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ドラマ『WeCrashed スタートアップ狂騒曲』感想(ネタバレ)…ウィー!ワーク!

WeCrashed スタートアップ狂騒曲

ジャレッド・レトとアン・ハサウェイの共演…「Apple TV+」ドラマシリーズ『WeCrashed ~スタートアップ狂騒曲~』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:WeCrashed
製作国:アメリカ(2022年)
シーズン1:2022年にApple TV+で配信
原案:ドリュー・クレヴェーロ、リー・アイゼンバーグ
性描写 恋愛描写

WeCrashed スタートアップ狂騒曲

うぃーくらっしゅど すたーとあっぷきょうそうきょく
WeCrashed スタートアップ狂騒曲

『WeCrashed スタートアップ狂騒曲』あらすじ

起業家精神に燃えるも何も実績をあげられないアダム・ニューマンは、ある時にコワーキング・スペースを提供するビジネスを思いつく。当初は成功できる見通しなど全くなかったが、持ち前の口の上手さだけを武器に、勢いで資金を獲得。ボロボロなフロアを見違えるような魅力的な働く場所に変えた。こうしてWeWorkは、10年足らずで470億ドルの価値を持つ世界的ブランドに成長し、そしてわずか1年足らずで400億ドルの損失を出すことに…。

『WeCrashed スタートアップ狂騒曲』感想(ネタバレなし)

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「WeWork」誕生譚、もしくはただの失敗談

私はもともと交友を築くのがそんなに好きじゃない性格で、世間の「交友はあればあるほど良い!」という規範に全く乗れない人間なのですが…。結局「交友」というものは薬物依存みたいなもので、自己管理できずに自滅を招きやすいし、交友を全否定はしないけど、交友ってそんなにステータスになるものじゃないと思ってます。

だから誰かと一緒に働くことを“理想”だとも考えていなくて…。別に他人がいてもいいけど必須ではない。事務的な仕事関係を適度に持っていれば、あとはひとりで淡々と仕事するだけでもじゅうぶんだと思っていますし、それを自分なりに実践しようとしています。

そうは言ってもそんな私の個人の信念なんて世の中の流れに逆らえるものではなく…。やはり「職場」作りは大切だ…たくさんの人が楽しく働いて成果を出せるようにしよう…! そういう企業社会を前提とした目的が普通にまかりとおっており、付き合わざるを得ないことも大きいものです。

「職場」という言葉は私の嫌いな単語のひとつですが、その良い職場のかたちとしてちょっと前から注目を集めていた用語があって、それが「コワーキングスペース」。これはフリーランスの人や出張の多い人、小さなビジネス規模で働く複数の集団などが、ひとつのスペースを共有しながら独立した仕事を行う共働ワークスタイルのことです。一般的には会社があって、その会社はひとつのビルやフロアを所有し、そこで同じ会社の社員が働くもの。他者の人が入っていることはありません。コワーキングスペースは別々の労働者がひとつの会議室やデスクなどをまったりと共有するので、コスト削減や交流が生まれやすく、次世代型の働き方だと期待されています。図書館のようなオープンスペースみたいなものですね。

このコワーキングスペースの事業で大きなビジネスチャンスを掴んだ企業、それが「WeWork(ウィーワーク)」です。2010年に起業したこの気鋭の企業は、急成長するスタートアップ界隈をターゲットに起業家向けのコワーキングスペースを提供し、その勢いに乗り、瞬く間に企業価値を爆増させていきました。そして…瞬く間に自壊しました。そうです、大失敗したのです。

ニューヨークタイムズ紙は、この「WeWork」の顛末を「スタートアップの歴史の中で他に類を見ない内部破裂(implosion)」と表現したほどで、あまりの酷さに業界は呆れかえりました。

一体何が起きたのか。その「WeWork」の始まりから終わりまでを実写ドラマ化したのが本作『WeCrashed スタートアップ狂騒曲』です。

本作は「WeCrashed: The Rise and Fall of WeWork」というポッドキャストを原作にしており、「WeWork」の創業者である“アダム・ニューマン”とその妻である“レベッカ・ニューマン”を主人公にしています。

いわゆる『華麗なるギャツビー』的な、一夜にしてビジネスで巨万の富を獲得して豪華絢爛にパーティ三昧する熱狂とその人生の乱高下に飲まれていく男女を描いていくタイプのあれ。最近はもっぱらシリコンバレーなどテック系の起業家がこのジャンルの主題になることが定番化しつつあり、2022年は『ドロップアウト シリコンバレーを騙した女』といったドラマシリーズもそうでしたが、この『WeCrashed スタートアップ狂騒曲』はまさにタイトルどおり大暴走してます。

