続編でも時計は大事…映画『イコライザー2』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2018年10月5日
監督:アントワン・フークア
イコライザー2
いこらいざーつー
『イコライザー2』あらすじ
表の職業として、日中はタクシー運転手として働いているマッコールだったが、CIA時代の元上官で親友のスーザンが何者かに殺害されてしまう。独自に捜査を開始したマッコールは、スーザンが死の直前まで手がけていた任務の真相に近づいていくが、やがてマッコール自身にも危険が迫る。
『イコライザー2』感想(ネタバレなし)
現代のアンパンマン
あなたの目の前にタダモノじゃなさそうな男がいたとします。筋肉粒々のマッチョというわけではありません。存在感だけで空気を震わせるような殺気を放つ人間です。その男が、おもむろに自分の時計を確認して、ストップウォッチをスタートさせます。すると、あなたはどうなるでしょうか。答え…死にます。
その男の名前は「ロバート・マッコール」。私は彼は「アンパンマン」だと思うのです。読書好きで温和そうな普段の姿から油断してはいけない。これは第1形態。ひとたびスイッチを変えると、殺人マシーンに早変わり。悪党たちにボッコボッコとアンパンチを喰らわせます。寡黙な彼は、愛と勇気だけが友達なのです。一方で彼はただの横暴なバイオレンスを振るっているだけの人間ではありません。弱者を助け、ときに自らを犠牲に、正しき道に導くという信念を基に行動しています。どう考えたって現代のアンパンマンですね(断言)。
そんなマッコールの活躍を描き、一部のディープなファンを「私も餡子まみれにして!」とメロメロにさせた映画『イコライザー』が生まれたのは2014年。
それから4年後、『イコライザー』の続編となる2作目『イコライザー2』では、マッコールはさらなる進化を遂げました。
前作ではホームセンターで働いていましたが、今作ではタクシー運転手に転職。こんな男が運転手なら、たまにニュース映像で見るタクシー運転手に暴力をふるう客とかも返り討ちでしょうね…。でも、そう聞くと車を使ったアクロバティックな“愛と勇気だけが友達パンチ”を見せてくれるのかなと思うじゃないですか。ところが、実際は想像の斜め上。マッコール、いや、マッコールさん、そんなことできちゃうんですか!?となります。
主演はもちろん“デンゼル・ワシントン”。アメリカ映画界で成功をおさめ、今や彼は黒人だけでなく、多くの人から愛される、まさにマッコールみたいな人物になりました。『イコライザー』は彼のためのような作品ですね。
しかし、日本では“デンゼル・ワシントン”はどうも過小評価されている気はしてならないです。というのも最近の彼の主演作である『フェンス』と『ローマンという名の男 信念の行方』の2本が立て続けにビデオスルーになっているのですから。なんか「“デンゼル・ワシントン”はアクション映画ファンが喜ぶ人でしょ? ドラマの演技とか求めていないよね」みたいな見方でもされているのか。う~ん、彼の凄さはただのアクションだけしている人じゃないことにあると思うのですけど。アクションする俳優はどうしても舐められがちですね。
監督は“アントワン・フークア”で、“デンゼル・ワシントン”とは、新しい顔を作ってくれるジャムおじさんみたいな関係性。2001年の『トレーニング デイ』以来、長い付き合いです。本作は“アントワン・フークア”監督としても、“デンゼル・ワシントン”としても初の続編になり、だから「Sequelizer」だねとスタッフからは言われたらしいです。
ということで、マッコールさんのありがたい人生相談&指導(暴力込み)をお楽しみください。
『イコライザー2』感想(ネタバレあり)
人生指導(温かいほう)
まずはマッコールさんの人生相談&指導(温かいほう)から。
今作『イコライザー2』でタクシー運転手に転職させたのはナイスな判断だったと思います。というのも、タクシーというのは1対1で語り合える空間です。そのつもりがあろうともなかろうとも、会話が生まれ、ときには乗客がペラペラとプライベートをしゃべりだす場。そんなタクシーに乗ってくる多種多様な人種や老若男女の乗客の“言葉”を聴いていくマッコールをテンポよく映す序盤のシーン。この一連の流れからわかるように、『1』と『2』の間の期間も、マッコールは色々な人を助けてきたんだろうなと観客に想像させます。ちなみにマッコールのタクシーは「Uber」じゃなくて「Lyft」らしいです。このサービスは運転手をレビューする仕組みがあるそうなので、さぞかしマッコールの評価は良いでしょうね。
このシリーズはまだ2作しかないのでアレですが、一応、2作の共通点として、必ずマッコールに救われ導かれる立場を担当する人物が登場します。
1作目ではそれを担うのは少女の娼婦であり、非常に絶望的な酷い状況にあるなかで、下手をすれば悪の世界から抜け出せなくなってしまいそうになる存在でした。この少女を演じた“クロエ・グレース・モレッツ”の荒んだ中にわずかに光る純粋さを表現する名演が見事でしたね。
対するこの2作目。今回、マッコールが救うメインとなるキャラは、マイルズという若い黒人。いかにもこのブラック・コミュニティあるあるな不良の世界にズルズルと引きずり込まれているマイルズに対して、マッコールは芸術の才能に気づいてあげて、光のあたる道へと背中を押す。それでも悪そうな奴らとつるむことを止められないマイルズを見かねたマッコールは、やや強引に彼を引っ張っていき、銃という教育ではなかなか使わないであろうアイテムを駆使して、マッコールさん流の更正術(レベル2ぐらい)を実行。善良な普通の教育者は絶対にマネしてはいけませんよ。これはマッコールしかできない技ですからね、はい。
