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『モンタナの目撃者』感想(ネタバレ)…アンジェリーナ・ジョリーには雷も炎も効きません

モンタナの目撃者

アンジェリーナ・ジョリーくらいになると雷も炎も無効化します…映画『モンタナの目撃者』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Those Who Wish Me Dead
製作国:アメリカ(2021年)
日本公開日:2021年9月3日
監督:テイラー・シェリダン

モンタナの目撃者

もんたなのもくげきしゃ
モンタナの目撃者

『モンタナの目撃者』あらすじ

過去に悲惨な出来事を体験したことで心に大きなトラウマを抱える森林消防隊員のハンナは、恐怖が足枷となってどうも調子がでなかった。しかし、ある日の勤務中、目の前で父親を暗殺者に殺された少年のコナーと出会う。怯えるコナーは秘密を握る唯一の生存者であるため、暗殺者に追われる身となっていた。コナーを守り抜くことを決意するハンナだったが、2人の行く手に大規模な山林火災が立ちはだかる。

『モンタナの目撃者』感想(ネタバレなし)

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テイラー・シェリダンの今度の新作は…火!

新型コロナウイルスの災禍はいまだに恐ろしい猛威を振るっていますが、だからといって他の災害は自粛してくれるわけではありません。2021年もすでに日本は多くの自然災害に見舞われました。長期間の猛暑、記録的な豪雨、土砂崩れ…。

日本だけではないです。アメリカもまさに大変なことになっています。日本ではあまり報道されていないのですが、8月の初めから山火事が発生。それも今や全米12州で94の大規模山火事が同時的に勃発し、焼失面積は合計で約97万ヘクタール以上(参考までに北海道の総土地面積は834万ヘクタールです)。しかも、発生から2週間が経過してもまだ燃え続けており、鎮火する見通しが立っていないのです。とくにカリフォルニア州北部で発生した「カルドア・ファイア」は鎮火率0%、「ディキシー・ファイア」は出火から39日が経過しても勢いが衰えません。

アメリカの山火事は日本では考えられないレベルのスケールの大きさで、写真や映像とかで見ると本当にこの世の終わりのような光景が広がっており、現地にいたらトラウマになりそうだなと…。

そんな荒れ狂う業火で迫る山火事に対処している消防隊員がいるのですから…。

その山火事専門の部隊を描く映画と言えば、最近だと『オンリー・ザ・ブレイブ』というヘビーな一作がありました。あれを観てしまうと隊員へのリスペクトが充満しますね。そんなシリアスなのは観たくないときは『ファイティング・with・ファイア』で。

そしてまたも新しい山火事映画が燃えだしました。それが本作『モンタナの目撃者』です。

主人公は森林消防隊員の女性。当然ながら任務は山火事の消火。ところがこの『モンタナの目撃者』、迫ってくるのは山火事だけではない。なんと情け容赦ない暗殺者までやってくる。なんだよ、なんでいっぺんに出現するんだよ、一緒に火を消してよ…。

ともあれディザスターパニックとクライムサスペンスがダブルで大燃焼しているのがこの『モンタナの目撃者』なのです。

監督はあの“テイラー・シェリダン”『最後の追跡』『ボーダーライン』シリーズの脚本で大絶賛され、『ウインド・リバー』では監督デビューもして卓越したストーリーテリングによる作家性をいかんなく発揮。ノリに乗っている映画人のひとりですね。乾燥帯、国境地帯、雪原ときて、今度はモンタナ州の山林地帯か…アメリカの地形全制覇するつもりなのかな…。

原作は“マイケル・コリータ”という人が2014年に執筆した小説で、原題は「Those Who Wish Me Dead」。邦題はかなり…平凡になっちゃいましたけど…。ちなみにこの原作者も映画の脚本に参加しています。

主演は“アンジェリーナ・ジョリー”です。最近は『マレフィセント』『ゴリラのアイヴァン』などファミリー映画に出演している傾向もあり、MCUの『エターナルズ』も控えていますけど、『最初に父が殺された』(2017年)など監督としての才能も見事でさすがの貫禄。『モンタナの目撃者』も圧倒的な余裕を感じさせますね。

他には暗殺者役として“ニコラス・ホルト”。今回は『THE GREAT エカチェリーナの時々真実の物語』と比べたら普通の役です(まあ、殺し屋だけど)。

さらに『ボヘミアン・ラプソディ』の“エイダン・ギレン”、『Marvel パニッシャー』の“ジョン・バーンサル”、ドラマ『Happy!』の“メディナ・センゴア”、『ミッドウェイ』の“ジェイク・ウェバー”など。

