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ドラマ『アイアンハート』感想(ネタバレ)…利用規約をよく読んで

アイアンハート

同意していいんですか?…「Disney+」ドラマシリーズ『アイアンハート』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Ironheart
製作国:アメリカ(2025年)
シーズン1:2025年にDisney+で配信
原案:チナカ・ホッジ
アイアンハート

あいあんはーと
『アイアンハート』のポスター

『アイアンハート』物語 簡単紹介

若き才能溢れるリリ・ウィリアムズはかつてのトニー・スタークが開発していたアイアンマンのようなスーツを自分の技術で作り出すことを目指していたが、現実の厳しさを噛みしめることになる。追い詰められた結果、地元の街でコソコソと大企業に犯罪を仕掛ける活動をする集団の仲間入りをするが、それはリリに想像以上の試練を与えることになっていき…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『アイアンハート』の感想です。

『アイアンハート』感想(ネタバレなし)

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リリ・ウィリアムズ、本格起動

何事にも始まりがあるように、今や長大フランチャイズとなっている「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」にも始まりがありました。それは2008年の映画『アイアンマン』でした。

その名のとおりに鉄なのかはたまた別の金属なのかはよく知りませんが、とにかくメタリックなアーマースーツを装着して、機動性抜群に飛び回って戦闘する…そんなスーパーヒーローからMCUは幕を開けました。

それから17年後の2025年。この作品は新たな始まりを象徴づけることはできるでしょうか。

それが本作『アイアンハート』です。

本作はトニー・スタークのアイアンスーツの精神を受け継ぐ次世代の若き主人公であるリリ・ウィリアムズを描く物語。原作のコミックは2016年に初登場したので、まだ初々しいキャラクターですが、MCUにも本格参戦です。

MCUのリリ・ウィリアムズは、2022年の映画『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』でサイドキャラクターとして初めて顔見せしました。

『アイアンハート』はドラマシリーズで、リリ・ウィリアムズの本格的なメイン作。『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』から続く物語となりますが、基本的には『アイアンハート』単独だけで楽しめるようになっています。

製作総指揮には『ブラックパンサー』シリーズを牽引した“ライアン・クーグラー”も関与しているのですが、ショーランナーとなっているのはドラマ『ミッドナイト・クラブ』でも脚本を手がけていた“チナカ・ホッジ”。『アイアンハート』は実は若干のホラー風味にもなっているのですが、“ライアン・クーグラー”も“チナカ・ホッジ”もそのジャンルにも携わっているので、語り口が似ているのかもしれません。

主人公のリリ・ウィリアムズを熱演するのは、『ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償』“ドミニク・ソーン”。『アイアンハート』は“ドミニク・ソーン”の魅力がたっぷり詰まっており、コミカルなものからエモーショナルなものまでいろいろな演技が堪能できます。

共演は、ドラマ『THIS IS US/ディス・イズ・アス』“リリック・ロス”『トランスフォーマー/ビースト覚醒』“アンソニー・ラモス”『Fair Play/フェアプレー』“オールデン・エアエンライク”など。

残念ながら『アイアンハート』は黒人女性が主役ということで普段から「ポリコレが押し付けられている!」と叫びまくっている一部の人たちのお気に召さなかったようで、まだ正式に配信前だったにも関わらず、レビュー集約サイト「Rotten Tomatoes」にて低スコアを記録するレビュー爆撃の被害を受けましたScreenRant

そんな戯言はスクラップにしておくとして、『アイアンハート』は私もMCUの中では『ミズ・マーベル』に次いで期待の一作でした。やはり若いヒーローがどう描かれるかは大事ですからね。

『アイアンハート』は「Disney+(ディズニープラス)」全6話で独占配信中です。

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『アイアンハート』を観る前のQ&A

Q:『アイアンハート』を観る前に観たほうがいい作品は?
A:とくにありませんが、『ドクター・ストレンジ』や『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』を観ておくと、世界観やキャラクターの理解が深まります。
✔『アイアンハート』の見どころ
★王道のようで王道を進まない主人公の複雑な物語。
★個性豊かなサイドキャラクター。
✔『アイアンハート』の欠点
☆大きな難題は次作に持ち越される。

鑑賞の案内チェック

基本
キッズ 4.0
子どもでも観れます。
↓ここからネタバレが含まれます↓

『アイアンハート』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(前半)

リリ・ウィリアムズは偉大な発明家になるのが夢でした。しかし、半年前の出来事である遠い異国の地ワカンダの経験もあって、結局はトニー・スターク並みの大富豪か、巨大なヴィブラニウム鉱山でもなければ、それは実現できないと痛感していました。MIT(マサチューセッツ工科大学)では課題代行で小銭を稼ぎ集め、なんとかワカンダのグレオ・アルゴリズムというAIの再現で成功を得ようとしていました。おカネが無いなら頭を使うしかないです。それでも失敗続き…。

