世界観も広がってフォーエバー…「Disney+」アニメシリーズ『アイズ・オブ・ワカンダ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2025年)
シーズン1:2025年にDisney+で配信
原案:トッド・ハリス
あいずおぶわかんだ
『アイズ・オブ・ワカンダ』物語 簡単紹介
『アイズ・オブ・ワカンダ』感想(ネタバレなし)
試される大地、ワカンダ。
2025年は『サンダーボルツ*』や『ファンタスティック4 ファースト・ステップ』で心機一転な雰囲気を打ち出して、リブートせずともリスタートな感じを精一杯アピールしている「マーベル・スタジオ」。


一方で、実写よりもマニアックで注目度が低いアニメのほうまで追っている人はあまりいないかもしれませんが、アニメ・シリーズも手広くやっています。
アニメは「マーベル・スタジオ・アニメーション」(「MARVEL ANIMATION」とロゴでは表示)が中心になって制作しています。
マルチバースを遊びつくしていた『ホワット・イフ…?』、ノスタルジー全開な『X-MEN ’97』、フレッシュなビギナー作の『スパイダーマン:フレンドリー・ネイバーフッド』…。


そして今回新たに加わるのが本作『アイズ・オブ・ワカンダ』です。
本作はそのタイトルのとおり、映画『ブラックパンサー』シリーズで舞台となったアフリカの大国「ワカンダ」を主題にしているスピンオフです。
「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」に内包される一作に一応はなっているそうで、確かに1作目の『ブラックパンサー』ととくに接続するのですが、基本は単体で楽しめます。ワカンダの世界観を拡張する一作といった感じです。
具体的には、ワカンダが人類史のいくつかの地点で活躍していたことを明らかにする…一種の歴史SFとなっています。
全4話なのですが、1話ずつ年代が大きく異なるのが特徴です。世界史が得意なら「ああ、この時代ね」と理解がより深まって面白くなるはず。
企画をプロデュースしているのは『ブラックパンサー』の立役者である“ライアン・クーグラー”で、しっかり『ブラックパンサー』の世界観をビジュアル・アートでも音楽でも継承しているので、「あの世界が好き」という人は観て損はないでしょう。
『アイズ・オブ・ワカンダ』は「Disney+(ディズニープラス)」で独占配信中です。「Disney+」で観れるアフリカ舞台のSFアニメシリーズは『イワジュ』もあるので(マーベルとは全然関係ない)、この調子で充実してほしいです。
『アイズ・オブ・ワカンダ』を観る前のQ&A
A:1作目の『ブラックパンサー』を観ておくことを強くオススメします。
鑑賞の案内チェック
基本 | — |
キッズ | 子どもでも観れます。 |
『アイズ・オブ・ワカンダ』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
紀元前1260年のクレタ島。得体の知れない無数の船が岸に接近し、島は騒然とします。ライオンの船首をつけており、容赦なく攻撃して攻め込んできたことで、それは明らかに敵対者だと判明。
クレタの屈強な者たちは迎え撃とうとする中、その船団を率いるライオンの仮面のリーダーが余裕の態度で現れます。その人物は斧すらも片手で止める圧倒的なパワーであり、手からは紫の光を放っていました。
ライオンの海賊は、一部の島の人々を誘拐していきます。そして攫われた人々に対して、海賊側の配下になることを強要し、従わない場合は拷問して恐怖の餌食にするのでした。
ところが、誘拐された集団の中のひとりの女性が「私は誰にも仕えない」と毅然とした態度で反発します。実はこの女性は平凡なクレタ庶民ではありません…。
