ワイルドライフ
映画『ワイルドライフ』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Wildlife
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2019年7月5日
監督:ポール・ダノ

ワイルドライフ

あらすじ

1960年代、モンタナ州の田舎町で暮らす少年ジョーは、仲の良い両親ジェリーとジャネットのもとで慎ましくも幸せな毎日を送っていた。ところがある日、ジェリーがゴルフ場の仕事を解雇され、山火事を食い止める危険な出稼ぎ仕事へとひとり旅立ってしまう。そして、ここから家族は壊れていく。

ネタバレなし感想

家族について考えたくなる映画

「家族」というものは人間のアイデンティティを決定づけるとても大事な役割があります。

家族の在り方は時代とともに常に変化してきました。大昔は狩りをして食事を手に入れるのが家族の欠かせない営みでしたが、今はAmazonでも済みます。家族のコミュニケーションは言語や文字の発達にともない、多様化し、今は絵文字や動画を送り合うのが日常に。血縁関係がなくても、同性愛カップルでも、夫婦別姓でも、婚姻契約がなくても、家族は成り立つ時代になりました。でも家族の本質は変わりません

家族というコミュニティの中で自分が何を感じ、どう育ったかで、自分の価値観の土台が築き上げられます。あまりプライベートなことなのでそう簡単に他人にベラベラしゃべることもないでしょうが、でも多くの人は家族に関して良かれ悪かれ多大な影響を受けたはず。

ゆえに映画でも家族を扱った作品は非常に多いです。しかも、現代はとくに重視されている面が目立っているかもしれません。国、宗教、企業…そうしたスケールの大きいコミュニティの信頼性が揺らいでいる昨今、結局は、原点である家族に立ち返ろうとしているかのように。

そういう家族を主題にした映画を観ると、どうしてもその観客個人の家族観に感想が揺さぶられることも多いものです。まあ、そこがまた興味深いところなのですが。

では本作『ワイルドライフ』を観た時、あなたはどんなことを考えるでしょうか。

『ワイルドライフ』はタイトルどおりだと「Wildlife」…つまり“野生生物”という意味であり、なんだかネイチャードキュメンタリーみたいですけど、動物は一切主題ではありません。人間の家族をテーマにした極めてパーソナルなドラマです。

原作はピューリッァー賞作家でもある「リチャード・フォード」が1990年に発表した「WILDLIFE」。リチャード・フォードは現在75歳でキャリアは長いですが寡作な人。でもアメリカ文学の中核を成す評価をされてきました。

そんな言ってしまえばオールドクラシックですらあるアメリカ文学作品を映画化しようと思ったのが、若干まだ35歳の“ポール・ダノ”だという点がまた特筆できます。

“ポール・ダノ”はご存知のとおり俳優で、『リトル・ミス・サンシャイン』や『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』など名俳優と共演することも多い若手として注目されていました。そんな彼の初監督デビュー作が本作『ワイルドライフ』です。

最近の“ポール・ダノ”出演作が『スイス・アーミー・マン』や『オクジャ okja』と、ずいぶんヘンテコな作風の映画が多かったので、『ワイルドライフ』のようなトリックなしの純粋な家族を描く作品をチョイスしたのが意外に思えます。


でも“ポール・ダノ”監督いわく、この原作小説が自分の家族経験と重なるということで特別な思い入れがあるものだったそうで、そんな監督自身の感情が素直にこもった映画になっているみたいです。確かに鑑賞すればその思いが伝わってくるようでした。

『ワイルドライフ』は夫、妻、ひとり息子の3人家族の物語です。

夫を演じるのは“ジェイク・ギレンホール”。偶然ですけど、公開日時期、日本の映画館では本作と『ゴールデン・リバー』、『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』と、“ジェイク・ギレンホール”祭り状態ですね。

妻を演じるのは“キャリー・マリガン”。『17歳の肖像』『ドライヴ』で高く評価され、最近だと『マッドバウンド 哀しき友情』に出演した、これまた若手のベテラン。


ただ、『ワイルドライフ』の主人公は“ジェイク・ギレンホール”でも“キャリー・マリガン”でもなく、ひとり息子を演じる“エド・オクセンボールド”です。皆さん、覚えているでしょうか、あのM・ナイト・シャマラン監督作の『ヴィジット』で弟役として観客の心を掴んだあの子ですね。『ワイルドライフ』では抑制の効いた素晴らしい名演を披露しています。

