続編は戦場初心者マークを外す野外授業!…映画『キングダム2 遥かなる大地へ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:日本(2022年)
日本公開日:2022年7月15日
監督:佐藤信介
キングダム2 遥かなる大地へ
きんぐだむつー はるかなるだいち
『キングダム2 遥かなる大地へ』あらすじ
『キングダム2 遥かなる大地へ』感想(ネタバレなし)
2作目も絶好調
新年を迎えると2022年の映画興行収入の記録もだいたい出揃い、その年の映画興収ランキングがまとまるようになります。現時点の2022年の日本の映画興収ランキングは以下のとおりとなりました。
アニメ映画が上位を占めるのはいつものとおり。『すずめの戸締まり』は11月公開なのでまだ興収は上昇中で、今後ランキングに加わるでしょう。
2022年は劇場に本格的に戻って来た洋画も健闘しており、『トップガン マーヴェリック』はとりわけ飛躍しました。
この中で個人的に注目するのは実写邦画。とくに2022年の実写邦画で最大のヒットを記録した『キングダム2 遥かなる大地へ』です。
近年の実写邦画界は有象無象の大量製作もあって変わり映えが激しく過剰競争状態にあるのですが、『キングダム2 遥かなる大地へ』は2019年に公開された『キングダム』の続編。前作『キングダム』は興行収入は57億を超える大ヒットを記録し、その2019年の実写邦画の中ではナンバーワンを記録しました。
一般的に続編モノは興収が下がる傾向にあり、ましてやコロナ禍を挟んでの公開で少し間が開いてしまったので不利かなと思ったのですが、そんな杞憂を吹き飛ばす快調っぷり。『キングダム2 遥かなる大地へ』が50億円代の興収をキープしたのはなかなかに凄いです。
実写映画『キングダム』シリーズは、東宝、ソニー、集英社、日本テレビの日本大企業が結集して製作している、日本映画史上最大規模の製作費を投じたと謳われる、邦画史でも早々お目にかかれない超大作なので、こういう挑戦的な企画が実績を上げるのは良いことだと思います。
『キングダム2 遥かなる大地へ』は2作目ですが、2023年には3作目の『キングダム 運命の炎』の公開も決定しており、このまま勢いに乗って駆け抜けていってほしいところ。
本当はこういう世界観スケールの大きい作品なら、ハリウッドだったらドラマシリーズも展開したり、余すところなく映像化し尽くすだけの価値はあるのですが、日本の体制ではさすがにそれは無理か…。
ともあれ『キングダム2 遥かなる大地へ』です。私の感想としては、1作目よりも手慣れてきているせいか、作りが手堅く、それでいてこの作品の面白さを前よりも引き出せている感じがして、2作目の方が好きです。1作目は「うう~ん…」と思った人も、2作目を見てみる価値はあるかもしれません。
前作よりもアクションに特化し、戦のボリュームはパワーアップ。これぞ『キングダム』という迫力です。
監督は引き続き、“佐藤信介”。今後は人気作「僕のヒーローアカデミア」のハリウッド映画化の監督にも抜擢されており、その実力がさらに開花するのではないでしょうか(まあ、『キングダム』よりはるかに難易度が高そうなので大変だろうけど)。
俳優陣は、前作から続投で、主人公を“山﨑賢人”が務めるほか、“大沢たかお”も今回もちゃっかり目立ってくれます。逆に“吉沢亮”や“橋本環奈”の出番は今作ではわずかしかないので、そこは我慢です。
『キングダム2 遥かなる大地へ』から大活躍のキャスト陣としては、『今日から俺は!!劇場版』の“清野菜名”、『さかなのこ』の“岡山天音”、『流浪の月』の“三浦貴大”、『カメラを止めるな!』の“濱津隆之”、『鳩の撃退法』の“豊川悦司”、『新解釈・三國志』の“高橋努”、『燃えよ剣』の“渋川清彦”、『チア男子!!』の“山本千尋”など。
死屍累々な映画界の戦場で果敢に突っ走る『キングダム2 遥かなる大地へ』の雄姿をぜひその目で。
『キングダム2 遥かなる大地へ』を観る前のQ&A
A:前作『キングダム』の鑑賞を推奨します。前作の映画から引き続き登場するキャラクターも多いです。
オススメ度のチェック
ひとり | :原作未読でも楽しい |
友人 | :気軽に見れるエンタメ |
恋人 | :ロマンス要素は無し |
キッズ | :極端な残酷描写無し |
『キングダム2 遥かなる大地へ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):これが本物の戦場
