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ドキュメンタリー映画『ブラックフィッシュ(Blackfish)』感想(ネタバレ)…そしてその後の話

ブラックフィッシュ

シャチの居場所はどこ?…ドキュメンタリー映画『ブラックフィッシュ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Blackfish
製作国:アメリカ(2013年)
日本では劇場未公開
監督:ガブリエラ・カウパースウェイト
ブラックフィッシュ

ぶらっくふぃっしゅ
『ブラックフィッシュ』のポスター

『ブラックフィッシュ』簡単紹介

シャチのショーを目玉としているアメリカ各地にあるテーマパーク「シーワールド」。トレーナーの合図でダイナミックに水面から飛び上がるシャチの姿に子どもも大人も魅了され、大興奮していた。しかし、あるとき、ひとりのトレーナーがシャチに殺されるという悲惨な事件が起きる。なぜこのような惨劇が発生してしまったのか。実は似たような事件は連続していた…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ブラックフィッシュ』の感想です。

『ブラックフィッシュ』感想(ネタバレなし)

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シャチー・ショーの暗い話

「地球の海にはですね、体長5~8mほどの大きな海洋哺乳類が生息しているんですよ」

「それは迫力がありますね」

「ええ、しかもその海洋哺乳類は、クジラやホホジロザメのような生物も捕食するくらいで、この星の言語のひとつの英語では“Killer whale”って呼ばれてるくらいなんです」

「獰猛なんですね」

「はい。で、私たち人間はその生き物を施設で飼育して、すぐ傍で一緒に泳いでショーをやるんです

「え…、え? なんで?? 地球人はどういうつもりなの???」


たぶん宇宙人にそう説明したら、宇宙人も混乱するはず…。

でもあらためて考えてみると、なぜ人間はシャチという生き物を水族館などでショーの見世物にしているのでしょうか。ホホジロザメとは絶対に同じことをしないのに…。それを食べる生き物とは同じ水槽で泳ぐって…。

シャチのショーは1960年代にアメリカで本格化しました。象徴的な始まりは、1964年のことで「SeaWorld(シーワールド)」という海を題材にした大型テーマパークがその先駆者です。カリフォルニア大学ロサンゼルス校の卒業生だった4人が立ち上げたテーマパークであり、当初は水中レストランを構想していたのですが、それが頓挫し、海をテーマとする遊園地的な娯楽施設に変わったそうです。

最初にできたのは「シーワールド・サンディエゴ」で、そこからいくつもチェーンとして各所に新オープンし、今では有名な存在に。そして名物がシャチのショーであり、最初のシャチの名に因んで「Shamu show」と呼ばれたりもしています。

ちなみに日本でもシャチのショーをしている「鴨川シーワールド」や「神戸須磨シーワールド」といった水族館がありますが、アメリカの「シーワールド」とは無関係です(日本のは「フジ・メディア・ホールディングス」が親運営、アメリカのは「ユナイテッド・パークス&リゾーツ」が親運営)。鴨川シーワールドは1970年開館で、創業者はアメリカのシャチのショーに感化されて始めたらしいので、ほぼパクリ…いや、うん…。

そんなアメリカのシーワールドのシャチ・ショーですが、実は今では猛批判を浴びています。そのきっかけになった2013年のドキュメンタリー映画を、今回は紹介します。

それが本作『ブラックフィッシュ』。『ブラックフィッシュ:「殺人シャチ」と呼ばれた黒き悲しき生物』という邦題になっていることもあります。

本作は例の「シーワールド」を中心にショーのために飼育されているシャチが人を襲う事件が相次いでいることを振り返り、整理したものです。とくにシャチのトレーナーがシャチに無残に殺された事件に焦点をあてており、なぜこうした事件が起きたのか、そしてシャチを飼育することの是非についても追及しています。

ショッキングな題材ですが、ドキュメンタリー自体はわりと淡々としており、シーワールドのトレーナーにインタビューしたり、専門家のコメントを基にして、悲劇の裏にある問題の整理がなされています。そこまで網羅的な内容ではなく、あくまで事件を知らない人のための紹介程度のまとめではあるのですが、知るきっかけとしてはじゅうぶんな作りです。

『ブラックフィッシュ』は「Magnolia Pictures」と「CNN Films」配給で、監督を手がけたのは“ガブリエラ・カウパースウェイト”という人です。『ブラックフィッシュ』で有名になり、2017年には軍用犬を主題にした『Megan Leavey』で劇映画監督デビューも果たし、『Our Friend/アワー・フレンド』(2019年)、『I.S.S.』(2023年)といった監督作を積み上げています。2022年には調査報道センターのジャーナリストたちが食料と水資源の支配を企む権力を暴く様子を追いかけたドキュメンタリー『The Grab』も監督し、ドキュメンタリー業も継続中です。

