謎が謎を呼ぶミステリースリラー…映画『ブロックアイランド海峡』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2020年)
日本では劇場未公開:2021年にNetflixで配信
監督:ケビン・マクメイナス、マシュー・マクメイナス
ブロックアイランド海峡
ぶろっくあいらんどかいきょう
『ブロックアイランド海峡』あらすじ
ある辺鄙な島で魚が原因不明の大量死を遂げる不吉な現象が発生。その理由を調べるために動物の専門家が派遣されてくるが、不可解なことばかりで真相は掴めない。そして奇妙な現象はそれだけではなかった。老いた漁師の家族に起きる得体の知れない感覚。それはひとりに確認できたと思ったら、別のもうひとりへと拡散していくように拡大する。気づこうとしなかった。まさか自分たちがそんな目に遭うとは…。
『ブロックアイランド海峡』感想(ネタバレなし)
野生動物の調査員になったつもりで
シカやクマなどの野生動物が住宅地に出没してしまうことがあります。そうなったとき、「駆除(捕殺)」という手段がとられることもあるのですが、そうすると「なぜ捕まえて森に放獣しないのか」と苦情が来たりすることもしばしばです。殺すよりも生息地に返してあげる方がいいじゃないか、と。
もちろん駆除するのが好きだから駆除しているわけではないですし、他の手段も一切検討していないわけではありません。しかし、動物の専門家も「放獣」という手段を安易に選択しません。
なぜなら「放獣」は実はそこまで人道的なものではないからです。意外に思うかもしれませんが、冷静に考えるとわかります。なにせ「放獣」というのは言いかえれば、誘拐して拉致して監禁して強制的に別の場所に連行することなのです。こんなことを人間がされたら普通に極悪な犯罪です。残酷にトラウマを味わうでしょう。野生動物も同じです。実際、放獣という処置を経験した動物はその最中に死亡することも多く、仮にどこかに運んで放せてもその新天地で数日後に死亡する事例も珍しくありません。だから動物の専門家は「放獣」に慎重になりますし、どうせなら無用なストレスなしで速やかに駆除する方が人道的であると判断する場合もあるのです。
私もいくつかの野生動物の駆除や放獣の作業に関わったことがあるのですが、放獣はやっぱり動物にかかる負担が大きくて、可哀想になってきます。世間のメディアなんかでは美談に語られがちですけどね。頑張って放獣したけど、3日後に死体となって発見されたのを目の前にして何とも言えない気持ちになったことも…。
これは野生動物の研究者や調査員ならわかる苦悩だったりします。でもそうじゃない一般の庶民には理解されなかったり。おそらくそういう視点を抱いたこともないからでしょうか。動物は動物だとみなしていて、それが無意識な上から目線になっているのだけど気づかない。放獣は良いことでしょ?という感覚を疑わない。
そんなことを思いつつ、今回紹介する映画の話。こちらはまさにその野生動物の研究調査者が登場する作品です。それが本作『ブロックアイランド海峡』。
本作はある田舎の島で起きる異常現象を描いています。突然の野生動物の大量死。その調査のために野生動物の専門家が派遣されてくるわけですが、そこにはとんでもない真相が隠されていて…というミステリー要素の強いスリラー映画です。そしてホラーっぽくもあり、SFっぽくもあり。でも派手さは全くないです。エンターテインメントらしい痛快さは期待しないでください。
かなり個人の趣味に左右されると思うのですが、私にはドンピシャでした。前述した野生動物の調査云々の話も大きく関わってきたりなんかするのですけど、そこはネタバレしないためにこれ以上は口を閉じておきます。いや~、でもいいんです、この映画の後味。わかる人にはわかる、あの感じ。
監督は“ケビン・マクメイナス”と“マシュー・マクメイナス”というコンビで、過去には『アメリカを荒らす者たち』という一風変わったモキュメンタリーを手がけました。たぶんこういうテイストが得意なんでしょうね。確かに『ブロックアイランド海峡』も俯瞰的な語り口がありますし。個人的には要注目リストに加えておきたい監督になったかな。
