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アニメ『私を喰べたい、ひとでなし』感想(ネタバレ)…仄暗い海の底から救ってくれるクィア・ホラー

私を喰べたい、ひとでなし

美味しく味わって…アニメシリーズ『私を喰べたい、ひとでなし』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:This Monster Wants to Eat Me
製作国:日本(2025年)
シーズン1:2025年に各サービスで放送・配信
総監督:葛谷直行、監督:鈴木裕輔
自死・自傷描写 交通事故描写(車)
私を喰べたい、ひとでなし

わたしをたべたいひとでなし
『私を喰べたい、ひとでなし』のポスター

『私を喰べたい、ひとでなし』物語 簡単紹介

痛ましい事故で家族を失い、唯一の生存者として幼い頃に孤独になってしまった比名子は、高校生になってもなおも心に暗い影を落としたまま今年も空虚な夏の日々を過ごしていた。そこへ謎めいた少女の汐莉が現れ、血肉を食べる人魚と名乗り、しかも比名子を食べたいと口にする。そんな死への誘いに心を惹かれつつ、比名子は考えてもみなかった自分の幸せを見いだすわずかな一歩へと背中を押され…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『私を喰べたい、ひとでなし』の感想です。

『私を喰べたい、ひとでなし』感想(ネタバレなし)

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人魚が私を食べる

「毛利梅園」という江戸時代の学者は生き物の写生に夢中になり、『梅園画譜』という今でいうところのイラスト集を出したりしたほどでした。その中でも、魚類を写生した『梅園魚譜』には「人魚」の絵が堂々と描かれています。

その人魚はなかなかにギョっとする見た目なのですけど、さすがに実物を見ながら描いたわけではないはず…。でも江戸時代でも人魚は知られていたんですね。

ああいう見た目で認識されていた以上、やっぱり妖怪の類だと思われていたのだろうか…。

今回紹介するアニメは、そんな日本の人魚が重要な存在として関わってくる作品です。

それが本作『私を喰べたい、ひとでなし』

本作は、『電撃マオウ』にて2020年から連載されている“苗川采”の漫画が原作で、2025年にアニメ化されました。

物語は、ひとりの女子高校生が人魚と出会うことから始まるのですが、その人魚は『リトル・マーメイド』みたいな愛らしい存在ではなく、人間を捕食する化け物です。なので、本作はその点においてはガッツリとホラーになっています。

しかし、ここが本作『私を喰べたい、ひとでなし』の作品性の芯の部分ですが、一方で単に恐怖をメインにするエンターテインメントなホラーという感じではなく、死別希死念慮を主題にしており、非常に重たいトーンで進行する人間模様が描かれます。

家族を事故で失ってひとり生き残ったことで、今も心に暗い影を落としたまま、どこかで「自分の死」を切望してしまっている主人公が、人食いの人魚と邂逅し、人生の意義と静かに向き合っていく…そういうストーリーです。

同時に本作はいわゆる「百合」作品にカテゴライズもされ、女子高校生同士の関係性が主軸になりますが、それは前述した背景ゆえに、わかりやすいロマンスとも違う、結構独特の味わいとなっています。

そうしたジャンル・ミックスなので、同じ2025年のアニメで言えば、『光が死んだ夏』と同じ、クィア・ホラーとして読み解いていくこともできるでしょう。

振り返ってみると2025年はクィア・ホラーのアニメが比較的充実している年でしたね。

『私を喰べたい、ひとでなし』のアニメーション制作は「スタジオリングス」で、総監督は“葛谷直行”、監督は“鈴木裕輔”、シリーズ構成は“広田光毅”となっています。

相当に重たい題材なだけに、かなり難しいアニメ化だったとも思いますけど、アニメーションでも誠実にテーマに取り組んでいます。

わいわいと楽しめるタイプのアニメではありませんが、じっくりと寄り添ってそれぞれの作品の向き合い方を見つけられるとよいと思います。

以下の私の後半の感想では、クィア・ホラーの側面も掘り下げながら書いています。

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『私を喰べたい、ひとでなし』を観る前のQ&A

✔『私を喰べたい、ひとでなし』の見どころ
★死別を引き金とする希死念慮への誠実な向き合い方。
✔『私を喰べたい、ひとでなし』の欠点
☆重たいトーンなのでその点を留意。
日本語声優
上田麗奈(八百歳比名子)/ 石川由依(近江汐莉)/ ファイルーズあい(社美胡) ほか
参照:本編クレジット

鑑賞の案内チェック

基本 死別や希死念慮がメインで描かれます。
キッズ 2.5
センシティブなテーマを扱っているので保護者のサポートが必要かもしれません。
↓ここからネタバレが含まれます↓

『私を喰べたい、ひとでなし』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤)

