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映画『ドラウグ 凍海の亡霊』感想(ネタバレ)…酷寒のアイスランド産フォーク・ホラー

ドラウグ 凍海の亡霊

良識も凍てつく…映画『ドラウグ 〜凍海の亡霊〜』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Damned
製作国:イギリス・アイスランド・アイルランド・ベルギー・アメリカ(2024年)
日本では劇場未公開:2025年に配信スルー
監督:ソルドゥル・パルソン
人種差別描写
ドラウグ 凍海の亡霊

どらうぐ とうかいのぼうれい
『ドラウグ 凍海の亡霊』のポスター

『ドラウグ 凍海の亡霊』物語 簡単紹介

19世紀、孤立したアイスランドの小さな漁村で、亡き夫に代わって漁師小屋を仕切るエヴァは、食料も底を尽き始め、数少ない仲間と一緒に寒さと飢えをしのいでいた。そんなある日、近くに難破した1隻の船を見つけるが、救助を断念する決断を下す。それ以降、奇怪な現象や幻覚が村人たちを蝕む。それは古くから伝わる亡霊によるものなのか…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ドラウグ 凍海の亡霊』の感想です。

『ドラウグ 凍海の亡霊』感想(ネタバレなし)

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アイスランドのフォーク・ホラー

「グリーンランドが欲しい! アメリカのものにする!」と、“ドナルド・トランプ”大統領はわがままな5歳児のように喚いていますが、あの人の頭の中ではその土地は資源と領土にしか見えていません。

でも本来、どの土地にも文化があり、歴史があります。良いとか悪いとか全部ひっくるめていろいろなものが伝承されています。

そんな土地への敬意も愛着もない人間にどうこう言われても…って感じですね。

今回紹介する映画は、そんなグリーンランドにとっても無関係ではない、たぶん“ドナルド・トランプ”は知りもしない、その地の伝承が下地となっている作品です。

それが本作『ドラウグ 凍海の亡霊』

本作の舞台はグリーンランド…ではなくて、そのグリーンランドから350kmほど離れた海にあるアイスランドです。一応はお隣さんの国ですね。

違う国ではありますが、文化的には共有しているものも多く、そもそもあの地域一帯は北欧圏の歴史的繋がりが大きいです。とくに古くから伝わる民俗は、国境とは関係ありません。

そんな北欧圏の広い地域に昔から伝わっている「ドラウグ」という悪霊を主題にしているのがこの『ドラウグ 凍海の亡霊』です。

本作は19世紀のアイスランドにて孤立する小さなコミュニティが、恐ろしい悪霊に脅かされていく姿を描くフォーク・ホラーとなっています。

「ドラウグ」とは何なのか…それをここで説明しきってしまうと、映画が面白くなくなってしまうので、これ以上の言及は控えておきましょう。

ホラーとしては、心理的にゾワゾワと怖くなってくるタイプの作品ですね。

『ドラウグ 凍海の亡霊』を監督したのは、アイスランド出身の“ソルドゥル・パルソン”。これが長編映画監督デビュー作のようです。それまでは、ドラマ『ヴァルハラ連続殺人事件』でエピソード監督を務めていたりします。

脚本を手がけたのは、『レジェンダリー』の脚本の“ジェイミー・ハニガン”です。

俳優陣は、主演を務めるのが、映画だと最近は『オーダー』『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』、ドラマだと『ザ・ステアケース 偽りだらけの真実』『奥のほそ道 -ある日本軍捕虜の記憶-』などで、多才に活躍している若手の“オデッサ・ヤング”。今作『ドラウグ 凍海の亡霊』は目立っていない映画ではありますが、主人公タイトル作を得ましたね。ホラー映画にでるのは初なのかな?

共演は、『氷がすべてを隔てても』“ジョー・コール”『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』“ロリー・マッキャン”、ドラマ『Happy Valley/ ハッピー・バレー 復讐の町』“シヴォーン・フィネラン”など。

アイスランド産フォーク・ホラーなんてなかなか観れないので、このジャンル好きならぜひともチェックしてほしいのですけども、日本では劇場未公開で配信スルーゆえに話題性が乏しすぎて…。

