうですけど、それはわかる…わかるけど、今日は“クリストファー・リーヴ”の『スーパーマン』の話をさせてほしい…。

“クリストファー・リーヴ”の『スーパーマン』は確固たるイメージを築き、現行のハリウッドのアメコミ大作の出発点でもあります。

でも今回はそこを熱量たっぷりに語りたいわけでもない…。

この2024年のドキュメンタリーはちょうどいいタイミングで、別の物語をみせてくれます。

ということで本作『スーパーマン クリストファー・リーヴの生涯』です。

本作はちょっと雰囲気から誤解されやすい作品だなと思って、「スーパーマン」のドキュメンタリーではないです。1978年の映画『スーパーマン』から計4作で主演した“クリストファー・リーヴ”…その人物の伝記ドキュメンタリーです。「スーパーマン」との関わりの話題は、全体の5分の1もないかもしれません。

ただ、レトリカルな意味の繋がりはあって、これもハッキリ説明したほうが関心を持つ人が増えると思うので書きますけど、本作は障害者権利運動を主題にしてもいるドキュメンタリーなんですよね。

映画『スーパーマン』で一躍スターとなった“クリストファー・リーヴ”は、1995年に落馬事故によって脊髄損傷で重度の麻痺を負い、首から下の身体が動かせなくなってしまい、車椅子生活となります。人生が一転してしまった“クリストファー・リーヴ”でしたが、やがて脊髄損傷に関する研究推進と障害者の支援活動に身を投じ、スター俳優は別の側面で大きな注目を集めます。本作はこの功績に何よりも焦点をあてたドキュメンタリーです。

家族や業界の友人の温かいコメントを交えながら、“クリストファー・リーヴ”の障害者となった人生の後半の半生に照らします。“クリストファー・リーヴ”の名は知っていても、この一面を知らないという人は少なくないのではないでしょうか。

『スーパーマン クリストファー・リーヴの生涯』の監督するのは、『ライジング・フェニックス パラリンピックと人間の可能性』を手がけた“イアン・ボノート”“ピーター・エテッドギー”のコンビです。

“クリストファー・リーヴ”をよく知らないという人も本作で初めて触れて「こんな人なのか」と理解できると思いますし、『スーパーマン』の“クリストファー・リーヴ”が大好きな人には涙が止まらない一作になるでしょう。

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『スーパーマン クリストファー・リーヴの生涯』を観る前のQ&A

Q:『スーパーマン クリストファー・リーヴの生涯』はいつどこで配信されていますか?
A:U-NEXTで2025年2月27日から配信中です。
✔『スーパーマン クリストファー・リーヴの生涯』の見どころ
★クリストファー・リーヴの愛されてきた姿が伝わる。
★クリストファー・リーヴの障害者の権利への貢献を知れる。
✔『スーパーマン クリストファー・リーヴの生涯』の欠点
☆障害者の権利運動を包括的に掘り下げるまではいかない。

鑑賞の案内チェック

基本 障害者への偏見の描写が一部にあります。
キッズ 3.0
やや大人向けの話題が一部にあります。
↓ここからネタバレが含まれます↓

『スーパーマン クリストファー・リーヴの生涯』感想/考察(ネタバレあり)

ここから『スーパーマン クリストファー・リーヴの生涯』のネタバレありの感想本文です。
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父との確執を飛び出してスーパーマンに

『スーパーマン クリストファー・リーヴの生涯』は“クリストファー・リーヴ”の人生がとりあえず出生から死までまとまっています。非線形の語り口であり、そのうえ人生史としてはやや駆け足ではありますが…。

順序立てて触れていくと、まず“クリストファー・リーヴ”の幼少期。3歳の頃に両親が離婚し、そのことが後の彼の中の結婚への忌避感に繋がっていると思われる点、そして父親であるフランクリンとの確執です。

ちなみに“クリストファー・リーヴ”の家系はなかなかに凄くて、父は文学系の学者兼作家なのですが、そのさらに祖父(つまりクリストファーにとっての曾祖父で、こちらも名前はフランクリン)はアメリカ在郷軍人会を設立したひとりにして初代会長で、第二次世界大戦の戦時中は米国戦略爆撃調査団も組織した米軍事界の大物です。

