IT イット THE END
映画『IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』(IT2 イット2 ジ・エンド)の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:It: Chapter Two
製作国:アメリカ(2019年)
日本公開日:2019年11月1日
監督:アンディ・ムスキエティ

IT イット THE END それが見えたら、終わり

あらすじ

幼少時代に「それ」の恐怖から生き延びたルーザーズ・クラブの仲間たち。27年後、小さな田舎町で再び凄惨な事件が起こり、27年前に誓った約束を果たすため、大人になったルーザーズ・クラブの面々は町に戻ることを決意する。しかし、そこにはかつてのトラウマを蘇らせる、最悪の恐怖が待ち受けていた。神出鬼没の恐ろしい存在に対抗する手段はあるのだろうか。

『IT イット THE END』感想(ネタバレなし)

ピエロがワーナーを支えている

インタビュアー:今日は遠いところ、わざわざお越しいただきありがとうございます。

ペニーワイズ:いえいえ、移動は得意ですから。

インタビュアー:ではさっそく質問ですが、最近は別のピエロが熱狂的な話題になっていますよね?

ペニーワイズ:あ~、アーサーですか? 昔からアイツも知っていますけど、ようやく努力が実を結んだみたいで、同業としても嬉しいです。

インタビュアー:あっちのピエロは過激すぎて、かなり世間を騒がせているみたいです。

ペニーワイズ:いや、でもアーサーはまだまだ生温いと思いますよ。子どもにも優しいし、殺す相手も選びがちですからね。本人も気をつかっているんじゃないかな。

インタビュアー:その点、ペニーワイズさんは女・子どもにも本当に容赦しませんね。

ペニーワイズ:もちろん、それがプロですから。徹底して恐怖を与えるのが真のピエロの役割です。私に共感する人なんてあってはいけません。

インタビュアー:今回、ご自身の主演作『IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』が公開されましたが、その恐怖を与えることにもこだわりが?

ペニーワイズ:そうですね。今作の場合が相手が大人なのでもっと過激でいいかなと思って、思いっきりやってしまいました。出血大サービスですね。

インタビュアー:そろそろお時間が来てしまったので、名残惜しいですが、ぜひ日本の皆さんに一言。

ペニーワイズ:はい、日本も下水道の良い物件がゴロゴロあるので、私も引っ越そうかなと思います。もし出会えたらそのときは泣き叫んでください。



こんなインタビューが見たかった…(長い妄想)。

茶番はさておき、2017年に公開された『IT イット “それ”が見えたら、終わり。』はホラー映画史において大きなインパクトを与えた一作となりました。アメリカでの興行収入は3億2000万ドルを上回り、ホラー映画史上ベストヒットを記録。しかも、R指定でこの成果。すでに“R指定だと売れない”というのは幻想であると言い切ってもいいでしょう。あらためて原作者スティーヴン・キングのブランド・パワーを思い知らされますね。


今やワーナー・ブラザースを引っ張っているのはホラーでもアメコミでもピエロです。会社のロゴをピエロに変えた方がいいかもしれない…。

そんな『IT イット “それ”が見えたら、終わり。』の続編が公開されました。もともと前半と後半で大きく分かれる構成でしたから、この続編は来るのも当然の作品。本作『IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』は、前作を知っているからこその興奮と感動が満載ですから、ぜひとも前作を鑑賞してから続けて観てほしいです。

それにしても邦題がわかりにくいなぁ…。原題みたいに「チャプター2(第2章)」ではダメだったのか…。そして、ハロウィン終了後の11月1日公開だもんなぁ…。

監督は前作に引き続き、“アンディ・ムスキエティ”が手がけます。2013年に『MAMA』というホラー映画で長編デビューしたアルゼンチンの映画監督ですが、『IT』シリーズの大成功ですっかり監督としても不動の存在に。DC映画『The Flash』の監督にも決定していますし、日本の人気漫画「進撃の巨人」のハリウッド実写化の監督も手がけると発表され、今後もますます注目の人物です。