とある海辺の街。八百歳比名子は息を重く吐きながらスマホのアラームの音で目覚めた体をゆっくり起こします。ベッドの目の前の棚には、小さな仏壇。昨日の夜の心配してくれているおばさんからのメッセージのやりとりがそのまま。新しいメッセージには「今年の命日は帰れない」とのこと、そして「高校生になった姿を天国のお父さんもお母さんもきっと喜んでいる」との内容が添えられていました。

しかし、「大丈夫」と送り返す比名子の顔は虚ろです。明るい陽射しと対照的に心は沈んでいました。制服に着替え、トボトボと登校しますが、両親や兄の記憶が頭をよぎります。もう遠い過去になってしまった家族の姿。この夏は嫌いでした。

「夏なんて早く終わればいいのに」と心で思って海を見つめていると、欄干の足元の海中に何かの気配を感じます。

そのとき「危ないですよ」とあるひとりの長髪の少女が声をかけてきます。その瞳はまるで深い海のように透き通った色です。その見知らぬ少女は「てっきり身投げでもしようとしているのかと」と淡々と言い放ちます。比名子はその無礼な子に背を向け、学校へ向かいます。

教室では幼馴染の友人の社美胡が元気に話しかけてきます。無邪気な美胡は昔から何かと比名子のことを気にかけてくれます。下校の時間になると、一緒に帰る予定だった美胡は先生に呼び出されてしまいます。

何をして時間を潰そうかと考えているとき、海の匂い、はたまた波の音…そんな気配がします。これは今朝のときと同じような…。

そして海の近くを歩いていると、いきなり海中から伸びた髪の毛のようなものが足に絡まってきます。それは比名子を海中に引きずり込み、比名子は呆然として抵抗することもできません。いや、抵抗する気はない…。

けれども気づくとあの朝の謎の少女が自分を助けてくれていました。

「この子は私のものです」

そう言って目の前の得体の知れない存在を人魚の姿に変貌して残酷に血塗れにしてしまいます。血しぶきを浴びたその少女は笑みを浮かべて「私は汐莉。私はきみを食べにきました」と告げます。

「私を食べてくれるって本当なの?」

「でも今は食べません」

その後、その少女は近江汐莉という名で転校生として比名子の教室に何食わぬ顔でやってきました。

「この人なら私を死なせてくれるかもしれない」

比名子は微かな期待を抱き、その人魚に魅せられていきますが…。

この『私を喰べたい、ひとでなし』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2026/01/05に更新されています。

ここから『私を喰べたい、ひとでなし』のネタバレありの感想本文です。

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押し付けがましくても…

『私を喰べたい、ひとでなし』は、壮絶な家族死が物語の根本にあります。八百歳比名子は10年前の6歳の頃の家族旅行の帰りに、乗っていた車が崖から海に転落し、両親と兄が帰らぬ人となってしまいました。

自身は生存して今は高校生を迎えた比名子でしたが、「なぜ自分だけ生き残ってしまったのか」という自責の念を抱え、「家族のぶんまで生きないといけない。死にたいと言ってはいけない」という重圧を背負い、孤独に苦しみ続けているところから物語は始まります。

本作はまさしく「レジリエンス」(大切な存在の死を経験したときに自分が立ち直っていく能力のこと)を主題にしていると言っていいでしょう。

序盤の比名子は露骨な行動はとらずとも、心の奥底で「自分の死を望んでいる」のは明らかで、そんなときに近江汐莉が現れます。汐莉の「食べてあげる」という宣言は文字どおり「死なせてあげる」と同義。こういう他力本願ながら死が達成されることに頼ってしまう心理は希死念慮を抱える当事者にはよくあることです。

これだけだと汐莉は、現実社会でもSNSなどで問題視される自殺幇助で弱った者を搾取する輩と同類に思えてしまいますが、その本心は違うことが徐々に明らかになります。

まだ絶望を味わう前の比名子に出会い、その純真な輝きに心惹かれ、比名子を守りたい一心で事故直後に干渉し、今になって「人生に希望を見いだして死にたくない生きたいと思ったとき、食べてあげます。幸福に生きる努力をしてください」と、非常に遠回しに延命を願って関与するようになった汐莉。

終盤ではその汐莉の真意は比名子にバレてしまい、死にたかった比名子は大いに傷つきます。それでも「押し付けないで」と拒絶する比名子にあらためて汐莉は迫ります。

本作は、希死念慮を抱く当事者に対して「生きて」と言い放つ言葉がいかに相手を傷つけるか、その言葉がいかに我が儘か…という事実…。と同時に、それでもときにそれを覚悟して相手を引き留める傲慢さが必要になることもある…という現実を真摯に描いているなと思いました。

実際、希死念慮を抱いている人にどう言葉をかけるかというのは難しいものです。「我が儘を承知の上で言うけど、私のために生きてほしい」と、自分の要望として押し付けるくらいしかできないことも多いですから。