そういうお堅そうな家系の中、ジュリアード音楽院でクラシカルな劇に身を投じていたのに、ふと気が付けば「マントをつけて空を飛ぶムキムキのコミックのキャラを演じます!」ってなったら、そりゃあまあ、ギクシャクするだろうな…。

作中では『スーパーマン』の主役抜擢を聞いてクリストファーの父は最初はなぜかやけにお祝いしてくれたけど、それは“ジョージ・バーナード・ショー”の戯曲『人と超人』と勘違いしていた…なんてエピソードも語られます(家族に伝わる都市伝説って言ってたので真偽は不明ですが)。

ともあれ、“クリストファー・リーヴ”は、『スーパーマン』(1978年)、『スーパーマンII/冒険篇』(1980年)、『スーパーマンIII/電子の要塞』(1983年)、『スーパーマンIV/最強の敵』(1987年)と、「スーパーマン / クラーク・ケント」役を熱演し、スターであり、アイコンにもなります。まさしくみんなのヒーローを体現する存在です。

そのヒーロー性は役柄だけでなく、“クリストファー・リーヴ”はこの頃から人権活動にも積極的で、それが例の事故後の活動にも受け継がれているのも本作でわかります。例えば、映画『デストラップ・死の罠』(1982年)でゲイの役を演じ、1997年に監督デビュー作となったテレビ映画『フォーエヴァー・ライフ 旅立ちの朝』ではHIV/AIDSのゲイ主人公とその家族を描いています。“クリストファー・リーヴ”の全盛期はLGBTQ権利運動も沸き上がった時期ですから、ちゃんとアライでいてくれたんですね(一部の保守的なファンは彼がゲイの役をするのを不満だったみたいだけど…)。

一方でプライベートでは、撮影中に出会ったガエ・エクストンと恋愛関係になり、マシューアレクサンドラの父となり、次にダナと結婚し、ウィルの父となり…。ゆっくりではありますが、家族関係は充実し、こういう芸能界の中でもわりと穏やかに歩めていたその矢先…。

馬に乗るのが好きな人が落馬で深刻な障害を負うというのは、かなりメンタル的にも辛いと思うのです(好きな趣味で人生が傷つけられるのはね…)。“クリストファー・リーヴ”は馬アレルギーだったのに、頑張って慣れて、ついに生きがいにまでなったのに…。

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これぞ現実でもスーパーヒーロー

1995年5月27日、この日を境に“クリストファー・リーヴ”の人生は全く違う世界へと移ってしまい、その苦難の道のりが『スーパーマン クリストファー・リーヴの生涯』では映し出されます。

首から下は一切動かせず、人工呼吸器は欠かせない…そんな容態を前に、クリストファーの母は安楽死さえ考え、クリストファー本人も死なせてくれと家族に懇願する…。思い返したくもないだろう辛い瞬間を、本作ではクリストファーの大人になった子どもたちは勇気をもって語ってくれていました。

幸いなことに一命をとりとめ、リハビリテーション施設で過ごし、車椅子生活で自宅で過ごせるまでになりますが、そんな“クリストファー・リーヴ”の心を支えたのは、家族だけでなく、業界の友人たちも…とくに“ロビン・ウィリアムズ”ですね。いや~、やっぱりあそこで笑いを提供できる“ロビン・ウィリアムズ”、天性の才だな…(そんな“ロビン・ウィリアムズ”も2014年に自ら命を絶つわけで当時は悩みを抱えていたのでしょうけど)。

“クリストファー・リーヴ”は第68回アカデミー賞授賞式に出席してスタンディングオベーションで称えられるなど、再び公に姿を見せるだけでなく、障害者の不平等を痛感したからこそ、社会を変える必要があると、障害者の権利のための運動の先頭に立ち始めます

それは紛れもなく成果を上げました。1996年の民主党全国大会でスピーチに始まり、政府もその訴えに耳を傾け、1998年には「クリストファー・リーヴ基金」を設立し、研究投資は加速。2004年に“クリストファー・リーヴ”が亡くなった後も、「クリストファー・アンダ・ダナ法(Christopher & Dana Reeve Paralysis Act)」が作られ、法的な整備もされました。

自身のスター性の特権を自覚したうえで、社会構造を変えようと全力を捧げる。“クリストファー・リーヴ”のやってみせたことは、これをスーパーヒーローと言わずして何というか…というくらいには現実に存在するスーパーヒーローの生き方そのものでしたね。

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社会を変えるのがスーパーパワー!