キャストは物語上、前作の子どもたちが大人になるので俳優陣も大人ばかり。面白いのは、前作の子役たちに「自分の大人の姿を誰に演じてもらいたい?」と聞いてその要望を元にキャスティングしたという、微笑ましいエピソード。大人の事情でその子どもたちの理想がすべて実現はしなかったのですが、“ビル・ヘイダー”“ジェシカ・チャステイン”の起用は子役の要望どおりだそうです。“ジェシカ・チャステイン”は監督過去作『MAMA』にも出演していましたし、おなじみですね。他にも“ジェームズ・マカヴォイ”が主役級のキャラの大人になった姿を熱演。もちろん恐怖のピエロ「ペニーワイズ」を演じるのは“ビル・スカルスガルド”。もうピエロ姿が完璧すぎて言うことがない…。

原作者スティーヴン・キングもゲスト出演しているので探してみてください(たぶんすぐわかる)。

前作を観た人ならおわかりだと思いますが、今作も同様にびっくりするぐらい容赦なく残酷描写をぶっこんできます。しかも、今作は映画時間が「169分」もあるので、長丁場。加えて、製作費は7900万ドルと前作の2倍以上となり、映像の豪華さもこれでもかと増量しています。ホラー映画は基本、低予算で作られることが多いものですが、こんなリッチな映像が楽しめるホラー作品はそうそうないです。これもそれもホラー映画ナンバーワンに輝いた王者の風格ですかね。

怖いのが苦手という人。友達と恋人と家族と観れば大丈夫。「みんながいれば怖くない!」が本作のテーマですから。

おすすめ PiCKUP!
↑『IT イット “それ”が見えたら、終わり。』…シリーズ第1作。前半。子ども時代の物語。
オススメ度のチェック
ひとり◯(ホラー好きは必見)
友人◎(友達で盛り上がりやすい)
恋人◎(スリルで仲良く!)
キッズ△(かなり残酷&怖い!)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『IT イット THE END』感想(ネタバレあり)

帰郷すればピエロがいる

まずは前作のおさらい。

1988年。メイン州、デリー。ここで暮らす7人の子どもがこの物語の主人公です。ジョージーという弟が雨の日に行方不明になったことで心に傷を抱える吃音の少年「ビル」。ユダヤ人であることを虐められ、潔癖症ゆえに汚いものや場所が大嫌いな「スタン」。とにかくおしゃべりでマシンガントークが止まらない、メガネの「リッチー」。喘息持ちで常に薬を持ち歩いている少年「エディ」。 転校してきたばかりで頭脳派な一面も見せる小太りな「ベン」。家業である屠殺業をする貧しい生活の中、人種差別にも耐え抜く黒人の「マイク」。紅一点で大人びた少女の「ベバリー」

この「ルーザーズ・クラブ」と名乗る負け組を自認する7人の前に現れたのは神出鬼没にして残酷無慈悲なピエロ「ペニーワイズ」。子どもたちを次々と恐怖のどん底に突き落とす中で、27年周期でこの故郷の町に惨劇が起こっていることが判明。7人はなんとかペニーワイズを撃退しましたが、全ては解決していません。また27年後にあのピエロは現れる…その時はまたみんなで戻ってきて戦おう。そう河原で誓い合って、手のひらに傷を残して証としたのでした。

それから27年後。『IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』の物語が動き出します。

2016年。デリーの遊園地で、ゲイカップルが不良グループに暴行され、片方が水量の多い川に放り捨てられます。急いでパートナーが河川敷に駆け付けますが、そこで見たのは獰猛な歯を持つピエロに食い殺される恋人の姿。鮭を食べるクマみたいですが、相変わらずペニーワイズさん、理不尽です

この町に残っていたのはマイクだけでした。警察無線を聞いていたマイクはその凄惨な事件を知り、すぐさま状況を察知。かつての友であるルーザーズ・クラブ全員に連絡を開始します。