奨学金の延長を願い出るも「安全な社会を目指す」という漠然としたビジョンだけでは学部長も簡単に肯定できないと難色。リリはリリで普通に就職するだけの凡人になりたくはないと頑なです。大学側はリリだけの特別待遇をもうできないと言い放ち、4年以上大学に在籍しているが学位を取ろうともしないので無情にも退学処分が下ってしまいます。

リリは自費で作ったと自負する自作のアイアンスーツを装着して飛行して外へ自分から出ていきます。そのスーツにはトレバーという名のAIアシスタントがついていますが、ややポンコツです。とりあえず故郷のシカゴへ帰ることにします。

ところがリリのスーツは機能ブロックで飛行できなくなり、無様に路上に墜落。大破します。地元民の冷やかしに耐えながらとぼとぼ歩いているとランドンという男の子が察して助けてくれました。

実家に帰ると、母ロニーは友人たちにリリは「トラウマ」として5年前のことを引きずっていると語っている場面に出くわし、居心地が悪くなります。ちょうど5年前、大切な親友のナタリーや義理の父親ゲイリーが父の自動車工場で強盗に銃撃されて亡くなってしまったのです。

リリが唯一気持ちを吐露できる相手は幼馴染でナタリーの弟であるエグゼビアくらい。彼に「人々はスーツにしか見向きしない」とスーツにこだわる理由を喋ります。

新しいスーツを作ろうにもおカネがないです。困窮していたところ、フッドと名乗るパーカー・ロビンスの部下のジョンにリクルートされます。ハッカーのスラッグロズジェリ、爆破のプロであるクラウンといったメンバーで構成され、彼らは普段から金持ち相手の悪さをしているようです。

不本意ですがおカネのためならこの集団に参加するしかないのか…。

そう思いながら、昔の思い出を振り返りつつ、自分の脳と接続してスーツの開発を速めていると、予想外のものが出来上がります。それはナタリーの記憶を基に生まれたAI「N.A.T.A.L.I.E.」で…。

この『アイアンハート』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2025/07/06に更新されています。
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ヒーローになりたいわけではない

ここから『アイアンハート』のネタバレありの感想本文です。

『アイアンハート』は『アイアンマン』を受け継ぐヒーローなのは間違いありませんが、そのキャラクターアークはまるで違っています。

振り返ると、リリ・ウィリアムズ自身は別にトニー・スタークと個人的な縁があるわけではありません。単に優秀な頭脳がある程度の共通点です。むしろトニー・スタークの魂を引き継ぐヒーローはMCUではピーター・パーカー(スパイダーマン)でした。

つまり、リリ・ウィリアムズは結構自由に物語を構築できる余地があり、ほぼシリーズのしがらみのない新キャラクターとして伸び伸びやっていて気持ちがいいです。

また、アイアンマンのトニー・スタークは元々のコミックの時点から反戦がテーマにあって非常に地政学的な影響力のある国際大企業の中心的存在でしたが、対するリリ・ウィリアムズはシカゴという狭い地元の中だけでかろうじて居場所を掴み取ろうとする(それすら苦労している)…とてもミニマムな存在感でもあります。

そしてここが一番肝心だと思いますが、リリ・ウィリアムズは「ヒーローになりたい」という憧れで動いていません。そこが同じ若者であるピーター・パーカー(スパイダーマン)やカマラ・カーン(ミズ・マーベル)と決定的に違います。

リリの中にあるのは「自分の才能を証明するにはアイアンスーツを作るしかない」という承認の焦りであり、同時に「親友や義父を失った恐怖に対するテクノロジーでの対抗」です。このテクノロジー依存思考はトニー・スタークとそっくりです。

結果、本作のリリは善でも悪でもない、それこそ作中でエグゼビアが評していたように「複雑」な人物像として描かれており、奥深いキャラクターに仕上がっていたと思います。

既に同じ黒人だとサム・ウィルソン(2代目キャプテン・アメリカ)が「黒人という人種を背負っていかにヒーローになるか」というテーマに向き合っていましたし、『ブラックパンサー』は民族を背負う重責というより大きなテーマがありましたから、重複しないうえでもちょうどいいアプローチだったのではないでしょうか。

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シカゴウィッチーズ活動家集団

そんな『アイアンハート』で自分の居場所を喪失しかけているリリ・ウィリアムズが転がり込むのが、フッド率いるグループです。

黒人の若者が路頭に迷って地元のギャングに関わるようになってどんどんと引き返せなくなっていく…なんて定番のストーリーですが、今作に登場するフッド集団はちょっとユニークです。