今回の私の感想記事の後半では、この2013年の『ブラックフィッシュ』のその後の話もまとめています。

私はこういうちょっと昔のドキュメンタリーが、当時の社会にどのような影響を与え、それが以降にどんな変化をもたらし、今はどうなっているのか…を調べるのが好きで、このサイトでもそれを目的にした感想記事をたまに書きます。今作もその試みのひとつと思ってもらえれば…。

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『ブラックフィッシュ』を観る前のQ&A

✔『ブラックフィッシュ』の見どころ
★シャチをめぐる商業利用と飼育に関する問題提起に触れられる。
✔『ブラックフィッシュ』の欠点
☆問題提起程度の簡単な整理なので、深掘りには不十分。

鑑賞の案内チェック

基本 傷つくシャチの姿が映ります。
キッズ 4.0
社会勉強の資料にはなる。
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『ブラックフィッシュ』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ブラックフィッシュ』感想/考察(ネタバレあり)

ここから『ブラックフィッシュ』のネタバレありの感想本文です。

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シャチと人間が身近に接すれば…

救急通報の現場に長年勤める人でも「プール・スタジアムで人がシャチに襲われました」という内容のものが耳に飛び込んできた経験は早々ないでしょうけど、そんなにわかには信じられない出来事は実際に起きました。

『ブラックフィッシュ』で主に取り上げられるのは「ティリクム」と名づけられた雄のシャチです。このティリクムは、2010年2月24日、「シーワールド・オーランド」のベテランのトレーナーだった40歳のドーン・ブランショをショーの終了後に水中に引きずり込み、無残な姿になるほどに殺害しました。この非常にショックなニュースは瞬く間にメディアが飛びつき、世間を震撼させました。

しかし、この事件はたまたま起きた悲しい事件…とは言い難い過去が浮き上がってきます。

実はティリクムは、1991年2月20日、当時に学生として研修していたケルティ・バーンを水中に沈めて溺死させる事件を起こしていました。これには他のシャチも関与していました。

また、1999年7月7日には、パーク内に侵入したダニエル・P・デュークスという男性がティリクムの傍で傷だらけで死亡しているのが発見もされました

さらに、危なっかしい類似の「シャチが人を襲いかける事件」は過去にも何度も起きていることが明らかになります。

そのうえ、アメリカのみならず、作中ではスペイン領カナリア諸島のテネリフェ島にある「ロロパーク(Loro Parque)」という観光エリアでも、ショーのシャチが2007年にトレーナーを襲って怪我させる事件が起き、2009年には死亡する事件が発生。しかも、このシャチはシーワールドから提供された個体でした(2007年の事件を起こした個体の父親はティリクム)。

これらはこの職場ならときどき起きる事故…で片づけていいものなのでしょうか。シーワールドに過失はないのか。そもそも本来の野生下では広範な行動範囲を持つシャチを狭い飼育エリアに閉じ込めることは動物虐待にならないのか。『ブラックフィッシュ』はそうした問いかけを投げかける程度ではありますが、今までしっかり問われなかったこと自体が問題なのかもしれません。

一応、『ブラックフィッシュ』ではなぜシャチが人を襲うのか…という問いにも取り組もうとしていますが、作中の整理はなおも乏しく、さすがに充実した科学的コンセンサスには欠けます。当然、1977年の映画『オルカ』のように、シャチが人間に復讐したというのは荒唐無稽だとしても、シャチはシャチです。金魚とは違います。

これはドキュメンタリー『チンパン・クレイジー』の感想とも重なりますけども、根本的に「人をはるかに上回る能力を持った動物」と人間が身近に接するのは危険です。これは科学的に自明です。その危険性はトレーニングなどで簡単に覆せるものではないです。私たちは「賢い生き物=人間と分かり合える」みたいな都合のいい解釈をしがちですが、動物の知能は人間のためにあるものではなく、所詮は脳科学の指標にすぎません。

シーワールド側の「シャチをエンタメとして商業利用したい」という創業以来の慣習化した企業的思惑は批判されて当然だとは思います。シャチにとっても人間にとっても不幸な結果を招きますからね。

トレーナーは企業に雇用されている(契約ルールに縛られている)立場ゆえにあまり中立的な発言をできる人間ではないので、この問題提起を論じる側としては当事者と言えどもやや不相応ではあるのですが…。まあ、トレーナーの人も、もし何も制約がなければいろいろ言いたいことがあるでしょうし(実際、シーワールドは業界内ではかなりの影響力ある存在で、シーワールド側に睨まれるともう業界で仕事を貰うのは難しいようで…)、一枚岩ではなく、意見が食い違うトレーナー同士の亀裂もあるでしょう。本作はそこまでトレーナーの複雑な内面を拾えてはいないとも感じますが、難しいところですね。