なお、『モンタナの目撃者』で重要な役割を担う少年を演じる“フィン・リトル”はオーストラリアではすでに活躍している子役だそうで、どおりで“アンジェリーナ・ジョリー”の横に並んでも演技に落ち着きがあるのか…。

この手のジャンル映画が好きな人には感触のいい作品だと思います。山火事シーンなど自然描写の迫力もあるので、ぜひとも大きなスクリーンで鑑賞してみてください。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:監督や俳優ファンの人は
友人 3.5:ジャンル好き同士で
恋人 3.0:ロマンス要素はほぼない
キッズ 3.0:暴力描写あり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『モンタナの目撃者』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):トラウマが炎になって襲う

悪夢から飛び起きて目覚めるひとりの女性。ハンナ・フェイバーは後悔が残る過去にまだ憑りつかれていました。彼女はモンタナ州で活動するスモークジャンパー(山林火災初動部隊)でしたが、山火事消火活動の最中、火の勢いは想像を超え、結果、仲間の隊員と若いキャンパー3人を死なせてしまいました。その残酷な光景が脳裏から消えません。このトラウマを抱えているためか、現場の山火事に向き合えない日々が続いていました。

その頃、別の場所。ある裕福そうな家に2人の男が訪ねてきます。ガス漏れの点検だという男2人は家に入り、しばらくして出てきます。そのまま何食わぬ顔で車を発進。その直後、家は大爆発して…。

また、別の場所。法廷会計士のオーウェン・キャサリーとその息子であるコナー少年は今日の朝も家でのんびり。しかし、オーウェンはとある家の爆発のニュースに表情を硬くし、やや動揺します。車でコナーを学校に送る間も周囲をキョロキョロと警戒し、落ち着きません。すると学校ではなく別の方向へと急に速度をあげ、「正しいことをした」と語りますが…。

オーウェンは自分が狙われることを察知していました。あのニュースで報道されていた犠牲者は自分の上司。次は確実に自分が殺される。頭の中で最適な隠れ場所を検討し、知り合いのイーサン・ソーヤーアリソンに電話することに。

そんなソーヤー夫妻のいる地域で、ハンナ含むスモークジャンパーたちは昼間から飲んで騒いでいます。出動の事態がなければ平和です。ハンナはパラシュートを背負い、車の荷台に飛び乗り、全速力で走行させます。そしてパラシュートを開き、一気に吹き飛ばされます。幸いにも無事でしたが、この危険極まりない行為に地元の保安官も苦い顔です。

一方、オーウェンの家に侵入する男2人。ブラックウェル兄弟は室内に誰もいないことを確認し、逃げたことを把握。手がかりを探します。そして、ある写真に目をとめます。それはサバイバル学校…。

雄大な自然の中を走るオーウェンの車。けれどもその逃走の旅路は道半ばで終わります。突然の銃撃。オーウェンは撃たれまくり死亡。コナーは車から飛び出してなんとか逃げ出します。

森を必死で走るコナーはハンナに見つかり、彼女が監視のために佇んでいた「タワー(日本でいうところの“火の見櫓”)」に連れていかれます。そしてなかなか喋ろうとしませんでしたが、事情を打ち明けるのでした。その深刻さを理解したハンナは「信頼して」と言い聞かせ、コナーを安全な場所に導こうと決めます。

地元の保安官もブラックウェル兄弟に殺された通りすがりのドライバーの遺体を発見し、状況の危険性を感じとり、すぐさま捜索を開始します。

そんな中、目撃者であるコナーを取り逃がしたブラックウェル兄弟は、広大な森で探すのは骨が折れるため、森に火をつけて追い込むことに。瞬く間に勢いよく燃えていく炎。

こうしてモンタナの森はまたも大規模な火災に見舞われます。今度は残忍な殺人鬼も一緒に…。

ハンナはコナーを無事に守れるのか。そして山火事に対処できるのか…。

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「トゥームレイダー3」かな?

