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韓国ドラマ『キングダム』感想(ネタバレ)…ゾンビで学ぶ国家の緊急事態対応

キングダム

韓国ゾンビで国家の緊急事態対応の教訓を学ぼう…ドラマシリーズ『キングダム』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Kingdom
製作国:韓国(2019年~)
シーズン1:2019年にNetflixで配信
シーズン2:2020年にNetflixで配信
アシンの物語:2021年にNetflixで配信
監督:キム・ソンフン

キングダム(韓国ドラマ)

きんぐだむ
キングダム

『キングダム』あらすじ

王が病に倒れたという真偽不明の噂が国を揺るがす中、大流行の兆しを見せる不気味な疫病。王宮に渦巻く悪しき陰謀と野心から民衆を救うため、世子は宿命の旅に出る。それはかつてない困難が待ち受けているものだったが、その全容を把握している者はいなかった。死を超越した存在が蠢き、国家を根底から破壊しようとしていく。これを食い止める手段はあるのか。

『キングダム』感想(ネタバレなし)

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コロナ対策の政府関係者も観よう

飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続けるNetflixはついに2020年末、有料会員数が2億366万人に達したそうです。この爆上げ躍進は私も肌で実感しています。というのも初期はNetflixと言えば、一般の認知度ではちょっとマニアックな扱いでした。それがどうです、すっかり日常に溶け込み始めています。

そんなNetflixで日本ユーザーに人気なのが「韓国ドラマ」コンテンツです。2020年は社会現象になった『愛の不時着』を筆頭に、『梨泰院クラス』『サイコだけど大丈夫』など続々と韓国ドラマシリーズが投入され、配信されるたびに大人気に。破竹の勢いとはこのこと。日本のNetflixの視聴ランキング上位にはいつもアニメか韓国ドラマが並んでおり、すっかり見慣れた光景になりました。

その今やNetflix人気を支えているビッグな礎となっている「韓国ドラマ」ですが、その着火点となった最初の一作を知っているでしょうか。それが本作『キングダム』です。

2019年にNetflixで配信されたオリジナルの韓国ドラマシリーズ。そのシンプルなタイトルから日本の漫画で実写映画化もした『キングダム』を連想しそうですが、全然関係ありません。

こっちの韓国の『キングダム』は「The Kingdom of the Gods」という原作を実写ドラマ化したものです。

監督は『トンネル 闇に鎖された男』(2016年)の“キム・ソンフン”。脚本は売れっ子の脚本家と評判もいい“キム・ウニ”。韓国映画界は女性主体の作品に近年は急速に火がつき始めたので、この“キム・ウニ”という女性ライターの活躍もさらにアップするんじゃないでしょうか。

俳優陣は、『神と共に』シリーズでも大活躍していた“チュ・ジフン”を主人公に、『ハナ 奇跡の46日間』『空気人形』『クラウド アトラス』と各所で独特の名演を見せる“ペ・ドゥナ”、『悪人伝』の“キム・ソンギュ”、『エクストリーム・ジョブ』の“リュ・スンリョン”、『ハーストーリー』の“キム・ヘジュン”、『ビューティー・インサイド』の“キム・サンホ”、『国家が破産する日』の“ホ・ジュノ”などなど。さらにサプライズで大物俳優が登場したり…。とにかく凄い顔ぶれ。

つまり、超豪華な製作陣です。そして実際に製作予算もなかなかのようで、韓国ドラマとしてこれまでなかったような破格のクオリティとなっています。

そして何よりも大事なのはその中身。本作は朝鮮王朝モノで、1592~1598年に起きた日本による朝鮮半島への侵略から3年後を舞台にしています。それだけなら、まあ、よくある韓国作品なのですが、それに加えて本作は「ゾンビ」作品なのです。コッテコテのゾンビ・パニック。この組み合わせが何よりも新鮮で楽しいです。

韓国は今ではゾンビ作品大国になっており、これまたとてつもないラッシュが連発しています。2016年の『新感染 ファイナル・エクスプレス』に始まり、2020年は『#生きている』『新感染半島 ファイナル・ステージ』など絶好調。偶然ではあるのですけど、まるでコロナ禍を予期していたかのようなシンクロ具合でジャンルがムーブメントを引き起こしています。

このドラマ『キングダム』なんてもう、新型コロナウイルスのパンデミック前年に配信が始まったことは何かひとつの啓示だったのではないかと思うぐらいです。国家が疫病によって混沌の世界に変わっていく…これこそ2020年に起きてしまったことですからね。

