オーストラリア製ゾンビ親子愛…Netflix映画『カーゴ/Cargo』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:オーストラリア(2017年)
日本では劇場未公開:2018年にNetflixで配信
監督:ベン・ハウリング、ヨランダ・ラムケ
カーゴ
かーご
『カーゴ』あらすじ
恐ろしい感染症の爆発的拡大により人間文明が荒廃したオーストラリア。厳しい自然だけしかない大地でごく一部の人々はなんとか生きながらえていた。そんななかで、幼い愛娘を守るべく見渡す限りの荒野を懸命に歩き続ける男。しかし、彼の体もまたウイルスに蝕まれており、刻一刻とタイムリミットが迫っていく…。
『カーゴ』感想(ネタバレなし)
その積み荷を届けるために
2013年、「泣けるゾンビ作品」としてある短編動画が話題になりました。それが「Cargo」という作品です。
まあ、泣けるかどうかは別にして、ゾンビという一種のジャンルに、感動系のドラマを混ぜ合わせるタイプの作品は最近でも増えましたし、かなりゾンビ映画のアプローチが多様になった気がします。ゾンビ作品は工夫しだいでまだまだやれることがたくさんあるということですね。
そんな短編「Cargo」が長編映画化されたものが本作『カーゴ』です。
監督は短編を手がけた人が引き続き担当。なので作品の雰囲気は変わっていません。お話も基本的な構成要素(父と幼い娘)は同じです。しかし、7分程度の短編を100分以上に長編化するわけですから、当然のように要素は増えており、それをぜひ楽しみにしてほしいところ。
とくに短編は舞台がどこか釈然としない雰囲気でしたが、この長編映画版では明確にオーストラリアだとわかるようになっています。そういう意味では、地域性が増した感じでしょうか。本作のプロデューサーのクリスティーナ・ケイトンは、オーストラリア製ホラーとして話題となった『ババドック 暗闇の魔物』の製作に関わった人で、本作とは親子愛というテーマで共通しています。
まさに本作はオーストラリア製ゾンビ映画の代表作になったのではないでしょうか。
また、主演が、『ホビット』3部作では主役のビルボ・バギンズを演じて大きな印象を残し、最近では『ブラックパンサー』でも元アメリカ空軍パイロットのCIA捜査官エヴェレット・ロスを演じたことでも記憶に新しい“マーティン・フリーマン”となっています。基本全編ずっと彼の芝居が続くので、その状況が深刻化するにつれ変化していく心理を上手く表現した演技にも注目です。
『カーゴ』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2018年5月18日から配信中です。
『カーゴ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):この子と生き残るには…
幅の広い川を生活感のある船が通り過ぎていきます。それを操舵するのは男。後ろには赤ん坊にご飯をあげる女性。男は川岸に子どもを見かけて「ケイ」と呼びます。「やあ、こんにちは!」とその川岸の家族に声をかけますが、そのひとりの男がおもむろに腰から銃を取り出して威嚇するように見せてきます。察したように船に引っ込む男。
暗くなってきたので川の真ん中にある木の傍に停泊。
「食料はあと3回分か、もって4回よ」とケイは言います。
「この町だったらここから40キロくらいしか離れていないし、住んでる人も少ない。どこかで車を見つけて何かないか見に行きましょう」とケイは誘うのですが、アンディは「危険すぎる」と否定。アンディとしては川沿いに行けば辿り着くはずの軍事基地を目指したいようです。「岸にあがるのは最後の手段だ」
またもオンボロの船で川をゆったり進んでいると前方に捨てられたヨットを発見。アンディはひとりで中を探索しに行きます。入念に安全を確認し、船内に侵入。水没しており、モノは散乱。酷いありさまですが、使える品を探します。
すると奥の扉で物音を聞いたような気がします。動きを止め、すぐに退散。ケイは危なくなかったかと心配します。アンディはふざけて恐怖を誤魔化します。幼い子のロージーはアンディが遊んでも喜ばないので気乗りしませんが、アンディは横になって休みます。
ケイはその間にひとりあのヨットに行きます。自分も何か役に立つものを見つけたいと思っていました。船内を物色。カミソリを見つけて満足気。しかし、奥の扉から物音がして逃げようとしますが、引きずり込まれてしまい…。
アンディはロージーの泣き声で目覚めます。なぜか船内に血痕があり、トイレにいるケイを発見。足を怪我しているようで、出血しています。
「ごめんなさい」「気にするな」
穏やかに話しかけて安心させますが、事態は一刻を争います。
