ブリタニー・ランズ・ア・マラソン
映画『ブリタニー・ランズ・ア・マラソン』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Brittany Runs a Marathon
製作国:アメリカ(2019年)
日本では劇場未公開:2019年にAmazonビデオで配信
監督:ポール・ダウンズ・コライッツォ

ブリタニー・ランズ・ア・マラソン

あらすじ

ブリタニーは欲望のままに自由奔放に毎日を過ごしていたが、そのつけが回ってきてしまった。何気なく訪れた病院で医者に宣告されたのは「糖尿病などの生活習慣病のリスク」。このままではマズい。彼女は今までバカにしていた「運動」に取り組むことになる。徐々に走ることに楽しみを見いだしていったブリタニーはニューヨークシティマラソンへの出場を決意する。

『ブリタニー・ランズ・ア・マラソン』感想(ネタバレなし)

あなたも走りたくなる!

あなたは適度な運動をしているでしょうか? 

学生の頃は部活で運動漬けの毎日だったけど、大人になってからはすっかりご無沙汰で…。子どもの頃から運動が苦手で、習慣にするなんていう考えも抱いたことなくいまだに何も…。ちょっと運動をしてみたけど全然続くことなく、諦めちゃった…

そんな経験を抱えている人も少なくはないはず。けれども、健康のためには適度な運動は必須。会社などの健康診断でも「運動してください」と言われてしまったことは多々あるでしょう。わかってる、わかってはいる。

でも今さら大人の人生の途中でいきなり運動をするのも気持ち的なハードルが高かったりします。ジョギングとかしている人を見かけるけど、自分があんな人間になれるとは思えない…。まるでそれは急に「運動への意識に目覚めた人」になったみたいで少し気恥ずかしい…。体型とかを気にしすぎている人間に思われるのもなんか嫌だ…。

こんなふうに運動を遠ざけてしまう感情が頭の中をぐるぐる回っているだけで終わる日々。

しかし! そんな運動ネガティブ思考とは今日でおさらば。そう、本作『ブリタニー・ランズ・ア・マラソン』を観れば、あなたの運動への第一歩を後押ししてくれます。これを観れば、その日のうちに運動をしたくなっているはず!

…なんかヘタクソなセールストークみたいになってしまいましたが、大袈裟でも何でもなく、この『ブリタニー・ランズ・ア・マラソン』は本当にそういうパワーを秘めた真っ直ぐな映画です。

お話はいたってシンプル…というか、あまりにも単純すぎるのですけど、運動なんて全然してこなかった女性がニューヨークシティマラソンに出るために奮闘する。はい、これだけです。もう原題の直訳みたいな説明ですね。本当にこれが主軸であり、多少の人間関係を描く側面はありつつも、このマラソン一筋の物語であるのは事実。まあ、特段、特殊な作品でもないです。

ところがサンダンス国際映画祭で上映するや、大絶賛で迎えられ、観客賞を受賞するほどの高評価。老若男女問わず誰でも感動できるストーリーに、心を鷲掴みにされた人が続出したのでした。

監督は“ポール・ダウンズ・コライッツォ”という人で、聞いたことがないなと思ったら、これが監督デビュー作だとのこと。もともと劇作家で、まだ34歳と相当に若いのですが、それで映画監督一発目でこの評価ですから、素晴らしい才能です。なんでも監督の友人をモデルにした実話に基づいた物語なんだとか。

主人公の女性を演じるのは、“ジリアン・ベル”です。彼女はもともとコメディエンヌであり、『22ジャンプ・ストリート』や『ナイト・ビフォア 俺たちのメリーハングオーバー』などコメディ映画に出演していました。一方で、コメディ番組『サタデー・ナイト・ライブ』の脚本という製作面でも活躍し、演技だけではない一面も覗かせていました。そして、今作『ブリタニー・ランズ・ア・マラソン』では主演の他に製作総指揮としても参加。まさに全速力で映画を自ら引っ張っています。