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シーワールドのその後

ここからは『ブラックフィッシュ』の公開後の話。アメリカでは非常にセンセーショナルに受け止められた本作は話題騒然となり、世論を動かしました。それこそ「ブラックフィッシュ効果」と命名されるほどに。

創作にも影響を受けたものがみられます。一番わかりやすいのは2015年の『ジュラシック・ワールド』ですかね。

一方のシーワールド側は猛反論し、自社が一斉に非難を浴びている状況を覆そうと、当初は必死でした。

『ブラックフィッシュ』の公開直後の1~2年はシーワールド側はブランド回復のためのロビー活動を精力的に展開し、「あのドキュメンタリーはプロパガンダだ」と強い言葉で反論を並び立てて主張していました

しかし、来園者も減り、スポンサーも離れる中、シャチ問題に政治も動き出し、ついには2014年にカリフォルニア州でシャチの飼育を規制する法律が可決。法で制限されるとどうしようもなく、2016年にシーワールドはシャチの繁殖プログラムを終了し、シャチを使ったすべてのパフォーマンス・ショーを段階的に廃止すると発表するに至りました。

さらにここがまた皮肉な話なのですが、シーワールドは「損失を隠蔽した」として投資家からも訴えられ、2018年に多額の和解金を払うことになりました。結局、シーワールドが営利的な企業であるという側面がブーメランのように跳ね返ってきたかたちです。

ここまで法規制でも訴訟でも八方塞がりとなると、さすがに「あんなドキュメンタリー、痛くも痒くもないね!」と強がりを言えなくなったのか、前述したロビー活動は撤退し、反論を掲げていたウェブサイトも消して今ではライブ壁紙を提供するページになぜかリダイレクトされます

現在のシーワールドはなおも以前から飼育していたシャチはパーク内で飼い続けていますが、あくまで「シャチの生態を観客に伝える」という学習啓発目的を建前に前面に打ち出したものに変えています

それでもショー自体は継続しており、「オルカ・エンカウンター」という名で再パッケージ化しているだけとも言えるのですが…。

あらためて思いますが、『ブラックフィッシュ』は企業不正の告発でしたね。シーワールドは今もその企業の有害性と影響力を保持している以上、油断はならないでしょう。

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シャチ保護活動のその後

『ブラックフィッシュ』は、動物保全の精神に裏打ちされた告発的なドキュメンタリーでした。少なくとも「問題を世間に知らしめる」ことには大成功しました。

そして、それで活動は終わっていません。むしろこれは大きな始まりの一歩でした。

シャチの保護活動家は最終的には「ショー目的で飼育されるシャチがいなくなる」ことを目指しています。では、現在飼育されているシャチをどうするか? そのまま狭い飼育プールの中に居続けることを良しとは考えていません。

そこで「海洋サンクチュアリ」の構想がプロジェクトとして解決策に持ち上がります。

「サンクチュアリ」というのは要するに保護区であり、動物の安定した生息にじゅうぶんな広さの地域を確保し、その中に動物を放します。完全な自然野生下となるエリアもあれば、限りなく自然に似せた人工管理エリアとなる場合もあります。

昔は「サンクチュアリなんて動物愛護家の空想だ」と小馬鹿にされることもしばしばだったのですが、2000年代は地道な研究活動の積み重ねが実を結び、世界各地でいろいろな動物を対象としたサンクチュアリが誕生しています

シャチを想定した海洋サンクチュアリはことさら難易度が高いのですが、2015年から「Whale Sanctuary Project」が始動し、科学的な調査と先住民コミュニティとの協議の末、カナダのノバスコシア州の海域を候補地として、2025年時点で大詰めとなっています。

そう遠くない将来、世界の水族館の狭い空間で飼育されているシャチがこのサンクチュアリに移されて伸び伸びと暮らせるようになるかもしれません。

一方で、シャチの飼育繁殖は規制のない国で現在も活発に行われており、人間の目を楽しませるだけに産みだされるシャチを増やさないために、今後の保護活動は世界レベルでどう広げていくかが問われています。

日本は一番に遅れていますが、どうなるやら…。

『ブラックフィッシュ』
シネマンドレイクの個人的評価
–(未評価)
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)

以上、『ブラックフィッシュ』の感想でした。

作品ポスター・画像 (C)Magnolia Pictures ブラックフィッシュ殺人シャチと呼ばれた黒き悲しき生物

Blackfish (2013) [Japanese Review] 『ブラックフィッシュ』考察・評価レビュー
#ガブリエラカウパースウェイト #動物ドキュメンタリー #告発ドキュメンタリー #シャチ #水族館