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『フレッシュ Fresh』感想(ネタバレ)…デートの際は男の食癖をよく確認しましょう

フレッシュ

こんなセバスチャン・スタンは嫌だ…映画『フレッシュ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Fresh
製作国:アメリカ(2022年)
日本では劇場未公開:2022年にDisney+で配信
監督:ミミ・ケイヴ
ゴア描写 性暴力描写 DV-家庭内暴力-描写 性描写 恋愛描写

フレッシュ

ふれっしゅ
フレッシュ

『フレッシュ』あらすじ

ノアはデートがどうも苦手で、なかなか男性と恋愛関係を進展させることができずにいた。マッチングアプリで出会う男たちは自分には全くと言っていいほど相性が悪く、友人のモリーに弱音を吐くしかできない。そんなとき、野菜売り場の前でひとりの男性に遭遇する。そのスティーヴという男は好印象で、ノアは出会ってわずかの会話しかしていなかったが心を許してしまう。まさかその男がとんでもない食わせ者だとは知らずに…。

『フレッシュ』感想(ネタバレなし)

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最もデートしたくない男とは…

初めてのデートをするとします。その際に相手のどんなところに注目するでしょうか。

身だしなみ? 会話の上手さ? 性格の良さ? ロマンチックな雰囲気を作れるか?

いやいや、NGな行動をとらないかどうかを気にするかもしれません。

時間に遅れる、計画性がない、余裕のない焦りが見られる、食事のマナーが悪い、自慢話や他人の悪口ばかり、容姿にケチをつける、強引に事を進めようとする…。

でもNGな言動を安易にとってしまう人間はそもそもたいしたことがないと言えるのかも。本当に危ない相手というのはそういうNGな言動を一切見せずに巧みにこちらの感情を上手く掴んでくるのではないでしょうか。元も子もないことを言ってしまえば、NGな言動を全く見せなかったことこそ最大のNGであるのか…。まあ、こんなことを考え出すとキリがないですけどね。

今回紹介する映画も、デート相手の男を慎重に吟味していたにもかかわらず、表面上の好印象は被り物にすぎず、蓋を開けてみれば想像を絶する最低最悪の男だった!という壮絶体験をグラフィカルに描くスリラー作品です。

それが本作『フレッシュ』

なぜこんな清々しそうなタイトルなのかは…ネタバレ無しの段階ではとりあえず黙っておこう…。ただ、本作についてあらかじめ言っておかないといけないのはレーティングが「R18+」だということです。その理由は本作のある要素にあり、とても倫理的に反する残酷な描写があるからなのですけど、う~ん、ネタバレになるからやはり伏せておいた方がいいのかな…。ここは難しいところだな…。でももう察しているんじゃないですか。映画のタイトル、倫理的にアウト、残酷…これらの断片的情報をかき集めれば、想像力のある方は「あ、あれだな」とピンとくると思いますし…。

でもこれだけは忠告しておきましょうか。本作『フレッシュ』は直接的な性暴力的な描写はありませんが(性描写はある)、生々しい誘拐・監禁描写は明確にあるので、その点はご注意ください。「誘拐・監禁があるって言っていいの?」と思うかもしれないですけど、そこはいいかなと私は思います。メインのスリルはさらにその上をいくので…。

本作『フレッシュ』は(今は伏せますけど)ジャンルとしては昔からあるものですが、それを女性視点による男に加害を受ける恐怖としてハッキリ描いており、そこには実社会への批評的視点もあります。そんなショッキングな『フレッシュ』が長編監督デビュー作となったのが“ミミ・ケイヴ”という人。また、新たな奇才がホラー・スリラーのジャンルに現れましたよ。

この“ミミ・ケイヴ”監督はミュージックビデオも手がけたことがあるせいなのか、この『フレッシュ』もビジュアルとしては残虐な映像が展開されるのですが、ダークで暗澹としたものではなく、妙に振り切ったようにポップなのが特徴です。シリアスになりきらず、「あれ、笑わせようとしているのかな」と観客側が混乱するようなムードさえ漂う。これはカルト的な才能としてじゅうぶんすぎる逸材ですね。

その『フレッシュ』の俳優陣ですが、主人公の女性を演じるのはイギリス人の“デイジー・エドガー=ジョーンズ”。アイルランドのドラマ『ノーマル・ピープル(ふつうの人々)』で主演を務めて多くの賞にノミネートされたりもしました。そしてその主人公に恐怖を与えていく男を熱演するのが、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)でウィンター・ソルジャー役でおなじみの“セバスチャン・スタン”です。この“セバスチャン・スタン”がともかくニクイくらいに魅力的なクソ野郎を演じていて悔しいけど夢中になってしまうのです。なんか最近の“セバスチャン・スタン”、『355』といい『パム&トミー』といい、こういう最低男を演じさせたら抜群にハマりますね。

他の共演は、ドラマ『Twenties』の“ジョニカ・T・ギブス”、『消えたアイリス』の“シャルロット・ルボン”、『Emperor』の“ダヨ・オケニー”、『ルース・エドガー』の“アンドレア・バン”など。