そのかいあって、『ブリタニー・ランズ・ア・マラソン』は間違いなく“ジリアン・ベル”のベストアクトを披露しています。最初はかなりだらしない肉体を惜しげもなく見せているのですが、ちゃんと運動の過程でシェイプアップしていき、さながらリアリティーショーのように運動で変わっていくひとりの女性をリアルに体現しています。もちろん“ジリアン・ベル”自身も撮影中にジョギングをして本当に体重を落としています。だから余計に嘘っぽさを感じず、観客の感動を増幅させてくるんですね。

露骨なスポーツ感動系には終わりません。運動をしない人間のこじらせた感情までもハッキリ描く、潔い姿勢があり、思わず「わかるわかる」と頷いてしまうことも。醜い部分も汗と一緒に全部曝け出している、そんな映画です。

観ていれば「応援」だけでは満足できず、いつのまにか自分さえも「走る」ことに身を投じたくなるでしょう。こういう映画がヒットしてくれれば健康促進効果もあるだろうに…。

「Amazon Studios」配給の映画なのですが、日本では劇場公開せずに、Amazonプライムビデオで配信を開始しました。存在に気づいていない人もいると思いますけど、2019年の記憶に残る一作になってくれると思います。忘れずに鑑賞してください。

オススメ度のチェック
ひとり◎(運動がしたくなる)
友人◎(友達との鑑賞でも感動)
恋人◎(支え合う強さを実感)
キッズ◯(運動を学ぶ良い機会)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『ブリタニー・ランズ・ア・マラソン』感想(ネタバレあり)

目指せニューヨークシティマラソン!

ぐうたらに寝ている女性。このブリタニー・フォーグラーがこの物語の主人公。そのライフスタイルはハッキリ言えば“だらしがない”。仕事もテキトーにすまし、プライベートな時間はひたすらに食べ飲み騒ぐ。友人たちのクラブでのハメを外すのが日課。こんな生活を続けているせいか、体力も低下。今日も寝過ごしてダッシュするも、地下鉄に間に合わず、電車のドアは虚しく閉まるのでした。

それでもブリタニーは職場に遅刻しても説教すらもギャグで誤魔化すような図太さで対応。これがいつもの彼女のやり方です。

さすがに集中できないなと思ったのか病院へ行ったブリタニー。「友達からいいって聞いたんだけどアデロールを処方してくれない?」と何気なく要求しますが、それはいわゆる「スマートドラッグ」というやつであり、医者は怪訝な顔。

そして深刻さの欠片もないブリタニーに医者は容赦なく告げます。「あなたは168センチで89.4キロ。BMIが高い。31~32だ」…壁の図には「30.1-40は“Obese”」と示されており、つまり「Obese=肥満」です。やや太り気味ではない、明確な肥満でした。

「私がデブって診断するの?」と医者に怒り心頭なブリタニーですが、医者は冷静に診断を伝えます。「28歳なのに高血圧だ」と健康にならないとマズいと言い、「20~25キロ痩せよう」と具体的な目標を提示。「それって犬くらいの重さじゃないか…!」なんて冗談はもう通用しません。

それでもブリタニーは現実を認めず、この日もクラブでいつもの女友達たちと遊びまくるのですが、ふと鏡に映った自分が気になってしまうように…。家に帰ってもまだ酒を飲み、着の身着のままベッドに倒れるだけ。

秋。ついにブリタニーは運動をするために動き出します。しかし、月129ドルのジムという高額さに驚き、さっそく挫けるのですが、こうなったら無料で済むジョギングしかない。ランニングに動きやすい服に着替えて、意を決して外に出てみます。いつも歩いている道なのに全然雰囲気が違う世界に見える…。反射した自分のランニングウェアな姿に困惑してしまい、家に退却。また食べ物に逃げてしまうのでした。

そんな中、ひとり部屋でなくブリタニーの泣き声を気にして同じアパートのキャサリンが訪ねてきます。彼女はすでにジョギングをしており、同情しながら優しく言葉をかけてくれます。

次の日。また外へ出てみたブリタニー。「1ブロックだけ」と自分に言い聞かせ、不慣れな感じで走り始めます。とりあえず走ったことは走ったのですが(すごく短い距離だけど)、肉体的にも精神的にも疲労困憊。これでは続かない。

SNSでフォロワーも多いルームメイトのグレチェンに「一緒に走らない?」と誘うも、「運動すると痩せすぎるから」と断られ、しょうがなくキャサリンのランナーの会へ足を運ぶことに。そこは自分は絶対に関係ないと思っていた、運動に燃えまくっているアツい人たちの集まりで、テンション高いランナーたちに完全にいつものトークも繰り出せず、無口で立ち尽くすしかないブリタニー。とりあえず後ろをついていって走り出すも、無論、ついてはいけません。ただ、自分と同じようによろよろな男に追いつくと、そのセスという男とゼェゼェ会話しながらなんとか3キロを走りきりました。

これがブリタニーのスタート地点になります。体重は「83.5キロ」。キャサリンとセスという一緒に走る仲間ができ、調子が出てくるブリタニー。そして、思い切って「ニューヨークシティマラソン」を目指すと明言します。

ニューヨークシティマラソンというのは、毎年11月にニューヨークで開催されるフルマラソン大会で、1970年より毎年開催される歴史あるイベントでもあり、5万人以上が完走しています。作中でも説明がありましたが、この大会に参加するにはいくつかの方法があって「保証出場枠」「旅行会社ツアー枠」「チャリティ枠」「抽選枠」の4つ。このうち初心者のブリタニーが狙えるのは抽選枠ですが14%しかなく、これに落ちるとチャリティ枠と言って寄付をした見返りに走れる手段しかありません。

さあ、運動とは無縁だったブリタニーはゴールにたどり着くことはできるのか…。

ブリタニー・ランズ・ア・マラソン

“だらしない”女ではなく…

『ブリタニー・ランズ・ア・マラソン』が素晴らしいなと思うのは、ストーリーの気が利いている丁寧さ。

こういう運動系の物語はたいていは感動を狙いやすく、基本はベタな道筋です。マラソンで言えば『ラン・ファットボーイ・ラン 走れメタボ』など同じような題材の映画は普通にあります。

それはそれでいいのですが、本作のように「太った人」が走ることで痩せるという要素が前面に出てきてしまう場合、大きな問題が付随してきます。それは「ルッキズム」です。そのへんを考えないで安易な話運びにしてしまうと、ただただ太った見苦しい見た目の奴は運動して痩せろ!という偏見を煽るだけの作品になってしまいます。

もちろん今作のブリタニーの場合は明らかに健康上の理由で運動を勧められています。でもあの診察のシーンでも配慮があるのですが、ちゃんと世の中には「不摂生で太っている人」と「遺伝的な理由で太っている人」の2種類がいることを明示しています。ブリタニーは前者なわけですが、でもここでひとつ、彼女の過去に関わる問題が明らかになり、それが彼女のおそらく今の堕落した人生につながる遠因になっていることが示唆されます。その過去の問題とは、ブリタニーの母親は家を出て疎遠になっており、父親は死んでいるということ。そのため、彼女はディミトリアスという継父みたいな存在の人に育てられてきたのでした。つまり、ブリタニーを単に“だらしない”奴と切り捨てることはせず、そうなった原因が誰にでもあると寄り添ってくれているんですね。今の肥満が遺伝的な理由でないか確認するために親の病歴を教えてほしいと言われても答えられないブリタニー。

人を見た目だけで評価しないというこの映画の姿勢はこの時点から滲み出ています。

あなたこそ見た目で判断してませんか?