で、今回、黒人という相手を選択したことで、本作の物語はわかりやすい人種的社会問題の枠組みに収まっているようになり、前作にあった少女との組み合わせのような一種のジャンル映画的なビジュアルからは少し変わりました。これを良しとするか、平凡になったと捉えるかは人それぞれだと思いますが、私としてはこれはこれで全然ありだなと。あくまで今回はこの人だったというだけですし。
ただ、マイルズを演じたのは“アシュトン・サンダース”なのです。皆さん、覚えていますか。アカデミー作品賞受賞作の『ムーンライト』で、ティーンの主人公を演じたあの子ですよ。そう考えるとですね、勝手に両作品を重ねてしまって、「ああ、このイコライザーの世界ではちゃんと救われたんだな」と思っちゃって変に安堵している自分がいるわけで。こうなってくると、『ムーンライト』のときもマッコールがいれば!とないものねだりをする始末。
というか、あれです。このマッコールがいるだけでこの世界で人生を転落させる人は激減しますね。今すぐこの男を各自治体にひとり配置して、行政の専用窓口を設置するんだ…! 「イコライザー課」という名前で。
人生指導(凄惨なほう)
そんな面倒見のいいマッコールさんでも、どうしようもできない奴というのはいます。そんなときは、マッコールさんの人生相談&指導(凄惨なほう)にすぐさま切り替え。この思い切りの良さがこの男の持ち味。
最初に準備運動がてらに列車内の悪党を制裁。変装の必要性についてはいささか疑問ですが、まあ、いいか。さらに場所を変え、相手を変え、どんどん鉄拳制裁は続きます。ある一室では、おなじみ時計“ピっ”からのタイムアタック(文字通りAttackしている)を披露。相手はすっかり半泣き状態で、子どものように泣きじゃくるのですが、そんなお子さんに軽い説教(痛い)を加えて立ち去るマッコールさん、スマートです。
宣伝では「悪人を19秒で抹殺していく」というフレーズばかり強調されるこの映画ですが、中身では割と気にしていないので、アクションとしての縛りというほどではないのです。でも、その時間への厳しさがタクシー運転手という職業に活かされていると考えれば、なんか可愛く見えてくる不思議。
注目ポイントは、『イコライザー2』では人生相談&指導(温かいほう)から人生相談&指導(凄惨なほう)にスイッチが変わる瞬間が見れるということですかね。壁の落書きを消すマイルズを優しく見守るマッコールに、旧知のスーザンという女性が殺されたという一報が電話でよせられ、一瞬で顔が“マジ”モードに…。怖い、超怖い。こういう先生、いたよね…。
また、今作では元CIAらしい頭脳を発揮して、バイオレンスじゃない部分でもスキルを見せるシーンもあります。ブリュッセルで発生した殺人事件を脳内再現してみせるマッコール。さながら名探偵マッコールですよ。まあ、全然推理のロジックとかはないのですけど、そこはご愛敬。
そういえば、クールかつ無駄なくアクションを決めるマッコールと反比例させるように、敵側の襲い方は雑に描かれていて、そこもさりげない対比でした。スーザンを殺した集団も結構反撃されてましたし、無様です。
そして、いよいよ本作は白眉は終盤の一大決戦。1作目と同じように敵を待ち伏せて誘い込むトラップ式人生指導(殺人)。1作目では職場のホームセンターを舞台に「ここにあるモノ、全てが俺の武器だ!」(そんなセリフは言ってません)というノリでDIY精神で悪党をズタズタにしてやったわけですが、2作目はもっと凄い。
今回はホームセンターからスケールを10段階くらいパワーアップしてハリケーンを利用するまでに。ちゃんとびっくりハウスも用意してトラップで敵を仕留める仕掛けもあるのですが、もうハリケーンという時点でそれどころじゃない。あのハリケーンもマッコールが呼び寄せたんじゃないかと私は邪推してしまいましたが、この男ならできる気がしてくる。気象操作系暗殺者というのも悪くない。その、冷静に考えれば、どう考えたって銃を使える環境じゃないから、自分も不利だろうし、さらにはわざわざ危険そうな高所で最後は戦いますからね。理屈じゃないんです。とにかく敵は戦車を持ってくるべきだった、もしくはドローンで空爆要請するか…でもきっとそれさえもマッコールは突破するだろうなぁ…。
とまあ、こんな感じでアクション面でも進化した本作。ただ、苦言を言うなら、アクションの見ごたえはどうしても昨今の同ジャンル作品と比べると見劣りしますね。でも、しょうがないんです。最近は自分でガンガンアクションしたがる無謀者のあの人とかこの人のせいで、インフレする一方ですから。そういう潮流があるなかで、“デンゼル・ワシントン”は年齢的に厳しいのがネックですね。
そうは言っても、2作品続いたことで、作品の基盤となるテンプレは確立したと思います。隣人である他者を救いあげ、どうにもならん奴はボコる。このシンプルさ。これさえあれば、全然あと6作くらいいけそうな気がする。3作目は、次々と政策上の難題にぶちあたり頭を悩ます大統領を助けてあげればいいんじゃないですか(テキトーな提案)。
きっと世界にはマッコールの人生指導を受けたい人はいっぱいいますよ。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 51% Audience 69%
IMDb
7.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
関連作品紹介
続編映画の感想記事です。
・『イコライザー THE FINAL』
(C)2018 Sony Pictures Entertainment, Inc.
以上、『イコライザー2』の感想でした。
The Equalizer 2 (2018) [Japanese Review] 『イコライザー2』考察・評価レビュー