『WeCrashed スタートアップ狂騒曲』の見どころの目玉は俳優陣です。主人公の夫妻を熱演して暴れまくるのは、『モービウス』では吸血鬼になったりと最近は人外にまで踏み出している“ジャレッド・レト”。今回はまだ人間ですけど、相当にクセがありまくりなのは変わらずです。

そして妻の方は、『マイ・インターン』などビジネスものでも活躍してきた“アン・ハサウェイ”。今回の“アン・ハサウェイ”は“ジャレッド・レト”に負けじとクセを発揮し、2人の相乗効果で凄いことになっていきます。

共演は“カイル・マーヴィン”、“ケリー・オーコイン”、“O・T・ファグベンル”、“アメリカ・フェレーラ”など。また、本作にはキーパーソンとしてソフトバンクの孫正義も登場するのですが、それを演じるのは“キム・ウィソン”です。

ドラマ『WeCrashed スタートアップ狂騒曲』は「Apple TV+」で独占配信中(Appleで…というのもそれはそれで面白い話ですが)。全8話(1話あたり約50~60分)。こんな奴らと一緒に働きたくないなと思いながら付き合ってあげてください。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:起業モノが好きなら
友人 3.5:俳優ファン同士で
恋人 3.5:こじれたロマンスが見れる
キッズ 3.5:やや性的な話題あり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『WeCrashed スタートアップ狂騒曲』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):月曜万歳!

2019年9月18日。会議室で決議が行われていました。全員が一致し、アダム・ニューマンを呼ぶように指示します。

その男、アダムはベッドで優雅に目覚めたばかり。アシスタントの言葉もろくに聞かず、妻のレベッカと車で出社。本社に到着し、意気揚々と社員に手を振ります。この会社「WeWork」はアダムが創業したところ。最高の職場です。

しかし、取締役会での緊急会合を知らされ、ある記事を伝えられるとそれまでの余裕な表情は一変。ウォール・ストリート・ジャーナルには「創業者こそ最大の負債」と酷評されていました。荒れるアダム、なだめるレベッカ。2人とも運命に直面するべく会議室に向かいます。

この「WeWork」の始まり。それは12年前でした。

アダムは起業家として成功しようと、膝当て付きベビー服や折りたためるヒールのプレゼンをし、ファッションでは革命が起きると自信満々に語っていました。でも全然上手くいきません。このマンハッタンではイスラエル育ちで英語は得意ではないアダムは変な奴に見られていました。

学生の前にコンセプト・リビングを発表した際も「生活をシェアする」というアイディアに「そんなの寮より酷い」と学生からもツッコミが飛んできます。しかも会場にいた投資家からも投資はしないと言われ、辛辣な言葉を受けて帰るしかありませんでした。

しかし、その終わりにミゲル・マッケルビーという男が話しかけてきました。なんでも以前話したことがあるとか。今はミゲルはジョーダン・パーナスという社名で仕事しており、広いフロアを保有してそれを改装しているのだとか。アダムが使うことを許されたのはフロア全体ではなく、ボロボロの物置のような小さな部屋でした。賃料は月750ドル。

アダムは妹のアディと屋上でパーティをして稼ぐことにします。メッシュ服で客相手しているとそこにひとりの女性が通ります。なんとなく気に入ったアダムはしつこく名前を質問し、その女性、レベッカが講師しているヨガまでついていき、なんとかデートの約束をとりつけます。

食事にいきなり45分も遅刻してくるアダム。「大きな取引をまとめたんだ、僕は起業家で…」と饒舌ですが、レベッカは「あなたはクソでしょ」とひと言。「君こそクソだ」と口論になります。けれども2人はなんだかんだで愛を深めていくのでした。

アダムはシェアオフィスのアイディアを思いつき、ミゲルもそれに乗ってくれます。さっそく建物所有者にコワーキングスペース事業をプレゼン。フロアごと貸すには計画書が必要と言われ、「グリーンデスク」という事業を思いつきで作成。こうしてビジネスは軌道に乗り、人が集まるようになりました。

さらにマンハッタンに進出するべく、大博打で強気に出て4500万ドルの出資を得ることに成功。まだ社員もビルも具体的な道筋もないのに…。

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口の上手さだけでビジネスはできるのか?