6週間前、アフリカ大陸のある場所に他国には誰にも知られずに存在している大国「ワカンダ」にて、過去に精鋭部隊のドーラ・ミラージュを追放されたマーチャント族のノニは、「ライオン」と呼ばれる人物の追跡の命を受けます。親衛隊長アキヤによると、かつての王室護衛隊長であるンカティがその正体と思われており、兵器製造に悪用できるテクノロジーを持ち出したとのこと。ヴィブラニウムという希少鉱石の力で独自の技術発展を遂げたワカンダにとっては、その技術が他国に流出する事態は見逃せません。
あえて捕まることでライオンの船に潜入したノニは、捕えられた人々が残酷に奴隷化されていく様子を目の当たりにし、一刻も早くこの状況を打破すべく、ライオンを探します。
船上での乱戦を繰り広げながら、傷を負いつつ、ライオンのもとに辿り着いたノニ。ライオンは不気味に佇み、ワカンダからの使者であるノニの出現に動じません。
さらにライオンもまたワカンダの国力を守るために外の世界に送り込まれたことがあると打ち明け、その工作員は「ハトゥットゥ・ザラゼ」と呼ばれたと説明ます。どうやらそうして国に従属することが嫌になったようで、ライオンは自分なりの自由が欲しかったようです。
ノニにも自由になることの誘惑を持ちかけますが、ノニは屈しません。追い詰められたライオンは大人しく捕まる気はないようで、「決してワカンダには帰らない」と宣言して自爆。事態は解決しますが、ノニは複雑です。
ワカンダに戻ったノニは、これが「ハトゥットゥ・ザラゼ」の入隊試験だったと知り、自らその役目を引き受けます。
自由の意味を考えながら…。
異文化の衝突を恐れるな

ここから『アイズ・オブ・ワカンダ』のネタバレありの感想本文です。
『アイズ・オブ・ワカンダ』は、「ハトゥットゥ・ザラゼ」(後に「ウォー・ドッグ」として映画『ブラックパンサー』シリーズにも登場)と呼ばれるスパイ組織が主役となっています。彼らスパイ・エージェントの今作での任務は、ワカンダに伝わる古代の遺物(アーティファクト)の回収で、ヴィブラニウムによって特殊な力をいずれも秘めているようです。
ジャンルとしては歴史SFにスパイものを掛け合わせた感じですね。
そしてこの『ブラックパンサー』のフランチャイズらしさなのですが、異なる文化的アイデンティティの衝突が全面に描かれます。ただ、それを単なる「有害なもの」として一面的に恐怖対象にしていないのがこのシリーズのメッセージの素晴らしさだなといつも思います。
私たちの現代社会でも異なる文化同士がぶつかり合うことは日常でよくあるじゃないですか。それこそ移民や国外観光客など外国人との間で生じやすいものです。そこでその衝突にすぐさま排外主義で対抗しようとする人もいますけど、そんなことをしていても未来はありません。
異なる文化的アイデンティティが触れあった瞬間、いざこざを乗り越えたその先にこそ、より多様で豊かになった世界が待っている。それは人類史で繰り返されてきたことでした。
『ブラックパンサー』シリーズは常にその姿勢が一貫していましたが、『アイズ・オブ・ワカンダ』はさらに歴史スケールが拡大し、歴史上の説得力を増していました。
第1話で舞台になるのは紀元前1260年のクレタ島です。この少し前までクレタ島は地中海交易によって発展し、「ミノア文明」という独自の繁栄を遂げていました。まさに異なる文化が混ざり合うことによる進歩です。
しかし、後期には「ミケーネ文明」という文化が優勢になり、クレタ島は変容したと言われています。このミケーネ文明も衰退してしまうのですが、その理由は諸説あってよくわかっていません。
本作ではワカンダの未知の技術の侵入がその原因の一端であったかのように示唆されるという、SF的な解答をしています。
同時に文化的交流ではなく植民地主義になってしまうとそれは別物で、恐ろしい結果を招くという話でもあります。
第2話では、トロイア戦争を映し出しており、これはギリシア神話に記述された物語ですが、少なくともMCUの世界では史実となっているようです。
このエピソードではあの英雄アキレウスが登場するわけですが、その相棒として横にいるのが実はワカンダからのスパイである男。しかもここでは「メムノン」と名乗っており、MCUならではの歴史遊びな設定です。