いかにも地元シカゴに根付くストリートギャングっぽいのですが、ドラッグとか銃の密売をしているわけではなく、ハッキングなどのテクノロジーを駆使しながら大企業に対する嫌がらせをしているんですね。そのターゲットになる大企業というのも、最先端テクノロジーを使ってシカゴの旧文化や産業を潰して乗っ取ってしまうような、いわゆる「ジェントリフィケーション」の主体者ばかりです。

本作の“チナカ・ホッジ”はジェントリフィケーションを題材にした芸術作品を昔から手がけている人で、このドラマでもそれを取り入れたのでしょう。

それにシカゴでは実際にジェントリフィケーションが地域を二分する社会問題になっており、ジェントリフィケーションを防止する条例を作ることに対して開発をしたい不動産業界やそれと繋がりのある政治家は猛反対していますBlock Club Chicago

いわばフッド集団のやっていることは、ストリートギャングと活動家の中間のようなもので、これまた善悪でジャッジできない「複雑」な存在です。

それにしてもあのフッド集団の面々、個性豊かで、何よりもクィアな顔ぶれだったのが印象的でした

ハッカーのスラッグは元ドラァグクイーンで、「they/them」の代名詞を使用しているのでノンバイナリーなのだろうと察せられます。演じている“シェイ・クーリー”(シア・クーリー)もドラァグクイーンの活動家で、ゲイ&ノンバイナリー当事者でもあります。

ブラッド・シブリングのロズとジェリのうち、ジェリを演じるのは“ゾーイ・テラケス”で、ノンバイナリー&トランスマスキュリン当事者。

こういうきっちりジェンダーがクィアだなとわかる貫禄でサイドキャラクターが生き生きと活躍するのはMCUでも初でしょうし…。

少し残念なのは、肝心のリリがあまりクィアネスの側面を掘り下げられなかったことでしょうか。バイセクシュアルとして匂わすセリフはあっても、それどまり。意外な出会いとしては、ゼルマ・スタントンというメガネ魔女っ子の登場で、彼女もクィアを漂わすので、リリとの関係に期待したくなるってことですかね。

フッド集団が地元の持たざる者の屈辱を発散し、その裏には誘惑を仕掛ける魔法があるということで、もうこれは「前橋ウィッチーズ」ならぬ「シカゴウィッチーズ」。

『アイアンハート』は本当にシカゴ愛に溢れていてさまざまなシカゴ文化が散りばめられているご当地作品ですが、一方でちゃんとシカゴという地域の社会的問題に対面している…その姿勢が良かったです。

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科学と魔法の融合は都合よくはいかない

『アイアンハート』は一貫して「社会における権力の不均衡」という現実を浮き上がらせます。

リリ・ウィリアムズは「賢くてもカネがないと何も意味ない」とその現実を噛みしめます。シカゴを揺らすジェントリフィケーションなんてまさに不均衡の最たる事例です。

パーカー・ロビンスも不均衡な格差に苦しみ、親から離脱しても、次に待っていたのはさらなる権力である超越的な存在…メフィストでした。対等なんて存在しない…そこにはいつも甘美な不均衡が手招きする…その状態をシカゴピザが実によく表していました。

そのパーカーもエゼキエル(ジーク)を使役して不均衡を駆使してコントロールしてしまうなど、負の連鎖は止まりません。

そんな中で、リリは自身のメンタルヘルスと向き合いながら、バランスを見いだそうとします。象徴的なのは、ナタリーのAI版を通して描かれる「死者をAIで疑似的に蘇らせる倫理問題」。現実社会でも論争となる問題ですが、本作はクリエイティブなSF的アプローチで、皮肉も交えながら(“チャドウィック・ボーズマン”の死に直面した『ブラックパンサー』製作陣がこの題材に触れるのがすでにね…)、その題材に取り組んでいたのではないかな、と。

終盤ではようやくリリは支え合いに気づき、自分のチームを持ちましたが、科学と魔法の融合は思ったような心地いいバランスには至らず…

ラストは強烈な権力の不均衡を抱え込むという、MCUの中でもなかなかない嫌~な後味のエンディングでした。利用規約をよく読まずに同意しちゃダメなんだよ…。

満を持してMCUにも登場した最悪最凶の悪魔メフィスト。これは次のサーガの強敵となるのかな。“サシャ・バロン・コーエン”の演技も素晴らしかったですし、もうすでにこの『アイアンハート』はマルチバース・サーガの次を見越した始まりの一作なのかもしれません。

『アイアンハート』
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
△(平凡)
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関連作品紹介

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の作品の感想記事です。

・『アガサ・オール・アロング』

・『ミズ・マーベル』

・『ホークアイ』

作品ポスター・画像 (C)Marvel Television

以上、『アイアンハート』の感想でした。

Ironheart (2025) [Japanese Review] 『アイアンハート』考察・評価レビュー
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