感想は2100作品以上! 検索はメニューからどうぞ。

映画『エルヴィス』感想(ネタバレ)…2022年にエルヴィス・イズ・バック!

エルヴィス

オースティン・バトラー主演…映画『エルヴィス』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Elvis
製作国:アメリカ(2022年)
日本公開日:2022年7月1日
監督:バズ・ラーマン
恋愛描写

エルヴィス

えるびす
エルヴィス

『エルヴィス』あらすじ

1950年代、才能を見い出すのが得意なトム・パーカーはある人物に目をつける。それは腰を小刻みに揺らし、つま先立ちする独特でダンスを交えたパフォーマンスでロックを熱唱するエルヴィス・プレスリーという若い男だった。女性客を中心とした若者たちは興奮し、小さなライブハウスから始まった熱狂はたちまち全米に広がっていった。このエルヴィスのマネージャーとなったトムだったが、それは前途多難な人生の始まりで…。

『エルヴィス』感想(ネタバレなし)

スポンサーリンク

オースティン・バトラーがなりきる!

「キング・オブ・ロックンロール」と呼称されるのはきっと永遠にこの人だけなのでしょう。

それはもちろん“エルヴィス・プレスリー”です。

エルヴィス・プレスリーについては私が今さら説明するまでもない、音楽界の伝説の中の伝説。現代音楽のムーブメントの起爆点となったエンターテイナーです。

いろいろな映画やドラマの中でネタにされまくっており、あまりにもネタにされやすいので、もはやネタとしてしか認知していない人もいるかもですが、その栄光を知っていた方がそりゃあ良いに決まっています。

エルヴィス・プレスリーの伝記作品はこれまでいくつも作られてきました。1979年の『ザ・シンガー』や2005年の『ELVIS エルヴィス』は伝記映画ですが、テレビ映画だったのでちょっと目立っていません。1997年の『エルヴィスとニクソン』や2016年の『エルヴィスとニクソン』のようなピンポイントな出来事を描いた映画もありました。2017年には『The King』というドキュメンタリー映画も作られているのですけど、なぜか日本では未公開なんですよね(なんでなんだろう?)。

そんな中でおそらくこれが最もポピュラーなエルヴィス・プレスリー映画として位置づけられることになるんだろうなという作品が2022年に登場しました。

それが本作『エルヴィス』です。

原題は「Elvis」で、過去の伝記映画と同様のタイトルなので、区別するために2022年の『エルヴィス』と言わないとダメかな。

一番に気になるのは誰がエルヴィス・プレスリーを演じるのかという点だと思います。その大役で抜擢されたのが、“オースティン・バトラー”という1991年生まれのアメリカの俳優。日本ではそんなに有名じゃないのですが、確かに日本で話題の作品にはほぼでていないのでそれも無理ない話です。2008年に『ゾーイ101』というシットコムで途中からメイン出演し、2009年の『Ruby & the Rockits』、2010年の『Life Unexpected』、2013年の『マンハッタンに恋をして 〜キャリーの日記〜』、2016年の『シャナラ・クロニクルズ』と、ドラマで主に活躍。映画だと『デッド・ドント・ダイ』でちょこっと登場したし、『コンビニ・ウォーズ バイトJK VS ミニナチ軍団』だともう少し目立つ感じで出番はあったけど、でも印象は薄いですね…。

その若手の“オースティン・バトラー”が今作『エルヴィス』でとんでもないキャリアアップのチャンス到来。なんでも“デンゼル・ワシントン”が推薦したらしいんですけど、良い目利きですよ。プレッシャーも相当にあったと思いますが、“オースティン・バトラー”は本作で見事になりきってます。

共演は“トム・ハンクス”で、彼はマネージャーだったトム・パーカー大佐を演じ、この2人の出会いと関係の変化を軸に本作は進んでいきます。ちなみに『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994年)にて主人公が若き何者でもなかったエルヴィス・プレスリーに影響を与えるというシーンがあり、“トム・ハンクス”は今回の『エルヴィス』で本当に影響をもたらす役となったので、なんだか不思議な縁です。“トム・ハンクス”は最近だと『フィンチ』『この茫漠たる荒野で』『幸せへのまわり道』など幅広いジャンルにでて相変わらずの抜群の演技を見せているので、今回の演技も当然上手すぎて今さら褒める感覚も無くなってしまいますね。

そして2022年版『エルヴィス』を監督するのは、オーストラリア出身の“バズ・ラーマン”『ダンシング・ヒーロー』(1992年)、『ムーラン・ルージュ』(2001年)、『華麗なるギャツビー』(2013年)などを手がけた独特の才を発揮する名監督ですが、本当に久しぶりの劇場映画です。ちょっと“バズ・ラーマン”監督のこと、忘れてたな…。『エルヴィス』を観ると“バズ・ラーマン”監督らしい演出が詰まっていて、年月が経過しても個性は衰えていないなとわかります。