「R18+」なので子どもにはオススメできませんが、胸糞悪い男による女を搾取する文化にシスターフッドで一発食らわす映画が見たいなら本作はその期待に応えると思います。

『フレッシュ』はアメリカ本国では「Hulu」での独占配信ですが、日本では「Disney+(ディズニープラス)」で配信されています(なんだかどんどん禍々しい作品が増えてくるな、Disney+…)。ペアレンタルコントロールでアカウントに規制がかかっていると表示されないので、サービス内で探しても見つからない人はアカウント設定を確かめてください。

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『フレッシュ』を観る前のQ&A

Q:『フレッシュ』はいつどこで配信されていますか?
A:Disney+でオリジナル映画として2022年3月4日から配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:俳優ファンは必見
友人 3.5:話題性はじゅうぶん
恋人 3.0:残酷描写が平気なら
キッズ 1.5:R18+なので注意
↓ここからネタバレが含まれます↓

『フレッシュ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):最低な男にマッチしました

スマホをスワイプしながらデートマッチングアプリで表示される男の写真を次々と横に流していくひとりの女性。ノアは車の中で食事前に割り勘をメッセージで提示してきた男を怪しんでいました。こいつはデートするべき相手なのだろうか…。

一応は会ってみますが、中華料理店に一緒に食事するも、服装に指図してきたり、店員に差別的な態度をとったり、言動が粗雑な男にうんざり。紳士にはほど遠いです。しまいには気が合わないと思うと告げると暴言を吐かれます。

後日、友達のモリーにその散々な体験を愚痴るしかできません。「女には男が絶対に必要なんて思ってしまうのはディズニー映画のせいよ」とボヤきます。

アプリでは変態かクソ野郎しかいないことに諦めがつき、気持ちが沈みつつ夜のスーパーマーケットでショッピングをしていると、野菜売り場でひとりの男に話しかけられます。その男はブドウが美味しいと気さくに語り、「電話番号を教えて」と言ってきます。普通であれば怪しむのですが、その男の軽快なトークに気を許し、思わず電話番号を教えてしまいます。その男はスティーヴという名前だそうです。

またも後日、それをモリーに打ち明けるも、メールは来ないし、やっぱり遊び半分だったのかと不安だらけ。「妻がいるとかじゃないの」とモリーもベタなオチを考えつつ警戒します。

しかし、スティーヴから連絡が来ました。そこでバーで会うことに。ぎこちなく互いについて語り合う2人。スティーヴはテキサス出身で研修医なのだそうで、整形外科だとか。ノアはしばらく前に父を亡くし、母は音信不通だと身の上話をします。会話も弾み、ノアは「私はデートが苦手なの。本物の愛を信じている人はバカなんじゃないかって。恋愛が向いていないのかも」と正直に自分の抱く思いを打ち明けられるようになっていました。

別れ際にキスする2人。そのまま家で体を激しく求め合おうとしますが、しかしスティーヴは土壇場で「まだ早すぎる」と躊躇います。「何か食べる?」「いや、君がいい」…こうして2人はベッドで裸になり、体を重ねていき…。

翌朝。清々しい気持ちで目覚めるとノアはこれまでにない解放感に満たされている自分に気づきます。ついに理想の相手を見つけた…。

2人で食事していると、「僕のこと、誰かに話した?」とスティーヴが聞いてきたので「親友のモリーに」とだけ答えます。そして一緒に踊り、ステキな時間を過ごします。モリーに彼の寝顔の写真を送るほどに浮かれていました。

そうこうしているとスティーヴからサプライズな旅行に誘われます。「うちに泊まって朝に出掛けよう」

スティーヴの運転する車で彼の家へ。随分と優雅な雰囲気で皮肉がこぼれるも見惚れてしまいます。WiFiは繋がりません。壁の絵をじっと見ていると、飲み物をだされます。

「何が入っていると思う?」「ピーチ? アプコット? ネクタリン?」

そんな会話をしつつ、「場違いじゃない?」とノアは謙遜しますが、「君の飾らないところが好きだ」とスティーヴ。

ところがなぜか朦朧としてきます。そしてノアは立ち上がろうとするも床に倒れ込み…。

目を覚ますと、不気味なほどに淡々としているスティーヴが目の前にいます。窓のない部屋でノアは拘束されていました。

「新鮮な肉の方が上手いし、生かしておく。僕は料理が得意なんだ」

やってしまった、この男、ダメなやつだ…。

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この男の料理番組を見ていたい

はい、ネタバレ。『フレッシュ』は“食人”映画です。

その食人野郎であるスティーヴ(ブレンダン)を演じる“セバスチャン・スタン”。やっていることは極悪非道ですが、このキャラクターが悔しいことに魅力全開で…。正直、こいつに誘われるのも無理ないなと思うほどに巧妙に仮面を被っており、“セバスチャン・スタン”の絶妙な演技もプラスされて最高です。

