本物の戦場からは易々とは出られない…映画『ウォーフェア 戦地最前線』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2025年)
日本公開日:2026年1月16日
監督:レイ・メンドーサ、アレックス・ガーランド
うぉーふぇあ せんちさいぜんせん

『ウォーフェア 戦地最前線』物語 簡単紹介
『ウォーフェア 戦地最前線』感想(ネタバレなし)
当事者の作る戦場映画
2025年から“ドナルド・トランプ”政権が肝入りで始めた”イーロン・マスク”先導の「政府効率化省(DOGE)」でしたが、「政治の無駄を無くすぜ!」と息巻いていた肝心の“イーロン・マスク”が政府から排除され、DOGE自身も存在意義を見失い、役に立たないAIだけが暴走しているありさまです。
そのDOGEが真っ先に無駄とみなしてターゲットにしたのが「退役軍人省」の政策でした(ProPublica)。退役軍人省というのは、アメリカの退役した元軍人の人たちをさまざまなかたちでサポートする政府機関です。退役軍人の人は、往々にして身体障害を負っていたり、精神疾患に苦しんでいたり、はたまた就職先がなくて困窮していることが多いです。だからこそ従来は手厚く支援しようとこの退役軍人省が手を差し伸べていたのですが、今やDOGEがその手をバッサリと切り刻んでしまいました。
何を無駄とみなすかはAIが判断するらしいですが、退役軍人の苦悩をAIが理解できるわけもなく、退役軍人の尊厳はないがしろにされています。
今回紹介する映画はそんなAIよりは何千倍も退役軍人の敬意に満ち溢れた一作です。
それが本作『ウォーフェア 戦地最前線』。
本作は、架空の「分断されたアメリカ」で起きる内戦という衝撃的な題材を描いた2024年の『シビル・ウォー アメリカ最後の日』を監督した“アレックス・ガーランド”の最新作です。
今回は、アメリカが主体となって「イラクによる大量破壊兵器保持」を理由に軍事介入して始まった(なお、大量破壊兵器云々はテキトーな開戦のための言い訳でしたが…)2003年からの「イラク戦争」が題材となっており、実話に基づいています。
具体的には2006年にイラクのラマディ(ラマーディー)という都市で起きた戦闘を描いており、その中でもアメリカ軍のとある小隊が経験した1日未満の戦闘体験に絞った映画化となっており、非常にミニマムな戦争映画です。
リアルタイムに展開する戦争映画であり、映画時間は約95分ですが、ほぼそれくらいの時間経過の様子を描いています。まさに観客をその戦闘に没入させる疑似体験を提供します。
“アレックス・ガーランド”監督がこんなSF要素の無い実録モノを手がけるのは珍しいなと思ったら、もうひとりの共同監督である“レイ・メンドーサ”という人の実体験を基にしているそうで…。『シビル・ウォー アメリカ最後の日』にて“レイ・メンドーサ”は軍事アドバイザーを務めていて、その撮影後に、“アレックス・ガーランド”がアメリカ海軍の特殊部隊「Navy SEALs(ネイビーシールズ)」でもあった“レイ・メンドーサ”の過去の戦場経験を題材に映画を作ろうと決めたようです。
ということで、本作『ウォーフェア 戦地最前線』は極めて当事者性の色濃い映画となっています。当事者にしか作れないような生々しさです。
何よりも「ネイビーシールズ」という特殊部隊を描くにもかかわらず、カッコよさみたいなものはほぼ皆無。ここが特殊部隊を最強スペシャリストとして映す既存のエンタメ系の映画とは一線を画すところですね。
俳優陣は、まず監督の“レイ・メンドーサ”の役を演じるために、ドラマ『Reservation Dogs』でも話題となった若手の“ディファラオ・ウン=ア=タイ”が大抜擢。
その他の共演は、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』の“ウィル・ポーター”、『アルトナイツ』の“コズモ・ジャービス”、ドラマ『HEARTSTOPPER ハートストッパー』の“キット・コナー”、『ファンタスティック4 ファースト・ステップ』の“ジョセフ・クイン”、『恐怖の隣人』の“テイラー・ジョン・スミス”など。
『ウォーフェア 戦地最前線』は映画館という空間で観るのがこれ以上ないほどに最適な一作です。家で観る際は、ドアもカーテンも閉めて閉所空間を作るといいかもしれません。
『ウォーフェア 戦地最前線』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