アキレウスとメムノンは熱い友情を交わし、最終的に対立するも互いへの敬意を忘れず、非常にブロマンスを漂わせるのですけども、『ブラックパンサー』のティ・チャラとキルモンガーを彷彿とさせる男同士の絆ですね。“ライアン・クーグラー”、ほんと、こういうの好きなんだな…。
第3話では、1400年の中国(「明」の時代)が舞台で、まさかのアイアン・フィストとの対決となります。今回は女性ですが、たぶんMCUの世界では代々その力は継承されていっているんでしょうね。アフリカ文化とアジア文化の接点がこうやって大胆に描かれるのも本作ならではの醍醐味です。
キルモンガーは正しい
『アイズ・オブ・ワカンダ』のもうひとつの側面として楽しいのは、アフロフューチャリズムが溢れるアートワーク。映画『ブラックパンサー』シリーズで唯一無二の個性を確立させたその世界観は今作でも発揮されています。
あらためて思いますけど、ワカンダってテクノロジー大国ですけど、文化的アイデンティティをすごく大切にしているのがいいですよね。
一般的にテック史上主義者の目指す世界の在り方って、既存の文化を古臭い非効率なものとして一蹴し、ありとあらゆる点で均質化した無個性なデザインに落ち着かせようとするじゃないですか(もしくは有名なSF映画からの雑なパクリとか)。
ワカンダはテクノロジーを重視しているけども、それと同じかそれ以上に伝統文化も大切にしていて、両立してみせています。そこには「テック vs 伝統」という二項対立はなく、それらを混ぜ合わせることで新しい発展を遂げられるという信念が感じられます。
紀元前1260年の時点でもう相当な技術力だったらしいワカンダですが、紀元前1200年にはポケベル感覚な通信機もあり、1400年にいたっては小型航空機で空を自在に飛んでいます。
そして1896年のエチオピア。第一次エチオピア戦争でのアドワの戦いのときなので、まさしくヨーロッパの植民地主義に対抗する最後の防衛線。しかし、ワカンダのエージェントはあくまで遺物回収を優先し、自国優先で迫害の歴史を黙認し、介入はしません。
そんなときに出現するのは未来からタイムスリップでやってきた最後のブラックパンサー(女王)。どうやらその時間軸ではワカンダは鎖国的な孤立主義を貫いたがゆえにエイリアンの侵略で自滅したようで、「開国する」ことの重要性を訴えてきます。
ついにあの第1話のライオンの言っていたことに繋がるわけです。自国ファーストで引き籠もっていてもそんなものは自由ではないし、身を滅ぼすだけだ、と。異文化交流を恐れるな、と。それと向き合う覚悟を決めた者たち、その先に未来はある…。
そしてあのキルモンガーに直結する。これ、かなりキルモンガーのファンにはアツい展開ですね。キルモンガー、やっぱりあんたは間違ってなかったんだ…。いや、やりかたは少々乱暴だったけど、その精神は自由に根差しており、ワカンダの将来にちゃんと結実している…。
『アイズ・オブ・ワカンダ』を観たあとだと、あの『ブラックパンサー』のキルモンガーの存在がまた違ってみえるというか、より正当性をともなって輝きます。いつの間にか保守的になっていたワカンダに欠けていたキルモンガーの自由への渇望。それは歴史に裏打ちされていたんですね。
今作はまごうことなきホープパンクのSFでした。
ワカンダという国を自己批判的に謙虚に批評しながら、多文化共生の将来性を信じさせてくれる。このフランチャイズはやっぱり良いなと再実感させてくれました。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
関連作品紹介
作品ポスター・画像 (C)Marvel Studios アイズオブワカンダ
以上、『アイズ・オブ・ワカンダ』の感想でした。
Eyes of Wakanda (2025) [Japanese Review] 『アイズ・オブ・ワカンダ』考察・評価レビュー
#アメコミ #マーベル #MCU #アフリカ #歴史