ただしブラッド・ピットに限る…映画『F1/エフワン』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2025年)
日本公開日:2025年6月27日
監督:ジョセフ・コシンスキー
恋愛描写
えふわん
『F1 エフワン』物語 簡単紹介
『F1 エフワン』感想(ネタバレなし)
Rじゃない。Fだ!
今回は『F1 エフワン』の感想なのですが、その前に「登録商標マーク、邪魔じゃないか?」という話からしておきます。
本作は国際自動車連盟(FIA)が主催する自動車レースの最高峰とも言われる「フォーミュラ1(Formula One)」…通称「F1」を題材にした映画です。シンプルなタイトルが全てですね。
で、その本作のタイトル、よく見ると「F1」の横に「R」か「TM」と小さく表記されています。これは登録商標マークで、Rを丸で囲った「Rマーク」は登録された商標を意味し、「TMマーク」は単に商品の商標であることを示しています。
問題は本作を紹介する映画メディアの中には、「F1」の単語に手当たり次第に「R」と付記している光景が見られること。だから「F1(R)」って書いてあります。全てのメディアがそうしているわけではないので、必ずそうしろと配給から指示されているわけでもないようですが…。
この登録商標マーク、日本では別に付けなくても違法になったりはせず、特段のデメリットもありません(むしろ登録商標じゃないのにマークを付けると虚偽表示になって違法なのでむやみに付けないほうがいいくらいです)。
少なくとも逐一「F1(R)」と書きまくるのは視認性が悪いですし、読み上げソフトで文章を判読している視覚障害者の人たちにとってもアクセシビリティが下がるだけだと思います。
まあ、「F1」はブランディング・ビジネスでもあるので、商標だと強調したいのでしょうけども…。でも映画で爽快に走る車と同じように、この映画も気持ちよく語りたいですしね。
ということでいい加減、映画『F1 エフワン』の本題に移ります。
でももうあまり事前に語ることもない気がする…。
F1もしくはカーレース全般を主題にした映画は昔から山ほどあって、『グラン・プリ』(1966年)、『栄光のル・マン』(1971年)、『デイズ・オブ・サンダー』(1990年)、『ラッシュ/プライドと友情』(2013年)、『フォードvsフェラーリ』(2019年)、『グランツーリスモ』(2023年)と、挙げだすとキリがありません。


その中には伝記映画も珍しくないですが、『F1 エフワン』は架空のF1チームを描いており、完全にフィクションです。ただし、実際にあったレースや出来事から着想も得ており、実在のレーサーもゲスト出演しています。もちろんレース映像の迫力は本物同然。
そして『F1 エフワン』の特徴を端的に言うなら、“ブラッド・ピット”主演だということに尽きます。
そもそも本作『F1 エフワン』は、『トップガン マーヴェリック』の5人の主要スタッフ…監督の“ジョセフ・コシンスキー”、プロデューサーの“ジェリー・ブラッカイマー”、脚本家の“アーレン・クルーガー”、撮影監督の“クラウディオ・ミランダ”、作曲家の“ハンス・ジマー”が再集結して製作されています。
要は、戦闘機をレースカーに変え、“トム・クルーズ”から“ブラッド・ピット”に乗り手をバトンタッチした…そう単純に思ってもらってだいたいOKなコンセプトです。『トップガン マーヴェリック』の2Pカラーみたいなものです。
物語もほぼ変わりません。中年から高齢に差し掛かった頑固なアウトサイダーのひとりの男「オールドマン」が颯爽と業界を救う…ハリウッドが好むテンプレどおりであり、老練なベテラン俳優がもう一度挑戦する舞台として機能する定番でもあります。もうすっかり「これ作っておけばいいだろ」ってな感じのメニューになってる…。
今回の『F1 エフワン』は、ハリウッドの全大手スタジオが参加した配給争奪戦に勝ち抜いたのは「Apple」で、ゆえに「Apple TV+」での配信が決定済み(劇場配給はワーナー・ブラザース)。なんでもかなりマーケティングに力を入れまくっているらしく、今作で生まれた国際自動車連盟(FIA)とのコネを活かして、Appleも隙あらば自社製品を宣伝しまくっているらしい…。
F1をよく知らない人でも、いや、知らない人ほど楽しみやすい映画なのかもしれません。逆にF1のファンダムからは本作にやや苦言が呈されているようですが、そのあたりは後半の感想で触れることにします。