| 基本 | — |
| キッズ | 残酷な描写が一部にあります。 |
『ウォーフェア 戦地最前線』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
2006年11月19日、イラク西部のラマディ。この市街地ではアルカイダが拠点を構えており、米軍連合軍とイラク治安部隊はそのアルカイダ勢力の排除のために3月から活動を展開していました。
アメリカ海軍の特殊部隊ネイビーシールズのアルファ1小隊は作戦を支援するためにスナイパー拠点を確保するべく、密かに動き出します。まだ静まり返っている市街地を、暗闇の中、ゆっくり進む部隊。遠くで犬の鳴き声が聞こえるほかは、人の気配もありません。
取り囲んだのはごく普通の2階建ての民家です。音もなくドアを開け、別れて中へ侵入。寝ている人を騒がせないようにしながら起こします。家に暮らしているのは平凡な家族です。隅っこで怯えるその家族がライトで照らされます。
無事に制圧は完了。ここが狙撃地点となります。あとは待機です。近隣の人には知られることなく、あとは敵の動きを監視しつつ、狙うのみ。
隊長のエリックが部隊を指揮しており、上級兵曹のサムが隣でサポートします。
同行するイラク治安部隊の通訳官ファリドとシダールは、建物の別々の階に住む2つの家族を寝室の一つに集め、大人しくさせます。
壁には穴をあけ、室内からスナイパーライフルで狙撃できるように準備はばっちりです。狙撃兵兼衛生兵のエリオット・ミラーは、同じく狙撃兵のフランクと共に遠くにある通りの先の市場を監視。記録は怠りません。今は人の出入りがみられ、街も活発になってきました。
通信士官のレイ・メンドーサは航空支援と調整。詳細を報告し、リアルタイムの状況に関する情報を更新します。また、周囲に不審な動きがないかも逐一確認。的を見逃すわけにはいきません。
当然、大声で会話はできないので、隊員同士の目立った会話もなく、沈黙の時間が続きます。
あるとき、怪しい男が監視内で確認され、緊張が走ります。もしかしたら敵が動き出しているのかもしれません。こちらの作戦が気づかれたのでしょうか。
念のために航空支援部隊がこのエリアから撤退し、様子見をします。
何か呼びかけがあったようで、周囲から一般市民が消えているようです。
ずっとスナイパーライフルを構えていたエリオットは疲れ、フランクと交代。その姿はレイの視界に入ります。スコープで機関銃を持った人物が建物に入っていくのを確認し、監視先の建物に続々と男たちが集結していることがわかりました。またエリオットに交代。監視を続行します。
そのとき、部屋の穴から手榴弾が投げ込まれ…。

ここから『ウォーフェア 戦地最前線』のネタバレありの感想本文です。
「穴」だけが現場の情報源
『ウォーフェア 戦地最前線』は、前述したとおり、「ネイビーシールズ」を描いているのにもかかわらず、既存の特殊部隊を主題にする映画にありがちなカッコよさはほぼ無いです。いや、確かにいかにも部隊らしい対応をとっているんですよ。見た目は誰が見ても特殊部隊の佇まいそのものです。
でも、この映画で展開される作戦、結局は失敗しているんですよね。別に今作の主題になっている任務は、イラク戦争における重要な戦局でもありません。知られざる勇ましい戦果をあげたわけでもないです。ほぼ限りなく失敗して撤退しているだけの…こう言っては失礼ですが、お粗末な内容です。
しかし、それこそこの映画が伝えている「リアル」です。最近も『ワーキングマン』を観たばかりなのであれですが、エンタメ映画では「特殊部隊の男、最強!」みたいなノリで描かれがちですけども、特殊部隊所属と言えども「普通の人間」であり、苦しみ、狼狽え、絶叫する…。それがあの戦場では当たり前のように繰り広げられていたのだ、と。
まずそもそも本作が描いている任務はどういうものだったのか。今回の映画ではあまり説明的に扱っていないので観客は一番情報不足の立場に置かれます。敵側や住民側の視点で全体像を浮き彫りにするような演出も避けており、徹底してネイビーシールズ側の限られた視点の情報入手の場しか用意されていません。
本作の舞台のラマディでは、当時、アルカイダが拠点として潜伏しており、市街地に紛れ込んでいました。アメリカを中心とする連合軍は、このラマディを派手に戦車や戦闘機で破壊するのではなく、あくまで歩兵中心の舞台を散発的に送り込み、市街地戦にて敵だけを掃討していく戦術をとっていました。無論、住民はなおも生活しているので、そんな中で、アルカイダも隠れ、連合軍も隠れ、こそこそと互いを探り、攻撃し合う…そんな一触即発の状況です。