実際にドラマ『キングダム』はコロナ禍に臨むにあたって有益な教訓を与えてくれるストーリーでもあり、あらためて私たちはこういうゾンビ作品を観るべきだと思うのです。どうせフィクションでしょ?と全然バカにできないですよ…。

具体的には以下のような警告を私たちに教えてくれます。

①対策を小出しにしたり、初動が遅れたりすると大変なことになる
②非常事態になればなるほど権力者は醜悪になり、あてにならない
③想定よりも状況はもっと酷くなるものだと想定しておこう
④医療従事者はひたすら酷使される
⑤疫病よりも怖いのは性差別である
⑥第1波、第2波のあとは必ず第3波がくる

ほんと、ドラマ『キングダム』を日本の政府関係者もしっかり観ておくべきでしたね…(たぶん参考にしようともしないだろうけど)。

オススメ度のチェック

ひとり 4.5:エンタメの良作
友人 4.0:ジャンル好きは楽しい
恋人 4.0:ほどよいスリル
キッズ 3.5:人はいっぱい死ぬけど
↓ここからネタバレが含まれます↓

『キングダム』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):緊急事態宣言!

朝鮮王朝。国王の寝殿として生活空間となっている「康寧殿」。そこにおそるおそる近づく2人。相手は王。気軽に目を向けることもできません。しかし、王がいるはずの仕切り幕の奥から不気味な唸り声が聞こえ、若い男が引きずり込まれてしまいます。

「王は死んだ。新しい風が吹くだろう」という張り紙が町では出回っていました。この怪文書はあちこちに貼られており、天然痘だという噂の王が今どうなっているのか、人々は気になっていました。

王が表の世界で不在の今、政治中枢で絶大な権力を持つチョ・ハクチュ大監は不敬な噂を鎮めるために実力行使に出ます。どうかお許しをと頭を垂れる民の首を容赦なく切り落とすだけでなく、儒生狩りを始めました。漢陽近郊の儒生の大勢が拷問を受けます。「自白せよ」と脅される中、「チョ氏こそ逆賊だ」と訴える者もいました。それに対してチョ・ハクチュは「新たな王に誰を望む? 世子か?」と凄んでみせます。

王には息子がいました。そのチャン世子は王が側室との間に作った子であるため、たとえ男児といえども正当な王位継承者ではありませんでした。今の王にはチョ・ハクチュの娘が王妃となっており、その王妃は妊娠していました。もしこの子が男児なら完全にチャン世子は用無しです。

チャン世子は状況のわからない父である王を心配し会おうとします。しかし、継母である王妃も従者ですらもやめてくださいと言われ、孤立無援。チャイギ(左翊衛)であるムヨンだけが唯一の頼りです。ムヨンとは昔から信頼し合っていました。

王の状況を確かめるべく薬房日誌を手に入れようと画策。ひっそり侵入します。そして、康寧殿の廊下で獣のように吠えひどく血生臭い悪臭を放つ化け物のような存在を目撃したチャン世子。しかし、だれも信用せず、イカれた奴扱いで送り返されます。

それでも薬房日誌を入手し、そこに毎日記されるはずが空白であることを発見。これは何かを隠している。そう直感したため、そこに書かれていたイ・スンヒ医員という名前を手掛かりに付近で調査を独自に始めます。そして東菜に答えがありそうだと確信し、ムヨンと共に旅に出ます。

その頃、東菜の持律軒ではソビを中心に医女たちが大勢の患者の面倒をみていました。この地域は飢えに苦しむ人が多く、ろくに食べ物すらありません。そこにイ医員が戻られたと吉報が。しかし、イ医員が運んできた荷台の箱には無残な遺体になったダニが横たわっており、なぜかイ医員はそれ以上何も語りません。

一方、チョ・ハクチュは「今すぐ世子を義禁府へ連れていけ」と逆賊として捕らえるべく、軍を送り込む手段に打って出ました。もはや政府はチョの独裁状態。逆らえる者はいません。

薬草を取りに野外に出かけたソビ。帰ってくるとなぜか持律軒ではみんな元気です。なんでも鹿汁をごちそうになったようで、満腹で幸せそうです。しかし、ソビは見てしまいました。鹿汁の中に人の指が入っているのを…。人肉。あのダニの亡骸を調理したのです。ここまで困窮しているのだからしょうがないと、料理をした射撃手のヨンシンは開き直ります。