ビルはミステリー小説家で自分の作品が映画化されるくらいの成功をおさめていました(あのスタジオのセットを見るかぎり、モデルはスティーヴン・キング本人なのでしょう)。エディは心気症は変わらずのようですがニューヨークで危険査定者(リスクアセッサー)になっていました。リッチーはスタンドアップコメディアンとして大観衆の前でパフォーマンス。ベンはすっかり体型も変わって実業建築家として裕福な暮らし。スタンリーは会計士として働きつつ、普通に生活していました。ベバリーはファッションデザイナーでありつつ夫との家庭を築いています。

それぞれがマイクからの電話を受け取り、三者三様の反応を示す中、スタンリーだけは湯船に浸かり、自殺をしてしまいます

そして故郷の町の中華料理店で集まった一同。久しぶりのの再会に素直に喜び合う6人は会話も弾みます。しかし、スタンリーは来ていないことに一抹の不安が…。マイクはおもむろにペニーワイズが再び覚醒した事を伝え、自分がずっと溜め込んできたのか、言葉が止まりません。そこへフォーチュン・クッキーが運ばれてきます(おみくじ的なやつです)。しかし、中に入っていたのは運勢などではなく、単語の書かれた紙。「Guess Stanley Could Not Cut It」…。スタンリーに何か起きたのではと頭によぎった瞬間、クッキーから不気味なモンスターが続々と出現。パニックです。

それはただの幻覚でしたが、ベバリーがスタンリーの家に電話すると自殺したとの事実を確認。先ほどの和やかなムードは吹き飛び、完全に動揺しまくる一同。

こうして6人になってしまったルーザーズ・クラブの第2ラウンドが開幕することに…。

IT イット THE END

ペニーワイズの匠の技

『IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』の魅力は何と言ってもゴージャスな映像とともに繰り出される恐怖演出。さすが製作費が倍増しているだけあって、アメコミ映画やファンタジー映画並みに映像量がボリュームアップしています。

冒頭の夜の遊園地の川での、大量風船のシーンとか、人殺しが絡んでいなければ、普通に綺麗でディズニーランドとかにありそうですもんね。ペニーワイズさん、風船パフォーマンスがアートの領域です。

今作はピエロ以外の怪物の出番も多く、さながら「ファンタスティック・ビースト(ホラー版)」のようなクリーチャーお披露目会になっています。

序盤のフォーチュン・クッキーから飛び出す魑魅魍魎。父親と住んでいたアパートを訪れたビバリーに襲いかかる一時停止なババアもとい長身ゾンビ。リッチーを威圧するポール・バニヤン像の怪物(北米の民話に伝わる木こりの巨人です)。エディが相対することになるゾンビチックなゲロ吐きモンスター。3つの扉のひとつから出てくるポメラニアンもグッドジョブ。

名作ホラーからのオマージュもチラホラ見られ、後半のあの廃墟の家で出現するスタンリー生首蜘蛛みたいなやつ。あれは1982年の『遊星からの物体X』(ちゃんとセリフパロディもある)。またベバリーがトイレに閉じ込められ、大量の血液で溺れそうになるシーンでは、赤い液体&ドアから覗き見る顔というコンボで『シャイニング』がそのまま引用されています。ペニーワイズさん、映画通ですね。

もちろん最大の恐怖はペニーワイズ御大将です。動きは変だし、頭は打ちつけるし、目はどっち向くかわからないし、歯は磨きにくそうなギザギザだし…。今作も子どもをごく自然に殺害。レーティングなんて知ったことかと言わんばかりです。

そして終盤ではペニーワイズさんの大蜘蛛化。なんだろう、RPGのラスボスみたい…。デカくなるとなんとなく小物臭が漂うのは気のせいでしょうか。とりあえず今作はクモ映画にカテゴライズしてもOKかな。

『IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』ではそんな多才なスキルを持つペニーワイズさんの神秘の源が明らかになります。デッドライトという唐突に飛び出す設定に面食らった人もいたかもですが、詳しく深掘りしたいなら同じ原作者作品の映画化『ダークタワー』とかを見てね。