『F1 エフワン』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
基本 | — |
キッズ | やや大人向けの人間模様が展開されますが… |
『F1 エフワン』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
ソニー・ヘイズは昔は世界にその名を轟かせた伝説的なF1ドライバーでした。今はF1からは降りましたが、ドライバーとしては高齢なほうではあっても、引退は頑なに拒み、バンで生活しながら、この業界にしがみついて生きています。
今日もレース会場に颯爽と現れ、運転席に乗り込みます。そして車と一体化し、レースで己を証明しようとハンドルを握りしめるのでした。今回参加しているデイトナ24時間レースは何としても走り続けることが全てであり、ソニーは夜が明けてもその走りを維持してみせます。
チームは見事に優勝を果たしましたが、ソニーは祝いにはあまり興味がありません。カネだけもらってそそくさと帰ります。そして次のレースの場へ行く…そんな生活です。
途中のコインランドリーで時間を潰していると、F1チーム「APX(エイペックス)」の代表であり、かつてのチームメイトでもあるルーベン・セルバンテスが話しかけてきました。久しぶりの再会に話が弾みます。
なんでも「APX(エイペックス)」は今は最下位に沈んでおり、勝たないと投資家が撤退してしまい、チームの存続が危ぶまれるそうです。少なくともセルバンテスは解雇されるのは確実。
旧友はヘイズをまたF1で走ってほしいと誘ってきます。まずテストドライブに参加してほしいとのことです。最下位からの逆転は相当に厳しいですが、これほどの頼みであるなら無視もできません。こうしてヘイズは復帰を決めます。
シルバーストーン・サーキットでのテストドライブ会場に行くと、チーム代表のキャスパー・スモリンスキー、テクニカルディレクターのケイト・マッケンナ、そして野心に燃える新人ドライバーのジョシュア・ピアスら、チーム一同と顔合わせします。
ピアスはいきなり現れたヘイズに対抗心剥き出しで、どうしてもその存在が気に入りませんが、ヘイズは長年の経験を活かしてマシンに体をすぐに慣らし、実力をみせます。
そしていざ本番のレースを迎えることに…。
ブラッド・ピットのファンフィクションのF!

ここから『F1 エフワン』のネタバレありの感想本文です。
『F1 エフワン』はこのジャンルでは最も求められるリアリティを120%完璧にクリアしてみせる安定のクオリティを危なげなく披露しています。
実際のF1グランプリ開催中のサーキットで撮影し、レーシングカーを本当に走らせて撮っているのですから、リアリティがあるのは当たり前。しかも、コックピット近接映像は高機能なiPhoneのカメラモジュールを使用して撮っているので、本来のF1レースの映像よりも鮮明度もあります。映像の観点だけで言えば、本物を超える勢いです。
とは言え、それは映像面のリアリティの話であり、F1は映像だけが全てではありません。それ以外のところでは、だいぶ本物と食い違う面も多く、わかる人はわかる「リアルじゃなさ」がたくさんあります。
しかし、本作はそんなことは気に留めていません。
なぜならきっとそれは本作が「ブラッド・ピットがF1ドライバーになる」という大前提のファンフィクションを構築することに徹底しているからでしょうね。「F1」の「F」は「ファンフィクション」の「F」だったんだ…。
一応のプロットはF1業界に馴染むように調整はされています。古株のドライバーがF1の世界に舞い戻る…。
ちなみにF1ドライバーの平均年齢は26~27歳程度で、18歳とかのドライバーも普通にいます。やはり反射神経が問われる世界なので、若い人に有利なのでしょうか。高齢でも40歳代くらいが多いです。
なので今作の“ブラッド・ピット”(俳優本人の年齢は61歳)の起用は明らかにちょっと年齢が高すぎる感じは否めません。
ただ、F1をよく知らない人は気にしませんよね。“ブラッド・ピット”がレーシングカーに乗っていればそれでいいのです。
“ハビエル・バルデム”演じるルーベン・セルバンテスなんかはもう長年の“ブラッド・ピット”推しのオッサンみたいですし、“ダムソン・イドリス”演じるジョシュア・ピアスもすっかり新規開拓された“ブラッド・ピット”のファンになっちゃいます。作中のチームはおろか、F1のファン全員が“ブラッド・ピット”にメロメロになっていく姿を描いた映画のようなものです。