「あれ?1話で“完”じゃないか?」と一瞬思ってしまうくらいに第1話でオチはつくのですが、本作『WeCrashed スタートアップ狂騒曲』は全8話かけてアダム・ニューマンの口だけでビジネスを成り立たせていく手口が赤裸々に描かれていきます。

そもそもこの「WeWork」のコワーキングスペースの事業。投資家でなくても素人でもわかるようなビジネスモデルとしての致命的な欠陥を抱えていることに気づくでしょう。それは初期コストがかかりすぎるということ。コワーキングするにはスペースが必要で、それも働きやすくて理想的な立地でないといけないので、そんなエリアを確保するだけでとんでもないおカネがかかる。それを収益で回収する見込みがあるのか不透明な状態で資金を先に獲得しておかないといけない…。ハイリスクすぎます。

それをアダムはどうやって突破するのかと言えば、全8話の12年間ずっと口八丁手八丁で乗り切るんですね。投資家や出資者への説明も全部ただの理想論、社員を鼓舞するときも同じ。「成長のための経費だ!」とか冷静に考えると意味不明なんですけど、なんか勢いよく言われてしまうとそれももっともなのかな?と錯覚してしまう。それでも誤魔化しきれないときはヤバくなったら狂乱のハイテンションなパーティ気分でうやむやにするという戦術に出る。ほんと、やってることはワンパターンです。

コミュニティ・ビルダーとして「俺はスゴイ!」という自画自賛の自惚れだけが蓄積されていくのですが、現実では赤字が溜まっていく。レベッカに「お前は何も成し遂げていない!」とつい言ってしまう場面がありますが、当のアダムこそ何も成し遂げてはいない…。

タイトルの皮肉が刺さります。一緒に働いているんじゃなくて壊しているのですから。

職場のコンプライアンスもガバナンスもマネジメントもない。経理もろくにできなくなっていく。セクハラもあるし、ヤリ部屋だってある。完全に支離滅裂。

そして終盤にいきつく。あそこも酷いもんですよ。IPOするための目論見書の件。「EBITDA? ん~新しい指標を作っちゃえ」「チャートやグラフではなく感情を伝えよう」「前例がないほうがいいじゃないか」「州法を変えられないか」「取締役会にオバマはどう?」…絶句のオンパレードです。We W.T.F.…。

要するにこのドラマで学べる大事なことは、他人に客観的に評価されないと意味はない…ってことですね。

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バカップル、そして影の仕掛け人

この『WeCrashed スタートアップ狂騒曲』の物語の中心にいるのは、ばっさり言ってしまえばアダムとレベッカという「バカップル」です。このバカップルを誰も止められなかったのが全ての元凶というべきか…。

“ジャレッド・レト”演じるアダムはもう…言わずもがなでしょう。口だけの男という存在の象徴みたいですよ。

“アン・ハサウェイ”演じるレベッカはユニークな立ち位置でした。あのグウィネス・パルトロー(『アイアンマン』のあの人です)のいとこであり、俳優を目指して頑張っていたけど才能がなくて花開かず、実は父親中心の家父長制の中で縛られてきたユダヤ家系の少女。そんなレベッカがアダムという口車だけの男に出会い、自分でも夢を見ていいんだと思いこんでしまう。

でもサマーキャンプで「女の役割を男を支えること」と発言してしまったり、「世界を救いたいだけなのになぜ嫌われるの?」とボヤいたり、明らかにうわべだけで中身を伴わずに突っ走る傾向にあって…。後半は「WeGrow」という学校を提供する事業に熱をあげていきますが、教育がなんなのか理解しているのかも怪しい…。スタートアップ業界は男主体でしたが、そこに紛れて自己実現をしようと狙った女性のありさまが醜態込みで浮き彫りになっていたのではないでしょうか。

まあ、あの2人の演技はちょっとオーバーすぎましたけどね。アダムもあんな片言の英語ではなかったろうに…“ジャレッド・レト”も毎度やりすぎですよ…。でも観ているとだんだんクセになってきて面白くもなってくるのですが…。

そのバカップルを華麗にひっくり返すフィクサー的存在がソフトバンクの孫正義というあたりもヘンテコな展開で…。マサがなかなか来ない事件とか、笑わせつつも、最後はしっかり出し抜いてくる。破天荒なバカップルがあの孫正義にやりこまれていく姿はなんかシュール。やはりカネは怖いな…。

それとユニコーン企業だからってあのユニコーンをそのままオフィスで練り歩かせる単純すぎるオープニング、私は結構好きです。馬のケツから始まるオープニング・シークエンスはなかなかないですよ。

『WeCrashed スタートアップ狂騒曲』は俳優の過剰な演技の高揚感と、題材の荒唐無稽なバカっぷりが噛み合うという意味では成功していますし、ジャンルとしてのエンタメ寄りな楽しさはじゅうぶんでした。あんな職場、嫌ですけどね。

『WeCrashed スタートアップ狂騒曲』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 66% Audience 75%
IMDb
7.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)Apple

以上、『WeCrashed スタートアップ狂騒曲』の感想でした。

WeCrashed (2022) [Japanese Review] 『WeCrashed スタートアップ狂騒曲』考察・評価レビュー