結局、ペニーワイズさんの意外な弱点(ネガキャンに弱い)を突かれたことで、すっかり萎縮(文字どおり体が縮んだけど)してしまった後、心臓をハンドプレスして粉砕され、あえなく轟沈。ホラーな存在に対してのわりにはずいぶんワイルドで物理なトドメのさし方だ…。

だいぶ娯楽作な映像センスになりましたけど、こんな単純明快で映像型お化け屋敷なエンターテインメントは老若男女問わず痛快ですし、これぞ大スクリーンの映画館で観たいホラーでした。

あなたの「IT(それ)」は何?

ノスタルジーを売りにする作品があるじゃないですか。日本人はとくに好みます。昔の子ども時代を懐かしみ、エモーショナルな気分に浸る。『IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』も子ども時代が登場するわけで、その対比としてもノスタルジックな絡みを見せつつ、ラストはカタルシスで決着なのかな…そう思いがちです。

確かにノスタルジーを感じさせるシーンは少しばかり挿入されます。町に戻った子どもたちが思い出の品をそれぞれ持ち寄る場面はとくにそうです。しかし、単純な懐かしみには終わりません。

なぜなら前作を観てもらえばわかるとおり、あのルーザーズ・クラブの面々は“懐かしい”では済まされない経験をしてきているからです。ビルは弟を無残に殺され、その自責の念を抱え続けています。ベンは正直ドン引きするレベルの虐め(傷害事件と言っても過言じゃない)を受けてきました。ベバリーは父親から性的虐待を受け、大人になっても男性の支配から逃れられていません。マイクは人種差別をもろに受け、町という鎖に拘束されています。

過去を綺麗事で語れるならばルーザーズなんかじゃないわけで。その最悪のケースがスタンリーです。自ら死を選んでしまった彼の苦悩。きっとその苦しみを和らげる共有者は彼の人生には現れず、自滅へと進んでしまったのでしょう。ひとり欠けた状態でスタートするルーザーズ・クラブはこの時点で同窓会気分ではいられません。

でもこういうことってリアルでもあると思います。同窓会なんてわかりやすい例ですが、昔を良い記憶として懐かしめるのは実は恵まれています。中には本当に最悪の不幸を経験して、1ミリも思いだしたくない人だっている。忘れたいくらいだとさえ考えている。

スタンリー以上に同等かそれ以上に悲惨なのは不良だったヘンリー・バワーズかもしれませんが…。彼も悪役的ではありますが、あの町の閉塞感に人生を台無しにされたのは同じ。

本作はそんなルーザーズのための物語。前作が「イノセントの消失」がテーマにあるとしたら、今作は「イノセントとの決別」がはっきり明示されています。思い出の品を儀式の一環で燃やすのなんてまさにその象徴。

だからハッピーエンドかもしれないけど、それは現実的な犠牲をともなっています。それは無かったことにはできないのですから。

本作の結末は原作と比べるとマイルドになっています。原作はもっと過去との別れを強調する感じになっているのですが、映画版では未来への展望を感じる「団結」の要素を強調している気もします。マイクの参戦や、リッチーとエディの関係性など、明らかに多様性を前面にも押し出しています。

これはペニーワイズを恐怖で分断を煽る存在に見立てているからなのかもしれません。そういう人が現実に蔓延っている現状、私たちはそんな恐怖に「お前なんか道化だ、怖くなんかない!」と言い放つことが求められている。監督もアルゼンチン人だからこそ、そんな社会的メッセージもこもっているのでしょう。

さあ、今度は私たちがピエロと戦う番です。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 63% Audience 78%
IMDb
6.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

関連作品紹介

“スティーヴン・キング”原作の映画化作品のうち、感想を書いた記事の一覧です。

・『イン・ザ・トール・グラス 狂気の迷路』


・『ジェラルドのゲーム』


作品ポスター・画像 (C)2019 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED.