農業系男子が恋をした女の正体は?…「Apple TV+」映画『ゴーステッド Ghosted』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本では劇場未公開:2023年にApple TV+で配信
監督:デクスター・フレッチャー
性描写 恋愛描写
ゴーステッド Ghosted
ごーすてっど
『ゴーステッド Ghosted』あらすじ
『ゴーステッド Ghosted』感想(ネタバレなし)
「ghosted」の意味
さあ、スラングの勉強のお時間です。映画とかを観ていると「あれ、この単語はどういう意味?」みたいな疑問が湧いてくることがあって、しかも辞書を見てもこれだという当てはまる意味がわからなかったりします。
そういうときはそれがスラングだったりするものです。スラングは次々と新しいものがでてくるので、英語圏で日常的に暮らしていないとその流行に追いつけないのですよね。
例えば、「ghosted」という単語があります。「ghost」は幽霊のことですが、それに「ed」をつけたこの単語の意味とは?
答え合わせ。「ghosted」はオンライン上の恋愛関係のコミュニケーションで使うスラングで、出会って連絡先を交換したものの、ある日、急にメッセージに返信を返さなくなってそれっきりの関係になってしまうことを意味します。日本語だと「音信不通」とか「無視」と普通に表現すると思うのですけど、英語だと「ghosted(幽霊になった)」と皮肉っぽく表現するんですね。
今や恋愛は実際に会って絆を深めるよりも、オンライン上で関係を重ねていく時間の方が長いかもしれません。「この人、自分に合わないな…」と思ったら、やりとりをピタっと止めるのも普通の手段。だからこそ生まれた「ghosted」という言い回し。皆さんの中にも、「ghosted」…“したりされたり”な人はいると思います。
今回紹介する映画はずばりこの単語そのまんまなタイトルです。
それが本作『ゴーステッド Ghosted』。
主人公は田舎でのんびりと暮らしていたひとりの男。出会いもあまりなく少し寂しそうにしていると、なんとあまりに抜群のタイミングで自分好みの女性が目の前に現れてくれた…。これはチャンス、これを逃したら次はいつになるかもわからない…そう思い立って勇気を振り絞って話しかけてみると、意外にもデートにこぎつけることができます。相性も良さげでこれはラッキーだったと浮かれて連絡先も交換。相手の女性は仕事で家を空けることも多いらしく、男はスマホでメッセージを送ってやりとりするのを楽しみに待つのでした。
…けれども全然メッセージの返信は来ない。これはもしかして、いやもしかしなくても、「ghosted」じゃないか? そんな不安が頭によぎる中、男は居ても立っても居られず、その女性にこちらから会いに行くことに。そこでこの女性の予想外の正体が判明し、大騒動に巻き込まれる…そんな物語です。
ジャンルとしては、王道のロマンティック・コメディ・アクション。しかも、主演俳優が豪華。
主人公を演じるのは「キャプテン・アメリカ」として大役を果たし、ドラマ『ジェイコブを守るため』などの作品でも活躍する“クリス・エヴァンズ”。今回、この“クリス・エヴァンズ”はヒロイン兼プリンセスのポジションであり、あたふたしている姿をいっぱい楽しめます。
その“クリス・エヴァンズ”をぐいぐい引っ張るのが、『ブロンド』の“アナ・デ・アルマス”。“クリス・エヴァンズ”とは、『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』、『グレイマン』に続き、三度目の共演となります。『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』でもカッコいいアクションを決めていましたが、今作『ゴーステッド Ghosted』でも超クールです。
他の共演は、『ウエスト・エンド殺人事件』の“エイドリアン・ブロディ”、『47RONIN ザ・ブレイド』の“マイク・モー”、『オールド・ガード』の“マーワン・ケンザリ”、『ナイトメア・アリー』の“ティム・ブレイク・ネルソン”など。
さらにサプライズ枠でカメオ出演が複数あり、映画ファンならニヤリとできる顔触れが飛び出します。