俳優陣は、『アクエリアス 刑事サム・ホディアック』の“クリス・シェフィールド”と“ミカエラ・マクマナス”、『フローラとユリシーズ』の“マチルダ・ローラー”、『14 Cameras』の“ネヴィル・アルシャンボール”など。あまり有名な人は揃っていない感じですが、逆に目立つ存在がいないおかげで謎めいたストーリーに入り込みやすくなっていていいです。
繰り返しますがとにかく好みに合うかどうかで決まる作品ですが、ビビッとくる人は忘れずに鑑賞を。通好みの隠れた名作というポジションですかね。
『ブロックアイランド海峡』を観る前のQ&A
A:Netflixで2021年3月11日から配信されましたが、オリジナル映画という扱いではないので、しばらくすれば配信が終了する可能性が高いです。早めに鑑賞しておきましょう。
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(ジャンル好きには密かな注目作) |
友人 | ◎(趣味の合うマニアなら最高) |
恋人 | ◯(ちょっと人を選ぶけど) |
キッズ | ◯(残酷描写はないけど) |
『ブロックアイランド海峡』予告動画
『ブロックアイランド海峡』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):調査の時間です
静かな海にポツンと浮かぶ一隻の漁船。その船に髭面の高齢男が倒れています。気が付いて起き上がりますが、状況が掴めていない様子。周りにはモノが散乱しており、海に垂れた紐をひくと、それは犬の首輪…。
ここはブロック島。漁業が生業の小さな田舎です。ここで高齢の漁師である父・トムと暮らすハリーは友人たちとダイニングで駄弁っていました。
友人で陰謀論に憑りつかれているデールは、寄生虫が動物を操るという話を熱弁。「トキソプラズマとか言って、人にだって移るんだ」「政府は寄生虫を使用してワクチンに混入させているんだ」と滅茶苦茶な説をまくしたてます。隣のジェリーは半信半疑で聞いていましたが、ハリーは全く相手にしていません。
その後、ハリーはデールを乗せて車で帰ります。夜道。またもデールの陰謀論トークが熱を帯びてきたそのとき。ドンと何かが車にぶつかります。見るとそれは1羽の鳥です。なんでいきなり…。
家に帰るハリー。すると父親のトムがなぜか外で突っ立っています。隣の犬が吠えていますが、無反応。「父さん? そこで何をしているの」と呼びかけるとやっと気づいたようです。「寝ながら歩き回るのはやめてくれ」と頼むハリー。最近の父はどうも行動がおかしいことがたびたびありました。その翌朝も父は勝手に家を出て船を出したりしており、そのたび無線で呼びかけるのが常態化していました。
別の場所。オードリーは電話を受けています。幼い娘のエミリーの面倒も見ないといけないのに、急な仕事が入ったのです。フェリーは7時半とだけ言われ、向かわないといけないのは避けられません。
しかたなく娘を連れて船へ。そこで同僚のポールに会います。話は弟のハリーのことに移ります。エミリーは「クソ野郎」とよく意味を理解もせずに聞いたことを呟きます。「そんなこと目の前では言わないでよ」とオードリー。今、向かっているのは故郷のブロック島。母の死後にいろいろあり、オードリーとハリーは疎遠になっていました。
到着。さっそく地元の警官に話を聞きます。オードリーとポールの専門は魚の調査です。警官いわく9トンから10トンの魚が浜辺に打ち上げられたのだとか。数日おきに死骸があがり、混乱していると。現場を確認すると確かにおびただしい量の魚が砂浜を埋め尽くしていました。
とりあえず実家に顔を出し、食事をとります。ポールは低酸素だと原因を推測しますが、まだ調査が必要です。ポールはフェリーで通うそうで、ポールをフェリーまでオードリーは送ることに。
