査定しましょう…映画『アセスメント ~愛を試す7日間~』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:イギリス・ドイツ・アメリカ(2024年)
日本では劇場未公開:2025年にAmazonで配信
監督:フルール・フォーチュン
性暴力描写 自死・自傷描写 性描写
あせすめんと あいをためすなのかかん
『アセスメント 愛を試す7日間』物語 簡単紹介
『アセスメント 愛を試す7日間』感想(ネタバレなし)
親になる素質?
「あなたは親になる資格はない!」
この言葉は相手の「親」としての素質を否定する際の定番文句ですが、実際のところ「親になる資格」なんてありません。運転免許証とはわけが違います。
もし仮に「親になる資格」なるものがあるとしたら、何を評価されるのでしょうか。
現在の社会においても、養子制度や代理出産など限られた事案で親側の人物に対する査定が行われますが、その場合は、収入、保険加入、健康状態、年齢、犯罪歴などが条件になってきます。
それを全ての「親になろうとしている人たち」に適用すればいいのでしょうか。それ以外にも何かの評価項目があるのでしょうか。それはどんな結果をもたらすのでしょうか。
今回紹介する映画はそんな問いで揺さぶりをかけてくるSFです。
それが本作『アセスメント 愛を試す7日間』。
原題は「The Assessment」で、邦題に「愛を試す」なんてフレーズがついていますが、ロマンチックな作品では全くありません。
近未来を舞台にしたSFであり、この世界では親になれるカップルの数が厳格に制限されており、子どもを持ちたい場合は、政府による7日間の独自のアセスメントを受けて合格しなければなりません。合格すると初めて「親になる許可」が手に入り、子どもとの生活へ進めます。
本作はこのアセスメントを受ける一組の夫婦を主人公にしており、個人や社会にとっての「親」という概念を冷たく風刺しています。
この『アセスメント 愛を試す7日間』を監督するのは、“フルール・フォーチュン”という人。知らない人だなと思ったら、これが長編映画監督デビュー作でした。「Fleur & Manu」というコンビでさまざまなビデオ創作をしていたそうで、今作の映画で大きな注目のチャンスを獲得した感じなのかな。
とは言え、“フルール・フォーチュン”監督は雇われ監督的なポジションのようで、製作の座組はかなりしっかりしています。最近だと『生きる LIVING』を製作した“スティーヴン・ウーリー”と“エリザベス・カールセン”が立ち上げた「Number 9 Films」がプロダクションに関与し、“デイブ・トーマス”、“ネル・ガーファス・コックス”、“ジョン・ドネリー”による脚本が土台になっています。
そして『アセスメント 愛を試す7日間』の俳優陣もなかなかに豪華。
厄介な事情を背負った妻を演じさせたら右に出る者はいない(というかそういう役柄ばかりを好んでいる気がする)“エリザベス・オルセン”。その夫役は、ドラマ『ザ・フランチャイズ』など多彩に活躍する“ヒメーシュ・パテル”。
さらにその夫婦を査定する謎めいた人物を演じるのが、“アリシア・ヴィキャンデル”(アリシア・ヴィカンダー)で、今作ではこの“アリシア・ヴィキャンデル”がとくに強烈な演技を披露してくれます。最近だと『ファイアーブランド ヘンリー8世最後の妻』など、何かと物語の中心に立つヒロインを演じることも多かった“アリシア・ヴィキャンデル”ですが、こういう切り口の役もこなせる器用さがあることがよくわかる演技をみられます。
『アセスメント 愛を試す7日間』は日本では劇場公開されず、「Amazonプライムビデオ」での独占配信となっています。
『アセスメント 愛を試す7日間』を観る前のQ&A
A:Amazonプライムビデオでオリジナル映画として2025年5月8日から配信中です。
鑑賞の案内チェック
基本 | 自死や同意のない性行為の描写があります。また、激しい光の点滅をともなうシーンが一部にあるので注意です。 |
キッズ | 性行為の描写があります。 |
『アセスメント 愛を試す7日間』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
