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ドラマ『Bodies/ボディーズ』感想(ネタバレ)…4人の刑事の時間倒錯ミステリー

Bodies/ボディーズ

4人の刑事の時間倒錯ミステリー…ドラマシリーズ『Bodies ボディーズ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Bodies
製作国:イギリス(2023年)
シーズン1:2023年にNetflixで配信
原案:ポール・トマリン
自死・自傷描写 LGBTQ差別描写 人種差別描写 性描写 恋愛描写

Bodies/ボディーズ

ぼでぃーず
Bodies/ボディーズ

『Bodies/ボディーズ』あらすじ

とある通りで遺体が見つかる。そして捜査が行われる。しかし、これは普通ではない。4人の刑事、4つの時代、そして1体の遺体。イギリスの未来を救うため、それぞれの時代の刑事たちは歴史の流れを変えてしまった殺人事件の謎に挑む。この壮大な時間の連なりの裏にある陰謀とは…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『Bodies/ボディーズ』の感想です。

『Bodies/ボディーズ』感想(ネタバレなし)

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死体、死体、死体!?

「body」という単語に「死体」という意味があるのを私が知ったのはいつ頃だっただろうか…。

学校の英語の授業では「body」なんて習っても、「身体」の意味しか学べないですけど、すっかり映画やドラマを観まくっている今の私は、「死体」のほうの「body」に出くわすことのほうがすっごく普通になってしまった気がする…。

日本語で「ボディ」って書くと、やたらと肉感的というか生命感のある印象を与えますが(もしくはちょっとカッコつけた感じ)、英語の「body」の単語イメージはもっとニュートラルで無機質な感じなのかな…。

そんな英語では「body」を使った慣用句として「over my dead body」というのがあります。これは直訳すると「私の死体を越える」になりますが、要するに「そんなことは絶対させない」「私が死んでもやらせない」というニュアンスの意味です。よく政治家とか経営者とかが強めの主張をするときにこんなフレーズを使っています。でも、なんだろう…小物感が漂う言い回しでもあるような…。

しかし、今回紹介するドラマシリーズは文字どおり、比喩でも何でもなく、本当に死体がでてきて、しかもそれが「死んでもやらせないぞ!」という決死の覚悟を示唆する…「over my dead body」の表現ぴったりな作品になっています。

それが本作『Bodies/ボディーズ』です。

本作はミステリー4つの時代のイギリス・ロンドンを舞台にした群像劇。当然、謎解き要素があるのでネタバレ厳禁ですが、SFも絡んでくるとだけは言っておきましょう。

4つの時代でそれぞれ4人の刑事がおり、ある通りに関係する事件を追います。怪しい事件だと思っていたら、それがとんでもない巨大な陰謀へと繋がり…。最初は全然全貌がわからないので混乱しますが、1話1話進むごとに「そういうことか!」という解明が待っていて、最後はガチっとハマる。加えて本作は犯人を特定するだけじゃない、もっと重大な試練があったりも…。複雑なSFミステリーが好きな人は大満足できるはず。

ドラマ『Bodies/ボディーズ』はもともとは「DC」のヴァーティゴのグラフィック・ノベルで、2014年~2015年にリリースされました。原作者の“シー・スペンサー”は2021年に亡くなってしまったのですが、この野心的な推理小説コミックはきっちり「Netflix」で独自のドラマシリーズとして映像化。謎だらけの展開で視聴者の心をまんまと掴みました。

ドラマの原案は、ドラマ『フランケンシュタイン・クロニクル』“ポール・トマリン”が手がけ、エピソード監督には『コリーニ事件』“マルコ・クロイツパイントナー”と、短編『The Pregnant Ground』“ハオル・ワン”が抜擢されています。

