中国が賭博黙示録カイジを実写映画化…映画『カイジ 動物世界』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:中国(2018年)
日本公開日:2019年1月18日
監督:ハン・イエン
カイジ 動物世界
かいじ どうぶつせかい
『カイジ 動物世界』あらすじ
定職にも就かず自堕落な生活を送っていた青年カイジは、友人に騙されて多額の借金を負ってしまう。窮地に陥った彼は、負債者に借金一括返済のチャンスを与えるというギャンブル船「デスティニー」に乗り込むことになる。そこでは常識を超えた世界が待ち受けていた。
『カイジ 動物世界』感想(ネタバレなし)
ざわ‥ざわ‥
アカウントをフォローし、その上でRT(リツイート)したユーザーの中から抽選で100名に、100万円をプレゼント…
そんな某有名創業者のひとつのツイートが一瞬にして日本のインターネット界隈でお祭り騒ぎを巻き起こした2019年の初め。
この現象は各所でいろいろな視点で議論を巻き起こしましたが、ひとつ間違いなく言えるのは「世の中、金だ」ということ。TwitterのRT数が世界記録を達成し、フォロワーが一気に500万人の増加を見せ、人間、1億円あればこんな魔法が使えることを証明してみせたかたちになりました。お金さえ手に入るなら、自分の個人情報も夢もいくらでも相手にさらけ出して、巨人の手の平で踊る狂う小さな人間たち。
別にこの「1億円お年玉プレゼント騒動」だけではありません。人間ってお金でいくらでも動かせるということを証明するような出来事はいっぱい起こっています。それが「ニンゲン」という生き物の本能なのか…。
フィクションの世界でもその欲望を描き出した作品は無数に存在します。
今回紹介する映画『カイジ 動物世界』もまた、まさにそんな人間の弱さと愚かさを描く一作です。
タイトルの「カイジ」と聞いてピンときた方もいると思いますが、本作は福本伸行による漫画「賭博黙示録カイジ」の実写映画化です。
この原作は知っている人はよくご存じの話題作ですし、日本ではテレビアニメ化しているほか、藤原竜也主演で『カイジ 人生逆転ゲーム』『カイジ2 人生奪回ゲーム』の2作で2009年と2011年にすでに実写映画化済み。ちなみに私は原作もこちらの日本実写映画作品も観たことがありません(名前ぐらいしか聞いたことがない)。
そして本作はなんと中国での実写映画化となります。中国でも人気だったのでしょうかね。
内容はざっくり説明すれば、多額の借金を抱えた男が一発逆転で人生を這い上がるために、ギャンブル的な駆け引きゲームに挑戦していくサバイバル・頭脳サスペンス。
なのですが、原作未読の私が言うのもなんですけど、この中国版はおそらく原作から大きな改変があって、原作というか原案と言っていいぐらいの大胆なアレンジをきかせています。原作を知っている人は驚いたという人もいますし、案外でも原作を再現していると感心する声もあるので、どちらの印象が残るかは人それぞれっぽいですね。
さすが中国と唸るほどのゴージャスな映画化となっていて、出演者の中にあの“マイケル・ダグラス”がいるのがびっくりです。最近だとアメコミ映画の『アントマン』シリーズで顔を見せている名俳優でしたが、こんな中国映画界にも進出していたとは…。というか、“マイケル・ダグラス”をチョイスしてくる中国映画界が凄い…。
ヒューマントラストシネマ渋谷&シネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2019」での上映作品ですが、Netflixでは一足早く配信済み。時間がない人や遠方住まいの人などは、Netflixで視聴するのも良いでしょう。
注意があるとすれば、上映時間が130分以上もあって、ほぼ全編にわたって知能戦が繰り広げられるので、観ている間とても集中力を消費します。テキトーに観ていると、今、主人公たちが何を狙って何をしているのか途端についていけなくなります。時間と体力があるときにじっくり観るのがオススメです。
『カイジ 動物世界』感想(ネタバレあり)
隠さないハリウッドへの対抗意識
あれっ、観る映画を間違えたかな?