話を「ルッキズム」に戻すと『ブリタニー・ランズ・ア・マラソン』序盤におけるブリタニーは相当に明るい性格で、ともすれば悩みなんて全然ないようです。でもそれは違って、先ほどの親の件もそうですし、自分の体型だって気にしてしまう繊細さは持っているのでした。

作中ではブリタニーの心の奥底に閉じ込めていた感情がいくつも爆発します。友人のグレチェンに対しては「デブの友人が欲しかっただけなんじゃないの?」と口論し、自分が比較対象の素材であることをズバリと言い切ったり、はたまた「男性から女性扱いされない」「女性には言わないことも言ってくる」と太っている女性特有の悩みを吐露したり。このへんの彼女の怒りや悲しみは、同じ境遇の人なら痛いほどわかる部分だと思います。

それゆえにブリタニーはかなり人間不信なところがあり、友人関係においても、恋愛関係においても、他者を信用するのにとても回り道をしてしまいます。

その他人不信は攻撃性にもつながり、裏を返せば「自分は可哀相な人間なんだ」という自己憐憫にもなっている。ゆえに徹底して相手の方が裕福で幸せそうなじゃないかと、いつも棘が言葉から飛び出すわけです。キャサリンもなんかおカネ持ってそうでジョギングして健康そうだし、セスはゲイのパートナーとハッピーに暮らしているみたいだし、ジャーンなんて呑気で世間の苦しさなんて全然わかっていない奴だ、と。もちろんそれは間違いで、実際は個々で人生の複雑な事情や苦しさを抱えているのですが。だから、ブリタニーは本音で接することのできる存在が犬くらいしかいない状態。

そのアグレッシブな他者攻撃は自分がニューヨークシティマラソンに落選したことで再発し、やがて自分と同じような(いやそれ以上に)太った体型の女性が男性のパートナーと幸せそうにしているのを目撃し、一番言ってはいけないことを言ってしまう

つまるところ、見た目で評価されてばかりで苦しんでいるブリタニーですが、彼女自身も他人を見た目で評価しまくっている。ルッキズム(差別や偏見全般がそうですけど)は安易に加害者・被害者に二分できない、自身との向き合い方の問題なんだということを教えてくれます。

「献身」が人生を走るエネルギー

人を見た目で判断しないというテーマ性は、人の施しを哀れみではなく優しさと受け止めることに繋がり、それは最終的にはニューヨークシティマラソンのポリシーでもある献身性に結びつきます。なぜこのマラソン大会には「チャリティ枠」というものがあるのか、その意味を物語を通しても理解できるでしょう。

ブリタニーが電車に間に合わないシーンが印象的に登場します。最初は間に合わず、しかしある時は間に合うことに成功。自分の運動能力の向上を実感します。でもそのシーン、実際はドアを止めてくれた人がいたから間に合っているんですね。そして最後はブリタニー自身が走って乗り込んでくる人のためにドアを手で止めてあげる姿を見せます。

この一連の変化からも、本作がただのスポーツを題材にした感動ポルノで終わらず、その一歩先の献身まで描いていることがじゅうぶん伝わり、それこそ本作の良さなんじゃないでしょうか。

終盤のニューヨークシティマラソンのシーンでは、実際の大会に参加して撮影を実施しているそうです。当然、“ジリアン・ベル”も走っており、途中で足を怪我して立ち止まってしまうシーンも大会内で撮影。その際、撮影だと知らない周囲の人から本当に心配されたというエピソードもあるのだとか。まさに献身の心がこの大会には内包しているんだなとわかる、生きたリアルの証明ですよね。

日本は2020年、東京オリンピックを控えています。競技の開催地がどこに移ったとか、経済効果がどうとか、自国自慢のおもてなしだとか、そういうことではない…スポーツとリンクした献身の心を世界中に広めていけるように頑張らないとです。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 89% Audience 87%
IMDb
6.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Amazon Studios ブリタニーランズアマラソン