他の共演俳優陣は、『ヴィジット』の“オリヴィア・デヨング”、『ルース・エドガー』『WAVES ウェイブス』の“ケルヴィン・ハリソン・Jr”、『X-MEN:アポカリプス』の“コディ・スミット=マクフィー”、『ムーラン・ルージュ』の“リチャード・ロクスバーグ”など。

エルヴィス・プレスリーのことを全然知らなくても大丈夫ですので安心してください。どうやってエルヴィスがブレイクしたのか、どうやってその人気は高まっていったのか、それに対する世間の反応はどうだったのか、そしてエルヴィスはそのキャリアと人生をどのように終えたのか…。ひととおりのことがまるっと描かれているので親切な映画です(ちょっと序盤はクセのある時間軸の描き方だけど)。

ただし、約160分くらいの上映時間があるので、しっかりトイレはしておきましょうね。エルヴィスさん、こっちの膀胱とかお構いなしに場を盛り上げてくるので。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:知らなくてもOK
友人 3.5:ファン同士で語り合う
恋人 3.5:ロマンス要素は薄い
キッズ 3.5:音楽が好きなら
↓ここからネタバレが含まれます↓

『エルヴィス』感想(ネタバレあり)

スポンサーリンク

あらすじ(前半):伝説はここから始まる

1997年。老齢のトム・パーカーは薄れゆく意識の中で、あの人物のことを思い出します。救急車で運ばれ、人生の最期を悟りつつ…。あの男と出会ったあの日を…。

1955年。トム・パーカーは色々な仕事に手を出し、今はタレント・マネジメントで成功していました。すでにハンク・スノウといった歌手のプロモーションでひと山あてています。

ある日、トムの耳に車のラジオから気になる音が聞こえてきます。この歌を歌っている人物は磨けば光る原石なのではないか…そう直感したトムはすぐに現地に駆け付けます。

ルイジアナにいたのは「ブルー・ムーン・ボーイズ」という3人組アーティストでした。トムが目を付けたのはそのうちのひとりエルヴィス・プレスリーという若い男です。

エルヴィスはピンクのスーツというあまり見ないスタイルでステージに立ちます。静かに見つめる観衆。それほど場慣れしていないのか、エルヴィスは慎重に、自分の調子をあげていくようにマイクに声を発し始めます。そのか弱さに思わず笑い出す観衆。囃し立てバカにする者もいます。

ところが一気に歌い出すと場は変貌します。エルヴィスは体を小刻みに震わせ、全く見たことのないような歌唱を披露。そのとたん、悲鳴を上げて熱狂する女性たちが次々と出現。立ちあがって抑えていた感情を爆発させる若い女性たちの間に異様なムードが拡散し、エルヴィスは完全に会場の若い女性を虜にします。普段は物静かな女性であろう相手さえも大乱狂です。みんながステージに手を伸ばし、エルヴィスに夢中。

その光景をトムは見ていました。信じられない現象。これは明らかに逸材です。それも常識を覆すような…。

一体このエルヴィスという男の音楽センスはどこで生まれたのか。その出発点はアフリカ系アメリカ人の音楽からでした。

エルヴィスはミシシッピ州テュペロ出身で、とても貧しい家庭で生まれ育ち、父ヴァーノンと母グラディスはキリスト教プロテスタントの教えを我が子に授けました。そんなエルヴィスは幼い頃からアフリカ系アメリカ人が集う音楽を耳にして、彼らが集まるテントに引き寄せられます。そこには体感したことのない熱狂的なリズムがあり、体を震わせ、みんなとシンクロします。

テネシー州メンフィスに引っ越した後も、アフリカ系の音楽文化が身近にありました。やがてエルヴィスはこの音楽を自分流にアレンジして取り込み、自己表現していくように…。

こうして小さな音楽活動を始めたエルヴィスでしたが、その魅力は確実に新しいものに飢えていた若い世代の心を掴み、各地を熱狂させていきます。

その光景を観察していたトムは確信しました。このエルヴィスのマネージャーになろうと…。

トムはエルヴィスに声をかけます。それは全米、そして世界へと旋風が巻き起こる起点となります。しかし、それを快く思わない者もいて…。

スポンサーリンク

まさかの観覧車デート

『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)や『ロケットマン』(2019年)のような最近になって話題となった著名ミュージシャンの伝記映画大作は、そのミュージシャンの人生をライブショー化するという応援上映的なスタイルと親和性が高いものが目立っていました。

対するこの『エルヴィス』はそんなにエンターテインメント・ショーに振り切っていないのですが、それでも前半はかなりこの最近のトレンドを押さえた伝記映画の作りをしていたと思います。

始まりの描かれ方が特徴的で、本作ではトム・パーカーがカーニバルを従えている立ち位置になっており、それこそ『ナイトメア・アリー』でも見たばかりですが、ある仕掛け人が才ある人物を見い出してショー・ビジネスの栄光と破滅が混ざり合う世界へと誘うという構図になっています。ここで“バズ・ラーマン”監督らしい演出も炸裂するので、なんだかファンタジックですらありますね。