『ドラウグ 凍海の亡霊』でアイスランド映画を初めて観る人もようこそ。寒くて、ひもじくて、ゾっとする体験ですけど…。

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『ドラウグ 凍海の亡霊』を観る前のQ&A

✔『ドラウグ 凍海の亡霊』の見どころ
★アイスランドの民族伝承ホラーの映画的語り口。
✔『ドラウグ 凍海の亡霊』の欠点
☆—

鑑賞の案内チェック

基本 一部で人種差別を示唆するシーンがあります。
キッズ 2.0
死体や暴力描写があります。
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ドラウグ 凍海の亡霊』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤)

19世紀。アイスランドの極寒の大地。この身も凍る地で、若きエヴァは暮らしていました。亡き夫マグナスはこの場所で亡くなり、まるでエヴァは今もその夫の無念に囚われているように、この場所に漁師小屋を建てて静かに営んでいたのです。

最寄りの村から隔絶されたこの小さな漁場は、温かい時期は海を泳ぐ魚で溢れていましたが、今は魚も満足に獲れるわけもなく、物資の枯渇する厳しい冬をひたすらに耐えるしかないないです。このアイスランドの地は草木もない過酷な地形。もともと資源に欠けています。

操舵手のラグナーダニエルハコンヨナスアーロンスクーリヘルガら数人の船員と生活しているものの、みんなの食料も底を尽き始めます。なんとか春まで持てばいいですが、今回はかなりツラくなってきました。もはや生きられるかどうかは運命に身をゆだねるほかありません。

ある日、岸部で小舟を準備していつものように凍てつく中で作業をしていると、沖のほうに一隻の帆船が見えます。

みんな察しました。おそらく潮に流されて難破してしまったのだろう、と。間違いなくその船に乗っている船員には死が迫っています。あそこはマグナスが死んだ岩場でもあるのです。彼はあそこで難破して帰らぬ人となりました。

それを見た一部の人は助けようとしますが、ラグナーは食糧不足なので助ける余裕もないと言い放ちます。もしこれ以上、人が増えてしまったら間違いなく食料は足りなくなります。

現在のここの所有者であるエヴァも救助しないことに同意するしかありません。今は祈るだけ…そう自分に言い聞かせて…。

こうして見て見ぬふりをしていましたが、岸で塩漬け肉の詰まった樽を発見します。あの難破船から流れついたと思われます。

こちらとしては念願の食料です。獲れるかどうかもわからない魚に不安にならなくてすみます。思わず喜んでしまう一同。

そして欲がでてきて食料のために小舟をだして取りに行くことにしますが…。

この『ドラウグ 凍海の亡霊』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2026/01/22に更新されています。

ここから『ドラウグ 凍海の亡霊』のネタバレありの感想本文です。

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アイスランドでサバイバル

『ドラウグ 凍海の亡霊』の舞台はアイスランドですが、一応、簡単に当時の歴史や時代的な背景を整理しておくと、この頃のアイスランドは寒かったのでした。「いや、アイスランドは寒い地域でしょ?」と思うかもですが、北半球では14世紀半ばから19世紀半ばにかけてことさら寒冷化する現象が生じており、「小氷期」と呼ばれていました。

これが原因でアイスランドといった北極圏に近い地域では、冬がなおさら過酷になり、住人を苦しめました。

そもそもこのアイスランドという島は火山活動によって形成された地形であり、2つのプレートに挟まれた大西洋中央海嶺の上に位置します。アイスランドの下にはマントルプルームがあるとされ、地学的にとても興味深いエリアです。

そんな環境ですから、植物は乏しいです。アイスランドには約500種程度の維管束植物しか野生には生えていないそうで、日本では8000種なんて言われていますから、どれほど植生が貧弱かはこの数字の比較でも明らかですね。こうなってくると農業も厳しいです。まだ農業が豊かに栄える北海道は同じ雪国でも全然マシなんだなぁ…。

なんかこれだけ書き連ねているとアイスランドが絶望的な土地に思えてしまいますが、良いところもありますよ。例えば、今のアイスランドは自然を活かして地熱発電と水力発電によって100%再生可能エネルギーで電力をまかなっています。

しかし、19世紀はまだそんな安定的なエネルギーのシステムもあるわけなく…。

この『ドラウグ 凍海の亡霊』で映し出される主人公エヴァの小さなコミュニティは厳しい生活を強いられています。

前半は実質的にはサバイバルのジャンルです。昔からこの地の伝統である漁業に依存するも、寒さと飢えが心までも委縮させる…。そうなんですよね…寒いと生きる活力が消えてくるんですよ…。