ミアは海を泳いでいました。波をかきわけて水泳している最中、母に呼ばれた気がします。その声に導かれていると、まるで子どもの頃に戻ったような気分になりました。つい必死に泳いでしまいますが、もちろん母はいません。母は自分のもとを離れたのです。いるわけがありません。
浜辺に辿り着き、ひと段落して家に戻ります。歩いていける距離にあります。
殺風景な草地と荒れ地が広がっており、家はその中にポツンと建っていました。
「ドームの環境変化は正常範囲内です」とシステム音声が流れます。ここはドームで覆われた空間で、環境はコントロールされています。本来の外は環境悪化によって到底人が住めるような場所ではなくなっており、一部の人たちはこの設計された新しい世界で暮らすようになったのです。
ミアの夫のアーリアンは真っ暗で黒いソファがぽつんと置かれている空間でくつろいでいました。夫婦としてここで共同生活しています。
ミアは熱心な植物学者で、家の近くにある専用の温室研究ラボで持続可能な植物と藻の栽培に取り組んでおり、ビーナス・オーキッドという蘭をとくに観察しています。現在の世界では植物は貴重です。
かつて大学で働いていたアーリアンは人類の生存のためにペットの殺処分を推奨したこともあって、今は絶滅した動物に代わるバーチャルリアリティーのペットを設計していました。かなりそのデザインは進んでおり、納得のいくクオリティまであと一歩です。
ミアとアーリアンは子どもが欲しいと考えていました。しかし、この世界では子育てに厳しい規制を課しており、そのまま妊娠はできません。人々は特殊な医薬品によって寿命を延ばし、出産は人工子宮によってのみ可能となっています。そして何よりも親になりたい人は、そのカップルの子育ての適性を判断するために、7日間の厳しい審査を受けなければならないことになっていました。
ミアとアーリアンはその査定を明日から受けます。2人は受かるだろうかと心配でしたが、互いを落ち着かせ、ベッドの上で体を交えます。
翌日、家に政府任命の査定官であるバージニアが訪れます。
「あなた方は国民の上位0.1%に属します」と語り始め、手順を説明。辞退はできますが再査定はできないので1度だけのチャンスです。査定内容は極秘なので、2人もよく知りません。
ミアはどういう内容の査定なのかと質問しますが、バージニアは答えを濁します。
「いい親になります」ととりあえず口にするも、バージニアは「みんな言います」と答えるだけです。
こうして1日目の査定が始まり、質問が開始。互いの印象を聞いたり、性生活も遠慮なしで問われます。家族のことも聞かれ、実はミアの母は旧世界に送られていました。
バージニアは7日間の間、この家に泊まり、査定を常に行います。部屋も案内し、ラボもみせます。毛髪、血液、尿、精液を提供するように言われ、それも大人しく従います。
こうして1日目が終わりますが…。
プライバシー問題を自覚する

ここから『アセスメント 愛を試す7日間』のネタバレありの感想本文です。
『アセスメント 愛を試す7日間』は査定官であるバージニアの出現によって、ミアとアーリアンの水入らずの空間に第3者が混じり、夫婦間に不協和が生じる過程をじっとり描いていきます。SFな設定が前提にありますが、倦怠期な夫婦モノのジャンルとして概ねの定番をなぞりますね。
1日目はバージニアがあれこれとプライベートに踏み込むような質問をぶつけまくり、その気まずさは一種のカップル・セラピーを受けるときの感覚に似ていました。「そんなことまで明かさないといけないのか…」という気持ち…。
そして監視状態に置かれることをあらためて認識し、安心できるはずの家がすっかり不気味な空間に変わり果てます。
ただ、ここでこの映画の嫌らしさがあるのですが、ミアとアーリアンが住んでいる家自体が妙に作り物感があるというか、いや、どんな家も作り物なのですけど、より無機質で温かみはもともとないです。しかも、この家のある世界自体がドーム状のテクノロジーで環境を人工的に維持し、家も「ショーフス」と呼ばれる音声がシステム管理し、そのうえアーリアンはバーチャルリアリティー(これ、厳密には拡張現実「AR」だと思うけど…)で個人の空間を築いています。
要するに根本的にプライバシーなんてものはないわけです。もしかしたらミアとアーリアンのような一般人の言動は常にどこかの政府機関によってコントロールされているのかもしれません。
それなのにバージニアの出現によってミアとアーリアンは今さらになってプライバシーを気にし始めるという…。そういう皮肉な滑稽さがありますよね。こういう極端なシチュエーションに直面してやっと人はプライバシーの重要性を自覚する…。