『ゴーステッド Ghosted』の監督は、『イーグル・ジャンプ』や『ロケットマン』、さらにドラマ『ジ・オファー / ゴッドファーザーに賭けた男』を手がけた“デクスター・フレッチャー”。原案兼脚本は、『デッドプール』シリーズや『6アンダーグラウンド』などの“レット・リース”&“ポール・ワーニック”のコンビです。
『ゴーステッド Ghosted』はこのキャスティングからみても、映画ファンにとってのプチお祭りエンターテインメントなのですが、劇場公開はされず、「Apple TV+」配信に…。また、このパターンか…。
なお、製作は「スカイダンス・メディア」であり、最近は「Apple」と連携しているので、その流れですかね。
『ゴーステッド Ghosted』は暇つぶしで見るのにはちょうどいい、ふざけまくりな娯楽になってくれるでしょう。スマホに届くウザい相手のメッセージは無視して、映画鑑賞に集中です。
『ゴーステッド Ghosted』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :俳優ファンも注目 |
友人 | :暇つぶしにでも |
恋人 | :気楽に観れる |
キッズ | :性的な話題多め |
『ゴーステッド Ghosted』予告動画
『ゴーステッド Ghosted』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):理想のカノジョ…の素顔
ワシントンDC郊外。のどかな森に囲まれた道路を緩やかに走る1台の車。運転しているのはセイディで、そこにイェーツ博士から通話がきます。
「人が亡くなったら休みたくなるのも仕方ない」「彼女とは親しくなかった。だけど年齢も仕事も同じで…」「急激な変化は禁物よ」「結婚とか?」
そんなやりとりをしつつ、セイディは内心では「自分も孤独に死ぬのだろうか」と一抹の不安がよぎっていました。
別の場所。無農薬な植物を市場で売っていたコール・ターナーは、恋人と別れたばかりで、仲間に励まされて気弱な返事を返していました。
そこに気分転換のつもりでセイディがふらっと寄って来ます。「ベゴニアはいい花ですよ」と言いつつ、さりげなく今は恋人がいないことをアピールするコール。セイディは家に長期間いないそうで、それでも大丈夫な他の花もオススメしようとしますが、命に無関心なら売れないとそこで意地をみせてしまい、「サボテンなら最低限の愛で育ちます」と投げやりに応対。セイディは気分を害して怒って去っていきました。
ああいう喧嘩こそ良い恋の兆候なのだと友人のエドナに言われ、セイディが車をだす寸前になんとかそれを食い止め、「今度デートしない?」と唐突に誘うコール。向こうは唐突な行動に呆れ気味でしたが、悪そうな人でもないようなので、受け入れてくれます。
コーヒーを飲みながら、互いを語り合います。セイディは外国によく行くようです。コールは歴史が好きで、本を書いていると言いますが、今は父の怪我以来、実家で農業を手伝っている状態。
ここの階段であの傑作の『エクソシスト』は撮影されたんだとコールは自信満々に案内し、階段で競争することに。しかし、セイディは意外に強くてあっさりコールは負けてしまいます。
セイディは6歳の時に母と祖国から逃げたのだと怖かった経験を打ち明け、2人は急接近。キスをし、夜はずっと街で一緒に過ごし、翌日、朝になって別れます。良い時間だったと噛みしめながら…いやもっと欲張ってもいいのでは? セイディはコールを家に招き、体を交えるのでした。急激な変化なんて気にしていられない…。
コールは最高の気分で帰宅。運命の人かもしれないと家族の前でのろけます。ところが、セイディにメッセージを送っても返事がありません。あんなにラブラブだったのに…。
そう言えば階段競争で、吸入器を彼女のバックに入れ忘れたと気づき、そこに紛失防止タグがついているので位置がわかると思いつきます。結果はロンドン。だから連絡が来なかったのかと納得しつつ、両親はロンドンに行ってみたらと気楽に提案。
これはストーカーじゃない、愛の成せる技…そう言い聞かせて、ロンドンへ直行したコール。
しかし、スマホの示す位置情報のもとへ向かうと、謎の男たちに囲まれて誘拐され、パスコードを教えろと脅迫されます。そして危機一髪で駆け付けたのは、華麗な射撃とアクションをきめる…セイディ?