登場する4人の刑事も個性があって魅力的です。ひとり目はドラマ『レスポンダー 夜に堕ちた警官』にもでていたナイジェリア系&インド系の“アマカ・オカフォー”。2人目はドラマ『メディチ』のユダヤ系の“ジェイコブ・フォーチュン・ロイド”。3人目はドラマ『キャシアン・アンドー』で何とも言えない凡人っぽさが印象的だった“カイル・ソーラー”。そして4人目はドラマ『アンオーソドックス』で素晴らしい演技を披露した“シーラ・ハース”

さらにポスターにデン!と顔がでかでかと映っていますが、『ボイリング・ポイント/沸騰』“スティーヴン・グレアム”がとても重要なキャラクターで物語を動かしていきます。本作『Bodies/ボディーズ』は“スティーヴン・グレアム”の独壇場と一部化しますよ。

あと死体の役で『アレックス・ライダー』“トム・マザーズデール”という俳優がでてるのですが、ある意味では非常に美味しい役柄です。

単純な謎解きだけでなく、人種、クィア、ディサビリティと、レプリゼンテーションもなかなかにさらりと進歩的なことをやってのけているのも好印象だったり。

『Bodies/ボディーズ』は全8話(1話あたり約60分)。その設定からしてどうしてもごちゃごちゃしますが、ゆっくり整理しながら1話ずつ鑑賞していきましょう。実はそんなに難解ってほどでもないですし、登場人物の行動を物語がしっかり追ってくれるので、話の筋は見えやすいと思います。

とりあえず第1話を観てみてください。その1話目の衝撃で、2話目を視聴したい気持ちが抑えられなくなったら、もうこの時間に釘付け間違いなしです。

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『Bodies/ボディーズ』を観る前のQ&A

✔『Bodies/ボディーズ』の見どころ
★話の続きが気になるミステリー。
★さりげない進歩的な表象。
✔『Bodies/ボディーズ』の欠点
☆かなり時間が交錯して複雑なので集中必須。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:ジャンル好きなら
友人 4.0:展開を予想して
恋人 3.5:一緒に謎解き
キッズ 3.0:やや複雑すぎか
↓ここからネタバレが含まれます↓

『Bodies/ボディーズ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):その通りが全ての接続点

2023年、ロンドンのいつもの街並みで早朝ランニングを終えたシャハラ・ハサンは、高齢の父と子のジャワドと暮らす家へ戻ってきます。しかし、すぐに出勤です。ハサンはロンドン警視庁で巡査部長です。

今日は極右の群衆がシュプレヒコールで行進し、それに反対する市民の抗議で一触即発の中、警備にあたらないといけません。

そのとき隅に怪しい若い帽子男を発見。同時に電灯が急に破裂します。ふと目を戻すとその帽子男は銃(グロッグ17)を持っており、急いで追跡します。建物の屋上まで追ってロングハーベスト通りの路地裏まで来るも銃を向けられます。怯えている雰囲気です。結局、帽子男が去ると裸の男の死体がひとり倒れていました。片手首に謎のタトゥー、片目が負傷しています。

1941年、空襲のニュースとユダヤ人差別の張り紙が目につく街並みを通り、ロンドン警察のチャールズ(チャーリー)・ホワイトマンは職場に到着します。上司からギャングに情報が漏れていると苦言を刺され、ファレル警部補はワイスマンと呼んでユダヤ系だからという理由であからさまに疑いの目を向けてきます。

そんな中、1本の電話がかかってきます。声は女性で「ロングハーベスト通りで午後10時15分に死体を拾ってロイヤルアルバートドックに置け」「あなたは愛されている」と一方的に指示してきます。受話器を置くと電気がチカチカして電球がショート。

土砂降りの夜、指示どおりに例の路地裏へ行くと、ひとりの裸の遺体が確かにそこにありました。

1890年、ロンドン警察のアルフレッド・ヒリングヘッド警部は通りでガス灯がいきなり破裂するのを目撃。そこにロングハーベスト通りで遺体が見つかったとの一報が…。腐敗はないです。どうやらヘンリー・アッシュというスター紙の記者が第一発見者のようです。

2023年、ハサンが目撃した怪しい帽子男は17歳のサイヤド・タヒルと特定されました。遺体の身元は不明です。司法解剖すると、眼窩は空洞で、貫通した痕跡はないですが頭部内に弾丸はありませんでした。

1941年、チャーリーは車で密かにあの遺体を運んでいた最中にファレルにチェックされました。しかし、空爆が直撃し、車と中の死体を置いてその場を去るしかできなくなり…。

2023年、サイヤドから電話があり、ハサンはショッピングモールを指定されます。そこで対面すると、彼は「奴らが言うことは必ず起こる」と語り、サイヤドは「愛されている」と口にし、自分を撃ち抜くのでした。

そして…2053年。アイリス・メープルウッド刑事は異変を感知し、今は封鎖されているだけのロングハーベスト通りに足を運びます。そこでひとりの遺体を発見…と思っていましたが、その人物はまだ生きていました

4つの時代、同じロングハーベスト通りで起きる不可解な出来事。これらの繋がりを知る者がどこかに潜んでいる…。

この『Bodies/ボディーズ』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2023/11/16に更新されています。
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「Know You Are Loved」

ここから『Bodies/ボディーズ』のネタバレありの感想本文です。

『Bodies/ボディーズ』は1話目からぐいぐい観客を引き込むクリフハンガーを見せつけてきます。第1話目のラストで「2053年」とでて、それからの…という驚きの展開の畳みかけがいいですね。

この2053年でいろいろな背景がわかってきます。2023年にロンドンで核爆発があり、50万人以上が亡くなって都市は一度壊滅したこと。その都市を復興させる中、勢力を拡大し、今や政府以上に実権を握ったのが「エグゼクティブ」という組織で、エライアス・マニックスという男がトップを務めていること。さらにその「エグゼクティブ」に抵抗するレジスタンス組織「チャペル・ペララス」がいて、その影のリーダーがシャハラ・ハサンであること。

はい、それでここからはオチを全開でネタバレします。

本作は約160年以上にわたるタイムトラベルのループが根底にある物語でした。

まず若きエライアスは2023年にテロを起こしてロンドンを壊滅させた張本人です。そのエライアスは2053年にタイムトラベル装置で1889年に時間移動し、ジュリアン・ハーカーと名乗って実力者となり、ヒリングヘッドの娘のポリーと結婚します。同時に1890年にタイムトラベルを伝えてカルトを作り、組織基盤を構築。こうしてこの組織は代々受け継がれ、外面は変えつつ、ロンドンの街に根付きます(ハーカー銀行やハーカー法律事務所など)。そして銀行家ジュリアン・ハーカーの息子がダニー(バーバー)であり、彼はサラと結婚し、若きエライアスが育てられますが、もはや家庭は崩壊して孤立。そして母サラの拒絶で追い込まれたエライアスはあらかじめ用意されていた爆弾を起爆し…。あとはループです。

つまり、エライアスはループの中だけに存在し、ある意味では近親相姦の究極系みたいになってます。とても虚しいのは、若きエライアスの孤独は未来のエライアス自身が作っていることです。壮大な時を越えた自傷行為みたいなものです。

組織の合言葉のように「あなたは愛されている(Know You Are Loved)」が繰り返されますが、あれはエライアス自身の愛の渇望が如実に表されており、切なさがあります。

変える勇気もなく延々と自分を虐待的に苦しめ続けるループにハマってしまった中、他の誰でもない死の直前の老いたエライアスが若い自分に向けてメッセージを残し、「もう自分で自分を傷つけなくてもいい」と肯定してあげる。

あの最終話の2023年のドラマチックな展開は心を震わせます。

ここまでヴィラン(になってしまった人)の心をケアすることに誠心誠意で向き合う物語が待っているとは…。

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4人の刑事の表象

『Bodies/ボディーズ』の意味深な死体は、この壮大な展開の言わばちょっとしたミスディレクション(視線誘導)だったわけですが、わざわざ2053年から生死も曖昧にタイムスリップして、3つの時代で死体になり、2053年だけ生きている体で戻ってきたガブリエル・デフォー。そのおかげで時代ごとの刑事たちはタイムトラベルの存在に気づけたので、まさしく「己が死んでも企みを防いでやる」という覚悟の犠牲でしたね。