「もし感染していたら48時間あるから…なんとかする。でももし感染していなかったら3時間で出血死してしまう」
「感染していたら? そのときは私が決める」
アンディは納得し、船を降りることにします。目指すは近くにあるはずの町。アンディはロージーを背負い、ケイを抱えて歩きます。車を発見。ケイはチャイルドシートを持ち込んで、乗車。アンディは燃料を入れますが、ケイは背後に危険な存在を察知。ウィンカーで知らせます。
急いで乗り込み、出発。安全そうな道路の路肩で停車。ケイはロージーのオムツを変えますが、倒れ込み、痙攣します。
アンディはぐったりしたケイを助手席に乗せ、走行を続けます。ケイは怪我をした個所からドロっとした膿のようなものが出ているのを目にし、車を降ります。
「このままではあなたを襲う。あの子と逃げて!」
悲劇はもう始まってしまいました…。
説明しすぎない演出の妙
『カーゴ』は、短編を長編映画化したものなので、どうアレンジ&ボリュームアップしたのかが気になるところ。
まず、元の短編と共通している部分は、プロットとオチの骨格くらいです。妻が感染によってゾンビ化してしまい、車の運転中に事故を起こした出来事から、夫の男が幼い娘の赤ん坊を背中に背負って彷徨う。しかし、父もまた噛まれたことでゾンビ化しつつあり、最終的にはゾンビになりながらも、娘を背負い続け、やがて正常な人間に殺されて、赤ん坊は引き取られる。ここは一緒。
逆に言えば、それ以外の部分は大幅な肉付けによるボリュームアップによってかなり体感が違っています。例えば、冒頭、家族3人がまだ感染していない段階の船の旅の様子が描かれ、より後の展開の悲壮感が増す構成になっています。ここで余計な長ったらしい説明を入れずに、ちゃんと映像的な演出だけで「この世界は普通じゃないぞ…」というヤバさをジワジワ見せていくのはさすがのセンス。
あとはヴィックという悪役ポジションのキャラの追加が目立ちます。コイツに関してはゾンビ映画では“あるある”な、他人を犠牲にして生き残ろうとする系の胸糞悪いキャラなので、とくに際立ったものもありません。ただ、最終的なコイツの顛末も含めて、このヴィックにもいろいろな人生があって今はこうなってしまったのだなということを匂わせるあたりが隠し味になっていて良いと思います。
ヴァピとヴァパルの物語
さまざまなアレンジの中で本作の一番の特徴になっていて、作品のトーンを変えるほどの影響を与えているのが、アボリジニの人たちの登場です。
もしオーストラリアでゾンビ・パンデミックが起こったら、アボリジニの人たちはどうするかということをシミュレーションしてみた感じで、とてもオーストラリアらしい。なんでも実際にアボリジニのコミュニティと議論しながら映画製作を進めたらしいです。
とくに主人公のアンディと出会って半ば巻き込まれていくことになるアボリジニのトゥミという少女が、非常に重要なキーキャラクターになります。
アンディは自分が完全にゾンビ化する48時間以内に、なんとか娘のロージーの保護者になりうる人間を探し出そうとします。最初は噛み傷を診てもらったエッタという老齢の女性に預けようとしますが、薬を飲んでいてカツラをかぶっている姿を密かに目撃し、彼女が癌であることを察し、断念。次に道中で出会ったヴィックの妻レイニーに預けようと決めますが、まさかの彼女は本当の妻ではなく、軟禁状態にあることが判明し、逃げる途中で撃たれて死亡。時間ギリギリで冒頭に川岸で出会った家族の元にたどりつきますが、すでに感染済みで一家心中してしまい…。
もう無理だととことん追い詰められてからの例のラスト。短編と比べて葛藤がぐんと増えて、ここは良いなと感じました。短編だとどうしてもオチありきですから。ただ、結果的にトゥミも背負うので、なんか妙に踏ん張り力の高いゾンビみたいになっちゃいましたが…。
本作は実は群像劇的にいろいろな家族の顛末を見せていくので、「if」をいくつも垣間見る中での、極限の環境下でどの選択肢をとるべきかという葛藤が視覚的に強調されます。まあ、ゾンビ映画ではありがちなテーマなんですけど、それをオーストラリア版にしているという意味では綺麗な完成形じゃないでしょうか。
世代も人種も超えて行われる父(ヴァピ)から娘(ヴァパル)への継承でした。
個人的にはカンガルーのゾンビが出てこなかったことだけが残念(台無しな文章)。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 88% Audience 65%
IMDb
6.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
作品ポスター・画像 (C)Netflix
以上、『カーゴ』の感想でした。
Cargo (2017) [Japanese Review] 『カーゴ』考察・評価レビュー