まず出会いの場。そこが野菜果物売り場であるというのがまたわざとらしいじゃないですか。ここで完全に相手を騙す気満々でいるという…。肉が好きな男よりも野菜や果物が好きな男の方が警戒されないし、そういう男の方が世間の印象はいいだろうという、それを理解した上でのプロフィール詐称です。

そして性的関係を流れのままに持つのですが、ここでスティーヴは一瞬躊躇します。この遠慮もまた謙虚な男性像の象徴に見えるのですが(実際にノアはそれでますます心を許す)、実際は内に抱えた異常食欲を抑えているという狂気の前触れなのでした。

で、車でサプライズ旅行に。行先を最初は言わないのでさすがにノアも「大丈夫か」と警戒モードに戻りつつあるのですけど、すぐさまスティーヴは「コテージ・グローブに行く」と告げて安心させます。

そうしてスティーヴの家に到着。ここで全体に漂う妙な違和感。こういう暮らしをしている感じだったのか?というミスマッチ。けれどももう手遅れ。男の魔の手がすでに伸びていて…。

ここで映画内で完全に正体を現したスティーヴが、ノリノリでキッチンで料理をするというやけにポップすぎる演出が入り、クレイジーなのだけどこいつ目が離せないぞ…というエンターテインメントの魔力が発生し始める。この“ミミ・ケイヴ”監督の演出力と“セバスチャン・スタン”の演技力の組み合わせが完璧でしたね。

「尻の肉を切るよ」と言いながらノリノリで歌って手術(事実上の解体)をするのですよ。明らかにヤバイ奴だけど、私はなぜかこの男の料理番組を見ていたいという衝動も捨てきれない…。

でもまさにこういう相反するぐちゃぐちゃな感情を刺激されてしまうというのが、実際の被害者心理とシンクロすることだとは思いますし、本作『フレッシュ』はエンターテインメントとしてデコレーションはしていますが、その中身はしっかり社会風刺があります。

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主人公にはきっと過去のトラウマがある

『フレッシュ』にてスティーヴは女性の肉を各地の愛好家に出荷しています。「男性の肉は?」と聞いても「女性の方が美味しいし、需要があるから」とあっけなく答えるその口ぶり。つまるところ、本作は食人という要素の映画ではありますが、それ自体は「女性を搾取して消費する男性の文化」というものへの強烈な風刺であり、怒りであり、反撃であるわけです。

そもそもなぜノアはあんなにデートで男に警戒をするのか。単に神経質なだけなのか。もちろんそれは違うでしょう。その背景には「女性の方がこういうシチュエーションで被害に遭いやすい」という残念な現実が横たわっているからであり、ノアの態度は当然の結果です。もしかしたら過去にかなり嫌な被害体験をしているのかもしれません。それが大きなトラウマになっているのかも。少なくともノアは恋愛にかなり消極的というか忌避反応を示してしまっていますが、それはアセクシュアル・アロマンティックだからとか、そういう性的指向や恋愛的指向の問題ではない、暗示される程度ではありますが、もっと別のトラウマ的な土台があると示唆されていると思います。作中での説明はないですけど、私はノアは性的暴力のサバイバーであるのだろうなと思いながら鑑賞しました

食べられて自身の肉体が欠損していく。これ自体がそうした被害のこれ以上ないわかりやすいほどの具現化です。その他の女性の肉をノアに食べさせて満足感に浸るスティーヴのおぞましさもまさしくですが。それにあの妻も被害者だとわかるシーンのゾッとする後味も…。

また、本作ではスティーヴだけでなく、それ以外の男たちも総じて全く役に立たないです。あのバーテンダーの男もしかり。本作は「男にもいいやつがいる」みたいな加害者男に都合がいい楽観的なオチにしません。

これは女たちの連帯でしか対抗できないものであると高らかに誇示するかのごとく、終盤はノアによるスティーヴのアレの食いちぎりを開戦の合図に、捕らえられたモリーとペニーの協力連携で、スティーヴをぶっ倒そうとします。戦場がキッチンになるというのがまたいいですね。さすがに元ウィンター・ソルジャーなだけあって(違う作品です)、スティーヴも一筋縄ではいかぬ格闘力を持っているのですけど…。

『フレッシュ』は『ラストナイト・イン・ソーホー』と同じく「女性を搾取して消費する男性の文化」をスリラーのフィクションに落とし込んだ一作ですが、『フレッシュ』の方が被害構造を上手く捉えていて、何よりもしっかり終始女性目線を貫いていましたし、私はこっちを評価するかな。

『フレッシュ』が教えてくれることは以下のとおりですよ。

男に主導権を与えるな、男が助けてくれると思うな、男の料理は場合によってはヤバイ!

『フレッシュ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 80% Audience 90%
IMDb
6.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0

作品ポスター・画像 (C)Searchlight Pictures

以上、『フレッシュ』の感想でした。

Fresh (2022) [Japanese Review] 『フレッシュ』考察・評価レビュー