サブテキストから核心へ…「Netflix」ドラマシリーズ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(シーズン5)の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2025年)
シーズン5:2025年にNetflixで配信
原案:マット・ダファー、ロス・ダファー
イジメ描写 恋愛描写
すとれんじゃーしんぐす みちのせかい

『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(シーズン5)物語 簡単紹介
『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(シーズン5)感想(ネタバレなし)
ストシンの終わり
「Netflix(ネットフリックス)」にとってこのドラマシリーズの完結はまさに自身の節目という感じでしょうか。
そのドラマとは本作『ストレンジャー・シングス 未知の世界』です。
ドキュメンタリー『NETFLIX 世界征服の野望』でも映し出されていたとおり、初めはレンタルビデオ業の一社にすぎなかったNetflix。
2007年からストリーミングサービスに着手し、みるみるうちにその規模を拡大。世界最大の動画配信サービスとして圧倒的に君臨していくようになります。
2016年のNetflixはまさに業界をひっくり返す革命軍のような輝きを放って絶好調でした。油断していたハリウッドのメジャースタジオもケーブルテレビもその存在を無視できなくなりました。Netflixが独占配信していた『ハウス・オブ・カード 野望の階段』(2013年)や『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』(2013年)が大ヒットして、そのうえ賞を総なめにしていっていたからです。
そこにトドメを刺すかのように現れたのが、この『ストレンジャー・シングス 未知の世界』。2016年7月に配信された本作は、共同制作ではないNetflix単独で生み出したIPのオリジナル作品であり、この成功はNetflixの礎を盤石のものにしたと言っても過言ではないと思います。
『ストレンジャー・シングス 未知の世界』の原案は、“マット・ダファー”と“ロス・ダファー”の“ダファー兄弟”。2015年の『Hidden』で長編映画監督デビューしたばかりだったで、その後にドラマ『ウェイワード・パインズ 出口のない街』の脚本の仕事もしていましたが、基本的にまだ全然無名でした。
そんな“ダファー兄弟”は、1980年代初頭からニューヨーク州モントークの軍事基地で心理戦術やタイムトラベルの極秘実験が行われているという通称「モントーク・プロジェクト」と呼ばれる陰謀論に夢中になり、それを着想元に「Montauk」という企画を考えます。これをテレビシリーズにしようと各社に売り込んだわけですが、ことごとくそっぽを向かれ、結局、“ショーン・レヴィ”のスタジオが興味を持ってくれ、Netflixに話が持ち込まれました。
こうして今や『ストレンジャー・シングス 未知の世界』の生みの親として名を馳せた“ダファー兄弟”。その『ストレンジャー・シングス 未知の世界』も2025年にシーズン5で完結するというじゃないですか。
10年です。長いですよ。主演の子どもを演じた子役たちがすっかり成人を過ぎましたからね。もう親戚の人の気分…。
とは言っても、フランチャイズは終わる気が全くなくて、Netflixは永遠にこのIPで何か企画してそうですが…。
そんなこんなで2025年に最終章を迎えた『ストレンジャー・シングス 未知の世界』。語り口はいくらでもある濃密な作品ですが、私の後半の感想ではクィア表象に絞って総括的なことを書いているので、気になったら続けて読んでみてください。
『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(シーズン5)を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
| 基本 | — |
| キッズ | 出血など暴力の描写があります。 |
『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(シーズン5)感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
