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アニメ『前橋ウィッチーズ』感想(ネタバレ)…エモエモ最強マックス70%

前橋ウィッチーズ

それくらいでも嬉しい…アニメシリーズ『前橋ウィッチーズ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Maebashi Witches
製作国:日本(2025年)
シーズン1:2025年に各サービスで放送・配信
監督:山元隼一
性暴力描写
前橋ウィッチーズ

まえばしうぃっちーず
『前橋ウィッチーズ』のポスター

『前橋ウィッチーズ』物語 簡単紹介

前橋市に住む女子高校生の赤城ユイナは、突然現れた自分と同じでお喋りな謎の生物ケロッペから魔女見習いにスカウトされる。困っている人の願いをなるべくたくさん叶えるという修行をして正式な魔女になれば、自分のどんな願いでも叶えられるらしく、楽しそうだったので思わず気軽に参加してしまう。すでに同年代の4人の少女がおり、初顔合わせでも力を合わせようと奮闘するが…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『前橋ウィッチーズ』の感想です。

『前橋ウィッチーズ』感想(ネタバレなし)

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吉田恵里香、アニメでも本領発揮

最初に言っておきます。私は「前橋市」には行ったことはありません。

群馬県の県庁所在地である前橋市。人口32万人以上だそうで、もう私からすれば大都会ですね。

その前橋市自身がどう地域をPRしているのかみてみると、「都会暮らしと程よい田舎暮らしがどちらも楽しめる」と真っ先に魅力が語られていました前橋市。そうか、そんな言い回しもありなのか…。「田舎暮らし」の言葉の前にだけ「程よい」ってつけるあたりが、劣等感を滲ませている感じもある…。

でも地域をPRするっていざやってみると本当に大変で、結局どの地域も似たり寄ったりな表現での紹介になってしまいがちです。無難さに着地しやすいですから。

私も一回は前橋市に足を運んでみて、無難なアピール文章からは見えてこないその地域の素の部分に触れてみたいものです。

そんな前橋市を舞台にしたアニメシリーズが今回紹介する作品となります。

それが本作『前橋ウィッチーズ』

本作は「バンダイナムコフィルムワークス」傘下の「サンライズ」制作のオリジナル作品なのですが、簡単に言ってしまえば、選ばれし高校生の少女たちが集まっていろいろな人の悩みに魔法で応えていくことで魔女になるための修業をする…という物語です。歌とダンスの要素もあるので、どことなくアイドルっぽい活動にもなっており、ジャンルとしては「魔法少女」「アイドル」の合体であり、『プリキュア』などよくあるタイプですね。『プリキュア』よりほんの少し年齢層が高めですが、普通に子どもも観れる良心的な中身ではあります。

そしてさっきから言及しているように、群馬県前橋市を舞台にした「ご当地アニメ」でもあるのが大きな特徴です。

それだけだと正直とくに個性が際立つものでもなく、実際、リリース前はそこまで話題になっていませんでした。

ただ、近頃、急速に熱烈なファンを獲得しているクリエイターが本作のシリーズ構成に関与しており、そこが見逃せない点でした。その人とは“吉田恵里香”です。

“吉田恵里香”は30代とまだ若いですが、脚本家のキャリアは10年以上地道に重ねてきました。そんな“吉田恵里香”が近年になって話題を高めていた理由のひとつに、性差別や性的マイノリティなどのトピックを扱うことがありました。ゲイを扱った2020年のドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』もそうですけども、やはり特筆すべきは2022年のドラマ『恋せぬふたり』で、自身のオリジナル作ながらもアセクシュアル・アロマンティックというなかなか主題にならないマイノリティに光をあて、そのレプリゼンテーションの歴史を切り開きました。

さらに“吉田恵里香”の名を一気に押し上げたのは、NHKの連続テレビ小説の『虎に翼』(2024年)で、性的マイノリティのみならずあらゆる社会の弱い立場にいる者への眼差しを人権の土台で描き抜き、高い評価を得ました。

日本のテレビ業界ではこうやって「マイノリティと人権」をしっかり逃げずに結び付けて創作で表現できるクリエイターが表立っては珍しいということもあって、「吉田恵里香、信頼できる!」と心を掴まれた人も多かったのだと思います。