だから「人生には価値がある」なんて言葉も「人生を価値のあるなしで語るな」というもっともらしい指摘もあると思いますけど、そういうのを込みで、あえて「価値」なんて嘘っぽい言葉で自分も相手も騙しながら生にしがみつくしかないときもあるんですよね。「生きる」という現象は、そんな共依存での騙し合いでかろうじて成り立っているものなのかもしれません。

作中の比名子と汐莉もそれこそ騙し騙しの関係です。

『私を喰べたい、ひとでなし』はトラウマを扱っているので、下手をするとトラウマを消費するだけのコンテンツになりかねません

以前に私もSNSでアニメ『タコピーの原罪』に対する海外メディア(「Anime Feminist」)からの厳しめなレビューを紹介したこともありますけど、そこでは「子どもたちの心の傷とその残酷さを生々しく描写することに力を入れている。一方で虐待に関する最も安易な物語…傷ついた人はさらに傷つける、セックスワーカーは酷い母親になる、拒絶された女性は暴力的な虐待者になる…を何度も繰り返し、衝撃的なイメージと組み合わせることで、観客の感情を操り、何か深遠なことを観ていると思わせる」と描き方を問題視していました。

確かに「トラウマを描く」という表象は常にそのリスクと背中合わせです。

その点、『私を喰べたい、ひとでなし』は、トラウマを主軸にしながら何かステレオタイプを助長する悪手を打つマネはしていなかったと思います。これは題材の下地にあるのが交通事故による死別なので、そんなにスティグマの落とし穴が多くないというのもあるでしょうけど。

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まだ知らないクィアが希望になる

でも『私を喰べたい、ひとでなし』がレジリエンスに真っ当に向き合えているのは、やはりケアする傍に寄り添う存在をちゃんと描いていたからだとも思います。

当然、その存在とは、近江汐莉と社美胡の2人です。

ここで本作をクィア・ホラーとして読み解く意義が生まれます。

比名子と汐莉がキス同然の口同士の接触をする行動の理由を「百合作品だから」で片づけず、歴史あるクィア・ホラーの文脈でみてみると作品の見方が広がります。作者はどういうつもりだったとか、それはさておき、これは批評の楽しさの提案です。

「百合」という言葉は女の子同士がイチャイチャしているだけの描写にとりあえず張り付けるだけのラベルとして世間で安直に使用されがちですけど、百合には百合の批評する価値のある歴史があり、それはクィア・ホラーともときに交差しますからね。

女性同士のクィアな愛とホラーの重複の原点として代表的なのが1936年の映画『女ドラキュラ』。この作品は「年上で(もしくは経験値のある)明らかにクィアな女性が、無垢で善良な若い女性を“捕食”する」という略奪的なレズビアン(predatory lesbian)」の型を確立し、有害なステレオタイプとして多用されていくことになります。

カニバリズムと同性愛は「禁断の欲求」という偏見の視点で結び付けられやすくもありました。

しかし、それをあえて意識してその略奪的なクィアの存在をポジティブに描くという表象のカウンターも出現し、今もそのアプローチで多くの作品が生み出されています(『ボーンズ アンド オール』など)。

『私を喰べたい、ひとでなし』も、略奪的なレズビアンをポジティブに変換し直している作品ですね。

汐莉は比名子に(人間的な恋愛感情とは違うかもしれないにせよ)強く惹かれており、その想いで血の契りを交わして特別な関係になります。汐莉も実のところ、孤独に苦しんだ境遇を先んじて経験していました。

美胡は「食べたい」という欲求を隠して抑え込み、比名子と「友情」の関係でとどめようとします。何百年培った力を捨ててでも傍にいたい人であり、縁を結んだために…。

いずれも歪曲的ながらじゅうぶんにクィアの心情を投影していると言えるのではないでしょうか。汐莉と美胡の比名子をめぐるときに気の抜けた駆け引きは、百合作品の常套的なアプローチですが、キャラクターの秘めた背景がそのクィアネスを強化しています。

そして比名子自身は別にセクシュアリティを描いてはいません。

でも、絶望的な人生の中で、まだ知らぬクィアネスが希望になる可能性を提示するという流れがあり、そこを踏まえると『Sorry, Baby』と同じ系譜だなとも思いました。

当事者とも認識できていない当人にとって、クィアなホラー(恐怖)はサバイブ(生存)に繋がる。『私を喰べたい、ひとでなし』が教えてくれる美味しい味です。

『私を喰べたい、ひとでなし』
シネマンドレイクの個人的評価
6.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
△(平凡)
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電話相談 – 厚生労働省
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関連作品紹介

日本のアニメシリーズの感想記事です。

・『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』

・『ささやくように恋を唄う』

・『私の推しは悪役令嬢。』

以上、『私を喰べたい、ひとでなし』の感想でした。

作品ポスター・画像 (C)苗川 采/KADOKAWA/わたたべ製作委員会 私を食べたいひとでなし

This Monster Wants to Eat Me (2025) [Japanese Review] 『私を喰べたい、ひとでなし』考察・評価レビュー
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