しかし、突然、苦しみだす人たち。全滅です。一体何が起こったのか。

しかも、それだけではありませんでした。ソビとヨンシンはとんでもない光景を目にします。死体が動き出し、生きた人間を貪り始め…。

朝鮮半島を戦慄させる惨劇の幕開けです。

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シーズン1:男社会は外見だけで中身は脆弱

①対策を小出しにしたり、初動が遅れたりすると大変なことになる
韓国ドラマ『キングダム』にて起こるゾンビ・パニック。シーズン1はそれがあれよあれよと言う間に拡大していく過程がノンストップで描かれていきます。もっとしっかり最速でやっていれば被害拡大を防げたかもしれません。でもことごとく対応は後手後手に終わります

持律軒にあの遺体を持ち込ませなければ…。社会が飢餓に苦しむような状況にならないように国が支援していれば…。持律軒の遺体を外に運び出さなければ…。冬になる前にこの事態を把握していれば…。

状況を終息させるチャンスはいくらでもあったのにそれができない。まさかそんなに酷くなるとは思わなかったという過小評価。専門家の警告をろくに信じないという油断。大衆の事なかれ主義による楽観視。全てが最悪のコースに突き進む燃料になってしまいます。

言わずもがなコロナ禍で私たちが嫌というほど経験してきた失敗そのものですね。

②非常事態になればなるほど権力者は醜悪になり、あてにならない

そんな最悪の事態にもかかわらず、王亡き現時点での権力者であるチョ・ハクチュは己の権力のことしか考えていません

チャン世子を潰すべく軍を投入します。その人力があるなら感染拡大防止に投入すればいいのにという話なのですが、そこまで頭は回っていません。周りの役人たちもそのチョ・ハクチュに“右へ倣え”ばかりでほぼ無能なのが虚しいもので…。相変わらず自分の利益しか考えずに船で逃げて大変な目に遭い、それが拡散をさらに助長するし…。

チョ・ハクチュを演じた“リュ・スンリョン”はさすがの悪人っぷりでした。この人は良い奴も演じられる器用さを持っていますけど、こうやって大ボスとして陣取っている存在の方が似合っている気がする…。

私たちはどうしても「これだけ危機的ならどんな欠点の多いリーダーもさすがに真面目に働くだろう」と過信しがちですが、実際はそうはいかない。横暴な権力者には危機対応能力なんてないのです。

ゾンビになっても「今の朝鮮の王である」と言い切る場面は、権力者とは傀儡であることを残酷に突きつけるものでもありましたね。

そんな中、チャン世子はあるべき理想の権力者になろうとします。常に大衆を第一に考え、自分の食事も末端の下々に手渡す。もしくはついつい権力にすがってしまうけど、それでも正しさを捨てられないチョ・ボムパルのみっともなくも健気な選択とか。韓国ドラマ『キングダム』はゾンビ・パニックを通してリーダーの良い例と悪い例を見せるという、政治劇でもありました。

③想定よりも状況はもっと酷くなるものだと想定しておこう

あのゾンビたちは昼間になると退散し、日差しのあたらない暗い場所で動かなくなるということをいち早く理解したチャン世子たち。

日の出を待てば事態はとりあえず収束するので、それまでの持久戦です。シーズン1ではそれぞれのスリルあるパニック展開が楽します。持律軒まで逃げる際のゾンビ・チェイスシーンとか。

そしていよいよ万全の準備で対決してやろうじゃないかと迎えるシーズン1の最終話。その前提にあるのは日の出になれば人間側の勝ちであるという希望です。

しかし、ここで起きてしまう想定外。あのゾンビたちは日中になると活動できないんじゃない、気温が高いと活動できないだけだった! 今は冬になり、日中でも気温が低いのでいつでも元気フルパワー。

このへんの「あぁ…迂闊…!」っていう衝撃もね…。想定に依存しすぎたらお終いですね…。

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シーズン2:医療従事者と女性が大事

④医療従事者はひたすら酷使される

韓国ドラマ『キングダム』のシーズン2ではこのゾンビ・パニックの原因が判明します。

実は事が起こる3年前。朝鮮半島に倭国軍が攻め入ったとき、苦境に陥っていた戦況を打破すべく、朝鮮側が「生死草」という人を蘇らせるという植物を用い、戦死した兵士を復活。それによって日本側を撃退していたのでした。

そんな生死草を今度は権力維持のために王に使ってしまい、ゾンビ化。そのゾンビ王に噛まれたイ・スンヒ医員の助手の死体を食べたことで感染拡大…という経緯。

そのゾンビ化のメカニズムは生死草に産み付けらた卵が原因で、線虫のような生き物が人体で脳に移動し、理性を失うのでした。そしてその線虫は脳に達する前なら人体を水に浸ければ取り除くことができます(『ヨンガシ 変種増殖』という韓国映画を思い出す)。