その間、ハリーとエミリーは夜空の下で遊びに出かけます。魚が浮いているので湿地へ行き、カエル獲り。オードリーが帰ってくるとエミリーのベッドの傍には瓶に入ったカエルが1匹。オードリーは返すように言いますが、エミリーは母のマネをしただけだと言います。
オードリーは自分の仕事を子どもにわかるように優しく説明します。「魚は2~3日で返すの、どんな生き物かよく知るためにね、そしたら助けられるから。捕まえるっていうと残酷に聞こえるけど。だからいいことなのよ」
寝静まった後、突然のエミリーの叫び。オードリーとハリーが駆け付けると、床に倒れたエミリー、そして父がそばに立っています。「怖い夢を見て床に落ちたようだ」と父は語りますが、父は変だと不安を語るオードリー。それに対して大袈裟だとハリーは言い返します。
朝。ここに娘は置けないとオードリーは帰る準備をしていましたが、父がまたいないことに気づくハリー。「昨日の夜出ていったよ」とエミリーは口にし、オードリーとハリーは船を出し探しに行きます。しかし、船を発見するもモノが散らばっているだけ。父の姿は影も形もありません。
警察は事件性はないと判断するも、ハリーは納得いかず自分で捜索をします。オードリーはハリーを被害妄想的だと見なし、困り果てます。
しかし、ハリーにも異変が起き始め…。
原因は何なのか?不安に翻弄されまくり
『ブロックアイランド海峡』は序盤から明らかに観客のミスリードを誘う仕掛けが盛りだくさんです。この観客を揺さぶる不安演出が本作の上手さだと思います。
まず冒頭の孤立した船の描写は、往年の日本の怪獣映画のような出だしみたいですよね。何かモンスター的な存在に襲われたのではないかといういかにもな雰囲気。「ぐわぉぉぉぉぉ…」というあの不気味な音も怪物っぽさを強調しますね。
そこから陰謀論者のデールの話題提供。確かに生物の行動を操る存在は自然界にいるのでちょっと説得力があります(カタツムリを操るロイコクロリディウムとか)。でもデールはそこに政府の暗躍を平然とトッピングするので一気に信憑性は低くなり…。でももしかして本当にそうなのか?と観客には不安が残りもします。
そしてハリーの父の異変。一般的に考えると認知症のような行動であり、そこまでの異常性はないようにも思います。もしかしたらハリーは過剰に考えすぎなのか…。
一方でオードリーとポールは科学者なのであくまで客観的な分析に専念。低酸素だとか、よく大量死にありがちな仮説をたてており、そこまで騒いでもいません。
ここから物語は人間の異常行動と野生動物の大量死がクロスオーバーするようになり、「科学で説明不可な超常現象」説と「科学的に解説可能な現象」説の2つがありうるかのような平行線で展開していきます。
ハリーは自分の異変を理解できなくなり、デールの陰謀論にも影響を受けて、自分が何か得体の知れない寄生虫にでも感染したのではないかと不安でいっぱいに。一部の人から自分が相続目当てで父を殺したと疑われ、周囲にも疑心暗鬼を発生させ、追い詰められます。このへんはさながら心理サスペンスですね。
対するオードリーはなおも科学的な思考で対処しようとします。ハリーの異常も、まずは精神的なストレスを疑い、次に電磁波過敏症を医者から指摘され、それも有り得るかと考えるように。この島では風力発電タービンが建設されたようで、確かにそういう風力発電と低周波音の問題は取り上げられがちなので、ますます観客に新説を与えるものです。
ところがオードリーが電磁波過敏症で孤立生活を送る人間に話を聞くと思わぬ反応が。「いつからそうなった? 何を差し出す? そこからすぐに連れ出せ。彼は奴らに乗っ取られている」
そしてハリーに起きる父の不気味な幻影。「犬…」とか「少女…」とか呻くので、あのあたりは完全にホラー。そういう心霊的な何かなのかと不安が加速する終盤。この畳みかけも実に鮮やかです。
パニックか? サイエンスか? サスペンスか? スリラーか? ホラーか? あらゆるジャンルを行ったり来たりするので、好きな人にはなんとも贅沢な映画です。
大いなる存在には敵わない
ただ、『ブロックアイランド海峡』は血や内臓でぐっしゃぐしゃになるようなモンスターパニック映画みたいなオチにはなりません。ド派手な怪物が出現し、大暴れするわけでもありません。それを期待していた人には申し訳ないですが…。