紀元前245年。中華西方の秦国の王宮内。王都奪還によってこの国を治める存在となった秦王の嬴政(えいせい)は赤い衣の刺客に襲われます。守備の兵を切り刻んでいくその少数の刺客。
そこに「待たせたな」と意気揚々と駆け付けたのは信です。彼は戦災孤児でしたが、幼い頃に漂という親友と「天下の大将軍」を目指し日々剣術の修行をしていました。しかし、漂は嬴政の影武者として王宮へ仕官させられることになり、年月が経過したある日、漂が深手を負った状態で戻り、命を落とします。そして信は嬴政と出会い、王都奪還の反乱に参加。目覚ましい活躍を見せたのでした。
信は素早い身のこなしで刺客を翻弄し、力でも負けていません。倒したと思って背を向けたとき、敵は起き上がりましたが、そこに山民族の末裔で信とは盟友となった河了貂(かりょうてん)が助けに入り、飛び道具で敵を打ちます。
今回の奇襲を仕掛けてきたこの謎の刺客はどうやら「哀しみの一族」とも呼ばれる伝説の暗殺一族「蚩尤」なのではないかとのこと。「くだらねぇ。そんなのどうせただの言い伝えだろ」と信は余裕そうです。
不穏な空気も冷めあらぬ中、魏火龍七師・呉慶率いる隣国・魏の大軍が秦へと進攻という報が舞い込んできます。大きな戦が始まることを痛感し、信は覚悟を決めます。武運を祈ると嬴政。「いっちょ派手に暴れてくるぜ」と信は出発しました。
信はノリノリで兵の行進を急かします。目的地は蛇甘平原です。
その中で同郷の尾平と尾到に再会。信は勢いだけで戦のことは何も知りませんでした。戦では「伍」という5人組のチームで戦うのが基本。さっそく仲間を作ろうとしますが、残っていたのは寡黙な謎の人物だけ。そこへ澤圭という伍長が残り者を担当するためにやってきて、あまり喋らないその人物は羌瘣(きょうかい)だと名乗ります。
その場に千人将の騎馬隊が現れ、整列する一同。しかし、信は以前に顔見知りとなった壁がいたので気楽に挨拶します。彼から魏軍は女子どもも皆殺しにする策をとる奴らで、魏軍の総大将は呉慶だと教わります。
すでに戦況は不利でした。2つの丘をとられ、秦の総大将である麃公(ひょうこう)は丘を取られたら取り返せと指示。
走って進軍していた信は空気が変わったのを肌で感じます。「これが本物の戦場か」
千人将の上官となる縛虎申は突撃しろと味方に罵声を浴びせて冷たく当たってきます。死んでもあの丘を奪い取れとそれだけです。第一の丘は魏軍の宮元が待ち構えていました。
歩兵が全部揃わずに突撃の命令が下り、伍長の澤圭は「絶対にひとりにならないように」と言い聞かせますが、全員で一斉に突撃開始すると、我先にと突っ走る信。大ジャンプで敵の陣営に降り立ち、敵の防御に穴を開け、仲間が突っ込みます。
澤圭・尾平・尾到は3人で戦う中、信は隊長の高台に飛び乗り、打ち取るのに成功。しかし、敵が撤退していくように見えたとき、馬の戦車隊が容赦なく攻撃をしてきました。第2波はもっとキツイことになると澤圭は警戒します。
そのとき、単独で戦っていた羌瘣は策があると発言。死体を積んで防壁を作ることを提案します。これでなんとか上手く敵を転倒させることができ、今は生存できました。それでも後方の騎馬隊が助けに来る気配はありません。
このまま残党狩りによって殲滅してしまうのか…。
教えて!王騎先生!2講目
1作目の『キングダム』はどうしてもメインキャラクター紹介もあるので説明しないといけないことが多かったですが、今回の2作目『キングダム2 遥かなる大地へ』はそういう重荷は無いので、まるで信と同じように威勢よく「戦だ!」と戦闘シーンへ直行してくれます。
しかも、今回はこの戦シーンがただ派手な映像をじゃんじゃか展開しているわけではなく、しっかりその中で信の成長を描いているのが良かったです。
前作でも信は脳筋猪突猛進スタイルないつもの少年漫画にありがちな主人公で、そこがかなりリアルな世界観から浮いてしまうのが欠点だなと思っていたのですが、今作ではそれを物語が理解したうえで信を扱っているので、説得力が増しています。
前半は、寄せ集めの伍である信・羌瘣・澤圭・尾平・尾到を始めとする歩兵たちという、最も捨て駒になる宿命の奴らがどうやってこの窮地を脱するのか…そこが面白い、戦略で見せる戦闘パートです。私もこうやって知略で戦っていく展開が好きなので本作も乗りやすかったです。
とは言え、後半まで信の脳筋猪突猛進スタイルはそんなに改善していないのですが…。揺さぶりがかかるのは最後の最後。第一の丘を踏破し、宮元を打ち倒した後。丘から見下ろすかたちで、呉慶本陣に向け麃公自ら突撃する将軍対決を鑑賞。