そんな“吉田恵里香”ですが、アニメの仕事も以前からしていてとくに最近は2022年の話題作の『ぼっち・ざ・ろっく!』がありました。

一方で、実写とアニメは界隈が微妙に異なりますし(もちろんどっちも楽しんでいる人もいますが)、“吉田恵里香”も実写のようにアニメでも「マイノリティと人権」を目立って打ち出していたわけでもなく、またその視点で分析するような批評家もアニメ界隈には乏しかったこともあるせいか、双方の評価の接続点が薄かったところもあったと思います。

しかし、アニメ『前橋ウィッチーズ』は完全にそこを覆し、「吉田恵里香、アニメでもやってみせました!」という絶好調っぷりを見事に発揮したのではないでしょうか。

別にアニメでも社会問題を描いてきた作品はいくらでもあります(それこそ『ドラえもん』だって『クレヨンしんちゃん』だって『アンパンマン』だって社会問題を描いていますよ)。そうじゃなくて、“吉田恵里香”の『前橋ウィッチーズ』は、「マイノリティと人権」の結びつきを直視させる、いわゆる社会正義を恥じずに描き抜く…そういう姿勢が強みでしょう。

そのアプローチは大変だとは思います。日本のアニメ界隈はそういうのを毛嫌いする人も少なくないですし…。でも「こうやっても面白いアニメはいくらでも作れる!」ということに挑戦する“吉田恵里香”のようなクリエイターがいることは、業界にとってもかけがえのない財産になるはずです。そうやって業界内の偏見を少しずつ改善できるかもしれないわけですし…。

まあ、でもひとまずそんな大義はさておき、とりあえず『前橋ウィッチーズ』を気楽に眺めるだけでも大丈夫です。この店はいつでも迷えるお客さんを歓迎しています。

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『前橋ウィッチーズ』を観る前のQ&A

✔『前橋ウィッチーズ』の見どころ
★無邪気な雰囲気ながら社会正義に根差したストーリー。
✔『前橋ウィッチーズ』の欠点
☆後半はやや駆け足で、ボリューム不足。
☆ご当地アニメとの食い合わせがやや消化不良。
日本語声優
春日さくら(赤城ユイナ)/ 咲川ひなの(新里アズ)/ 本村玲奈(北原キョウカ)/ 三波春香(三俣チョコ)/ 百瀬帆南(上泉マイ)/ 杉田智和(ケロッペ) ほか
参照:本編クレジット

鑑賞の案内チェック

基本 オンライン上でのストーキングなど性的加害のシーンが一部にあります。
キッズ 4.0
全体的には子どもでも前向きに楽しく観やすい。
↓ここからネタバレが含まれます↓

『前橋ウィッチーズ』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤)

群馬県の前橋市。15歳の高校1年生の赤城ユイナは元気よく帰宅。新しく届いた洋服をさっそく着込み、鏡の前で「鏡越しの自撮りとかエモエモじゃない?」とインスタントカメラを構えます。

そのとき、自分以外誰もいないはずの部屋で何かが話しかけてくるのを耳にします。キョロキョロ見渡すと、天井にぶら下がるライトの上に謎のカエルのような喋る存在がちょこんと座っていました。

動じずに写真を撮るユイナに「きみはほんとによく喋るね」とその存在も感心。そしてこう言い放ちます。

「君みたいな子を探していたんだよ」「君、魔女になってみてよ」

扉が光り輝き、その奥へ足を進めると、謎の空間が広がっていました。さらに「集合!」の合図とともに3人の同年代くらいの少女たちがそれぞれ異なる色の扉からでてきます。

三俣チョコ上泉マイ北原キョウカ…。あと新里アズという子もいるらしいですが、今は遅れているようです。

ここでは異空間に店を構えて困っている人の願いを叶えるという修行をすることになっているそうで、その店の入り口はシャッターで地元のあらゆるところに繋がっているとか。報酬である魔法ポイント(マポ)を99999まで貯めると一人前の魔女になれ、正式な魔女になればどんな魔法もどこでも使えると説明を受けます。