『ブロックアイランド海峡』を観ていると観客が現象の原因を探ろうとします。真相を知るために調査するわけです。
しかし、それこそがまさに真相そのものでした。つまり、“何か”が、人間の人智を超えた“何か”が、私たち人間を含む地球生命体を“調査”しているのだ、と。
終盤。エミリーを拉致したハリーとその船に乗り込んだオードリー。2人は謎の力で上空に吸い寄せられ、その“何か”と邂逅。『未知との遭遇』エンド。最近で言えば『ヴァスト・オブ・ナイト』と同じ、淡々とそういう存在に出くわしてしまった人間コミュニティを描いていく…。
『ブロックアイランド海峡』の場合は、ラストにオードリーのセリフが繰り返されることで、人類が俯瞰視されてくる構成がより皮肉っぽく強まり、そこで何とも言えない感慨を与えます。
結局は、オードリーが魚を調査しているのと同様。でも、それにしたって実際にいざ自分たちが“調査される側”になると、こうも無慈悲に翻弄されるだけなのか。身をもって体験するとはこういうことですかね。“いいこと”をしているというのも“調査する側”の一方的な認識でしかない。現実ではわけもわからないままに弄ばれるような恐怖と不安ばかり。本作を観れば人間が野生動物にやっているような行為をちょっと客観視できます。
ここで面白いのはこの“何か”による調査がどこまでの意図があるのかは不明だということ。例えば、オードリーみたいにプロフェッショナルな人たちが一応の公的な使命を持ってきちんとした手法に基づいて調査しているのか。それとも作中で映っていたようにデールみたいに陰謀論ありきで半ば自己流にデータを集めまくっているだけなのか。
この違いは大きいことですけど、私たち小さな存在にとってその“大いなる存在”の動機は全く把握できません。いや、もしかしたらそういうものなのかもしれません。科学と陰謀論というのは大局的には区別がつかないと言い切れなくもない。それこそ『ビハインド・ザ・カーブ 地球平面説』を思い出しますけど。
とにかく『ブロックアイランド海峡』は人類の理なんてものは別の“大いなる存在”から見れば些細なことであるという事実を突きつけて終わります。
私はこういう超次元的な“大いなる存在”が出てくる作品が好きなんですよね。エイリアンを対等に描くよりも、自分たちを超越した存在に翻弄される方が好きだなんて、なかなかにドMかもしれませんが、まあ、私の趣味です。『スター・トレック』だとか、最近だと『ソウルフル・ワールド』だとかね。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー リミックス』みたいに“大いなる存在”を悪役としてハッキリ描くものもありますけど、そういうのはあんまり好みじゃないんですよね。私としては“大いなる存在”は人間の善悪とかコレクトネスといったものが及ばない、別世界・別次元であってほしいので…。神秘性は大事。立ち位置としては自然災害みたいなものですけど、もっと理解しようのない無限大の“何か”。うん、漠然とした話、してるなぁ…。
とにかくそういう私の信仰感にバシっとハマる一作だったので、『ブロックアイランド海峡』は大満足でした。
これからもお構いなしに調査していきましょう。きっと私たちもお構いなしに調査されるんですから。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 96% Audience 35%
IMDb
5.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★
作品ポスター・画像 (C)30 Bones Cinema, Hood River Entertainment ザ・ブロック・アイランド・サウンド
以上、『ブロックアイランド海峡』の感想でした。
The Block Island Sound (2020) [Japanese Review] 『ブロックアイランド海峡』考察・評価レビュー