これらの解明に貢献するのがソビという医女。ヒロイン的ポジションながらもただのロマンス要員ではなく、しっかり科学的な専門家として物語にひたむきに取り組む姿はカッコいいものでした。

しかし、そんなソビを酷使するのはやっぱり権力者で…。医療従事者というのはどの世界でも緊急時には道具のようにこき使われるだけなんですね…。そのくせ薬房日誌などデータは平気で杜撰に破棄したりするし…。

⑤疫病よりも怖いのは性差別である

感染症の恐ろしさをまざまざと見せつけるストーリーでしたが、その裏でもっと怖いことになっていくのが王妃の企み。

その背景にあるのは「女たるもの、子を産むべき」「男児こそが価値ある」という家父長的な生産性思考です。

あの王妃がやったことは確かに残酷無慈悲であり、大量殺戮なのですが、あの王妃をそこまで追い込んだのは男たちである点は忘れるわけにはいきません。死に間際、王妃のやり遂げた凛とした顔は儚いです。ああでもしないと成り上がることもできない、当時の女性の絶望がそこには声もなく響き渡っていました。

そう考えると王妃とソビの対比は印象深いです。男社会に打ち勝ちたいがあまりに道を踏み外した女性と、倫理を失うことなく着実に専門家として前に進む女性。

最近の作品はこうやってそれぞれの生き方を選んだ先の女性の顛末が多面的に描かれているものが多く、女性描写もどんどん深くなっていったなと実感します。

コロナ禍でもいろいろな社会に巣食う女性差別が露呈しましたね…。

⑥第1波、第2波のあとは必ず第3波がくる

アン・ヒョン捨て身のゾンビ化アタック(これ、ゾンビ史上最高にカッコいいゾンビじゃないですか)、チャン世子の渾身の氷パンチ(凍結水面を割る方法にちょっと笑ってしまった)、これによって見事にゾンビ騒動を解決した一同。

7年後。そこには平和の中で大きくなった亡き王妃の息子。赤ん坊のときに噛まれてしまっていましたが発症はしていません。

しかし、第1波、第2波とくれば必ず第3波がいつかはくるもの。不吉な予感とともにシーズン2は一応は閉幕。最後にチラ見えした女性を演じているのは『猟奇的な彼女』でおなじみの“チョン・ジヒョン”。この世界でもゾンビを転がせるくらいに猟奇的なのか? またまた強烈な女性キャラの登場で一層楽しいことになりそうです。

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キングダム: アシンの物語

※『キングダム: アシンの物語(Ashin of the North)』に関する以下の感想は2021年9月12日に追記されたものです。

シーズン2の後はシーズン3…ではなく、スペシャル・エピソードが投入されました。

本作『キングダム: アシンの物語』は、シーズン2でも最後に意味深に登場した謎の女性「アシン」を掘り下げる過去ストーリー。

倭国が南で攻めている時代。主人公は北方ツングース系の狩猟民族である「女真族」の一部が朝鮮へと移り住み、暮らすようになった藩胡村…そこで生活するアシンという少女です。本場の女真族である婆猪衛の15人が廃四郡にて虎らしき生物に殺されたという不吉な噂が蔓延する中、重篤の母を救うために死者を生き返らせる薬草を探しに行ったアシンは、村に戻ると全てを失ったことに気づきます。

簡単に言えば、壮大な復讐の物語でした。ゾンビ虎による(鹿が悪い)アニマルパニックに始まり、アシンのパンデミック仕掛け人としてのなりふり構わなさ。今回もジャンルとしてたっぷり楽しませてくれます。

今回のエピソードを観ると、アシンの壮絶な過去がわかると同時に、朝鮮半島を壊滅させるくらいの復讐劇の序章にすぎないのかという雰囲気もありましたし、アシンの立ち位置が気になりますね。朝鮮人からも差別を受ける女真族というところをピックアップしてくるのも上手いなと思います。

次の物語はどうなるのか。作られるのかな…。

『キングダム』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 93% Audience 96%
S2: Tomatometer 100% Audience 94%
Ashin: Tomatometer –% Audience 77%
IMDb
8.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
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関連作品紹介

韓国ゾンビ映画の感想記事の一覧です。

・『#生きている』

・『新感染半島 ファイナル・ステージ』

作品ポスター・画像 (C)Netflix

以上、『キングダム』の感想でした。

Kingdom (2019) [Japanese Review] 『キングダム』考察・評価レビュー