その魔女の道に勧誘した案内者を「ケロッペ」と名づけていると、紫の扉から新里アズも現れました。

個人で持っている魔力の強さは異なるようで、今回の5人ならば魔力で店をオープンできるとのことで、あっという間に空間が花屋のような雰囲気になります。

こうして魔女見習いの修業が急遽始まってしまい…。

この『前橋ウィッチーズ』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2025/07/03に更新されています。
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それぞれの悩みを打ち明けて…

ここから『前橋ウィッチーズ』のネタバレありの感想本文です。

『前橋ウィッチーズ』はやっていること自体は「魔法で他人の願いを叶える」というただそれだけであり、物語としては「いかに願いを叶えるか」みたいな部分にはさほど焦点があたりません。なんか歌ってパフォーマンスしているといつの間にか願いが叶って満足して帰っている感じで、そのあたりは結構ざっくりしてます。

では何をメインに描いているかと言えば、その「魔法で他人の願いを叶える」という経験の中で、魔女見習いの5人が自分の実人生の内面的苦悩を「悩み」として自覚し、それを他者に打ち明け、連帯によって「解決」とまではいかないにせよ、乗り越える道筋を見いだす…そういう過程です。

魔法がでてくるわりにはかなり現実的なドラマになっています。

こういう「少女たちがシスターフッドで前向きに!」というノリの作品は他のアニメでもいくらでもありますけど、本作では各人物の悩みは現実の社会的トピックとして比較的明示的なのが特徴です。

まず最初に浮上するのが、紫ツインテールの新里アズ。当初から協調性に乏しく辛辣な態度でしたが、プラスサイズモデルの三葉凛子の来店によって、新里アズの秘めた劣等感がこぼれます。

新里アズのエピソードはずばり「ボディポジティブ」がテーマとして提示され、新里アズが自身の「肥満恐怖症(fatphobia)」にどう立ち向かうかが生々しく映し出されます。最終的には他の4人に素の体型を見せて外出するまでに…。

ちなみに、現実社会ではボディポジティブ(今の身体を肯定しよう)の運動は2023年あたりから後退傾向にあります。その理由はバックラッシュもあるのですが、「オゼンピック」という痩せる薬が安易に流通し始めたのも大きいですThe Guardian。この風潮によってプラスサイズモデルの仕事の機会も減っていると言われています。魔法なんかなくても痩せる手段が簡単に現れてしまうとは…。

本作に登場するプラスサイズモデルの三葉凛子(女性の恋人がいるらしいことが示唆されるのでクィアな当事者でもありますが)は、いろいろと割り切りながらも自分なりの誇りを胸にこの体で仕事している姿が描かれていて良かったです。

続いて団子ヘアの青の上泉マイ。彼女は優愛という小学校から交流のある3歳年上の女性を強く慕っており、というか依存しています。上泉マイのエピソードでは現代のネット社会ではどこかしらで生じる「インフルエンサーとフォロワー」の有害な関係性に斬り込んでおり、憧れ(承認欲)が自覚しないうちにマインドコントロールになる問題を問います。

その上泉マイに少し類似しつつも違う問題にぶち当たるのが、背の高い短髪の緑の北原キョウカ。5人の中では明らかに社会正義に根差した意見をところどころ口にする安定感のある人物ですが、両親からは女らしさを押し付けられ、それには耐える日々。そんな中、課金するほど傾倒していたVTuberからサイバーハラスメントを受けます。こちらはこちらで「性犯罪」だとハッキリ明言され、被害を矮小化しないのがいいですね。

脚本の“吉田恵里香”はオリジナルのドラマ『君の花になる』でもアイドル性に触れることの複雑な作用を物語にしていましたが、本作でも上泉マイや北原キョウカのエピソードでとくに別の側面を器用にみせてくれたと思います。

裕福な家庭の北原キョウカと真逆なのが、黄色の三俣チョコで、「ヤングケアラー」の問題に丁寧に寄り添っていました。「大変なおうちの子」というステレオタイプな目線の苦しさ、助けてと声をあげる勇気、社会支援の大切さ…。北原キョウカとの絡め方も上手く、第7話と第8話は個人的には本作で最も良質なエピソードだったと感じました。