2日目はバージニアが急に子どもじみた振る舞いをするようになり、「大きな子ども」相手にミアとアーリアンが翻弄されるという、育児疑似体験というよりは我慢大会みたいなゲームが始まります。
どんなに子どもっぽい仕草であろうとも目の前にいるバージニアは大人なので、子どもとして対応するにしても限度というものがあり、それもまたシュールさを際立たせます。
そうこうしているうちに、案の定と言いますか、査定がどうとか設定が何であれ、夫婦間に大人の女性が親密に入り込む構図には変わりないわけで、不倫のような状況に陥ります。
ここでちょっと面白いのは、アーリアンがバージニアに半ば性的加害的な目に遭うという関係性だけでなく、ミアもまた密かにバージニアと「子ども」にはしないようなキスをしてしまい、こちらも不倫関係が醸し出されるということ。
つまり、本作は「不倫=異性間」を前提にしておらず、ちゃんと異性愛規範を回避しています。まあ、アーリアンはまさかミアもバージニアと関係を持ってしまっているとは想像もしてないでしょうけど…。
「親の素質を評価する」に騙されるな
『アセスメント 愛を試す7日間』は終盤で真相が明らかになりますが、簡単に言えば、この7日間の査定における「親の素質を評価する」というのは建前にすぎず、実際は何もしていないに等しいのでした。
どうやらこの世界の人口はすでに過剰と考えたのか、誰に対しても子どもを持つ許可を6年も与えていないことが発覚します。アセスメント自体が不正。嘘です。やってるふりです。
でもこれってまさに「あなたは親になる資格はない!」という言葉の本質を炙るようなオチだとも思います。そういう言葉の感情の背景には、本当に「親になる素質」を整理しようという本心はなく、そこにあるのは「制度的にアイツは邪魔だから排除しておこう」という全く別の意図だったりしますから。
「親の素質を評価する」というもっともらしいことを掲げれば大衆は騙せる。社会はそういう規範化に弱いですからね。「子どもを守る」という名目がいかに武器化されやすいかは現実を見ればよくわかります。
『アセスメント 愛を試す7日間』の世界は、セノキシジンなる物質で生殖抑制をしていて、いわゆる「2人の人物が交わって行う性行為の結果の妊娠と出産」は暗黒の時代の慣習みたいに語り継がれているのが、作中の登場人物の言葉から窺えます。人工子宮が確立しているくらいですからきっと生殖技術は相当に進んでいるはずでしょうし、同性同士でも血縁のある子を成せるはず。
しかし、この世界の権力者は生殖を管理するという手段をとりました。これは大衆をコントロールする最大の禁じ手です。そして人種的マイノリティや障害者、性別移行者などを対象に現実社会でも行われてきたことでもありますが…。
バージニアはその犠牲者で、アセスメントの最中の彼女の行動はどこか希死念慮を常に反映していました。
生殖を人質にとるというやり方がまかりとおった世界。体制権力に抗議運動で歯向かっていた人たちは旧世界に追放され、従順になった者だけが漠然と管理されているだけの世界。
ミアはついにこの社会の酷さに幻滅したのか、母の後を追うように旧世界へ足を踏み出します。作中ではそこに何が待っているのかは明らかにされませんが、その正面からの表情が最後に映り、ミアのずっと探し求めていたものを見つけられたかのような希望が残ります。
対するアーリアンは完全にバーチャルの世界に閉じこもる道を選んだみたいで、「お前はそれでいいのか」という感じではあるのですが、映画の演出としてはひとつの物悲しい顛末のかたちなのかな。
個人的にはバージニアを飛び降り自殺という結末で退場させず、ミアと一緒に旧世界に行ってほしかったですけどね。そのルートに進んでいれば、私の中での本作の評価はもっと上がっていたと思います。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
作品ポスター・画像 (C)Amazon MGM Studios
以上、『アセスメント 愛を試す7日間』の感想でした。
The Assessment (2024) [Japanese Review] 『アセスメント 愛を試す7日間』考察・評価レビュー
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