わけがわからないコールの災難はここからが本番でした…。
サボテンのような男でも…
ここから『ゴーステッド Ghosted』のネタバレありの感想本文です。
ロマコメ不況と言われていましたが、最近は『ショットガン・ウェディング』といい、本作『ゴーステッド Ghosted』といい、大物俳優を揃えて景気よくハリウッドらしいド派手なアクションも交えてロマコメを展開する映画が復活の兆しを見せているのかな? 『ソー ラブ&サンダー』とかも実質はラブコメだしね…。
やはり普通の恋愛模様だと見てくれないと思っているのか、エンターテインメント要素をマシマシに加えてきますね。
『ゴーステッド Ghosted』の恋愛面に注目すると、本作は“クリス・エヴァンス”演じるコールが従来で言うところのヒロインの役回りです。両親の寵愛を受けつつも田舎でくすぶっていて、しかも恋愛に疎いという設定。すぐにのろけちゃうし、ベッドでの寝顔セルフィとかも迂闊に撮っちゃうし、悪い人ではないけど、どこか甘い。人を信用しぎて、体力的にはイマイチなひ弱さ。夢はあるけど、今一歩踏み出せていない。全部、ヒロイン属性。“クリス・エヴァンス”、可愛い。
特技は植物の知識という、なんだそれな感じですが、でも後半では強引に役立つ展開をセッティングしています。
そんな農業系男子のコールをリードして、結果的に才能を引き出し、実家にとどまるしかなかったプリンセスを拾い上げてモノにするのが、“アナ・デ・アルマス”演じるセイディです。セイディは恋愛的および性的な面でも主導権があり、CIAエージェントという職業ゆえに戦闘経験も豊富。箱庭で生きてきたコールとは全く違う存在です。ベッドでの寝顔セルフィを勝手に撮るなよ!とか、教育担当にもなっていくけど…。
『ザ・ロストシティ』など最近のロマコメは男女の役割を意識的に変え、女性は自立的に、男性は内省的に描かれることが増えました。
そういう意味でも『ゴーステッド Ghosted』のジェンダー表象も完全に「今」のロマコメのものになっていましたね。今作は“クリス・エヴァンス”を起用しながら一切のマッチョイズムを避けていて、“クリス・エヴァンス”が得している雰囲気だけど。
ほとんどMCUパロディ
ただ、『ゴーステッド Ghosted』はスパイ・アクションというジャンルにおいては全然新規性も何もないベタベタな…いや、それどころか「これ、もう何百回と見たよ?」っていうやつなので、この現代的なジェンダー表象も若干霞んでいるところも否めません。
もちろんアクションは適度に見ごたえがあります。パキスタンでのバスの後ろ走りのカーチェイスはバカバカしくて楽しいですし、ホテルの頂上の展望回転フロアが暴走して破壊的にぐるぐると回りだす終盤のハチャメチャさはこれぞハリウッドという感じ。あんなに回るものなのかな、ああいう回転フロアって…。
パスコードのわけのわからない雑さと、アステカという意味深だけど結局意味不明な武器など、この手のジャンルのお約束も相変わらず。
ゲスト枠で一発ネタのように代わる代わるでてくる賞金稼ぎ(バウンティハンター)も、本当にくだらないけど、まあ、こういうお祭り映画なら許せるかなという遊び心。“アンソニー・マッキー”、“ジョン・チョー”、“セバスチャン・スタン”、そして“ライアン・レイノルズ”。本作、もともと“アナ・デ・アルマス”ではなく“スカーレット・ヨハンソン”を起用する予定だったらしく、それが実現していたらMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)パロディが完全に成立したんですよね。だからあの片目の“ライアン・レイノルズ”ももしかしたら「ニック・フューリー」ネタなのかもしれない…。
これだけやりたい放題に遊びまくっていると、とっ散らかってくるのはいつものハリウッドのお行儀の悪さで…。
不満点をひとつ挙げるなら、本作ではコールはかなり内面も掘り下げつつ描かれるのですが、セイディはだいぶとってつけたような表面上の設定だけなのが残念。「6歳の時、母と祖国から逃げた」という過去を打ち明けますが、随分とざっくりしたバックグラウンドでした。とりあえず同情的な設定を用意しましたと言わんばかりの骨組みしかないものだったので、どうせやるならもっとちゃんと設定を構築すればいいのに…。
あと、エレーナという敵対する同年代エージェントを殺したのが冒頭のセイディの心境を刺激したわけですが、若い女性が奮起するための動機付けとして殺されるだけの若い女性の存在というのも、それはどうなんだと思ったりも…。てっきりエレーナは生きてました!みたいな感じで最後に出てきてくれると思ったのにな…。そしてコールを放置して女2人で海外旅行でも満喫していたら最高のエンディングだった…。
わりと身体的にできあがっているのでいざアクションしだすとかつてのヒーローっぽさが滲み出る農業系男子に気をつかいすぎているところもあった全体の物語でしたけど、『ゴーステッド Ghosted』はポップコーン・ムービーとしてはそれこそ一夜限りで奮闘してくれる映画でした。
どんなに最高の夜を過ごそうとも、間違っても勝手に相手の寝顔を撮影しないように…。現代の恋愛マナーだぞ、キャプテン・アメリカさん。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 32% Audience 65%
IMDb
5.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Apple
以上、『ゴーステッド Ghosted』の感想でした。
Ghosted (2023) [Japanese Review] 『ゴーステッド Ghosted』考察・評価レビュー