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隠せない”ご当地アニメ”の欠点

『前橋ウィッチーズ』の残る最後は、ピンク髪のジャンル王道主人公の赤城ユイナ

赤城ユイナは一見すると屈託がなく疑心に囚われず包容力のある人間に見えますが、学校では友達がいないほどに他人との距離感を掴むのが苦手な様子。しかし、誰よりも他者の気持ちを他にはないかたちで汲み取っており、それを「普通」の人間関係の中で活かすのが不得意なのかもしれません。時間差で後悔が襲ってくるなど、感情のズレもあります。終盤でも魔女見習いの記憶を5人が失って再会したとき、赤城ユイナだけ記憶を思い出すのが遅く、やはり浮いています。

こうした特性はどことなくニューロダイバーシティっぽい雰囲気を匂わせます。

ただ、他の4人と比べると赤城ユイナの悩みの芯にあるトピックを明示するわけでもないので、かなりわかりづらいキャラクターです。下手するといかにもアニメ的な思考でキャラクター属性として片づけられて見過ごされるかもしれません。

正直、赤城ユイナの背景をもっと深掘りするエピソードがあと1話分は欲しかったなと言うのが個人的な願望ではありました。

そうすることで悩みに向き合うことに冷笑的になってしまっている膳栄子と対峙するラストでも、赤城ユイナの説得力はグっと増したのではないかな、と。

私としては『前橋ウィッチーズ』で一番に惜しかったなと思ったのは、ご当地アニメとの食い合わせが消化不良だということです。

昨今の日本のアニメ界隈ではすっかり定番スタイルとなっている、特定の地域に密着して自治体支援と聖地巡礼などのファン行動も刺激しやすいご当地アニメ。これだけ作られやすいのは、順当にウケがいいからでしょう。

一方で、現実の社会的トピックに紐づいた悩みに向き合うテーマがある本作において、その悩みのほぼ全ては個人レベルか漠然とした「社会」の問題に攪拌して薄められているのが気になります。

もっとその地域特有の背景に絡めてよりリアルに描くこともできたはずです。例えば、貧困の問題だったら同じ前橋市でも居住地の格差があるからだとか。小中高の生徒向けにサイバー性犯罪に関する教育が校内で行われておらず、被害相談先の用意など行政の取り組みが乏しいとか。

こうしたよりリアルな地域の実情がみえてこそ、北原キョウカが「市長になりたい」と志す意義にだって具体的な納得がいきます。

どうしても本作は、地域への批判的視線に遠慮しがちであり、前橋市に対して八方美人な振る舞いで誤魔化している感じが否めません。それをご当地アイドル的なアイドル産業前提のジャンルの流用で押し切ってもどこか噛み合っていません。

ご当地モノという企画の前提があったのでしょうし、いろいろ自治体相手に接するうえでの大人の事情はあるでしょうけど、そういう「(責任を放棄しがちな)大人」ではなく本作は「(未来が待つ)大人ではない者」だからこその目線の物語でもあるわけですからね。そこにこそきっと魔法の真価が試されるはずで…。

「欠点ばかりの私たちが無敵になれる場所」ではなく、「その場所の欠点に気づいたうえで、それを改善するべくどう人々が支え合って未来に繋ぐか」…。ありきたりな地域賛歌ではないご当地アニメにまで達成できていれば、『前橋ウィッチーズ』はもっと革新的な一作になれていたと思いました。

問題点も書きましたけど、リサーチとフィードバックで経験を積み重ねて着実に日本で無視できないクリエイターに上り詰めてきた脚本家“吉田恵里香”は間違いなく今後も成長をみせていくでしょうし、それに影響されて他のクリエイターや業界内外の人も鼓舞され波及するのではないかなとも期待が膨らみます。創作の未来に希望が持てるのは嬉しいですね。

『前橋ウィッチーズ』
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
?(匂わせ)
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関連作品紹介

日本のアニメシリーズの感想記事です。

・『空色ユーティリティ』

・『夜のクラゲは泳げない』

作品ポスター・画像 (C)PROJECT MBW

以上、『前橋ウィッチーズ』の感想でした。

Maebashi Witches (2025) [Japanese Review] 『前橋ウィッチーズ』考察・評価レビュー
#魔法少女アニメ #アイドルアニメ #ご当地アニメ #女子高校生 #ボディポジティブ