まさか“トム・ハンクス”と“オースティン・バトラー”の観覧車デートが見られるとは思わなかった…。

そしてもうひとつの本作の特徴と言えば、やはりアフリカ系ミュージックのカルチャーへの言及。

もともとエルヴィスがR&Bのような黒人音楽文化から影響を受けていたのは承知の事実ですが、それに対して白人による黒人文化の乗っ取りの典型例ではないかという批判もありました(実際、白人至上主義者の中にはロックの原点はエルヴィスだと思っている人もいるのは『ダリル・デイヴィス KKKと友情を築いた黒人ミュージシャン』を観てもわかります)。

本作『エルヴィス』はそれを踏まえて、かなりアフリカ系音楽文化の描写を丹念にしようと序盤から心がけており、幼いエルヴィスがその素晴らしさに感銘を受けるシーンを始め、B.B.キングとの交流なども含めて、素直な音楽への情熱の継承としてリスペクトと共に丁寧に描き出していました。

エルヴィスは人種差別的な側面もあったという指摘も識者からはあるのですが、本作ではそれは言及せず、彼はあくまで白人と黒人の橋渡し的な存在になっており、良くも悪くも理想化されたアーティスト像ですね。

ともあれ、いかにも2020年代に作られたエルヴィス・プレスリーの伝記映画だなと思わせるポイントです。

スポンサーリンク

“若い女性が楽しむ文化”への蔑視

そんなエルヴィスは黒人社会と繋がりを持ったゆえに、白人至上主義的な社会に目をつけられ、警察による抑圧の対象となっていく姿が本作『エルヴィス』の中盤では描かれます。このへんは『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』なんかとも重なりますね。

また、映画内で最初のエルヴィスによるパフォーマンス・シーンでの若い女性たちの嬌声乱舞の大熱狂。この社会現象化は同時にエルヴィスを「悪魔の音楽」を生み出した反社会分子として一部の保守派に決定づけさせるのですが、これは同時に女性差別的な側面もあって…。

そもそも初期のエルヴィスは保守的な地域で音楽を披露していて、当然観客は保守層の白人です。その家庭では女性は「清楚に、おしとやかに、慎ましく」…そう教育を受けて振舞うことを強要されます。そんな保守的なお行儀良さを叩きこまれた若い女性たちがあのエルヴィスの歌を聴いて人が変わったかのように熱狂するというのは、保守的な抑圧を吹っ飛ばすパワーを受けたということ。そこにはカタルシスがあります。

一方でそんな若い女性たちを巻き込むムーブメントに冷たい目線を向ける親ですが、それはこういう若い女性たち(ファンガール)が楽しむカルチャーを見下す世の中の視線とも重なりますし、そういう軽蔑的空気は今の日本にだってありますよね。

エルヴィスのあの存在感も以前までの“男らしさ”とはまるで違います。エルヴィス本人は別にゲイではないのですけど、“リベラーチェ”を意識した衣装センスなどもあって、どことなくクィアっぽく見える。男らしさの刷新です。だからこそ保守層はそのエルヴィスを嫌がるのですけど。

本作でもエルヴィスをそんなに既存のマッチョイズムに当てはめないように描いているなと感じました。恋愛描写すらもかなり薄めでしたしね。

スポンサーリンク

父親的存在はいなくても

後半になるにつれ、エルヴィスの苦悩が前にでてきます。

本作『エルヴィス』では、前述した“男らしさ”を捨ててオリジナリティを生み出そうとする葛藤が盛り込まれているようにも思えました。

エルヴィスの父親は刑務所にいたりしてあまり傍にいません。一方で、トム・パーカーはどことなく信用できなくっていく。かといって自分自身で独立できるほどのパワーはない。

その中で、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアやジョン・F・ケネディの暗殺といった社会背景も描かれ、アメリカ自体が偉大な父親像を喪失しているという交差も映し出されていき、これはエルヴィス個人の苦しさではなく、アメリカ国民の悩みとしても受け取れもします。

最終的にはエルヴィスは自分を貫いて、愛してくれるファンに囲まれて、あの「Unchained Melody」を歌いながら、その数週間後に亡くなる。切ない終わり方ですが、トムとのマネージャー関係を本作ではわりとしっかり「abuse」として認識している感じもあり、やっぱり今はそこはハッキリとダメなものはダメと言うべき時代なんだなとも思ったり。

どんなに伝説的な人生であっても何でも正当化するのではなく、エルヴィス個人の想いに寄り添い、彼をどことなく救うような後味もある。『エルヴィス』は現代の伝記映画として真っ直ぐな作りだったと思いました。

『エルヴィス』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 78% Audience 94%
IMDb
7.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

以上、『エルヴィス』の感想でした。

Elvis (2022) [Japanese Review] 『エルヴィス』考察・評価レビュー