作中では狙撃拠点を確保するべく1件の民家を制圧するところから始まります。制圧自体は簡単にでき(ただの無力な庶民相手ですから)、あとはひたすらスナイパーライフルで敵がでてくるのを待っているのですが、あの壁に雑に開いたひとつの「穴」だけが、外の情報が入ってくるルートです。一応、無線で他の情報のやりとりもしていますけど、生の情報はあの穴だけです。
これが異様な緊張感になっています。あまりにも情報が少なすぎます。観ていて「大丈夫? これ、どこまで正確に把握できているの?」と不安になってきます。クレイモア地雷とかじゃなくて、見守りカメラを外に設置したほうがいいんじゃないかと素人考えで思ってしまうくらいには、外の情報が乏しすぎますよ。
それでもあの部隊の誰も疑問や懸念を口にはせず、淡々と現場で各自の役割をしています。これが日常なんですよね。プロフェッショナルというよりは、危険な感覚の麻痺だとは思いますが…。
そしてその唯一の情報のルートだった「穴」から皮肉にも手榴弾が投げ込まれる…。そこからはもう袋のネズミです。どうやら敵のほうが一枚も二枚も上手だったようで、部隊はこの家に追いつめられます。
ここでもカーテンがフワっと漂う窓から乾いた音で銃撃が飛んできたり、情報が全くない演出が効いています。この映画、とにかく情報を圧倒的に遮断することで、効果的に空間をみせていますね。
そしてパニックのまま撤退する
『ウォーフェア 戦地最前線』の後半は、負傷者がでたことで、軍事用語でいうところの「CASEVAC」…つまり、戦闘地域からの負傷者の緊急搬送を実行しようとします。これがまた上手くいきません。
籠城状態の民家の前に戦車(M2ブラッドレー歩兵戦闘車)がやってきてくれるので、「これは絶対助かったな」と安心したくなるのですが、絶妙なタイミングでIEDが爆発し、何名かが瀕死の重体を負ってしまいます。あらためて敵側のほうが完璧にネイビーシールズを翻弄しています。綺麗に敵の戦術がキマっている…。
ここで一番に負傷しているのが本来は医療を担当する衛生兵のエリオット・ミラーだったというのもあって、チームは完全にプチ・パニック状態に陥っていきます。リーダーのはずのエリックさえも「もう限界だ…」と役割を投げ出してしまう始末。
結局、通信で立場を偽装し、戦車に手当たり次第に建物の上部を撃ってもらって、それで退避するという、さすがにプロフェッショナルとはお世辞にも言い難い撤退をみせて終わりです。
たぶん本作『ウォーフェア 戦地最前線』は、ネイビーシールズを組織する軍関係者側はあまり見せたくない、宣伝にもならない映画でしょうね。
あるゆる点で意図的な落差というものが際立つ後味です。
本作の冒頭は“Eric Prydz”の「Call on Me」という女性がセクシーにエアロビクスをしている姿を映すだけの動画を部隊で視聴して下品にバカ騒ぎしているの光景が映し出されます(当時は部隊内で流行っていたらしい)。その爆音からのパっと画面が変わっての任務モードでの様子。これだけだと切り替えのできるプロって感じなのですが、もう散々述べたとおり、その後に起きることは酷いありさまです。
ラストは部隊が消え去り、真の被害者であるあの民家の住人家族が、廃墟になった家の中で立ち尽くして身を寄せ合う姿。そして外の通りで隠れていた武装者たちがぞろぞろと出てくる姿。ほんと、まるで竜巻が通り過ぎたような後の祭り。「何をしたかったんだ、アイツら…」って感じです。
このモノ言わぬラストが匂わせる「リアル」もまた、この映画の「戦争」というものを捉える目線がよく浮き出ていたと思います。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
以上、『ウォーフェア 戦地最前線』の感想でした。
作品ポスター・画像 (C)2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved. ウォフェア
Warfare (2025) [Japanese Review] 『ウォーフェア 戦地最前線』考察・評価レビュー
#アメリカ2025年 #レイメンドーサ #アレックスガーランド #ディファラオウンアタイ #ウィルポールター #ジョセフクイン #コズモジャービス #キットコナー #イラク戦争