『カーズ クロスロード』みたいに決定的な引退をして、若手に道を譲るわけでもありません。本作『F1 エフワン』の主人公ソニー・ヘイズはいつもどおりの仕事を終え、またいつでも戻ってこれるかのような舞台設定を維持したまま、映画は幕を閉じます。あくまで彼のためのステージです。
「F1へのラブレター」というよりかは「“ブラッド・ピット”へのラブレター」といった様相の映画だったと思います。
それでもラブレターは送らないにしてもF1業界にそれなりの配慮はしていて、そこはあちらこちらで窺えはしましたけどね。クラッシュはしても人死はださないようにするとか、業界批判的な部分には突っ込まないようにするとか…。“トビアス・メンジーズ”演じるピーター・バニングが嫌な役を全部背負います。
その配慮(国際自動車連盟へのごますり)が、本作をより平凡な路面に変え、“ブラッド・ピット”ありきにしているところはあったのではないでしょうか。
ベクデル・テストはぶっちぎりの最下位
別に「ブラッド・ピットがF1ドライバーになる」ファンフィクションが悪いわけではないですし、それはそれで盛り上がるのでいいのですが、『F1 エフワン』はそこに傾きすぎるあまり、F1業界の大切なリアルを犠牲にしたところもあって、そこに怒っているカーレース・メディア識者も少なくありません。
その最大の問題点は、女性の扱いの雑さです。その指摘の詳細は「Motorsport.com」や「GPFans」に語られているので、英語ですけどそちらを読める人はみてほしいですが…。
本作では、テクニカルディレクターのケイト・マッケンナ(“ケリー・コンドン”が演じる)が主要人物として登場しますが、技術的な才能はだんだんと脇に追いやられ、彼女も“ブラッド・ピット”推しに変えられていき、不運なことに数少ない「女性」だったので、恋愛相手としての役目も担います。
それ以外の女性のキャラクターも存在意義は限りなく薄く、ジェンダーバイアスを視覚化するベクデル・テストに合格しそうにはありません。
極めつけは、本作に出演していた“シモーヌ・アシュリー”のシーンの全カット。別にキャラクターが完成版から削られるのはよくあることなのですが、公開直前まで映画のプロモーションツアーとインタビューをこなしていた俳優の出番が無いのはなかなかに冷たい仕打ちです。“シモーヌ・アシュリー”はピアスの恋人役だったらしいですが、本作の他の女性の扱いの雑さをみると、このカットも象徴的な一件になってしまいました。
また、女性のファンの描き方も首をかしげるものでした。
「F1は男が走り、男が魅了される世界」とどこぞのミソジニーが吹聴するかもですが、実際のファンの約40%は女性だそうです。女性のドライバーもいますし、女性プレゼンターもいます。
しかし、本作にわずかにセリフありで登場する女性ファンはイケメン・ドライバー目当てで駆けつけているかのような存在として描かれていました。なぜ男性ファンと同じようにレーシングカーのスリルさやはたまたメカニカルなディテールに興奮する姿では描かれないのか?
本作のプロデューサーの“ジェリー・ブラッカイマー”は本作のプロモーションで「多くの男性がガールフレンドを映画館に引きずり込むだろう」と冗談を言ったなんて話もありますが、そんな添え物扱いが映画内にも滲んでいないか?
現実のF1業界でも女性差別は蔓延っていて、その女性の扱いの酷さを改善しようと近年はずっと努力し、声を上げていたので、なおさら今回の『F1 エフワン』の旧態依然に舞い戻るような描かれ方には憤慨するのだと思います。
もし映画『F1 エフワン』に魅了されたなら、過去のカーレース映画を鑑賞して古い世界に閉じこもるのではなく、ドキュメンタリー『Formula 1: 栄光のグランプリ』や『F1アカデミー: 新たなる風となる者に』を観て、「今」のF1の世界を知るのも良いのではないでしょうか。それこそが本物の正真正銘のリアルですから。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
作品ポスター・画像 (C)2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.
以上、『F1 エフワン』の感想でした。
F1: The Movie (2025) [Japanese Review] 『F1 エフワン』考察・評価レビュー
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