地味な映画ですが、映画レビューサイト「ROTTEN TOMATOES」では94%の高評価を獲得する批評家絶賛の作品ですので、ぜひ観て、あなたの家族観と触れ合わせてみてください。

オススメ度のチェック
ひとり◎(隠れた名作を観たいなら)
友人◯(コアな映画ファン同士で)
恋人△(恋愛気分ではないかも)
キッズ△(大人向けのシリアス)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

バラバラになっていく家族という生き物

『ワイルドライフ』の舞台は1960年代のモンタナ州

モンタナ州はアイダホ州とワイオミング州の北、カナダとの国境に位置するところで、イエローストーン国立公園を含む雄大な自然がある…ぞんざいに言い換えると“ド田舎”です。もともと「モンタナ」という名前はスペイン語でを意味する言葉から来ているそうで、作中でもこの山が印象的な演出に使われています。

この地で細々と暮らすブリンソン家はどこにでもいそうな一家。どうやら引っ越してきたようで、この地に慣れ始めた段階でしたが、ここで一抹の不安が。夫であるジェリーが働いていたゴルフ場でトラブルを起こし、解雇になってしまいます。この時点は妻のジャネットも、ひとり息子の14歳のジョーも、ジェリーを支えて家族団結して頑張ろうという雰囲気でしたが、徐々に崩壊が始まっていました。

ある日、ジェリーは突然、山火事を食い止める消防団の出稼ぎ仕事に行くと言い出し、家族は紛糾。無論、長期間家を空けることになり、しかも非常に危険のある仕事であり、加えて報酬は時給1ドル。あまりにも非効率的で、ジャネットにもジョーにも“やる意味”を感じません。しかし、ジェリーは頑なであり、もうテコでも動かぬ状態。父を差し置いて働いて自立し始める妻と息子を見て、焦ったのか…それはわかりませんが、もはや山火事以外は眼中にありません。

ちなみにアメリカの山火事は非常に大規模なことはたまに日本でもニュースになるので伝わっているとおり。事態鎮静化に数週間とかかることもあります。日本だったら普通、山火事対応は行政が行うものですけど、アメリカでは下請け会社にアウトソーシングすることが多いみたいで、低賃金で労働者が従事しているのも珍しくないそうです。

話を本編に戻すと、そうしてジェリーは家を離れてしまい、残った二人は家計を支えるために働くに決めます。ジョーは写真館でアルバイトし始めますが、ジャネットはスイミングスクールの講師の仕事に一旦就くもすぐにやめ、さらに良い仕事を探すことに。

そこでこの家族にやってきた来訪者がウォーレン・ミラーという男。車の販売店の仕事している男らしく、どうやらジャネットはこの男に何かしらの意図を持って近づいているようでした。そして、ジョーはジャネットがこのミラーと不倫している現場を目撃。というか、肝心のジャネットもミラーへの接近を息子に隠そうともしていません。

自分の知っている家族が崩れていくのを実感しながら何もできずにただ立ち尽くすジョー。そうこうしているうちに雪の降る時期になり、ジェリーが久しぶりに帰宅。これで家族は何事もなく元通り…とはいきません。明らかに深々と亀裂の入った家族の空間。互いに互いを理解できずに混乱する父と母。その間に挟まれ、やはり混乱する息子。

この炎上したこの家族の結末は…。

伝わらない家族の一面

『ワイルドライフ』は崩壊する家族を描くという、いかにもドラマチックな展開がたっぷり見せられそうな題材ながら、非常に抑制を徹底した、ストイックな映画という印象でした。

例えば、ジェリーは山火事対応の職場で働くわけですが、映画だったらその白熱の現場を映せばいいじゃないですか。最近だと『オンリー・ザ・ブレイブ』みたいに。燃えさかる炎と格闘する男たち…これだけで映画的な絵になります。でもそれはしない。結局、ジェリーがどう働いていたのかとか、そういう苦労が映像では全く伝わりません。