1987年11月3日。インディアナ州のホーキンスという田舎町は軍の厳重な管理下に置かれて19か月が経過しました。出入りは厳しく制限され、軍隊が町中を闊歩しており、今や元の住民よりも兵士の数のほうが多いくらいです。大半の地元住民はこれは深刻な自然現象のせいであるという軍の発表を鵜呑みにしています。
しかし、その真相を知る一部の子どもたちと大人がいました。これは「裏側の世界」による侵食が原因なのだと…。それでも今は軍にバレるわけにはいかないので、当人たちは目立たないようにこの町に溶け込んでいました。一方で、監視と反撃の準備は着々と整えてもいました。
ウィーラー家は大所帯で賑やかです。理由はバイヤーズ一家を家に置いて共同生活を始めたからでした。テッドとカレンのウィーラー夫妻は何も知りませんが、娘のナンシー・ウィーラー、息子のマイク・ウィーラー、そしてジョイス・バイヤーズと、その息子たちのジョナサン・バイヤーズ、ウィル・バイヤーズは、「裏側の世界」を体験しています。
その中で、最年少のホリー・ウィーラーは、自分にしか見えない親切な人間が見えており、その人を愛読の『五次元世界のぼうけん』に因んでミスター・ワッツイットと呼んでいました。親はよくある空想の友達だろうとみなしています。
ロビン・バックリーとスティーブ・ハリントンは地元のWSQKラジオ局で働いており、ロビンはそこで自身の番組「Morning Squawk」の放送を続けていました。実はこのラジオで仲間にしかわからない暗号を流し、連絡をとってもいました。
ホーキンス高校では、ダスティン・ヘンダーソンは以前に「裏側の世界」で犠牲になって自分を救ってくれたエディ・マンソンの死を悼み、彼の「ヘルファイア・クラブ」の服を着続けていました。世間ではエディは悪魔に憑りつかれて狂った殺人鬼扱いなため、ダスティンは孤立。「裏側の世界」を知る親友のルーカス・シンクレアはかばってくれますが、ダスティンは意地になるだけ。
そのルーカスも、前回の一件で、昏睡状態となってしまったマックス・メイフィールドを病院で見舞うしかできず、無力さを噛みしめていました。
ところかわって、行方不明扱いで身を隠したイレブン(エル)は、ジム・ホッパーとジョイスと共にお手製のトレーニング場で秘密裏に能力の訓練に励んでいました。
裏側の世界へはホッパーが何度も潜入を繰り返してきましたが、肝心のあの諸悪の根源には遭遇できていません。
それはヴェクナです。ヘンリー・クリールという元人間で、昔に特殊能力に目覚め、秘密の研究施設で分析され、その能力を他の子どもの被験者で再現する試みが行われました。イレブンはその被験者のひとりでした。ヘンリーはイレブンに圧倒され、異次元の裏の世界に飛ばされたはずでしたが、そこでヴェクナというさらに醜悪な存在へと変貌を遂げ、復活したのです。
前回の出現でヴェクナを倒したかと思いましたが、町がこうなっている以上、どこかで生きているはず。今度こそ決着をつけないといけません…。

ここから『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(シーズン5)のネタバレありの感想本文です。
シーズン1から4までのクィア・サブテキスト
はい、ではさっそく『ストレンジャー・シングス 未知の世界』のクィア表象についての感想がてらで整理していきます。
まず先に言っておきますが(もうこの前置きをしないといけない世の中なのが面倒なのですが)、「『ストレンジャー・シングス』にLGBTQの要素があるなんてポリコレの押し付けのせいだ!」なんて戯言は論外なので相手にしません。
でもその難癖への反論ではないですけど、本作のクィアネスの始まりについてハッキリさせておきましょう。
本作は群像劇で、たくさんの子どもたちが主役となりますが、そのひとりでシーズン1から物語の中心にいたのが「ウィル・バイヤーズ」という少年でした。そして本作のクィア表象においてもこの子が中心で注目を集めることになります。
本作の初期企画案であった「Montauk」の中で、すでにウィル・バイヤーズは登場しており、設定が考案されていました。そのキャラクターの設定説明には彼は「セクシュアル・アイデンティティ」の悩みを抱えていると明記されており、当初からウィルをゲイ(同性愛者)として描く意思があったことが推察されます。実際、本作の原案クリエイターである“ダファー兄弟”はそう語ってもいます。