『モンタナの目撃者』、まず目につくのは主人公であるハンナ・フェイバーの突出した強靭な生命力です。これ、原作ではどうなっているのか私は知らないのですが、少なくとも映画版ではやけに防御力があるように見えます。

タワーから落下しても大丈夫、雷に打たれても大丈夫、異常な暗殺者たちとはピッケルで太刀打ちしていくくらいの格闘能力。あげくには山火事すらも克服していく。

え、最強じゃない? “アンジェリーナ・ジョリー”が演じているせいもあって、この主人公、まるっきり『トゥームレイダー』になっていませんか? “アンジェリーナ・ジョリー”版の『トゥームレイダー』3作目ですよ。遺跡とかは探検していないけど、引退して山林火災初動部隊になったのかな。まあ、ありうるキャリアの転身だ…。

ただ、精神面では弱っていて、過去のトラウマを引きずっています。この表向きの肉体的パワーはスゴイけど、内側の精神は脆弱さを見せている感じ、『ボーダーライン』の女性主人公と同じと言えばそうなのですが、今作の『モンタナの目撃者』はそこがハッキリと浮き出ているので、これはこれで女性のステレオタイプに思えなくもない。

その弱りきった部分を「子どもへの保護愛」で埋め合わせて回復していくあたりも、既存の女性らしさそのままでしたし…。

一方で別の立場の女性となるのが、アリソン・ソーヤーです。彼女はサバイバルスキルがあり、残忍なブラックウェル兄弟相手でも果敢に画策して反撃。後半は狙撃で圧倒していき、あのスナイパーっぷりは『ウインド・リバー』を思い出しますね。もう少し狙撃手として確実に仕留めていれば、あそこで兄弟は死亡して物語もお終いだったと思うのですけど、まあ、それをやっちゃうとね…。

味方側の男性陣はイマイチというか、もうちょっと出番があるか、いっそのこと序盤で死亡しても良かったのではと思ったりも。そこにいる物語上の面白さが薄かったかな。

それにしてもああやって殺人事件が起きたとき、さすがに保安官では対処できそうにないし、すぐにFBIの広域捜査案件になるのだろうか。あれだけ広大な土地柄だと大変だろうな…。

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森林火災には勝てないので逃げよう

『モンタナの目撃者』は全体的にストイックなスタイルではなく、大味な構成が目立ち、ジャンル的味付けが濃すぎるかなとも思いました。

スクリーン映えする映像は多いです。冒頭の空中降下といい、山火事ディザスターの迫力といい、ハっとする場面を随所に挟んできます。

ただし、やっぱり“テイラー・シェリダン”監督はこういうジャンル強めの構造だとあんまり作家性を発揮できないのかもしれないですね。『ウィズアウト・リモース』もそうだったし…。

“テイラー・シェリダン”はもともと本作の脚本のアドバイスで当初は参加したようなので、今作はそこまで“テイラー・シェリダン”のフル関与ということではないのかもしれませんが。

おそらく観客的にはブラックウェル兄弟との対峙が終わってから、もうひとパート欲しかったと思うのです。つまり、トラウマを克服したハンナがチームで再び山火事に対処するべく燃え盛る森に挑んでいくというシークエンスが…。そうじゃないと「あれ、肝心の火事はどうするの?」ってことになりますし、消火活動があったならその戦いも見せてよ!と思うのも無理ないですし。あまり山火事に挑む場面がないのでそこを期待しているとガッカリかな。

でもウェスタン系のスリラーの新たな現代環境版としてのバリエーションの一作にはなっていますし、別に飽きるわけでもない。昼間にテレビで放送していたら暇つぶしに視聴すると楽しい…みたいな映画ですし、レンタル店とかで偶然に手に取って視聴してみたら案外と面白かった…くらいの後味はある。

最後に役立つ知識を書いておきましょう。森林火災(ワイルドファイア)に遭遇した時の対処法です。

  • 小さな火種でも油断しないでください。乾燥していると一気に燃え広がります。もし少しでも野外で火があがった場合は消防にすぐさま連絡しましょう。自分たちで水をかけて鎮火させたと思っても、また火が復活することがあります。必ず専門の消火活動に任せるべきです。
  • 森林火災に遭遇したときは速やかに逃げてください。間違っても写真や動画を撮ろうと接近してはいけません。火の勢いは想像以上に凄まじいです。走って逃げても火のほうが速いです。なるべく身軽にして初期段階で逃げるのが先決です。

皆さんも山火事には気を付けてください。たぶん近くに“アンジェリーナ・ジョリー”はいないと思うので。

『モンタナの目撃者』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 62% Audience 85%
IMDb
6.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0
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関連作品紹介

テイラー・シェリダンが監督or脚本を手がけた映画の感想記事です。

・『ウインド・リバー』

・『ボーダーライン』

・『最後の追跡』

作品ポスター・画像 (C)2021 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved ゾーズ・フー・ウィズ・ミー・デッド

以上、『モンタナの目撃者』の感想でした。

Those Who Wish Me Dead (2021) [Japanese Review] 『モンタナの目撃者』考察・評価レビュー