また、ジャネットも夫がいなくなってから急に不倫に向かって突き進みますが、それをある種のベタなロマンチックに、もしくは“禁断の恋”的な俗物的に描くことはしません。あのミラーという男にべったりな状態になるのも、どれほど本心を捧げていたのか、はたまた一時的な気の迷いなのか、判断は映像からはつかないです。

でもこの“伝わらなさ”が本作の大事なポイントなのかなと思います。

本作はあくまでひとり息子であるジョーの視点で物語が進みます。そしてジョーは自分の両親のことをわかりかねています。一体何を考えてこんなことをしているんだ、と。ちゃんと後先のことを想定しているのか、と。とくにあの一件以来、ジョーはそれぞれの親の知らない一面を見てしまった感じで心をかき乱されてしまいます。

でもこういうことってあるなと私も思うのです。私も自分の親のことをどこまで理解しているかと言えば、間違いなく全てを把握はしていません。私の知らない人生のエピソードだってきっとたくさんあるはずです。また自分が親の立場なら、どれだけ自分自身を子どもに曝け出すかと考えれば、そうオール100%は見せないでしょう。

家族という身近なコミュニティなのに案外よく知らない。逆に身近だからこそ“聞きづらい”こと、“話しづらい”こともある。

『ワイルドライフ』はそんな家族のありのままの生態系をそのまま撮影したような、そんな純自然的な姿を観察するかのごとく、過剰なドラマ味付けを排した映画なのではないでしょうか。

ワイルドライフ

山火事は悪いことではない

一方で特異な演出がないわけでもなく、印象的なのは「山火事」です。

ジョーが消えた後、すっかり化粧も濃くなりタバコもスパスパふかすようになったジャネットがジョーを車で山火事現場に連れていきます。そこでジョーの目の前で映る、轟音とともにメラメラ燃えていく山。凄まじい圧ですが、あれがまるで崩壊するジョーの家族そのもののようです。

『ワイルドライフ』はジョーの家族そのものが火事で燃え上がっていく様を描く…といえるかもしれません。だからこそタイトルが「ワイルドライフ」なのであり、ジョーたちは燃えさかる火から逃げる、まさに野生動物です。

ちなみにアメリカで頻繁に起こる大規模山火事(ワイルドファイア)は、あまりに規模が巨大すぎるため、完全な鎮火を人間側が実行するのは難しく、結果、避難のための時間稼ぎの消火作業をしながら、自然鎮火を待つくらいしかできなかったりもします。要するに地震とか津波みたいな自然災害と同じなんですね。

つまり、ジョーの家族も同じで一度火の粉によって炎上して崩壊し始めると、その火を消すことはジョーにはできません。そうやって拡大している炎をオロオロと見ているうちに、ジェリーの怒りの火がミラーの家にまで延焼していくかのような、そのものズバリな後半のシーン。

これは最悪の事態で全部が消し炭になるのかと思っていたら、それは何をするでもなく自然鎮火している。もちろん、火が消えた後は元通りにならないですけど、それでも人生は続く。そんな崩壊と再生の家族の物語。それが『ワイルドライフ』なのかな。

ラストにジョーが今では別居している父と母を連れてスタジオで家族写真を撮りたいと言って、シャッターをきります。たとえどんな変化を迎えても、この瞬間の家族の姿を忘れない。家族は変化するものだからこそ、記録に残すことは余計に大事かもしれませんね。

最後に一つ、自然発生する山火事に関する雑学を。

山火事は悪い悲劇のように思われがちですが、実は自然生態系においては重要な現象でもあります。山火事が起こって木々が燃えることで、自然がリセットし、また新しい自然が構築されます。そうやって脱皮するように繰り返される…雄大な自然の歴史の流れです。決して山火事で自然が壊滅するようなことはないんですね。

森も家族も、山火事に過剰に怯えることはないのです。そう考えればちょっと人生の重荷が減る気がしてきませんか。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 94% Audience 73%
IMDb
6.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

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↑『スイス・アーミー・マン』…ポール・ダノ主演作。かなりヘンテコな映画ですが、人生の崩壊と再生を描くという意味では共通しているかも。
作品ポスター・画像 (C)2018 WILDLIFE 2016 LLC