本作自体が性的マイノリティを描くのはテーマ的に何もおかしくはありません。なにせ本作の主要人物の多くは何かしらの周縁化された立ち位置にあるキャラばかりですから。それに本作の時代は、レーガノミクス全盛期の1980年代の保守的なアメリカの田舎ですし…。
しかし、いざ本編の中では、ウィルのセクシュアリティの描写は極めてサブテキストに押し込められており、クィアリーディングにこなれた視聴者だけがその匂わせに気づいていました。
例えば、わりとわかりやすいのはウィルの異性との恋愛への無関心さで、身近な同年代の男子はかなり「女子との色恋沙汰」の話題に花を咲かせる中、ウィルだけその話題に乗っかりません。また、シーズン1の第1話の時点で、ウィルは父親に「queer」と中傷されていたことも明らかになります(この「queer」は今では性的マイノリティを表す包括的な用語です)。シーズン1の第3話では、失踪したウィルをいじめっ子がバカにするシーンで、「他のクィア(“変人”のニュアンス)」に殺されたのだと言われ、さらに「おとぎの国で幸せに楽しく(all happy and gay)しているだろう」となじられます(「gay」は「楽しい」という意味合いが本来はある)。
このように初期シーズンの頃から、あからさまにウィルはその性的指向ゆえに家庭でも学校でもいじめられていた子として読み解けるように描かれていました。
他にも、虹の絵、アラン・チューリング博士(ゲイとして知られる)への言及など、同性愛者であることを示唆する演出が散りばめられています。
同時に、ウィルがすぐ傍で仲良くしてくれている少年のマイク・ウィーラーに片想いをしていることを暗示する描写も後半にかけて増えていき、シーズン4では人知れず涙をみせるシーンもあります。
こうしたサブテキストどまりなウィルの表象について、LGBTQコミュニティの視聴者からは批判の声も少なくありませんでした。ずっと本心を押し殺して苦しんでいる描写が続くだけなのは、確かに観ていて気持ちのいいものではありません。
そんな中、意外なところからこのシリーズの正式なクィア・キャラクターが登場しました。それはウィルではなく、ロビン・バックリーというシーズン3から登場したキャラクターでした。
ロビンは当初ではスティーブ・ハリントンと恋愛関係になるキャラとして想定していたそうで、しかし、演じる“マヤ・ホーク”と監督の“ダファー兄弟”が話し合った結果、彼女をレズビアンとして描くことにしたとのこと(“マヤ・ホーク”もクィア当事者;Them)。このことからも推察できるように、“ダファー兄弟”は結構俳優と対話し合ってキャラクター作りをしていくタイプのクリエイターなんでしょうね。
ともあれロビンという同性愛者のキャラが途中参加で堂々と登場してしまったゆえに、ますますウィルの立場は儚いものに押しやられていた…というのがシーズン4までの『ストレンジャー・シングス 未知の世界』でした。
シーズン5:テーマの核心へ
そうです、上記は過去形。最終シーズンであるシーズン5では、劇的に流れが変わります。かなり急展開です。ウィルがサブテキストから飛び出してきました。まるで裏側の世界から表に出現したかのように…。
シーズン5の第1話からずっとウィルのセクシュアリティについてのキャラクター・アークが前面に配置されています。
その過程でメンターのような存在になるのがロビンで、このシーズン5では彼女はヴィッキー・ダンと密かに交際中であり、ウィルは偶然にロビンがヴィッキーとキスしているのを目撃し、先輩の同性愛者として経験をしだいに教えてもらい、自信を深めます。そして性的指向を公表することへの覚悟を決めていきます。
それと並行してこのシーズン5のウィルは、デモゴルゴンらヴェクナ集合意識体と接続し(ヴェクナは子どもをグルーミングするようなことをしている)、干渉して妨害&攻撃できるようにまでなります。これはクィアネスと怪物性が接続する、昔ながらのオーソドックスなクィア表象ですが、シーズン1とは反転した構造になっているのが印象的です。クィアな魔術師(ソーサラー)になるとは、大きくなりましたね…。
そしてついにカミングアウトが第7話で満を持して描かれます。このシリーズで最もエモーショナルなシーンのひとつでしょう。ウィルの中で表と裏の世界の境界が無くなる瞬間です。
これだけキャラクターのクィアネスを誰が見てもわかるように打ち出したことで、シーズン5は反LGBTQな一部の視聴者から不評を買い(PinkNews)、レビュー爆撃を受けたりもしました。それは論じる価値はありません。