そこで“大沢たかお”演じる王騎がここぞとばかりに美味しい役回りに立ち、未熟な信に「将軍とは何たるか」を教示する。めちゃくちゃ露骨に学びの構図を見せてくれます。
まあ、その王騎先生の野外講義をみんなで棒立ちで見ているだけになっちゃっているので、そのシーンの撮り方はこれまでの勢いの良さとのギャップで少しシュールな絵でしたけどね(もう少し見せ方は変えられなかったのかと思う部分もなくはないけど)。「遥かなる大地へ」という副題より「教えて!王騎先生!2講目」みたいなタイトルの方が合っていそうではある…。
初陣で武功をあげた信は「百人将」となり、ラストは王騎のもとへ登校していきますけど、なんだか初めての学校に向かう小学1年生みたいだ…。
こうやって見ると、この『キングダム』シリーズはこの世界観を知らない初心者の人にもものすごくわかりやすくなるように敷居を下げて導入を作ってくれている、丁寧な作品なんだなと。こういうところもこの作品が原作から愛される理由のひとつなんでしょうね。
ドラマ面を強化できる仲間が欲しい
『キングダム2 遥かなる大地へ』も当然ながらこのプロダクションデザインを伴っている中での戦闘の迫力ですし、大満足なクオリティです。
今作では羌瘣を演じた“清野菜名”も剣豪アクションを華麗に披露し、加えて集団戦の熱さもあって、順当なパワーアップといった感じ。このままアクションを拡大していくなら、やはり複数人の噛み合った戦闘を見せていくとかになるのかな。それは次回作への楽しみにとっておこう…。アクションの訓練時間をたっぷりとれる俳優や撮影スタイルが必然的に求められるので、ある程度、この手の剣豪アクション担当の俳優を複数用意するのは大変なのかもだけど…。
気になる点は、戦闘は文句なしなのですが、ドラマパートになるとやや物足りなさというか、演出に味気ない印象に残るような…。
“佐藤信介”監督はあんまりドラマ面は得意じゃないのかもしれない…。この映画は原作者の“原泰久”も脚本に参加していますけど、映像としてどう見せるかはまた違うだろうし…。
例えば、羌瘣と「姉」と慕う羌象との関係が描かれる回想シーン。これはとてもシスターフッドな感触を予感させる構図なのですが、それが最大限に引き出されている感じもなく、なんとも面白みもなく、生首抱きしめエンドに移行してしまう…。絶対に女同士の会話をリアルにもっと描ける人を雇った方がいいと思ったり…。
『キングダム2 遥かなる大地へ』はたくさん登場人物がでてくるわりには、そこまで関係性の軸でファンダムを刺激する要素は薄い気もする…(ここは完全に個人の好みですが)。これからでてくるのかな…。『RRR』みたいなどでかい関係軸を打ち出すだけのポテンシャルはあると思うのだけど…。
終盤で河了貂が軍師になると言い出すのも「いきなり?」とやや拍子抜けでしたけど…。河了貂がでてくるのも本当にただ参加しましたという盛り付けにすぎないからね。皿に乗っかってるパセリみたいなもんですよ…(“橋本環奈”のスケジュール的にこの出番が限界なのかもですが)。
あと、やはり作品題材の性質上、どうしたって軍国主義讃美な側面が濃くなりますね。今回は信が戦場に初めて突撃して、やたらとポジティブに学んで帰ってきてしまうので余計にその面が際立ちます。
あの主人公の性格が軽いのが災いしているので、もっと取り返しのつかない犠牲とかがあって、戦争の深刻さを受け止める展開とかあればいいのですが、それもこれからでてくるのかな…。
私はこの『キングダム』シリーズはあえて原作は読まないで、映画が初対面になるようにして新鮮に楽しもうと決めているので、そういう今後の展開とかにハラハラしながら見られる楽しさは結構味わえていますね。次回作も観戦します。丘の上から。
ROTTEN TOMATOES
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IMDb
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シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)原泰久/集英社 (C)2022 映画「キングダム」製作委員会
以上、『キングダム2 遥かなる大地へ』の感想でした。
Kingdom 2 (2022) [Japanese Review] 『キングダム2 遥かなる大地へ』考察・評価レビュー