作品全体でガブリエル・デフォーの言及していた自由意思の大切さが一貫して描かれていました(デフォーは自由意志に否定ぎみでしたが、後の彼の行動は自由意志なのか…)。

各時代で差別が描かれるのもそれと繋がります。1890年には同性愛差別、1941年にはユダヤ差別、2023年には極右活動…。いずれも自由意思を剥奪し、憎しみに変えるエネルギーです。本作はそうした悪意に毅然と対抗し、より良い時代を築くためにどんなに絶望を感じても何度だってトライしようという確固たる姿勢があったと思います。

表象もそのテーマと連動していました。

1890年における、ヒリングヘッドとヘンリーのゲイ・ロマンスは、このエライアスのループ時間軸では悲しい死の結末しか待っておらず、典型的なゲイの悲劇というオチなのですが、ループからの脱却で2人にもっと幸せな未来が待っているかのような示唆をして最後は終わります(もちろんこの時代には依然として同性愛差別は残存しているのですが)。

1941年における、ユダヤ系のチャーリーとベルリン避難孤児のエスターとの交流も良かったですね。ユダヤ人を差別していたのはナチスだけでない、ロンドンでの陰湿な迫害も活写し、それでも生き抜いていこうと懸命にもがく2人の背中は印象的でした。

2023年における、ヒジャブをかぶったイスラム教徒でもあるハサンの活躍も忘れてはいけません。ムスリムゆえに何かと偏見に晒されるこの時代、ハサンはサイヤドという同じような偏見の中にいるであろう若者を救おうと必死に取り組みます。西欧社会でこれほど勇敢に戦うムスリム女性を映像で見られるのは嬉しいです。

さらに2053年。ここは少し気づきにくいのですが、アイリスは身体障がい者で、異母兄アルビーが車椅子ユーザーであることから、おそらく遺伝的に生まれながらに下半身不随か何かなのだろうと推察できます。でもこの時代の技術(背中の脊椎につけている機器)でアイリスは歩けるようになっています。

兄は「歩けるようになることが自由ではない」と言ってアイリスと意見が食い違っています。これは非常に健常者主義(エイブリズム)を批判するものであり、「障がい者の自由」は身体の障がいそのものを無くしたり、乗り越えたりすることではなく、規範的な社会を変えることにあると、あの兄は訴えているわけです(だから規範的な社会に迎合して、歩ける“おこぼれ”をもらっているアイリスを軽蔑している)。

アイリスも最後はタイムスリップして、歩けない体ながらも自分の果たせる役割を見つけるというのは、このキャラクターとしてのゴールとしては筋の通った着地でした。

でもラストでループから脱した2023年にて、アイリスの乗ったタクシーの運転手がどうやらアイリスで、なぜかハサンを知っているというささやかな謎を残していましたね。本作はリミテッドシリーズなので、たぶん続きはないと思うのですが、これは小粋なあえての謎のオマケかな。

そんな感じでドラマ『Bodies/ボディーズ』は、タイムトラベルSFミステリーという定番でありつつも、しっかり中身がアップデートされて、キャラ心情に深く寄り添っていく、とても出来栄えのいい良作でした。私の中では頭一つ飛びぬけた2023年の傑作SFドラマです。

『Bodies/ボディーズ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 81% Audience 80%
IMDb
7.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0
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関連作品紹介

タイムトラベルを主題にした作品の感想記事です。

・『ハロウィン・キラー!』

・『ペーパーガールズ』

・『ロキ』

作品ポスター・画像 (C)Netflix

以上、『Bodies/ボディーズ』の感想でした。

Bodies (2023) [Japanese Review] 『Bodies/ボディーズ』考察・評価レビュー