ただ、LGBTQコミュニティの間でもシーズン5のウィルの描写に対する反応は、控えめに言うと三者三様、厳しめに言うと賛否両論がありました。
やはりあまりにも大袈裟なカミングアウト・シチュエーションが用意されていたことがその問題で…。当事者なら頷ける人も多いと思いますけど、「自分の知り合いをほぼ全員集めてカミングアウトする」なんてたいていの当事者は願わくば避けたい嫌な状況ワースト1の典型例です。サブテキストから脱したのはいいけど、なんで今度はこんな極端な表舞台に立たされるんだ?とこれはこれでウィルが可哀想になってきます。
こういうカミングアウト・シーンになった理由は察せます。
まずシーズン5の前のめり気味な「カミングアウトするぞ!」の段階的シーン詰め込みや、カミングアウトでの全員集合の理由は…それはこれが最終章で残り1話しかないからです。
また、80年代にしては時代錯誤的にも思えるのは、このカミングアウトのシーンが、ウィルを演じる“ノア・シュナップ”が2023年1月にゲイだと公表したという現実と重なるからでもあるでしょう。この場面は、各俳優陣も演技を超えて素の感情がこぼれ出ているのが感じられます。
“ダファー兄弟”も「カミングアウトのシーンは、私たちが長い間準備してきたものでした」と語っているとおり(Tudum)、製作陣と出演者にとってはこれはもう10年以上の付き合いの賜物であり、感無量だったのはじゅうぶん伝わってきます。
気持ちはわかる…わかるけど…。
これが10年前に描かれたシーンだったら、もう少し「勇気ある表象で時代を切り開いた」と素直に賞賛されていたかもですけど、今は同じNetflixにもっと繊細にカミングアウトを表現してみせた青春ドラマの『HEARTSTOPPER ハートストッパー』とかがあるわけですからね。
たぶん本作は「(演出的な意味で)ぎこちないカミングアウト」のシーンの良くないお手本として、今後もずっといじられ続けるんじゃないかな(LGBTQコミュニティは良くも悪くもネタにするのが好きな性分だから)。
もちろん『ストレンジャー・シングス 未知の世界』のシーズン5を観た子どもが、自分のアイデンティティを肯定されて励まされたりすることもあるでしょうし、あのカミングアウトのシーンに心底感動した人だっていっぱいいるでしょう。それは個人の確かな鑑賞体験です。
私は本作を観て思いました。本作は恵まれているな、と。嫌味な皮肉ではなく、率直な気持ちです。これまで多くのクィアなシリーズ作品群はあえなく打ち切られまくってきて、クィア・ストーリーを納得いく最後まで描く機会を貰えずに消えていきました。でも『ストレンジャー・シングス 未知の世界』は幸いにも人気があり、完結まで継続できました。ちゃんと最後まで描かれることは、今の時代のクィアな作品には本当に貴重で、大切なことなんですよね。
裏側の世界に飲まれて帰ってこなかった多くの仲間に想いはせながら、私は『ストレンジャー・シングス 未知の世界』のフィナーレの余韻に浸っていたのでした。現代の「ダンジョンズ&ドラゴンズ」はクィアになったしね…ウィルにもプレイさせてあげたいよ…(Autostraddle)。
ちなみに『ストレンジャー・シングス 未知の世界』のクィア・コードの分析はまだまだいっぱい可能で、それこそイレブンとかいろいろなキャラクターに範囲を広げられます。もっと専門的な批評は私なんかよりも、“エミリー・E・ローチ”の『AIDS, Homophobia, and the Monstrous Upside Down: The Queer Subtext of Stranger Things』などのエッセイに詳しいですし、おそらく完結によってさらにクィアに焦点をあてた批評がでてくるはずです。日本語でもクィア批評が増えるといいなと思います。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
△(平凡)
以上、『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(シーズン5)の感想でした。
作品ポスター・画像 (C)Netflix ストレンジャーシングス5
Stranger Things (2025) [Japanese Review] 『ストレンジャー・シングス 未知の世界』考察・評価レビュー
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