そう思うのも無理はないほど、初っ端からアバンギャルドでポップな忍者風のピエロが登場。そうこうしているうちにアニメの世界だったものが、現実に侵食。主人公らしき男がピエロの格好になって、意味不明な醜悪モンスターを痛快になぎ倒していきます。グッチョグッチョに体液がほとばしるバイオレンスなのですが、いかんせん相手はバケモノなのでレーティング的には全然問題なし(たぶん中国的にもセーフなんでしょうね)。カッコいい音楽に合わせてひととおり殲滅していくと、それはただの脳内妄想だったことがわかります。
なぜこんな演出をぶっこんだのか。私の勝手な推測ですが、「中国もアメリカのアメコミ映画に負けないVFXアクション映像が作れるもん!」というアピールだったんじゃないかと。あのピエロももろに“ジョーカー”と“デッドプール”を掛け合わせたようなキャラクターでしたし。
だったら、このスーパー・ピエロで映画を一本作ればいいのですけど、そこまでのモチベーションもなかったのか。
もちろん作品としては、主人公のカイジの過酷な過去のトラウマが精神に残っていることを示す要素なんだという話は、作中で説明されていくのですが。でも、正直、そこまで本編になくてはならない要素として活かされてはこないのが、うん…。いや、映像は楽しいのですけどね。
ともかく日本では絶対にやらないタイプのアレンジです。私はこういう中国の、平然とハリウッドに対抗意識を燃やすセンスが嫌いじゃありません。日本もちょっと前まではハリウッドをすごく意識した邦画を作って散々な結果を残したりしましたが、中国の場合は予算と技術があるせいか、目も当てられない悲惨なことにはなっていないのが、素直に良いなと思います。
世界観を見事に再現
自分ではどうしようもできない多額の借金を負わされたカイジが半ば強制的に行き着いたのが、デスティニー号。そこは動物的本能だけが頼りになる“アニマルワールド”。主催者の仕掛けたゲームに挑み、特定の条件で勝ち進んだものだけがチャンスを手にし、負けた者にはなんだかよくわからないが凄惨な末路が待っているらしい、サバイバル。
そのゲームとは「じゃんけん」で、“グー”、“チョキ”、“パー”のカード各3枚ずつ計12枚を各参加者に渡され、星を3つ保有。負ければ星を相手に渡し、使ったカードは手元から消える。4時間のタイムリミットまでに、星を3つ以上持ち、カードを使いきったものが生き残れる。それ以外のルールについては、とくに言及なし。なんともシンプルで理不尽なものでした。
『カイジ 動物世界』はこの「じゃんけん」勝負があとは延々と続くのですが、本作の素晴しさはなんといってもこの勝負が行われる舞台の世界観再現。数十億円の予算が映画につぎ込まれたらしく、それだけの豪華なつくりになっていました。
とくに日本映画界にはない発想だなと思ったのが、参加者の顔ぶれ。ちゃんと多国籍でバラエティに富んだ顔ぶれになっているんですね。中国だけではない、欧米人も、日本人も、その他の各地からも集められてきたのであろう人たち。
もし日本だったら、参加者の大半は日本人にしてしまうし、当然全員を有名な俳優にするか、それが無理なら主役級のメインだけを有名俳優にし、あとは脇役としてそれほど名の知れているわけではない人に任せてしまうことが多いです。そうすると、スケールがどうしてもこじんまりとして身内感のあるゲームになってしまい、さらに俳優の顔である程度駆け引きの結果が読めてしまう問題もあります。実際に日本版の実写映画『カイジ 人生逆転ゲーム』はそんな感じになっているようですし。
しかし、本作はその二の舞を踏むことなく、しっかりしています。ゲームの中心に“マイケル・ダグラス”を設置すれば、それはもう堂々たる貫禄ですよ。もちろん最終的にカイジが勝つのかなという予想はつきますけど、周囲の誰も信用できない空気感はよく表されていたのではないでしょうか。外国人だから余計に信用しづらい感じというのはありますよね。
同時通訳機というドラえもん的なアイテムの登場は超ご都合的ですけど、まあ、そこはね。
それよりもゲーム会場の上部にデンと配置されているトラは必要だったのかと。そっちが私は気になってしまいましたよ。あのトラ、ちゃんとVFXで合成して用意されているらしく、お金かかってます。私はもとの原作を知らないから、「えっ、最後はカイジがこのトラの檻に入れられて戦うのか…!?」とか、謎のアクション・サバイバル展開をよぎったりしました。ピエロの前フリもあったし。
トラは最後まで元気そうで良かったです(そこ?)。
日本映画界も負けていられない
肝心の本作のメインであるゲーム部分ですが、作中でのゲーム時間となる4時間を映画内でたっぷり描くので、ここでハマるか飽きるかは観客の評価の分かれどころ。ちゃんと1ゲームごとにカイジたちがどう駆け引きを狙っているのか、非常にわかりやすい説明図で解説されますし、そこまで難しくないのですけど、とにかく長いですからね。
それでも私は飽きさせないために作り手が最大限工夫しているなと思ったので良かったかな。まず最初にゲーム上の最大の強敵であるジンクンと勝負し、その策士っぷりを見せつけられて負けるという展開から、3人組で策略を練って勝ち進めていく流れがステップアップとして理解しやすいです。そこからこれで安心と思わせて、またあのジンクンが立ちはだかる。このアツい因縁。ジンクンとの最終決着では単に勝つというだけでなく、自分の頬を自分でぶたせるという威厳もへし折る徹底さが情け容赦なくてグッド。オチでは真のクズが登場し、「人間って嫌ね~」みたいな空気を醸しだし、主人公のわずかの良心が一際目立つ。絞まりの良いゲームエンドでした。
苦言を言うなら、主人公のカイジがかっこよすぎというか、“善”の部分があまりにスタイリッシュに表れているので、ちょっとズルいことくらいですかね。あの恋人とのやりとりといい、キザでモテるってその時点で人生、勝っているじゃないですか。そう歯ぎしりして悔しがる観客はいっぱいいますよ。まあ、演じているのがアイドル的な熱狂的支持を集める“リー・イーフォン”ですから。そう、世の中には1億円あっても手に入らない、生まれながらのイケメンというスキルがあるんです…(残酷な現実)。
ともあれ、この手の世界観の作品は、チープになったり、ダイジェスト風になったりと、ハードルが高いのに、よくぞここまで映像化したものです。
こうなってくると、今後も日本のコンテンツを中国が映画化という選択肢も全然アリですね。むしろ私としては、ガラパゴス化が著しい日本の映画界は、中国や韓国と共同で映画を作ることで国際的なステージに立つ意識を根付かせるべきなんじゃないかと。そう偉そうに思ったりもします。
いっそリツイートで100名に100万円をばらまいたあの人のエピソードをサスペンス風味で映画化すると面白いんじゃないですか。もちろん被害を受けて人生崖っぷちになる主人公はあの女優でお願いします。絶対にヒットしそうな予感がしてきた。このアイディアに共感する人は、この記事をリツイートすると1円もプレゼントできませんが、ささやかな抵抗にはなるかもしれません。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 64% Audience 82%
IMDb
6.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
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以上、『カイジ 動物世界』の感想でした。
Animal World (2018) [Japanese Review] 『カイジ 動物世界』考察・評価レビュー