そして本作の物語の起点となる出来事が起きます。座礁した船を見捨てるという非人道的な決断です。サバイバルものであれば、定番とも言える「生きるために他者を見殺しにする」という選択。

そのうえ、本作はさらに追い打ちで、相手の物資を奪う中で、他者を殺めてしまいます。結果的にランプオイルとブランデーの入った木箱が手に入るのですが、殺人という禁忌を犯した見返りとしてはあまりに質素…。

ここの「燃やすもの」と「酔うもの」が手に入るという仕掛けも意地悪な展開です。今後の起きることを実に嫌な感じで暗示しています。

このようにまだ超常現象的なことが起きる前から本作は恐ろしいです。むしろこの実生活で命の危機が刻一刻と迫っていくタイムリミットのほうこそ怖いのかもしれません。

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ドラウグとは何だったのか

という感じで前半は漂着サバイバルものみたいな面白さのある『ドラウグ 凍海の亡霊』ですが、奇怪な現象が起き始める後半からはいよいよタイトルの「ドラウグ」が近づいてきます。

呼び方もさまざまで、古ノルド語では「draugr」と綴るのですが、「欺く」という意味合いがあるらしいです。

この「ドラウグ」というのは、悪霊だと説明されやすいですが、伝承によってその語られ方はいろいろで「肉体がある」とも言われ、いわゆる「ゾンビ」みたいに考えられることもあります。ファンタジー系のゲームではアンデッド・モンスターとして登場したりしますね。

本作でも「ドラウグ」を信じている人たちは、あの岸に流れ着いた遺体が蘇らないように埋葬したりと、死者蘇生を怖がっている描写がありました。

海からやってくるという言い伝えもあるので、本作の始まりであるあの難破船の登場も「ドラウグ」に合致します。どおりで一部の人は心底怖がるわけです。

そして最後の最後。本作のオチで、少し捻りがあります。本作における「ドラウグ」とは何だったのか…。

考察してみると、ここにもアイスランドの歴史を読み解くことはできるでしょう。

アイスランドはもともと無人島で、歴史的に少しずつ定住者が増えていった経緯があります。当然、そこには争いもあったわけです。余所者を排除し合う終わりのない対立。19世紀にはこのアイスランドを統治していたノルウェーとデンマークに対して、独立を求める運動も起き始めます。

思えば、本作のあのコミュニティの人たちも一見すると仲がよさそうですが、微妙にすれ違いを起こしていたと思います。

あの漁場を相続して管理者となったのはエヴァでしたが、操舵手のラグナーは「女性が仕切る」ことにやや不満そうでした。実際、エヴァよりも真っ先に難破船を見捨てる判断をして合意形成を誘導したりと、あのコミュニティを誰よりも仕切りたがっている素振りがあります。彼の脱落はあのコミュニティのパワーバランスを余計に揺るがせます。エヴァを信用できないと思っていた者は他にもいたでしょうから。

一方で料理人のヘルガは一番に民間伝承に信仰深く、「ドラウグ」の疑心暗鬼の種をばらまいてしまいます。そこから起きるパラノイアの連鎖による惨劇…。

オチを考慮すれば、これは本当に「ドラウグ」なる存在がいて起こした超常現象ではなく、他人不信の負の連鎖で死が連発してしまった不幸だったのだろうと推察できます。

極めつけは、ラストのエヴァの行為。実は助けを求めてこの場所に必死にやってきた難破船の生存者を「ドラウグ」だと錯覚して殺していたことが明らかになります。彼はバスク語で話しており、コミュニケーションが上手くとれていませんでした。というよりかはエヴァの心の奥底にあった外国人嫌悪がまさに恐怖として具現化し、手を血に染めた…感じです。最後はエヴァは自覚できたのでしょうかね(自覚できても今さらですが)。

このラストのオチは『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』っぽいですね。往年の名作をアイスランドの地政学的な歴史を踏まえて再構築したようなホラー映画でした。

『ドラウグ 凍海の亡霊』
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)

以上、『ドラウグ 凍海の亡霊』の感想でした。

作品ポスター・画像 (C)WESTFJORDS PRODUCTIONS/BLADE RIGHTS/JOIN MOTION PICTURES/WRONG MEN NORTH ザ・ダムド ドウラグ

The Damned (2024) [Japanese Review] 『ドラウグ 凍海の亡霊』考察・評価レビュー
#イギリス映画 #アイスランド映画 #ソルドゥルパルソン #オデッサヤング #ジョーコール #フォークホラー