そんな感じで感動の伝記ドキュメンタリーである『スーパーマン クリストファー・リーヴの生涯』なのですが、ひとつ大きな穴があるとすれば、障害者権利運動への言及があくまで“クリストファー・リーヴ”の功績ありきなので、視点が狭いという点です。

作中で“クリストファー・リーヴ”が麻痺を完治させて立ち上がるというCMを作ったら、一部の障害者団体から反発があり、炎上した…というエピソードが語られます。そして、妻のダナは障害者の生活の質を上げる取り組みにも活動を拡張させ、バランスをとった感じのことがざっくりと触れられます。

でもこれだと障害者権利運動の前提のビジョンや歴史的な合意・対立構図などを理解していない人だと、何のことだかさっぱりわからないと思うのです。

身体麻痺の障害者はリハビリテーションが欠かせませんが、この重要性は大方の当事者コミュニティで合意されています。しかし、リハビリと完治(cure)は全く別物として認識されており、とくにこの完治…つまり「身体を“障害がない人”と全く同一に動かせるようになること」を目指すのは、身体麻痺というものを否定的な関係として暗黙の前提にしてしまっており、それはむしろ障害者差別(エイブリズム)を助長する…という考え方が障害者コミュニティの中にはあります。

要するに「身体が動かないなんて可哀想! 完治するほうがいいよね?」とか、「身体が動かない状態で産まれてくる子どもなんて、最初から産まないほうがいい!」とか、そういう発想は、障害者の存在自体のスティグマにしかならない…ということですね。

だからこそ障害者差別を解体し、すべての障害者のアクセシビリティと生活の質を実際に向上させることに焦点をあてようとビジョンが共有されますopenDemocracy。障害ではなく、障害者差別を生む社会を治そうってことです。

本作は他の障害者当事者の声として“ブルック・エリソン”という有名な障害者権利擁護活動家が出演するのですが(2024年2月4日に亡くなりました)、例のCM騒動については濁した言葉を短く述べるシーンが作中で使われているだけで、あとは“クリストファー・リーヴ”を絶賛する役目しか与えられていません。

もうちょっと他の障害者当事者を多数出演させて、“クリストファー・リーヴ”の活動の良いところも悪いところも多角的に批評してもらったほうが、良い作品になったとは思います。

全体的に本作は“クリストファー・リーヴ”を崇めるように称賛するストーリーを構成することしか考えていない感じになっていて(そういう意図の作品なのだろうけど)、ややもったいないかな…。身体障害を完治することがスーパーパワーだと早とちりする人もでてきそうだし…。

もちろん“クリストファー・リーヴ”の功績が過ちだとは思わないですよ。監督作の『ザ・ブルック・エリソン・ストーリー』(2004年)だって、身体麻痺当事者が監督するなんて現在においても他にそうそう例をみない偉業でしたから。多くの当事者の希望になったはずです。自分も監督業ができるかもしれない…とか夢を持てます。

亡きスーパーマンの意思を継ぐなら、今の社会こそ変えていきたいところです。それを達成するにはみんなが持っている小さなスーパーパワーが必要です。

『スーパーマン クリストファー・リーヴの生涯』
シネマンドレイクの個人的評価
6.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
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関連作品紹介

身体障害を主題にした作品の感想記事です。

・『わたしの心のなか』

作品ポスター・画像 (C)HBO スーパー/マン クリストファー・リーヴ・ストーリー

以上、『スーパーマン クリストファー・リーヴの生涯』の感想でした。

Super/Man: The Christopher Reeve Story (2024) [Japanese Review] 『スーパーマン クリストファー・リーヴの生涯』考察・評価レビュー
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